聖魔吟戦/異世界転生した俺はカード知識で無双したかった… 作:レオニス
「俺のターン、レディ、TP4、ドロー……、スタンバイ、メイン」
「3コストでサン・イリアの守護騎士を召喚する。イリアス教会による+1/+1/+0修正を受け、ステータスは3/5/2」
「【専守】持ち……!通るわ!」
「そして、イリアス教会の効果②が誘発し、サン・イリアの守護騎士に信仰カウンターを一つ置く!これにより、サン・イリアの守護騎士は【挑発】を得る!」
全身鎧を身に纏い大盾と大槍を持った騎士が召喚される。
勇ましく大盾を掲げる姿はさぞ戦場に立つ者の目線を集めるだろう。
「さらに、1コストでサン・イリアの商人を召喚する。イリアス教会による+1/+1/+0修正を受け、ステータスは2/2/1で着地する」
「当然、通るわ」
「では、イリアス教会の効果②が誘発し、商人に信仰カウンターを1つ乗せる」
「まだいくぜ、大盤振る舞いだ。俺はイベントカード:イリアス法典をプレイする!!」
「げっ……通るわ」
「このカードは本来4コストだが、場に存在する信仰カウンターの数だけコストを減らしても良い。よって0コストで発動!」
アストの表情が険しくなる。
そりゃそうだろう、これは妖魔にとって最も忌むべき書物だからだ。
「効果を説明する。1ターンに1度、相手プレイヤーがコストXのマジックカードを発動した時、そのコストX以上のマジックカードとX点のMPを払うことでそのマジックカードを
「1ターンに1度って……あってないような制約じゃない」
MMCGにおいて、マジックカードは1ターンに1回しか使用できない。
だから、正直言ってこの発動制約はインクの染みだ。
「同感だ。まあ、オマージュ元の『魔王法典』へのリスペクトだと思って大目にみてくれ。製作者もそれがわかってるからマジックカードのコストが追加されてるし」
「確かにそうね……許すわ」
当初、このカードのデザイナーは、この無意味な制約を言い訳にしてマジックカードのコストなしでこのカードを刷ろうとしていた。
当然、他の四大国と魔王政権出身のカードデザイナー達の反発にあい……俺がマジックカードのコストを追加するようとりなしたのだ。
自分の贔屓する陣営に強いカードを刷りたいという気持ちは理解できる。
だが、それは長い目で見ればその陣営に悪印象がついてしまう諸刃の剣。
特に
世界政治が絡むゲーム故、MMCGのカードデザインは慎重に慎重を重ねて執り行う必要があった。
「では、盤面にイリアス法典を置く、特性:イリアス教のフィールドカードが存在する時、このカードは【保護】を得る」
「条件付きの除去耐性……!?
「教会や信徒の守りがある限り、焚書も改竄もされないってことだ。もちろん、
まあ、追加したコストを言い訳に除去耐性搭載したんだけど。
実物も
イリアス教デッキなんていう、最もメジャーな快楽属性への耐性が終わってるテーマ専用の耐性だから、このくらいは許してほしい。
「うわ……とんでもなく邪悪なカードだぜ、アレ」
「なにもそこまで言わなくてもよいのではないか?」
「旧版のイリアス法典に記された『イリアスの五戒』……その一つ『魔姦の禁』によって間接的に殺された妖魔の数は少なくない……特に淫魔はその筆頭だ。印象悪くても仕方ないさ」
「旧版……?これは『妖魔吟戦』時代からあるものなのか?」
「あ、MMCGの方じゃなくて、サン・イリアが出版してる本物のイリアス法典の方の話だ。大異変の後、魔姦の禁には改稿が加えられて事実上形骸化したんだ。……時代遅れの規則だったからな」
「マジかよ……」
「信じられないわね。あの女神が許すとは思えないけど」
「現法王猊下・ペテロ15世の御聖断だ。天から雷が降ってくるご覚悟で改稿を加えたらしいが……結局、裁きが下ることはなかったな……」
「おお……人間も色々大変だな……」
「人が神を試しても裁きが下らなかったのね……いっそ、裁きが下った方がマシだったかも」
「違いない」
淫魔二人から同情的な雰囲気が漂う。
決死の覚悟でなされた掟の改稿というイベントには流石に思うところがあったらしい。
「さて、余談はここまで……バトルフェイズに入る!」
