詐欺占い師と米花町   作:罠ビー

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詐欺占い師は死告妖精


詐欺占い師と作家の宿願

 

 

 

 面倒くせえ。

 

 シャロンに押し付けられた写真を斜めに構えながら眺める。今のところ見覚えのない女ではあるのだが目元がどことなく覚えがあるとともにその目元の相手が自分を責めている気がしてくる。どうするかと頭を抱えるがあの女が料金を置いていった以上全くの無視はありえない。何かしら私を使いたい思惑は感じるしだとすればただダンスするだけは趣味ではない。

 だからといって私に今のところこの女に対するあてはない。であるならば現状は平常営業を心掛けるべきであろう。女に対するスタンスは後々決めればいい。

 

 そんな事を考えながら写真をしまえば拡げるのはいつもの競馬新聞やスポーツ新聞ではなく文芸誌だ。普段小説などはあまり読まない私の手元になぜそれがあるのかと言われると、押し付けられたからに他ならない。

 パラパラと捲ればこれが意外と面白い。小説が苦手な私でも苦労なく読めている。押し付けてきた松田君にそんな所を見せれば得意げな顔をする所が目に見えるので言わないが。

 

 さて、噂をすれば影という言葉の通りなのか。私の携帯が鳴れば着信は松田君。無視を決め込んでもいいが一応付き合いのある相手だし無下にしすぎるのも具合が悪い。通話ボタンを押せば切羽詰まったような松田君の声。

 

 

「おい、お前なんか視てないか」

 

「いきなりね松田君。切っていいかしら」

 

「悪ぃ。お前に渡した雑誌の小説。その作者が監禁されてるみてえでな」

 

 

 成程と手元にある文芸誌を見やる。表紙には大きく特集される「左文字シリーズ」の文字と作者である新名任太郎の文字。なるほど。自分と同じ苗字の主人公である左文字シリーズのファンの松田君は私に一縷の望みをかけて電話してきたわけだ。

 

 

「松田君、少し落ち着いたら?それは私が新名先生を視てないと成立しないわ」

 

「んな事は解ってる。でもお前この前班長の彼女さんのチケットからなんか分かったらしいじゃねえか。だから俺が貸した文芸時代からなんか分かんねえか」

 

「あれはあの時だけよ。よくわかんないのよ」

 

 

 私がそう言うと松田君は悪かったなと言って電話を切ろうとする。やけに素直だがまあダメでもともとかけてきたんだろう。⋯⋯ほんとにいい勘をしてる。いい勘はしてるが

 

 

「私に聞くのはナンセンスよ」

 

「はぁ?」

 

「だって、小説の巻末を先に捲るような真似は無粋じゃない」

 

 

 私の言葉に松田君は少し黙る。そして気付いたのか電話口の声が大きくなる。

 

 

「お前やっぱなんか知って」

 

 

 深く追及をされる前に電話を切る。あとから小うるさく非難されるのは目に見えてるが私という存在がこの事件において無粋でしかないので仕方ない。

 ⋯⋯だから小説を読むのは苦手なのよ。巻末を見れば結末が分かってしまうんだから。

 

 そろそろかと私は営業セットを畳んで足を進める。いつもの仕事着のローブでもなければ、派手な色合いが多い私服でもない。黒一色なのは仕事着と変わらないが露出はなく黒のストッキングまで履いて、髪色も珍しく黒に戻し、極め付けはつば広のハットに目元を隠すベール。

 

 無粋である私という存在が望まれていないだろうこともわかる。しかし知ってしまった以上弔慰を示してもいいのではないのだろうか。

 

 

 

 

 

 

『私の願いは残された時間で叶うのだろうか。私の謎を解いた読者が私の前に現れることがあるのだろうか』

 

『⋯⋯残りの時間をどう使うのも自由よ。戦車の逆位置ね。逆位置は総じて悪い意味なのだけれど貴方には望ましいカードでないかしら?主な意味は敗北ね』

 

 

 

 杯戸シティホテル2407号室。部屋をノックする。

 

 扉を開けた奥さんは私の服装にギョッとする。そりゃそうだろう。新名氏はまだ死んでいないし死の淵にいることは公表されていない。だからこれは私のズルを示す格好でもある。

