世界のシステムを書き換える最強能力「管理者権限」を手に入れたので、日常をハッキングして無双します! 作:Laggliches
今回は能力者、もとい蓮くんたちの休日ということで、どうやらゲームセンターへ遊びに行くらしいです。能力者である彼らはどんな「遊び」ををするのでしょうか……。
「……おい蓮何でお前、私服までそんなに『寝巻き』に近いんだよ」
「失礼な。これは『極限まで空気抵抗と皮膚への摩擦を排除した、リラックス特化型演算補助ウェア』だよ……要するにパジャマだ」
「……よくパジャマで外出できますね」
「春輝くんこそ、なによその格好。ブカブカすぎるわ。」
「これは……その、サイズが無かったです」
日曜日の駅前
庄司のジャージ姿、春輝の庄司から借りた(ブカブカの)Tシャツ姿。
そして一ノ瀬結衣のーー普段の制服からは想像もつかないほどオシャレで清楚なブラウス姿。
そこにパジャマ同然の蓮が並ぶことでカオスなカルテットが完成していた。
「今日は無礼講だ!春輝、ゲーセンってのはな、男が根性を磨く場所なんだぜ!」
「はい!庄司くん、僕、クレーンゲームっていうのをやってみたいです!」
「よし、任せろ……一ノ瀬さんも、今日くらいはその『観察眼』を休めて楽しめよ?」
「……努力はするわ。でも、景品の重心位置が透けて視えるのを止めるのは難しいのだけれど」
こうして、現代の科学と魔術の粋を集めた一行は、大型ゲームセンターへと足を踏み入れた。
まず彼らが向かったのは、春輝が希望したクレーンゲームコーナーだ。
「あ、あのペンギンのぬいぐるみ、可愛いです……。結衣さんに似てるかも」
「……私、あんなに目が点かしら?まあいいわ、私が取ってあげる」
「あ、待ってください! 実は僕、クレーンゲームってやったことがなくて……。日頃の感謝を込めて、僕が取ってプレゼントさせてください!」
春輝は目を輝かせながら、初めて手にするゲームのレバーをそっと握りしめた。彼女から貰った百円玉を投入すると、ピコピコと陽気なBGMが鳴り響く。
それだけで春輝の背筋がピシッと伸びた。
(制限時間があるんだ……。えっと、まずは右に動かして……)
おそるおそるレバーを倒すと、アームがウィィィンと動き出す。初めて動かすクレーンの挙動に、春輝は完全に圧倒されていた。
「春輝……大丈夫か?」
「うわ、思ったより滑らかに動く……! あ、行きすぎ、行きすぎです!」
慌ててレバーを戻そうとするが、慣れない操作に指がもたつく。狙っていたペンギンのはるか手前、何もない空間でアームが停止してしまった。
「ああっ、ボタンを押してないのに勝手に下がっちゃう!?」
ゲームの仕様(時間切れによる自動下降)を知らない春輝は、ガラスに張り付かんばかりに絶望の声を上げる。
3本の爪は虚しく空気を掴み、カシャリと音を立ててそのまま上昇していった。
ーーウィィィン……(収穫ゼロ)
「クレーンゲームって、こんなに難しいんですね……。掴むことすらできないなんて……」
初めての敗北感に、肩を落としてガックリと項垂れる春輝。それを見た結衣は、呆れたように、けれどどこか嬉しそうにため息をつきながら歩み出た。
「……もう、見てられないわね。貸しなさい、私が取ってあげる」
結衣が百円玉を投入し、ボタンに指をかける。その瞬間、彼女の瞳が幾何学的な光を放った。
「(九条くん、応答して。)」
突如として、蓮の脳内に一ノ瀬の声が聞こえてくる。
「ん?(どうしたんだい?、一ノ瀬さん。)」
「(このぬいぐるみを取るのを手伝って)」
「(……分かった)」
「(観測開始。アームの挟む力は3%って感じね。景品の重心は左足の付け根.......九条くん、あそこの隙間に空気の振動を送って。あと0.5ミリほど、右にずらしたいわ)」
「(了解。『空間振動(ソニック・パルス)』はい、ずらしたよ)」
ーー完全にカンニングである。
ウィィィン……と力なく動いたアームが、結衣の指示通りに完璧な座標でペンギンを掴む。
……というか、蓮が空間を微妙に歪めたせいで、ペンギンが自分からアームに飛び込んだように見えた。
ーーゴトンッ!