「そちらの攻撃前に魔法使用権を行使するわ!MP8でエアロを詠唱!【挑発】を持つクリーチャーが場にいる時、相手はそれ以外のクリーチャーを戦闘・効果対象に選ぶことができない!よって、対象はサン・イリアの守護騎士!」
【快弱】により5点となる単体魔法。
──────非常にクサいプレイングだ。だが乗ってやる。
「対応する!イリアス法典の効果を誘発させ、
手札で腐っていたMP10の蘇生魔法を捨て、風の刃を打ち消す。
「対応なし。打ち消されたエアロを墓地に送るわ」
「では、バトルフェイズを続行し、サン・イリアの工作兵でプレイヤーにダイレクトアタック!1点のダメージを与える!」
「当然、
アストが懐から緑の20面ダイスを取り出し、自分のデッキの上に19の面を上にして置いた。
デュエル開始直後に交わした取り決め通りの丁寧な進行と淀みない所作。
一朝一夕では成せぬ華麗な指捌き。
「助かる!召喚酔いにより、このターンに召喚したクリーチャーは攻撃宣言を行えない。バトルを終了し、そのままエンドだ」
その所作に敬意を払いつつ、こちらも速やかにフェイズの進行を行う。
デュエル開始直後に交わした取り決め通りの所作。礼儀には礼儀を、非礼には非礼をが俺のモットーだ。
「私のターン!レディ、SP4、ドロー……スタンバイ、メイン!3コストでレッサーサキュバスを召喚!」
「通る!」
アストの場に煽情的な衣装を着て蠱惑な笑みを浮かべる
局部をぎりぎり隠したその姿は淫魔というにふさわしい。
俺は自分の記憶と同じテキストが書かれているかどうか確認すべく、そのカードのテキスト部分を凝視した。
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レッサーサキュバス
コスト:3、種族:淫魔、性別:女、職業:遊び人、属性、快楽、特性:なし
パワー:2 タフネス:3 スピード:4
【耐快】【弱地】【速徹】【飛行】
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記憶通りのテキストとイラスト。市販されているコモンカードで間違いない。
と、思ったその時、持ち主の声が俺の耳朶を叩いた。
「さて、これまでの吟戦で貴方の
見上げると、アストもまた蠱惑的な笑みを浮かべていた。
「ご明察。信仰カウンターを使う以上、軽量のクリーチャーが多くなるんでね。自然とそういう構築になるのさ」
俺の言葉に笑みを深めるアスト。
だが、その眼は笑ってはおらず、汚物でも見るかのようなまなざしで俺の場のイリアス法典を見つめていた。
「でも、所詮は欠陥デッキね……」
「へぇ、それはなんでだ?」
「そうね、親切にしてくれたお礼に理由を教えてあげる」
目をつむったアストが上体を起こし、深く息を吐いた。
その後、彼女の指が手札から1枚のカードを抜き取り、そのテキストを俺に見せつけるようにゆっくりと裏返す─────
「バトル。私はMP20に加え、追加でMP10を消費し手札からアタックカード:デルタエアロをプレイ。これは【全体化】を持ち、リリスの装衣によって快楽属性攻撃でもある。通るかしら?」
【全体化】。上級魔法に標準搭載されているキーワード能力。
MPを追加消費することで敵陣に全体攻撃が可能になる。
これによりデルタエアロの効果は敵陣全体に5+2点の快楽属性攻撃となる。
だが、俺の手札にMP30以上のマジックカードは存在しない。いや、
「……対応なし。スタックを解決してくれ」
「では、私自身に付与された【魅惑】の効果を適応するわ。工作兵、守護騎士、商人、それぞれに魅了カウンターを7つ置く。そして、淫魔の館の効果により、彼らのコントロールを得る」
「その際、イリアス教会の効果③が誘発。彼らに乗っていた信仰カウンターを回収する。イリアス教会に乗った信仰カウンターは4となる」
「これは……まずいのではないか!?」
「あ~あ、こりゃ決まったな」
ギャラリーのつぶやきが耳朶を叩く中、またしても快楽に負けた3人の男達が淫靡なる館に誘われていく。
これで互いの場のクリーチャーの数は0対5。絶望的な戦力差だ。
「そのデッキは確かにイリアス法典を強く使えるわ。でも、構造上の欠陥として全体化された上級魔法を止めることができない……なぜなら、MMCGのマジックデッキには上級魔法までしか入れることができないから」
