霧ヶ峰の思い付き短編集   作:霧ケ峰リョク

1 / 1
PSYЯENのアニメ化記念に作ろうと思ってた作品です。
ただ続かないのでこっちに書くことにしました。


望む未来をこの手に01(PSYЯEN)

 西暦2008年――――まだスマホが出回っておらずガラケーが主役だった時代。

 世間ではある都市伝説が広まっていた。

 日本の各地で発生している連続失踪事件、それを引き起こしているのが秘密結社サイレンであること。秘密結社サイレンの使者・怪人ネメシスQが、赤いテレホンカードを持つ者を楽園へと導くという噂である。

 そして今、自分の手には奇妙な絵柄の赤いテレホンカードが存在した。

 噂はあくまでも噂でしかない、と一笑に付して捨てる。もしくはこのテレホンカードの謎に大金をかけている天樹院エルモアに売り飛ばす。というのが現実的な手段である。

 だが自分はその選択を選ばずにテレホンカードを公衆電話に使った。

 この世界の事を、テレホンカードの謎を最初から知っていたからだ。

 と、いうのも自分は転生者でありこの世界がPSYRENと呼ばれる週刊少年ジャンプで連載した作品の世界であると知っていたからである。

 このテレホンカードを使えば隕石と超能力者(サイキッカー)によって滅ぼされた未来の世界に強制的に飛ばされ、現代に帰る為にゴールを目指す地獄の旅をしなければならなくなる。

 しかし、超能力という武器と破滅の未来を変えなければいずれ死ぬ事になるのは明白だ。

 この世界がハッピーエンドを迎える世界であるとは限らないのだから。

 

『おはようございます! 世界はつ・な・が・る。サイレン入国管理センターです――――それではこれから入国審査を行います。質問にお答えください』

 

 取った受話器から流れる女の声の録画音声に眉を潜めながら口を開く。

 

「きみが何者なのか、秘密結社サイレンというものが存在するのかしないのか、世間ではまあそれなりに騒ぎになっているけど僕としちゃどうでも良い。いや、良くはないか」

『質問ハ2択ニナッテオリマス』

「でも今は色々と棚上げする。僕はきみが行っているゲーム、きみからしたらそのつもりは無いと思うし僕もそうとは思わないけどゲームと表現するよ。僕はそのゲームに参加する意思がある」

『はいノ場合ハだいやるノ①ヲいいえノ場合ハだいやるノ②ヲ押シテ下サイ』

「答えるつもりが無いってのはこの手の話ではよくある話だから別に答えなくて良い。でも長々とこの質問をやるつもりはない。だから、これだけは教えてくれ。僕は適性があるのかないのか、どっちなんだ?」

『――――貴方はサイレンに行きたい? YES? それともNO?』

 

 録画音声から普通の女の声に変わった。

 

「…………正直驚いたよ。本当に質問に答えてくれるなんて」

『答えてないわよ』

「その質問で僕には適性があると判断させてもらうよ」

『私も気になるわね。幾星満。貴方が何故サイレンに行きたがるのか?』

 

 サイレンの女、否、ネメシスQが公衆電話の外に出現する。

 

『幾星満、20代。友達とは浅く広い付き合い、だけど内に踏み入れさせる事はしない。家族仲も良好だけど一線を引いている。料理人として日々を過ごしていて、平穏を大事にしている、間違ってもサイレンに惹かれるような人間とは思えない』

「危険と分かっててサイレンに踏み込むバカな人間だったって事だよ。いや、貴女なら人の心とか考えとか読めそうだし取り繕うつもりは無いんだけど」

『分からないわよ。貴方の心、何故か壁のようなものがあるから』

「そっか」

 

 転生者だからなのか、そういった秘密を知られないようにしているのか。

 自分を転生させた存在が居るのならそういうプロテクトを掛けてるだろうし、僕自身がそういう力を持っていて無意識の内にこの世界の人達に知られたくないからなのか。

 いずれにせよ今はどうでも良い事だ。

 

