聖魔吟戦/異世界転生した俺はカード知識で無双したかった… 作:レオニス
A. お茶の間にも流せる全年齢版もんぱら+職業:カードバトラーの考察の産物です。対戦よろしくお願いします。
Q. 本音は?
A. 才女なのに私生活ダメダメアスタロトがカードゲーマーだったら
「俺のターン、レディフェイズ。TP1を獲得する」
薄暗く湿気の漂うボロい居酒屋の隅で厳かな宣言がなされる。
吟戦のフェイズ進行を意味する文句を唱えた吟戦者────俺ことサクラは懐から取り出した1つの小石を長方形のカードを積み重ねた紙束、通称:『デッキ』の右隣に置いた。
その所作に向かい側に座る対戦相手、赤髪の淫魔・アストが口を開く。
「ふーん……思いの他、気が利くのね」
その声音からは素直な賞賛と、かすかな苛立ちが感じ取れた。
こちらの想像通り、吟戦の進行で時間を稼がれるのを嫌っているようだ。
「アンティが懸かった決闘でミスがあったらいけないからな。それに連れは初心者でね……わかりやすい形で進めたい」
「わかったわ。でも、フェイズ進行は略式で進めていいかしら?」
「承知した。まあ、ちゃんとやると時間かかるもんな……」
対戦相手の提案にうなづきつつ、心の中で独り言ちる。
(まあ、成果は半々ってとこだな……やはり、増援を警戒されているな)
ボディーガードに竜人を連れ、違法賭博の摘発に現れたと思しき下手人。
それが対戦相手のアストが俺に抱く印象だ。とっとと吟戦を終わらせてずらかりたい……というのが内心だろう。まあ、勘違いなんだけど。
とはいえ、その隙を見逃す程、俺は甘くない。
その第一印象に偽りの確証を持たせるために『丁寧に試合を行いたい』というマナーに抵触しない範疇の理由をつけて、試合進行を遅延させる提案をした。
対する淫魔は表向きの理由に賛同しつつも、自分に不利が付かないようにもっとも時間がかかるフェーズ確認を省略する提案を返した。それも即答である。
思わず、素晴らしい。と、その聡明さに舌を巻いた。
先ほどまでの醜態───── 闇デュエルの会場を荒らし回った末、スロットで負けて素寒貧になるまで酔いつぶれていた姿が嘘のようだ。
(いるんだよな……素行が壊滅的な癖に勝負になると途端に頭良くなる奴)
脳内に浮かび上がった黒髪おかっぱ頭の
(────まあいい。この手の輩に盤外の思考リソースの負荷を押し付けることができただけでも良しとするか)
「ではドロー、メインデッキとマジックデッキから一枚ずつカードをドローする」
宣言と共に二つの山札から札を一枚ずつ引き、既に6枚のカードを握っていた手札に加える。
その半分は場に出して戦闘や効果発動を行うクリーチャーカード、もう半分はプレイヤー自身が1ターンに1回唱えられる魔法カードで構成されている。
「スタンバイ、メイン。コスト1でサン・イリアの商人を召喚!」
「……通るわ」
1ターン目に手札を増やす【納入】を持つクリーチャーの着地。
順調な滑り出しを意味する俺の宣言に対して、一瞬、相手の淫魔の思考が入り、間が空いた。
そのことを脳内に留めつつ、速やかにフェーズを進行する。
「では、そのままエンド」
俺は思考時間を挟むことなく、ターン終了を宣言した。ここで時間は稼がない。
なぜなら、速やかな吟戦の進行は対戦相手への礼儀であると共に、相手の思考時間を奪って威圧を与え、ミスを誘発させる立派な戦術の一つであるからだ。
ちゃちな時間稼ぎより、よほど勝利に近づく行為である。
「なら、私のターン、レディ、TP1。ドロー」
「スタンバイ、メイン。コスト1でサン・イリアの商人を召喚するわ」
「……! 通る!」
アストの場に俺が呼び出したのと同じ名称のクリーチャーが召喚された。
同じ顔がにらみ合う構図にギャラリーの竜人─────連れのライオットから驚きの声が上がる。
「初手が同じ……つまり、同デッキ……というわけか?」
「ん~、多分、ミラーとは違うと思うぜ。なんせ、あたしたちは淫魔だからな」
その声に応えたのは薄青髪の淫魔。先ほどまで酔いつぶれていたアストを介抱していたアストの妹だ。モリーンを名乗るその淫魔は姉に負けず劣らずの美貌と、その体躯の割にはやんちゃで少年じみた……あほの子っぽい性格をしていた。
────さぞ、家族に愛されて育ったのだろう。
つい最近まで天涯孤独の身だったものとして、その境遇が少しだけうらやましい。
そんな俺の気持ちは露知らず、腕を組んで仁王立ちしたモリーンの口が次の言霊を発する。
「まあ、人間と同じデッキにはならねぇな」
「ええ、その通り」
姉であるアストが即座に答えた。
「多分……デッキのカードの半分は同じだと思うけど、諳んじるテーマはまるで別物になるわ」
「同感だ。むしろテーマとしては逆かもな」
「デッキの半分が同じなのにか?」
「ああ」
ライオットの言葉に俺はうなづいた。
このゲームにおいて、デッキとは一冊の物語として定義される。
