世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
時系列的には三話のすぐ後、春輝くんを仲間に迎え入れてそれぞれが帰路につくところですね。ーーいや、春輝くんはどうするん!?
大丈夫です。きっと彼なら春輝くんを温かく迎えると思います。
夕暮れのファミレスを後にした一行は、それぞれの帰路につくことになった。
「それじゃ、俺と春輝はこっちだからな。一ノ瀬さん、また明日。蓮…お前は……中学生らしく帰れよ」
「失礼だな。僕は最短経路を演算済みだよ。……春輝、庄司の家は騒がしいけど、飯だけは美味いから覚悟しとけよ」
蓮はひらひらと手を振り、夜の街へと消えていった。
「……私もそろそろ帰るわね。春輝くんはゆっくり休んでいってね。………庄司くん、春輝くんに変なことしたらどうなるか、分かってるわよね?」
「だ、大丈夫やって……。気をつけて帰れよ、一ノ瀬さん。」
「また、明日です!」
一ノ瀬は一瞬だけ庄司に鋭い目を向けたあと、笑顔で手を振って帰っていった。
灰原春輝は、隣を歩く大きな背中ーー庄司を見上げた。
彼には帰る場所がない。物心つく前に両親を亡くし、施設を転々とした後、ある「組織」に引き取られた。
そこで待っていたのは家族の愛ではなく、奴隷としての調教、実験によって左腕に機械を植え付けられ、プログラムの命令に従うだけの人形としての生活だった。
戦いが終わり、組織の支配から解放された今、彼は文字通り…。
「空っぽ」だった。
「……あの、庄司さん。本当に僕、庄司さんの家に住んでもいいんですか?」
「さん、はよせ。庄司でいいって。それに、うちは母ちゃんが『腹減らしてるガキを放っておくのは重罪だ』っていう家風なんだよ。だから気にすんな」
庄司はハハハと笑い、春輝の細い肩をバシバシと叩く。その手の熱さが、春輝には何よりも現実のものに感じられた。
主司の家は、商店街の裏手にある年季の入った一軒家だった。
玄関を開けた瞬間「お帰りなさい!」という威勢のいい声と、出汁の効いたいい匂いが鼻をくすぐる。
「母ちゃん!連れてきたぞ、例の居候だ!」
「まあ!あんたが春輝くんね。…細いわねぇ、しっかり食べなきゃダメよ!」
出てきた庄司の母親は、庄司をそのまま小さくしてエプロンを着せたような、エネルギッシュな女性だった。挨拶もそこそこに、春輝は食卓へと押し込まれる。
夕食のメニューは、山盛りの唐揚げと、どんぶり飯、そして具沢山の豚汁。
「これ、全部食べていいんですか……?」
「当たり前だ!筋肉は食いもんからしか作れねぇんだぞ」
庄司が豪快に唐揚げを口に放り込む。春輝もおずおずと箸を伸ばした。カリッとした衣の中から、熱い肉汁が溢れる。
「………美味しい」
「だろ?蓮のやつはいつも「栄養効率がー」とか言ってサプリメントみたいなもん食ってるけどな、人生の半分は損してるぜ」
食後、春輝は庄司の部屋へと移動した。
六畳間の室内には、ダンベルや腹筋ローラーが転がり、壁には「不
撓不屈」と書かれた書道が貼ってある。蓮のデジタルな部屋とは対極にある、あまりにもごちゃごちゃでアナログな空間。
「庄司くんの部屋って感じがすごい……」
近くにある、クッションに春輝は座る。
真新しい環境に慣れないのかずっとソワソワして、あたりをキョロキョロを見るのを止めない。庄司はお風呂に行っておりもうそろそろ出てくるところだ。
春輝は近くにある本棚に手を伸ばした。
「じゅ、じゅじゅつ、………せん……。」
比較的、最近設置された白い本棚には「呪術廻戦」と書かれた本だけが並べられていた。
「な、なんて読むんだろ…」
と呟きながら一冊、手に取る。試しにパラパラとページを適当にめくると、ある一つのシーンに目が止まった。
「黒閃」
おそらく主人公である男の子が、頭に枝が生えた上裸の化け物に拳を叩き込んでいるシーン。
しかし、その拳から黒い稲妻みたいなものが轟いていた。
それ以外のシーンは漢字とかの問題で読めなかったが、そのシーンだけ異様なカッコよさがあった。
「わぁ……かっこいい」
春輝はうっとりした表情で見つめていた。
その時、バァンとドアを強く開ける音が鳴り「ひっ…!」と春輝はびっくりして、その方向を見る。
その先には、短パンと若干透けてるタンクトップというあまりにもラフすぎる服装だった庄司がいた。
「春輝、風呂や……呪術廻戦読んでんの?」
「あ、いや……うん。勝手に読んじゃってごめんなさい」
「いや、別に良いけど。……読めるん?」
「……ちょっとしか、読めないです…」
タオルと庄司の予備パジャマを持って浴室に着く。お風呂からレモンの匂いが漂い鼻をくすぐる。
今日の戦いで汚れた服を洗濯機の中に入れる。
洗脳されていたせいで蓮との戦いがうろ覚えだった春輝はその服を、微妙な眼差しで見つめた。ひぐらしの鳴き声がその空間に響いた。
「はあ……幸せだ〜」
湯気で真っ白な浴室に声が一つ漏れる。
身体を洗い終わり湯船に深く浸かった春輝は、すっかりリラックスしていた。彼の男性らしくない、細くスベスベとした手にはなぜか、一つのおもちゃーーアヒルが握られていた。
ぽちゃんとアヒルを落とすと、水に浮きぷかぷかと漂った。
春輝に笑顔が現れる。純粋で誰よりも子供らしい笑顔、老若男女もこれには心を撃ち抜かれるだろう。
