聖魔吟戦/異世界転生した俺はカード知識で無双したかった… 作:レオニス
イリアス大陸の裏社会に手を伸ばし始めた闇組織『リリスクロイツ』。
ひょんなことからその噂を聞きつけた法王直属のエージェント、
そこで出会ったのは、構成員と思しき赤髪の淫魔・アストとその妹、モリーンだった。
ただならぬ気配と魔力量を感じ取った俺は実力行使されたらたまらないと、とっさに違法賭博の摘発に現れた下手人を装い、出禁を
しかし、古き時代に産み出されたパワカ、レガシーカードの力によって劣勢に追い込まれるのであった─────
「じゃあ、バトルに入るわね。MP20を消費し、アタックマジック:デルタエアロを詠唱!対象はサクラ、貴方よ!」
赤髪の淫魔・アストが俺に指を突き付け、上級魔法の詠唱を宣言した。
MMCG基本ルール【直接攻撃】。
相手フィールドに攻撃可能なクリーチャーが存在しない時のみ、相手プレイヤーを攻撃対象として選択できる。
このルールの存在により、MMCGでのプレイヤーのHPは全体的なクリーチャーのパワーと比較して少なめに設定されている。
よって、【直接攻撃】の権利の行使は勝利に最も近づく行為であると謳われている。
「ぐっ、ライフで受ける!」
「いいえ、その必要はないわ……【魅惑】のキーワード効果を適応し、ダメージを与える代わりに同数の魅了カウンターを付与する!!5個載せさせてもらうわ!」
薄桃の疾風と共にアストの手元から20面ダイスが投げられ、俺のデッキの隣で5の面を上にして止まった。
それは敗北へのカウントダウン。俺の脳が許容できる快楽の限界値を可視化したもの。
カウンターがこのダイスで表せる最大の数を超えた瞬間、俺はこの戦いに敗北する。
「出た!姉貴のマジックコンボだ!!これを見て倒れなかった男はいないぜ!!」
「HPを削らない……?それでどうやって相手を倒すつもりだ!?」
「……【魅惑】のキーワード効果。クリーチャーに載せられた魅了カウンターがそのクリーチャーのタフネス(HP)を上回った時、魅了状態にする。
そして、プレイヤーが魅了状態になった時、そのプレイヤーは吟戦不能とみなされ、敗北となる」
「何!?普通にHPを削ればいいのではないのか!?」
「プレイヤーに付与された魅了カウンターを後から取り除く手段はないのよ。だから回復魔法(ライフカード)でHPを回復して粘ることができないってわけね」
テーマは割れた。
一般的に流通するサキュバスビートダウンを旧時代の遺物の力で改造したビートバーン。
ただし、焼かれるのは肉体ではなく理性。故に一切の回復は不能。
旧き時代の電撃戦(アグロ)デッキの花形が今、燃え盛るような赤髪の淫魔を語り手として俺の前に姿を現した。
「説明は終わり。……覚悟はいい? ここから先は最高速度で魅せてあげるわ!!」
「ははっ!気の早いお嬢さんだ!まだ2ターン目だぜ!?」
軽口を叩く俺の背筋に冷や汗が伝う。
電撃戦を仕掛けてくるデッキにとって、2ターン目は『まだ』ではない。『もう』なのだ。
ここから先はわずかなミスが命取りになる鉄火場だ。心して挑まなくてはならない──────。
俺はそう心に刻み、場に裏側で置かれているカードに手を伸ばす──────
◆
「俺のターン!!レディ、TP3! さらにチェック、フィールドカード!発動条件は3ターン経過!」
「3コストのフィールドカード……予想通りね」
「オープンするのはご存じ……『イリアス教会』。皆の信仰の寄る辺だ」
表になったのは荘厳たるイリアス教会が描かれたカード。
俺はその効果を聖書に記された聖句を読み上げるかのように厳かに吟じた。
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イリアス教会(コスト:3、フィールド、特性:イリアス教)