吟遊詩人たるプレイヤーはカードという名のページを束ねることで物語を組み上げ、壇上で謳いあげる。
だが、壇上に立つ吟遊詩人は1人だけではなく2人。されど、謳いあげた後、壇上に残るのは1人のみ。
吟遊詩人たちは互いの命を懸けて物語を諳んじ上げ、どちらの物語が『強い』のかを決する。
それが今、この世界で最も熱い盤上遊戯(ボードゲーム)『MMCG(モンスターズ・ミンストレータ・カード・ゲーム)』。
『文王』と名高い4代目魔王が考案した盤上遊戯『妖魔吟戦』から生まれた新しくも由緒正しきカードゲームである─────
◆
「俺のターン、レディ、TP2。ドロー」
TP替わりの小石を2つだし、メインデッキとマジックデッキからカードをドローする。
引けたのは『サン・イリアの兵士』と『サンダー』のカード。良い引きだ。
「コスト2を支払い、サン・イリアの商人の効果①を起動する。通るか?」
「通るわ。効果解決をどうぞ」
「では、メインデッキから物品納入を行う。支払ったコスト2以下のアイテムカード……
ブーストドリンクを手札に加える。何もなければそのままバトルだ」
「バトル開始時に魔法使用権を行使する。MP3を消費し、手札から攻撃魔法(アタックカード):サンダーを唱える。
対象はそちらの場のサン・イリアの商人。何もなければ1点の雷属性ダメージを与える」
「対応するわ。MP3を消費して、攻撃魔法(アタックカード):ウィンドを詠唱。対象はそちらの場のサン・イリアの商人よ」
アストが詠唱したのは初級魔法エアロ。モンスターまたはプレイヤーに1点の風属性ダメージを与える魔法だ。
俺が放ったサンダーと同じく、タフネスが1の商人を破壊するには十分な火力。
「対応なし。スタックを解決する。タフネスが0となったサン・イリアの商人は破壊され、墓地に送られる」
「スタックを解決するわ。タフネスが0となったサン・イリアの商人は死亡し、墓地に送られる」
「む、同じ処理なのに言い方が違う……?何か違いがあるのか?」
「あー……、まあ、ルール上は同じだったと思うぜ。姉貴の方はちょっと言い方が古いけどな」
「あっ……と、ごめんなさい。ついホームでの言い回しがでちゃったわ」
「意味が通じれば問題ないさ。一応、
「なるほど……」
「あたし知ってるぜ、確か追放も除外にかわったんだよな~」
「モリーン、その話はあとでいいわ」
初心者を囲むようにMMCGあるあるネタが交わされる。集会所や酒場でよく見る光景だ。
意図せず稼げた時間の中で、脳内で浮かび上がった1つの懸案事項を精査していく。
(引いていたか。ここで撃ってくるということは、盤面に『餌』を確保しておきたかったがやめた……ってことか?)
俺の予想が正しければ、アストのデッキはサキュバスデッキ。その運用にはどちらかの盤面に種族:人間のモンスターが必要だ。
よって、商人を処理するだけなら次のアストのターンで行うのがセオリーのはず。
また、こちらのリソースを削ぐことに重きを置くのであれば、先ほどのターンでこちらの商人を処理しておくべきだった。
(となれば、次のターンで使いたい魔法がある……バフを使うには早すぎるから直火焼きか?)
だが、このレギュレーションにおいて魔法の最大火力は5点。最大HPの1/4。
ライフカードの存在を考慮すれば、損失(リスク)の方が大きい。
(ただのプレイミスか、それとも意図的なプレイか……判断は保留だな)
思考を止める。深く考えても仕方ないことは深く考えない。
それもまた、吟戦におけるセオリーだからだ。
「じゃあ、そのままエンドだ」
「なら、私のターン。レディ、TP2、ドロー……スタンバイ、メイン。TP2を支払い、ウェポンカード『リリスの霊衣』を私自身に装備する。通るかしら?」
何だそのカード!?そんなカードは
順調に進めていたはずの
「……知らないカードだ。効果を確認したい」
「説明するわね。このカードの装備者の風属性攻撃は快楽属性攻撃としても扱い、【魅惑】を得る……よ」
うっわ。まじかよ。レガシーカードじゃんアレ!!
「……対応なし、通る!!」
「ふふっ……想定通りの反応ね」
淫魔がにやりと笑う。焦る俺の内心を見通したかのような蠱惑な笑みだ。
それもそうだろう、レアカードを超えたレアカード、レガシーレアのカードを通したのだから。
(なんで、こんな場末にいる奴がもってるんだよ!!)
思わず、内心で毒づく。
旧フォーマット『妖魔吟戦』時代に作成された希少カード故、『
摺りなおすに辺り、倍以上のコストが課されるであろう
『妖魔吟戦』時代のプレイヤーを『MMCG』に引き込むために作らざるを得なかった
それが今の手札で妨害、ないし破壊するのは不可能と来た。
肝が冷え、手汗が滲む。
ああ、だが。
これがほんの地獄の一丁目であることを
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