詐欺占い師と米花町   作:罠ビー

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詐欺占い師は疑惑の女


詐欺占い師と洞窟の探偵団

 

 

「あー未来人で占い師のお姉さんだ」

「お姉さんもキャンプに来たんですか?」

 

 

 博士や少年探偵団の皆とのキャンプ。吉田さん達がある人影を見つければ走って寄っていく。あの子達の知り合いかしらと思って隣の江戸川君を見れば唖然とした顔をしておりそして私と目が合うとまずいとでも言いたげな顔をして私を隠そうとしてくる。博士は彼女を知らないようだが江戸川君の反応に気づき一歩前に出てその身体で私を隠すようにする。

 

 

「失礼じゃが貴女は?」

 

「米花町で占い師をしてるリンネって言うわ。子供たちとは以前ちょっと事件で一緒になってその時からの知り合いよ。コナン君ともね」

 

「うん。そーだね、リンネさん」

 

 

 リンネ。その名前は以前江戸川君から聞いた覚えがある。江戸川君の、工藤新一の幼児化を予言して、お姉ちゃんの無茶な強盗計画とその末路をお姉ちゃんより早く分かっていたかもしれない人間。

 博士の影から覗けばその姿は派手にブリーチをかけた髪に濃い化粧、特に目元に強い装飾が入っており自然と吸い込まれそうな力強さがある。そこに在る瞳は碧色でその瞳孔はキュッと絞られている。

 

 しかし江戸川君の警戒とは裏腹に彼女から組織の冷たい感じはしない。しかし不審であることには変わりない。笑顔で博士と話しているがその後ろの私に興味を向けているのは明らかである。

 

 

「最近少し疲れているのよね。ちょっと自然の空気を吸おうと、ついでにデイキャンプでもしてみようと思ったのだけれどこういうのは疎いのよね。ご一緒してもいいかしら」

 

「なんだよだらしねーなねーちゃん」

 

 

 軽口を叩いた小嶋君をぐりぐりとしながら責任者である博士に確認を取ってくる。明らかに教育に悪い見た目であるが子供たちが懐いており断りづらい。自然さを装ってこそいるが明らかにセッティングされたこの場面。

 江戸川君も完全に裏をかかれているようで後手に回っている。そして彼女は返しの手が無い事を確認するように江戸川君に声をかける。

 

 

「知らない仲じゃないじゃない、コナン君」

 

「わかったよ、リンネさん」

 

 

 

 

「⋯⋯それでお前から見てリンネさんはどうなんだよ」

 

「組織の人間みたいな嫌な空気は感じないわ。だけれど」

 

「ああ、元太たちに接触してここに来たのは偶然じゃねえ。わざとだ。その目的がわかんねえ」

 

 

 灰原の奴が狙いかと思ったけれどリンネさんは灰原に接触を図ろうとしているわけではない。子供たちや博士とキャンプの準備をしている。しかし本当に初めてなのかキャンプの準備はおぼつかない。

 

 流石に灰原と二人きりには出来ねえと薪集めと料理に分かれる場面でも博士に言われれば特に抵抗せずに俺達と薪集めについてきている。彼女を警戒していれば元太たちはいつの間にか鍾乳洞を見つけ入っていこうとする。

 

 

「⋯⋯一応言っておくけどやめた方がいいわよ」

 

「なんだよ姉ちゃん。お宝欲しくねえのかよ」

 

 

 リンネさんはそれをやれやれと言った様子で止めようとする。まあ彼女からしてみたら子供達と連れ添う利点もないし早く戻りたいのだろう。⋯⋯であるならばこいつらに乗れば灰原たちが彼女の事を調べる時間が稼げるのではないか。

 

 

「たまにはいいんじゃねえの。奥まで行かなければ」

 

 

 俺がそういえば彼女は大きなため息を吐く。俺がそう答えるのが解っていたようで、何かを諦めたようなそんな調子で。

 

 

「止めたわよ私は。⋯⋯あまり私にかまけ過ぎない事ね」

 

 

 

 

 

 

 赤茶の髪の女、Ms.Hermitはコナン君と同じように小さくなっていて近いうちにコナン君のもとに現れる。それが現時点での私の見解であった。

 

 しかし彼は私の存在を警戒している。もし彼女が既にコナン君に接触しているとして彼が素直に私に教えてくれるとは思えない。まあ実際シャロンの差し金で動いている以上その警戒は至極正しい。

 

 であるならば別の伝を使うまでだ。しかしコレは私が不審者であることも加味すれば奇襲的に行わなければ先に手を打たれてしまうだろう。……何が嫌でこんな誘拐犯みたいな事を考えなければならないのだろうか。

 

 

「おー元気かガキ共」

 

「あっ未来人のお姉さん」

「またお酒飲んでるんですね。良くないですよ」

「ねーちゃん酒臭えぞ」

 

 

 そう。子供達だ。以前ヘラってる時に公園で出会い、その後の電車の爆弾事件でともに戦った子供達である。

 彼らがコナン君と友達なのはすでに知っている。バッジのような通信機でやりとりしていたのを聞いている。

 

