ギルドの受付嬢は定時に帰りたい 〜最強のハンマー使いと隠蔽工作の相棒〜   作:can'tPayPay

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第4話:相棒の資格と、招かれざる「視線」

月光蝶の騒動から数日。王都ギルドには、少しばかり妙な空気が流れていた。

 原因は、あの日「不可能」と言われた依頼を完遂したカイトに向けられる、周囲の視線だ。

「おい、あのカイトって奴……最近、やけにアリナさんと親しくないか?」

「ああ。報告書の受け渡しの時も、なんか二人にしか分からない合図をしてるっていうか……」

「まさか、あの『高嶺の花』が、あんな地味な冒険者と……?」

 ロビーに漂う、嫉妬と疑念の混じった囁き。

 カイトはそれらを背中に感じながら、いつものようにカウンターへ向かう。

 アリナはと言えば、完璧な営業スマイルを維持したまま、手元の書類に凄まじい筆圧で『……殺・す・ぞ・凡・夫・共』と書きなぐっていた。

「――はい。カイト様、本日のご依頼ですね。いつもながら素晴らしい手際です(ニッコリ)」

 アリナがカイトから依頼書を受け取る。その際、彼女の小指がカイトの手に触れ、トントンと小刻みに叩かれた。

 *『今・夜・は・中・庭・の・奥・で・集合』*。

 カイトは短く頷き、早々にロビーを後にした。

 夜。ギルドの中庭、古びた噴水の陰。

 そこは、カイトが事前に「認識阻害」の魔法を幾重にも重ねた、二人だけの聖域だ。

「――やってらんないわよ!!」

 案の定、現れたアリナは外套を脱ぎ捨てるなり叫んだ。

「なによ『親しい』って! 『付き合ってるのか』って! あいつら、私の何を見てるのよ! 私の本質は、このハンマーに凝縮されてるってのに!」

「まあまあ。アリナが『完璧な受付嬢』を演じすぎてるからだよ。隙がないところに、僕みたいなのが入り込んでるから目立つんだ」

「あんたは隙だらけのくせにね!」

 アリナはカイトの胸元をぐいぐいと突きながら、そのまま彼の肩に顔を埋めた。

 深い溜息とともに、ピンと張っていた彼女の緊張が解けていく。

「……ねえ、カイト。もし私が、受付嬢を辞めるって言ったらどうする?」

 冗談めかした、けれど少しだけ本気の混じった声。

 カイトはアリナの頭を優しく撫でながら、静かに答えた。

「……そりゃ、僕の仕事も廃業だな。君が暴れた後の片付けをしない人生なんて、退屈すぎて死んじゃうよ」

「……バカね。あんた、本当にバカなんだから」

 アリナはカイトの腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。

 彼女にとってカイトは、最強の力を振るう自分ではなく、ただの「アリナ」を認めてくれる、世界でたった一つの避難所(セーフハウス)なのだ。

### 3.

 しかし、そんな二人の時間を邪魔する者が現れた。

「――ほう。隠密魔法かと思えば、随分と手の込んだ細工をしているな」

 静かな声。

 カイトが仕掛けたはずの結界を、まるで存在しないかのように通り抜け、一人の男が姿を現した。

 白銀の鎧を纏った、美形だがどこか威圧感のある青年。

 ギルドが誇るランクS冒険者にして、王国騎士団の外部顧問も務めるエリート。……名を、シグルド。

「アリナ・クローバー。貴女ほどの者が、なぜこのような三流冒険者と密会を?」

 アリナの体が、一瞬で強張った。

 彼女はカイトから離れ、瞬時に「受付嬢」の仮面を被る。

「シグルド様。……これは、その……業務上の、極秘の打ち合わせでして……」

「隠さなくていい。以前から、周囲の魔物被害の報告と、貴女の退勤時間が不自然に一致していることは調査済みだ。そして――」

 シグルドの冷徹な視線が、カイトを射抜く。

「カイトと言ったか。貴様の『後始末』も、なかなか見事だ。だが、その才能をアリナ嬢の『わがまま』のために浪費するのは、王国の損失だと思わないか?」

### 4.

 シグルドが腰の長剣に手をかける。

「アリナ嬢。貴女を、相応しき場所へ引き抜きに来た。……そしてカイト。貴様が彼女の隣に居続けるに値するか、試させてもらうぞ」

 カイトは、アリナを背中に庇うようにして一歩前へ出た。

 その手には、いつもの地味な短剣ではなく、微かに紫色の魔力を帯びた、隠蔽用の黒いナイフ。

「……悪いけど、シグルドさん。アリナの『定時』を守るのが、僕のメインクエストなんだ。邪魔するなら、ランクSだろうが全力で『処理』させてもらうよ」

「カイト……!」

 アリナの手が、虚空に『神器』を呼び出そうと震える。

 だが、カイトは背中越しに彼女の手を握り、静かに首を振った。

「アリナはまだ、仮面を外さなくていい。……ここは、相棒の僕に任せて」

 月明かりの下、最強の騎士と、最強の「掃除屋」が対峙する。

 アリナの平穏な日常(とアフターファイブ)を懸けた、新たな戦いの火蓋が切られようとしていた。

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