【陣地】:このカードが裏側で置かれたXターン経過後のレディフェイズにフィールドゾーンのこのカードを表にすることができる。Xはこのカードのコストに等しい
① 特性:イリアス教のクリーチャーが場に出る時、+1/+1/+0の修正を加える
② 特性:イリアス教のクリーチャーが場に出た時、そのクリーチャーに信仰カウンターを1つ置く
③ 特性:イリアス教のクリーチャーが自陣から離れた時、このカードにXの信仰カウンターを置く。Xはクリーチャーに乗っていた信仰カウンターの数に等しい。
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陣地(フィールド)カード特有の特定のクリーチャーに対する修正効果と、普段のイリアス教徒の活動になぞらえた信仰カウンターを付与、回収する効果を備えている。
このデッキの中核になるカードだ。
「そのまま、ドロー、スタンバイ、メイン!TP2でサン・イリアの兵士を召喚!イリアス教会の効果によって、+1/+1/+0の修正が加わった状態で場に出る!」
「対応なし、通るわ」
「では、特性:イリアス教を持つサン・イリアの兵士が場に出たため、イリアス教会の効果②が誘発!サン・イリアの兵士に信仰カウンターを1つ置く!」
イリアス教会のシンボルが入った鎧と盾を装備し、右手に長槍をもった男の兵士が俺の場に召喚される。
さらに、懐から取り出した丸い小石を兵士のカードの上に置いた。これによりステータスと状態が変動する。
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サン・イリアの兵士
コスト:2、種族:人間、性別:男、職業:兵士、特性:サン・イリア/イリアス教
パワー:1+1 タフネス:2+1 スピード:1
信仰カウンター:1
【盾持】【快弱】
信仰カウンターを持つこのカードは【復活】を得る。
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彼はこのデッキの戦線を支える重要なクリーチャーだ。
素のままでも【盾持】の効果によって、攻撃対象に選択されたバトルフェイズ時のみパワーとタフネスに+1の修正が与えられるカードだが、
イリアス神殿のコンボにより追加で+1/+1/+0の修正を受け、さらに破壊された時にタフネスを半分にして蘇生する【復活】の効果を付与される。
イリアス神殿を入れるデッキであれば、そのカードパワーは並の妖魔を凌ぐ。
序盤、中盤、終盤・・・・・・全ての状況に置いて隙のない強カードだ。
「さらに1コストでサン・イリアの工作兵を召喚!イリアス教会の効果①で+1/+1/+0の修正を加え、ステータスは2/2/1!さらにこれは【罠士1】を持つ!」
「む……、通るわ」
「では、特性:イリアス教を持つサン・イリアの工作兵が場に出たため、イリアス教会の効果②が誘発!サン・イリアの工作兵に信仰カウンターを1つ置く!信仰カウンターが乗ったサン・イリアの工作兵は【隠密】を持ち、他のクリーチャーが存在する場合、効果対象に選択されない!」
「イリアス教デッキにおける基本陣形……回り始めたようね、貴方のデッキが……!」
《イリアス教》デッキ。
女神イリアスへの信仰を支えに戦うイリアス教徒達をテーマとしたオーソドックスなデッキタイプ。
イリアス教総本山、聖都サン・イリアで製作されたカード群で構築される教会御墨付のデッキだ。
そのクリーチャーの多くは種族:人間のカードが占める都合、低コスト、低ステータスである代わりに、特性:イリアス教を持ち、幅広いサポートを受けることができる。
個々の力は弱くとも、団結の力を以て妖魔達に討ち勝つ。そんなイリアス教徒達の歴史を語り手は諳んじることとなる。