 もしこの場にコナン君が居たら彼らと私の接触を好ましくは思わないだろう。下手をすれば通報などの強硬手段を取られる危険性がある。

 

【この場にコナン君が居たら】だ。毛利探偵事務所の前を視てコナン君が毛利さん達と外出する日はリサーチ済みだ。さらにアルコールを入れる事で頼りない姿を演出すれば彼らはだらしない知り合いのお姉さんと誤認する。

 

 懐に入りさえすれば次はどうとでも出来る。あとは彼らから自分に必要な情報を聞き出すだけ。

 

 

「貴方達、この前バッヂで何かしてたじゃない?それどうしたのかしら」

 

「阿笠博士に作って貰ったの」

「俺達少年探偵団の為にな」

 

 

 少年探偵団。おそらく彼らのチーム名なのだろう。推定として以前連絡を取っていたコナン君は入っていると仮定する。Ms.Hermitがコナン君と接触する事を考えると彼らの知り合い、踏み込めばこのチームに入っていても不思議ではない。

 

 

「でも子供のお遊びでしょう」

 

 

 ここで素直におだてるのではなく一度貶す。こちらから質問してばかりだと会話として自然じゃなくなる。特にそばかすの子あたりが違和感に気づくかもしれない。だから私から聞くのではなく自分から喋らせる。

 

 

「そんなことないもん」

「僕達だってちゃんと事件を解決して来てるんですからね」

 

 

 かかった。彼らが自慢気に語る内容を聞きながら怪訝そうに作った表情の裏でほくそ笑む。彼らは今自分の実績を私に語るのに必死だ。それが加速するように適度に相槌を混ぜていく。

 

 実績語り……自慢話は気持ちいい。それは夜のお店に来るお客さんが証明している。

 いわくお決まりの学校の七不思議を解決した話、かの大怪獣ゴメラが関わった事件の話、同級生のお兄さんを探していたら偽札作りの集団と戦った話。

 

 

「本当に危ないじゃない。どうやってその悪い人達をやっつけたのかしら」

 

「コナン君と、そう哀ちゃんが凄かったんだ」

 

「哀ちゃん?お友達かしら」

 

 

 来た。彼ら自身とコナン君、保護者であろう阿笠博士を除いた6人目の名前。努めて自然に新たに出てきた名前に引っかかったみたく装い初めて話の腰を折る。

 

 

「灰原さんはこの前来た転校生で」

「俺達少年探偵団の仲間だぜ」

 

 

 灰原 哀。フルネームが分かったのは僥倖だ。おそらく彼女がMs.Hermitの第一候補だろう。その子がどんな娘なのかと聞けばクールとか頭がいいといった印象が子供達から語られたのも疑惑を強くする。

 

 

「すっげー、今のどこから出したんだ」

「お姉さん未来人で魔法使いなの?」

 

 

 であるならば確認をしよう。そう思えば少し貯めを作ってから荷物の中からカードを取り出す。静と動。メリハリをつけてそれを出せば彼らはコレが突然出てきたと誤認する。

 

 

「魔法使いじゃないわ。ただの占い師よ」

 

 

 そう言ってシャカシャカとカットをすれば彼らをジッと視つめる。ヴィジョンに潜る時間を稼ぐ為のポーズに彼らは喜びを見せており、その様子が微笑ましく感じる。

 

 稼いだ時間でヴィジョンに潜る。あくまでその中から灰原哀を捜すためであるが、私の未来視は彼らの最も近くて印象に残りやすい未来にアクセスする。そしてそれは私の予想を大きく裏切る未来を映し出していた。

 

 

 

 

『伏せろ!!』

 

 

 それはコナン君の切羽詰まった叫び声でそれとほぼ同時に軽い破裂音が響き渡る。おそらく銃声だろう。

 ヴィジョンであり盗み見てる私が窮地なわけではないがその場に張りつめている緊張感にたかが子供たちのヴィジョンであると高をくくっていた状態から一気にスイッチを入れる。

 

 場所は非常に暗所だ。そして音の反響から閉所でもあることが伺える。相手は銃を所持した男たちが3人、こっちは少年探偵団とコナン君。そしてコナン君は今の銃撃で負傷している。冗談じゃすまない状況だ。

 

 頭を抱える。また余計なことを知ってしまった。幸い彼らの命運は尽きてないし、コナン君もこんな近日中にどうにかなるような死の気配がしていた様子ではなかったはずである。だから彼らはこの窮地をなんだかんだ乗り越えることが叶う。

 だが流石にこんなことを知ってしまい、それが今私が手玉に取っているとはいえ純粋なまなざしを向けてくれる子供たちが巻き込まれることに良心の呵責が無いというほど冷たくは在れない。

 

 

「あなた達今度どこか出かけるの?」

 

「キャンプに行くの」

「博士たちと一緒に奥多摩に行くんです」

 

 

 なるほど⋯⋯おそらくそこに行けば当初の予定通りMs.Hermit 灰原哀にも会えるだろう。であるならばたまにはアウトドアレジャーというのもいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 さて、一応忠告はしたが鍾乳洞には結局入ることになるようだ。流石に子供たちを置いて戻るというのは今の立場上私にはできない。