「なら答えるけど、死なないように死ぬほど準備するってだけだよ。どれだけ危険な事だとしても後でそれ以上に危険な目にあうのなら先に危険な事を経験しておかなくちゃね」

『本末転倒になってるわよ、それ』

「そうかもね。でも、明日世界が滅びるとしても何もしないってのはちょっと違う気がするんだよ。全力とか死力を尽くすとまではいかなくても、自分に出来る良い事を積み重ねておきたいだけさ。要するに単なる自己満足だよ」

 

 今生の家族だって一線は踏み越えないようにしているけど大切な人達である事は変わらない。

 普通に平凡に生きて、普通に老いて、普通に死ぬ。そんな当たり前の世界で生きていてほしい。

 あんな地獄のような目にあって死んで欲しくないだけだ。

 

「だから参加する。自分の満足の為に。それがどれだけ地獄であったとしても、どれだけの地獄を作る事になってもその覚悟は出来ている」

『…………入国審査は終了しました。合否は追ってこちらから連絡いたします――――』

 

 これでサイレンの入国審査は終了した。

 後は来るべき時が来るまで準備をするだけで、その時は1週間後にやって来た。

 

   +++

 

「――――来たか」

 

 脳内鳴り響くベルの音に身体が一瞬だけ硬直する。

 どれだけ覚悟を決めていても突然この音声が鳴るのは正直びっくりする。

 とはいえ、自分に出来る事は全部やった。

 今日に至るまで学生時代の頃からやって来たバイトや株、そして仕事で稼いだお金を駆使して手に入れた装備や道具を急いで身に着ける。

 そして最後に休業の張り紙を張って一息を吐く。

 

「こっちだって用意しなくちゃいけないことがあるんだから少しは待ってよ。ちゃんと参加するんだからさ」

 

 脳内に響くベルの音がだんだんと強くなっていく。

 もうこれ以上はダメージを負いかねない。そう判断して携帯電話を耳に当てる。

 

――――次の瞬間、荒廃した世界に立っていた。

 

 空は何かに覆われ、砂まみれの世界。

 そして廃墟と思わしき建物の残骸の中に集う僕達サイレンドリフト。

 その中で唯一この状況を把握していると思わしき眼鏡をかけた一人の美少女がこの世界の事を一生懸命に伝えていた。

 

「どうやら遅れて来たらしいね」

 

 最初から聞ければ良かったのだがそう上手くはいかないか。

 既に話は終わりを迎えつつあり、最終的にこの世界が未来である事と外には禁人種(タブー)と呼ばれる人間を殺す怪物が跋扈している事を皆に伝えて終わりを告げる。

 先人が積み上げた貴重な情報、生きる為の知識。

 それを聞いていた周囲の参加者は嘲笑いながら馬鹿にした。

 

「頭がイカれてんのか!? ここが未来だって? ばっかじゃねぇの!?」

 

 ここに来た参加者の心無い罵声に少女は悲しそうな顔をする。

 どうやらまだ主人公は居らず、彼女の師匠も既にゲームを終了した身であるらしい。

 本当、このような味方が居ない状況でそれでも他人を助けようとする精神に敬服する。

 

「――――質問して良いかな?」

 

 周囲に響く嘲笑う声の中、僕は一人手を挙げて少女に質問する。

 透き通った声が響き、周囲の声が無くなる中、少女は僕を見る。

 

「貴方は…………」

「僕は幾星満。年齢はこんなんでも20歳だ。話も途中参加だったから最後の方しか聞けてないけど、ここが未来の世界で外には怪物が居るってところまでは把握している」

「おいガキ。こんな頭のイカれた小娘に質問して」

「僕は彼女に質問したいんだ。脳の無い肉塊は黙ってろ。質問の邪魔だ」

「てめっ…………!?」

 

 此方に殴りかかって来た男の拳を避け、足を引っかけて転がす。

 そしてそのままアームロックを決めて動きを封じる。

 

「ガァァアアアアアアアアアア!!?」

「うるさいけど話を進めるよ。質問は二つ。一つはきみがこのサイレンを何度も体験している先人か否か。そして二つ目がきみはネメシスQと同じ、あるいは似たような力を持っているのか否か?」