「魔法による迎撃を避けるため、バトルフェイズは放棄する。そのままエンドだ」
求められるのは冷徹に戦局を見極め、無駄なくリソースを使い切る指揮官としての才とMMCGというカードゲームへの理解度。
「私のターン、レディ、TP3、さらにチェック、フィールドカード!発動条件は3ターン経過!!」
アストの指が裏で伏せられたフィールドカードに触れる。
3コストのフィールドカード・・・予想通りであれば、アレが来る。
「通る。さあ、本性を見せてみろ、淫魔!」
「言われずとも!私はフィールドカード『淫魔の館』を表にする!!」
捲られたカードは予想通りのカード。薄桃の淫気に包まれた淫秘たる常夜の屋敷。
その効果をしかと確認する。
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淫魔の館(フィールド、特性:淫魔)
【陣地】:このカードが裏側で置かれたXターン経過後のレディフェイズにフィールドゾーンのこのカードを表にすることができる。Xはこのカードのコストに等しい
自陣の種族∶人間のカードはバトルに参加できない
① 自分がTPを支払う場合、それと同数のコストとなるように種族∶人間のカードをタップしても良い。
② 相手クリーチャーが魅了状態になった際、発動できる。そのクリーチャーのコントロールを得る。
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「……こっちは普通のレアカードだな」
危ない。こちらもレガシーなら間違いなく詰んでいた。
思わずため息をはき、胸を撫で下ろす。
「そうよ、これは知っているみたいね」
「ああ、公式大会の場で質と行儀の悪い奴に使われてね……あの時は結構危なかったな……」
懐かしい。
ガチギレの末、法王陛下と魔王陛下の前で
「勝ったの?」
「勿論。負けてたら俺はここにいない……なんせ
「へぇ……」
「話すと長い。興味があるんだったら吟戦の後にでも話すよ」
閑話休題。
目の前の盤面に意識を戻す。
(レガシーでなくとも、危険なのは代わりない)
淫魔の館。サキュバスデッキにおいて中核をなすカードで、特に『妖魔吟戦』時代からのプレイヤーが好んで使うカード。
旧フォーマット『妖魔吟戦』において、支払われるコストはTPではなく
このフィールドカードはそのルールを『MMCG』内で再現するために作られたカードだ。
『妖魔吟戦』時代のプレイヤーを『MMCG』に引き込むために、人魔双方の妥協の果てに作られた準レガシーカードと呼ばれる産物。
俺のデッキの戦術が半分瓦解する
せめて、
「じゃあ、ドロー、スタンバイ、メイン…手札からイベントカード:人間牧場を発動するわ。通る?」
orz。
……なんとも現実は非情である。
引いてほしくないと祈ったカードほど握られているとは誰が言ったのだろうか。
「くっ、引いてるか!対応なし、通る!!」
ああ、神よ。なぜ貴方は俺にこのような苦難を与えるのですか。
と、今だけは虚空に逝った女神に祈りたくなる。
準レガシーも含めたサキュバスデッキの基本戦術はおおまかに2つ。
魅了した相手のクリーチャーの
この戦術は相手が種族:人間の男を扱うデッキの場合、最大限の力を発揮する。
「残念だけど、このまま畳ませてもらうわ、バトルフェイズ!」
淫魔という種族をこの上なく表した名コンセプトにして人間主軸のデッキに対する最大の
形勢はこの上なく不利。
「MP8を消費し、エアロを発動!対象はサン・イリアの兵士よ!基本ダメージは3点!」
「サン・イリアの兵士が攻撃対象に選択されたため【盾持】のキーワード能力が誘発!このバトルフェイズのみ+1/+1/+0の修正を得る!」
「耐えたか!?」