 

 

「貴女は⋯⋯」

 

「そうね。巻末を盗み見た悪い妖精という事で」

 

 

 まんまバンシーである。置いていかれてる奥さんを尻目にコツコツと新名氏に近づく。目の焦点はあっているが息は絶え絶え。口を開こうとする新名氏を制する。私なんかにその貴重な体力を使ってしまうのは勿体ない。

 

 

「ご想像の通り私は貴方があの日相談した占い師よ。そして期待させちゃ悪いから先に言うわ」

「私は貴方の期待する読者じゃないわ。ざっくり伝えるけどあの時に巻末を視てしまったの。正当な読者は巻末を先に見ないわ。だから私は読者じゃないの」

 

 

 ごめんなさいねと告げる。これは死にゆく新名氏には残酷かもしれないが私が回答者として彼の最期に残るのも違う。

 

 

「正当な読者じゃないけど、面白かったわよコレ。小説は苦手なのだけれどそれでも楽しめたわ」

 

 

 結末が分かっていたら小説はつまらないかというとそうではない。何度も読み返すのはその過程に引き込まれているからだ。巧みな描写や文章の癖、表現の美しさや強烈なキャラクター性。そういうものを含めて小説であると思う。

 新名氏はにわか読者の私の話をただただ聞いている。それは反論する体力がないからかもしれないが。今は気力で粘っている段階だ。そう気力。

 

 私は新名氏から一度視線を外し部屋の中を視回す。その最後のドアが開け放たれる時間を確認する。コナン君や毛利さんが警察を連れ立って入ってくる。その時間を確認する。

 

 

「⋯⋯だからこれはバンシーの悪戯」

 

「貴方が求める読者はあと3時間で来るわ。ちゃんとその顔を拝みたいなら頑張ることね」

 

 

 GoodLuckと言って部屋を後にする。これが新名氏に対する私の対価の支払い方だ。貴方が考えた子供みたいな企みと私みたいな小説嫌いな初心者にも楽しませてくれた名作を生み出した新名氏に対する。

 

 ホテルを出て煙草に火をつける。今日初めての一本は清々しさと合わさりとてもおいしかった。

 

 

 

『⋯⋯じゃあ私は病に負けるのか』

 

『負ける相手は選べるわ。貴方が負けたい相手に負けた方が気分がいいでしょう』

 

 

 

 

 

 俺らが坏戸シティホテルに突入するとそこにはベッドに横たわる新名先生と先生の奥さん、先生の主治医がいた。先生は今にも旅立ちそうであるがまだ意識があるようだった。

 俺と坊主は先生のベッドサイドに駆け寄っていく。奥さんが先生が自分の仕掛けた謎を解いて会いに来てくれる人を待っていたんですと言っているのが聞こえる。警察としてははた迷惑極まりない事件ではあったがそんなことはどうでもいい。

 坊主の背中を叩きながら、泣かないように笑顔を作って言う

 

 

「新名先生。アンタの謎、俺とこの坊主が解いたぜ」

 

 

 その報告をし、先生の娘さんが先生の手を取ったところで先生は息を引き取った。奥さんも娘さんもその最期に涙しているが奥さんはふと時計を見ると驚いたように言った。

 

 

「3時間たたなかったわね⋯⋯なんだったのかしらあの人」

 

「おばさん、他に誰か来たの」

 

「ええ、喪服で来られて驚いちゃったけど巻末を見た妖精なんて名乗っていたわ。でも本当に妖精だったかもしれないわね」

 

『巻末を先に捲るような真似は無粋じゃない』

 

 

 奥さんの言葉で電話口で聞いたリンネの台詞が思い起こされる。⋯⋯あんの野郎!!全部わかってやがった。俺たちが解くことも、新名先生が危篤であることも。でも引っかかる。アイツならビタの時間もわかったはずなのになんで1時間も長い時間を設定しやがった?

 

 

「喪服の妖精さんが来てから新名は頑張ってました。先生の見立てよりも長く、1秒でも長く貴方達を待っていました」

 

 

 ⋯⋯アイツがそんな殊勝な性格してるはずないか。

 

 

 

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