 

 僕の言葉に少女は目を見開き、頷く。

 

「ええ。私は貴方達よりも前からこのイカれたゲームに参加している。そして、ネメシスQと似たような力を持っているわ」

「そっか。話が早くて助かる。僕はきみを信じるよ。名前は?」

「あ、雨宮桜子」

 

 アームロックで身動きを封じていた男を開放し、雨宮桜子に近付く。

 

「あ、あんた。そんな話を信じるのか? ここが未来だなんて」

「信じるも何も先人が言ってるんだから事実なんだろ。それとも何か? ここに連れて来られたのが何かのテレビの企画だとでも?」

「あ、ああ。そう考えた方が自然――――」

「それを思考停止って言ってるんだよ。脳みそがあるんならよぉく考えろ。そこのあんた。ここに来る前は何処から来た? そっちのあんたも」

「お、オレは京都」

「僕は大阪だけど…………」

「じゃあきみ達に教えよう。僕は北海道の自宅で鍵をかけていた。更にダメ押しで腕時計を確認したらここに来る前の時間とそう変わってない」

 

 僕が口にした事実に何人かは困惑した様子を見せる。

 

「なあ、教えてくれよ。日本全国各地で暮らす人達を一瞬で、何も理解させずに誘拐するなんて現実離れした方法を。自宅に居た人間を誘拐同然の方法で攫ったマスコミの理由をさ。まあマスコミは第三の権力とも言うし警察を黙らせたって言われたならまあそうとしか言えないけど」

「う、腕時計は一日経ってるんだろ。方法とかも、そういった新技術が開発されたとか」

「それを一般人に過ぎない僕等に使う理由は? 秘密結社サイレンの技術とか抜かすならもうこれ以上何も言うことは無いよ」

「だとしても、ここが未来だなんて信じられるわけが無いだろ…………!」

「そりゃそうだ。でもね、不可能なものを除外していけば残ったものがどんなに信じられないものであっても、それが真実なんだよ」

 

 僕としてははっきり言ってこいつ等はどうでも良い、というわけではない。

 それでも信じてくれなければ救えない。僕には力が無く、雨宮桜子しか戦えるのが居ないのだから。

 

「行方不明者が僕達と同じ状況に陥って、彼女しか残っていないのなら皆死んでるって事なんだよ。分かれよ」

「…………なら、そっちの女がイカれてる可能性の方が高いだろ!!」

 

 桜子に指を指す男に思わず溜め息を吐き、呻いている男を蹴り転がす。

 

「えーっと、桜子ちゃんだったかな。どうやら多数決で僕等は少数派みたいだからさ、とっととおさらばしよっか」

「で、でも」

「人は自分の信じたいものしか信じない生き物だ。最初から答えが決まっている奴の答えを変える事は僕には出来ない。だから行くよ」

 

 僕は桜子の手を取って集団から離れる。

 アームロックで拘束していた男がこっちを殺さんばかりに睨んでいたが無視する。

 あれは、もう終わった命だ。一緒に居るだけで此方にも危機が訪れる疫病神だ。

 

「桜子ちゃん。きみは何も悪くない。悪いのは僕で、彼等を殺したのも僕だ。だから、きみは何も悪くない」

「っ、ぅう…………」

「ごめんね。きみの事を信じさせる事が出来なくて…………でも、僕だけはきみを信じる。頼む。ここから帰還する方法を教えてほしい」

 

 涙を浮かべる桜子ちゃんからこのサイレン世界から、救いの無い絶望の未来世界から聞き出す。

 その後は何も語ることは無い。敵に遭遇する事無く、身を潜めながらゴールを目指し公衆電話の残骸に辿り着き元の時代に帰還を果たした。

 無事に帰還に成功したのは僕と雨宮桜子だけであり、あの時あの場に居た全員は誰一人再会する事は無かった。




続いたら主人公の能力は呪術のあるキャラの能力になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。