「いいえ!リリスの装衣の効果により、エアロは快楽属性攻撃でもあるわ!これによりサン・イリアの兵士の【快弱】の効果が誘発し、ダメージは1.5倍になる!この時、小数点以下は切り捨てられる……よって、ダメージは3点から4点に増加する!」
【快弱】。快楽属性弱点の意味を持つ弱体キーワード能力。
それは、ごく一部の例外を除いた男に適応されるこの世界の基本法則でもある。
決して、人間の男は女に性技で勝つことができない。
それが人間であれ妖魔であれ。
「そして私自身に付与された【魅惑】のキーワード能力により、ダメージの代わりに魅了カウンターを4つ乗せる!タフネス以上の魅了カウンターが乗ったクリーチャーは魅了状態となり、淫魔の館の効果が誘発!そのクリーチャーのコントロールを私に移す!」
「対応なし、コントロールを移す。その際、サン・イリアの兵士は俺の場から離れた扱いとなるため、イリアス神殿の効果③が誘発。信仰カウンターを1つを回収する」
淫魔に魅了され、信仰を捨てた兵士が淫魔の館に囚われる……そのようなストーリーが盤面で展開された。
物語同士がぶつかり合う時、新たな物語が誕生する。
故に、吟戦一回ごとに吟じられる物語のレパートリーは無限大だ。
このライブ性こそ『
「ん〜……これこそ吟戦の醍醐味よね。そうは思わない?」
|自らが披露したコンボにご満悦の淫魔がなんとも憎たらしい笑みと共に俺に笑いかける《試合中に勝ち確煽りとか、いい御身分ですねぇ!!》。
「全くだ。盤面上であればどんなご禁制も許される。まっことよく出来たゲームだよ。作った方はさぞかし頭の良い方なんだろうな」
「……同感ね。もう会えないのが悔やまれるわ……」
含みを持たせた俺の言葉に淫魔がうなづき、影のある微笑を浮かべて目を閉じた。
その笑みには一抹の寂しさと憂いの念が漂っている。
その言動に俺ははっとした。
「あっ、もちろんMMCGの製作者もすごいと思うわ。妖魔吟戦のプレイヤーにすごく配慮して作られたのがよくわかるし、設計思想もよく練られているわ」
「……そりゃ光栄だ。『妖魔吟戦』の古参プレイヤーに褒められたとあれば、開発陣の方々の苦労も浮かばれるってもんだろう」
不意に飛んできた思いがけない賞賛にこちらも思わず笑みを浮かべてしまう。
恥ずかしさ半分ででたセリフだろうが、もう半分は本心からだろう。
(おお……嬉しいね。『妖魔吟戦』の古参プレイヤーに手放しで褒められるのは……)
妖魔吟戦は『文王』と名高い四代目魔王が作ったものだ。
そして、
『妖魔吟戦』の
正確にはルールを整備し、カードデザインのコンセプトとカードパワーの基準を決めた後は、4大国と魔王政権の連盟で発足された調整委員会に丸投げしたんだけど。
「おっと、話が逸れた。何もなければ、このままエンドでいいか?」
「もちろんよ。エンドフェイズに【魅惑】のルール処理を実行するわ。エンドフェイズに魅了カウンターが乗っているクリーチャーから1つ魅了カウンターを取り除く」
【魅惑】のキーワード能力。魅了状態のクリーチャーをコントロールしているプレイヤーは、エンドフェイズに1つ魅了カウンターを取り除く。
これは魅了状態の時間経過による解除を表している。
「これでエンドフェイズは終了……我ながら感傷に浸りすぎたわね……」
「故人を偲ぶのもたまには悪くないさ。では、俺のターン……」
暖かい風が俺の頬を撫で、心臓の鼓動が高鳴る。
それは相手とカードオタクとして心が通じ合った嬉しさか?
それとも目の前に迫る死線への防衛反応なのか?
確信を持って答えよう。正解はどちらとも。
だからこそ、
なんか、ツッコミが来そうな気配を察知したので、Q&Aを置いときます。
Q. 【快弱】の快楽ダメ1.5倍って計算が面倒じゃないですか?
A. 旧レギュからキーワード能力をそのまま継承した弊害です。当時のカードのステータスはコストの2~3倍だったので、1.5倍でちょうどいいとされていました。