「取れたわ、はい、春輝くん」
「すごいです一ノ瀬さん!一発なんで、まさに神業です!」
「ふふん……まあ、これくらいは当然のことね」
(彼女の横で蓮が「僕のサポートのおかげなんだけどな……」とボヤいているが、結衣に睨まれたので口を閉ざした)
次に一行が挑んだのは、パンチングマシンだった。
「よっしゃ!ここは俺の独壇場だ!」
庄司が挙を回しながらマシンの前に立つ。周囲にはギャラリーが彼の力量を見ようと集まっていた。
「いいか春輝、見てろ。これが『黒閃』だッ!!」
庄司が大きく振りかぶるーーその瞬間、蓮はいたずらっぽく指をパチンと鳴らした。
「(案内人、庄司の拳が衝突する瞬間に、マシンのセンサーに『一京倍』の過負荷信号をハッキングで送り込め)」
【了解……過負荷パケット、送信準備完了】
「おらぁぁ!黒閃!!」
ーードオオオオオン!!
彼のパンチがサンドバッグに深くめり込む。
すると、表示されたスコアパネルが火花を散らし、バグった数字を高速で刻み始める。
【 99.999,999,999,999,999 kg 】
「「「「えええええええ!?」」」」
周囲のギャラリーから悲鳴に近い叫び声が上がる。
「しょ、庄司くん……今の、黒閃どころか銀河を滅ぼすパンチだよ…」
「いや……俺、今そんなに手応えなかったぞ!?怖えよ、俺の右拳いつの間に核兵器になったんだよ!」
庄司が自分の拳を見てガタガタと震え出す。
「この前の黒閃でボルテージが上がったんじゃないのか(笑)」
蓮は背後で必死に笑いを堪えていた。
最後は全員で、最新型のフルダイブ式VRシューティングに挑戦することになった。
「ターゲットを撃破してポイントを競うゲームね……いいわ、チーム戦よ。私と春輝くん、九条くんと庄司くんで分かれましょう」
「お、いいな!蓮、さっきのパンチ、もう一度見してやるぜ!」
「おー、頑張れー(棒読み)」
視界が鮮烈な光に塗りつぶされ、脳が仮想空間と同期する。
次の瞬間、足元に冷徹なコンクリートの戦場が広がった。だが、このメンバーが集まれば、それはもはやゲームではなかった。
「春輝くん、方向、三時。敵の出現確率は82%よ。……今!」
「はい!『疑似・電磁加速(レールガン)』!!」
春輝がVRの銃を構えるが、彼の「癖」でリアルの魔力がわずかに漏れ出す。
「あ、やばい……!」
放たれた弾丸の軌道が、春輝の魔力によってノイズを帯びて歪む。
空間そのものがバグったように「カカカカ」と処理落ちの音を立て、弾丸は直角に曲がると、逃げる敵の眉間に吸い込まれてドカンッと爆散した。
「あーもう、あっちがチートならこっちもチートだよ。案内人、敵の出現コードをすべて僕の目の前にリダイレクトしろ」
【了解。……ターゲットを九条の至近距離に強制転送します】
空間が裂け、次々と蓮の目の前に敵がポップした。それを効率よく撃破してポイントを稼いでいくーー瞬間、蓮の横を通った庄司が叫ぶ。
「おらぁぁぁ!殴るのが一番なんだぁぁああ!」
庄司はVRのコントローラーを無視して、画面内の敵に直接ダイブして組み伏せた。物理法則を無視した「気合い」がVR のシステムに干渉し、敵キャラクターが不自然な電子音を上げてバグり始める。
恐怖に顔のテクスチャを歪ませる敵を庄司は気にせず敵キャラクターを一匹、また一匹と拳で薙ぎ倒していった。