「灰原くん、今お風呂にーー」「っひゃあ!?」
突如として、半透明ドアの先から響いた庄司よりも低い声。
庄司に話しかけられた時よりもびっくりし、変な声を上げてジャバジャバと風呂の中で暴れた。「お、おい!落ち着いて…」ドアの先で制止するようにジェスチャーをしている。
「俺は、庄司の父さんだよ。だから落ち着いて」
「え…お、お父さん。…ごめんなさい」
「分かってくれたのなら良いよ…はあ、びっくりした」
ほっ、と吐息を漏らす。(怪しい人じゃなくて良かった……)警戒が解けて、再び湯船に浸かる。
「仕事が長引いたから、タイミングが悪くてごめんね。さっきも言ったけど、俺は庄司のお父さんだよ。」
「はい!よろしくお願いします」
「ハハハ、いきなり元気がいいね!頼もしいよ」
お父さんの笑い声がどことなく庄司さんに似ていて、やっぱりお父さんなんだなというのを実感した。
その後、しばらく庄司父さんとの会話をした後、ご飯を食べに行くと庄司父さんは戻っていった。お風呂はあまり長く浸かれなかったので僕もすぐに出たが……。
身体を拭き、ドライヤーで乾かして、庄司のパジャマに着替えた。そしてそのまま庄司の部屋へと向かった。
「庄司さん、あ、庄司。あの、聞いてもいいかな」
春輝は、部屋の隅に用意された布団に座りながら切り出した。
「何だ?」
「今日の………あの、黒幕を倒した時の「黒閃」あれって、どうやったら出せるようになるの?」
春輝の瞳は夕方の戦闘シーンを思い出してキラキラと輝いている。
庄司は一瞬、気まずそうに視線を逸らした。
「ああ、あれか。……いや、あれはだな。なんていうか……気合いだ」
「気合い………」
「そう、気合いだ!挙を打ち出す瞬間に、これまでの人生で食ってきた唐揚げのエネルギーを一箇所に集中させる。そして『こいつ、マジでムカつく!』っていう怒りをスパイスにするんだ……そしたら、こう、パチパチって黒い火花が出る……気がするんだよ」
庄司は真面目な顔で、デタラメな理論を語り出した。蓮が聞けば「演算の欠片もない」と即座に切り捨てるような内容だ。しかし、春輝はノートを取り出し、真剣にメモを取り始める。
「唐揚げのエネルギーを……集中…ムカつくスパイス……」
「お、おう、飲み込みが早いな。いいか春輝、お前はレールガンなんていう凄い武器を持ってる。でもな、最後は「当ててやる!」っていう根性だ。お前の不完全だったレールガンが蓮に直されたのは、お前にその根性の素質があったからだと俺は思うぜ」
庄司は春輝の頭を乱暴に撫で回した。
「機械に撃たされるんじゃねえ。お前の意思で撃つんだ。それができれば、お前もいつか『黒閃』が出せるようになる。……たぶん」
「はい!僕、練習します。庄司みたいな、かっこいいヒーローになりたいから」
春輝の言葉に、庄司は少しだけ顔を赤くして「ヒーローなんてガラじゃねえよ、さっさと歯磨きしろよ?」と言いながら電気を消した。
するとチョンチョンと春輝は庄司をつついた。「あ、あの……」とほんのりと顔を赤らめて春輝は話す。
「……暗いの、怖いので…いっしょに寝たいです。」
深夜
春輝は、隣で豪快な寝息を立てる庄司の音を聞きながら、暗い天井を見つめていた。
これまでは、目を閉じればマザーの無機質な命令と、回路を流れる電流の痛みが蘇っていた。
でも今は、胃袋に残る唐揚げの温かさと、庄司が教えてくれた(デタラメな)必殺技のイメージが脳内を占めている。
「……黒い、火花………」
春輝は、暗闇の中で自分の左手を見つめた。機械はもう消えている。
でも、皮膚の下にはまだ、蓮が「最適化」してくれた新しい力が眠っているのを感じる。
それはもう、誰かを傷つけるための道具ではない。この温かい日常を守るための力だ。
「……みんなのために、頑張らないと」
それは単なる縛りではなく、春輝の意思による決意だった。
そして春は庄司に抱きついて再び目を閉じた。
翌朝
「起きろ春輝!朝練だぞ!まずは近所を三キロ走る!」
「ええっ!?い、今、五時半ですよ!?」
「何言ってんだ、太陽が昇ったら活動開始だ!これが黒閃への第一歩だぞ!」
「は、はいっ!行きます!」
ドタバタと階段を駆け下りる二人の足音。
「コラ! 朝からうるさいわよあんたたち!」母親の怒鳴り声。
商店街の静かな朝空に、少年たちの瑞々しい声が響き渡る。
九条が設計し、一ノ瀬結衣が観測し、庄司が守る「日常」の中に、灰原春輝という新しい歯車が、確かに噛み合った瞬間だった。
一方で、彼らの日常を監視する「目」はまだ消えていなかった。
庄司の家の向かい。自動販売機の陰で、カチリとシャッターが切れる音がした。
『ーーターゲット『M-100』九条蓮の管理下に移行したことを確認プランBへ移行します』
デジタルなノイズと共に、その影は陽炎のように消えた。彼らの「怠情な日常」を脅かす影が、一歩ずつ、着実に近づいていた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!
今回は春輝くんと庄司宅に視点を置いた回でしたね。蓮くんとはまた違う独特な家の雰囲気と活気っていうか…勢いっていうか……読んでるこっちまで庄司君らしさが伝わりますね…。
さて、次の回も同じように「誰か」に視点を置いた回になっています。蓮くん?結衣ちゃん?気になりますか?ぜひ楽しみにしててくださいね!