「……その通りだ。ごく一部の例外を除き上級魔法の消費MPは20。これはカードデザイン上の問題だな」
そう。MMCGのルール上、イリアス法典では基本的に全体化された上級魔法は打ち消すことができない。
置くのに4コストかかるのにも関わらず、戦況を一発で覆す決戦火力を止めることができない。
コスト軽減ができるイリアス教デッキでもなければ、まずデッキに入らないピーキーなカード。
「この際だから……はっきりと言わせてもらうわね。そのカードは
アストがずい、と身を乗り出す。
その顔に笑みはなく、その眼からは強い不快感が放たれている。
「そもそも、打ち消しが強く使えるのはパワーの高いカードをそれより低いコストで止めた時。そのカードはそれすらできない。元ネタと同じく、ただただ不快なだけの置物だわ」
アストの冷徹な指摘が矢となり、俺の鼓膜に突き刺さる。
「じゃあ、これでエンドよ。魅了カウンターが乗った男達からカウンターを1つずつ取り除く……さあ、ここからどれだけ足搔けるのか見せてもらおうかしら」
◆
「俺のターン。レディ、TP5、ドロー、スタンバイ、メイン……」
ドローした二枚を加えた手札をちらっと見る。
そして、息を大きく吐き、目を伏せた。
(まいったな……この手札じゃ動けない)
引いたのは『サン・イリアの牧師』と『メガヒール』のカード。
この状態を打破できるカードではない。
「ゴー。バトルフェイズに入る」
仕方ない、ここから先はお祈りプレイだ。
パーミッション使いとしては半分敗北と認めるようなものだが致し方ない。
「MP15でアタックマジック:サンダーハリケーンを発動!1点のダメージを4回、ランダムな対象に与える!この攻撃はランダム選択故、【挑発】を無視する!」
「悪あがきを……! 通るわ!」
「では、こちらから見て左側のクリーチャーから順番に1から5までの番号を割り振ってサイコロを振る!」
懐から6面ダイスを4つ取り出し、盤面に静かに転がす。
さあ、どうなるか。
「……まあまあの出目ね」
目が指し示した攻撃対象は
いい出目だ。ギリギリだが勝機は残ったか。
「では、工作兵と商人にダメージカウンターを2つ乗せる。タフネス以上の値となったためそれらを破壊する。死体ではあるが彼らはこちらに返してもらう」
「いいわよ。ただ、肝心のサキュバスを倒せなかったのは残念だったわね」
「今回の裁きは欲に負けて掟を破ったものに下ったということだろう」
堕落した工作兵と兵士がまるでバチが当たったかのように雷に打たれて死亡した。
その遺体を回収し、墓地に叩き込む。
「では、そのままエンドだ」
「なら、私のターン!レディ、SP5、ドロー、スタンバイ、メイン!」
アストの言霊に熱が籠る。
その指がなめらかに盤面に伸び、堕落した男達の下腹部を撫ぜて、
「さあ、フィナーレよ! 私はSP4に加えて、コスト3のサン・イリアの兵士とコスト2の守護騎士を
そして、アストの人差し指と中指が手札から一枚のカードを掴み取り、高らかに頭上に掲げた。掲げられたカードはまるでそれ自体に命が宿っているかのように光を纏い、脈動している。
───来るか、『伝説』!
「冥途の土産に見せてあげるわ……私たちの伝説を!」
「通るぜ。さあ、来い!」
「私は手札から、伝説の三淫魔・アスタロトを召喚!!」
光り輝くレガシーカードが盤面に叩きつけられる。
俺は見た。
現世の妖魔とはかけ離れた、絶望的なまでの
俺は見た。
煽情的な衣装を身に纏う、目の前の赤髪の淫魔と瓜二つの顔をした淫魔の姿を─────
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伝説の三淫魔・アスタロト(レガシー)
コスト:9、種族:淫魔、性別:女、職業:
パワー:
【唯一】【耐快】【飛行】【速攻】【魅惑】【速徹】【鼓舞・全2】
このカードの職業は傾国の魔娼、
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これでも、諸事情によって『伝説の三淫魔・アスタロト』は弱体化した状態です。