「……仮想空間だからあんなに強いのか、それとも実力なのか…」
「……九条くん、庄司くん。あなたたち、もはやゲームの趣旨を理解していないわね」
「一ノ瀬さんこそ、それ予知能力に近いレベルで先読みしてるでしょ!」
「はあ!?先読みの何が悪いのよ!」
「悪いに決まってるだろ!」
「ーー右ストレート!おら!黒閃っっ!よし覚醒!勝ちに行くぞぉぉぉ!」
「「庄司は黙っとれ!!」」
「えええ!?」
そんなはちゃめちゃもあり、気づけばゲームは熱暴走を起こしていた。
結果、ゲーセンのサーバーに「調整中」の札が全ての筐体に貼られるという大惨事(?)を引き起こしたところで、彼らの遊びは幕を閉じた。
「……あー、笑った笑った。……けど、出禁になってないかな、僕ら」
アスファルトが放つ昼の残り香。
夕方の涼しい風を浴びながら、ソーダ味のアイスに齧りついた蓮が呟く。
「庄司くんのパンチのせいですよ、きっと」
「だから俺じゃねえって!絶対に蓮の仕業だろ!」
「馬鹿みたいに黒閃を打ちまくった庄司くんも問題があると思うわ」
騒がしく歩く彼らの後ろ姿。
一ノ瀬結衣は、手に持ったペンギンのぬいぐるみを安っぽいパイル生地の感触を確かめるように、少しだけ強く抱きしめた。
「……春輝くん、本当にこれ貰っていいの?」
「大丈夫ですよ!僕より一ノ瀬さんの方がずっと似合ってますから」
「……そんなにこのペンギン、私に似てるの?」
「なんか……雰囲気が、こう」
「意外と似てると思うぜ?」
そう言って、ぬいぐるみの丸い頭の後ろに、赤くなった耳をそっと隠す。
「…………そう」
『観察眼』が捉える彼らの情報は、今日も相変わらずバラバラで、非効率で、予測不能で、最適解から最も遠い、ノイズだらけのパラメーター。
でも、そのカオスな情報こそが、今の彼女にとっては世界で最も価値のある「正解」に見えていた。
「そういえば春輝くん、そのガラスみたいなカプセルは何かしら?」
「……あ、えっと……く、クレーンゲームで貰って……」
「なんだ春輝、俺が見てないうちにやってたのか?」
「あ、あはは……(もしあのこと言ったら没収されそう)」
「……ま、いいわ。また来ましょうね。今度は、もう少し手加減して」
「賛成! 次は庄司に『目隠しパンチ』のハンデをつけよう」
「殺す気か!前が見えなきゃ、それこそゲーセンが消滅するわ!」
「庄司くんは、黒閃の師匠だからそれくらい、大丈夫だよ!」
「春輝まで……ってか黒閃、マジで出てたの?」
「…………ちょっと、分かんない」
「……はい」
夕焼けに染まる帰り道。彼らの非日常な休日が、ゆっくりと、しかし確実に次の「戦い」への活力を蓄えていくのだった。
伸びていく影の先、誰かがふと、茜色の空を見上げて溢した。
「あの人元気にしてるかな……?」
その声は、通り過ぎる夕風にさらわれて、「宇宙へ」静かに消えた。
最後まで読んでくださりありがとうございます!はっちゃけすぎてもはや羨ましい程ですね笑。特にクレーンゲームの蓮くんと結衣ちゃんの実力(ズル)で取ったシーンは本当に羨ましい限りです。一回で確実に取れるなんてゲーセン側は赤字モノですよ……。
さて、最後のシーンで春輝くんが持ってた「透明なカプセル」ってなんでしょうか?本当にクレーンゲームで取ったのでしょうか?続きを楽しみにしててください!