 ⋯⋯だから誰か別の人間も連れてきたかったがあいにく萩原君も松田君も仕事。さらに言えば私が突然キャンプに行きたいなどと言えば不審がられたとみてもおかしくはない。

 

 それにしてもコナン君が乗り気とは意外だ。いや、これは私を灰原哀のもとに戻したくないから探偵団諸君の冒険心に乗っかったな。一応君の事を思っての忠告ではあったのだがままならないことには慣れている。

 

 周囲を警戒していれば懐中電灯が怪しげな人影を映す。子供たちはそれが死体を運び入れたことに騒ぎ出す。直後伏せろというコナン君の声と破裂音。そしてジワリとした熱を左手より感じる。そして痛みが上ってくる。

 

 

 とりあえず子供達と走り何とか物陰に身体を隠す。そこで改めて状態を確認する。左手は前腕の外側から出血しており握力が心もとないが軽傷の部類だ。一番まずいのはコナン君で腹部から出血しておりそこまで猶予はないように思える。

 

 当然負傷のリスクはわかっているので忍ばせてきた包帯で自分の左手とコナン君の腹部に応急処置を施す。コナン君は意外そうな顔をしながら申し訳なさそうにしている。

 

 

「ごめんなさい、リンネさん」

 

「⋯⋯包帯があってよかったわ。アウトドア初めてで持ってきたものが役に立つなんてね」

 

 

 仕込みはもう一つ。それがうまくいけば何とかなるだろうがもともと彼らだけでこの窮地は脱せるのだ。問題は私のこの身体がそれの妨げにならなければ。

 

 

 

 

 

 江戸川君があの占い師を名乗った女を薪拾いに連れていったタイミングで博士と一通りの準備を済ませたあとに打ち合わせにあった行動を開始する。

 

 

「本当にやるのかい哀君」

 

「ええ。彼女の目的が全く分からない以上何か手掛かりがあればいいのだけれど」

 

 

 そう言って彼女の荷物を確認する。デイキャンプと言っていた通り調理器具やテーブルなどの用具がほとんどでコレと言って怪しいものは見当たらない。まあタロットカードだったり彼女の仕事道具は怪しいと言えば怪しいがそれで何かができるというわけでもない。

 

 そんな中から見つかったのは新品のノート。開けてみれば一枚のタロットカードが滑り落ちてくる。これは隠者かしら。カードをひろって開かれたページに目を向ければ

 

 

『キャンプ中に薪を拾いに行くことになった少年探偵団と江戸川コナン君は鍾乳洞を発見する。そこで死体を運ぶ銃を持った男達と遭遇し江戸川コナンは銃撃で負傷する。コレを確認したら110番をしろ』

 

 

 書かれていた内容に絶句する。ここに来てから彼女が何かを書いている仕草は無かった。それなのに書かれていた文章は江戸川君の危機を伝えるもの。

 挟んであったカードはこのページを開かせる為、そして隠者は俗世から隔絶、弾かれた者。明らかに私がコレを手に取る事を想定して置かれていた。

 

 背筋に薄ら寒いモノが走る。何処までが彼女の掌の上なのだろうか?それと同時にこんな薄気味悪い化け物と江戸川君が一緒にいる事に危機感を覚える。その薄ら寒い手が自分にも伸びている気がして。

 しかしこの指示に従って彼女の思い通りに事を運ぶ事が果たして正しいのか?怪しい女の怪しい警告。

 

 

 そんな疑念を持つ私にギュルルルといった爆音が迫っていた。それはバイクの音である。やっていることが事なのでついそのまま身体を隠してしまう。爆音を響かせてここにやってきたバイクの女性はキョロキョロとあたりを見回すと怪しい女が乗ってきた車に目をやる。

 

 

「アイツの車があるからここに居るのはホントなのか。しかしどうゆう風の吹き回しだ」

「あーすまない。ここに私の知り合いが来ていたと思うんだが、なんか知らないか」

 

 

 あんなものを見せられたとなればあの女の知り合いと言われると身体が自然と強張る。博士もそんな私の様子に彼女への返答に困っている様子だ。

 

 

「⋯⋯あーアイツの知り合いというと怖いよな。私は萩原千速。警察官をしている」

 

 

 萩原さんが身分を明かしたことで少し警戒を解く。萩原さんはあの女、明日谷リンネの友人の姉らしく、いわくアウトドアなんて微塵も興味のないだろう明日谷リンネがキャンプに誘ってきたことを弟さんが不審に思い夜勤明けでバイクを飛ばしてきたそうだ。

 で肝心のリンネはと萩原さんが探すので薪を拾いに行ったわと伝える。ノートの事を言うべきか悩んでいると萩原さんは一枚だけ落ちているタロットカードに目をやりジッと私を見つめてくる。

 

 

「アイツなんか残してなかったか」

 

「ええ、何やら鍾乳洞で銃を持った男がいるから通報してくれって」

 

 

 とたんに萩原さんの顔がシリアスなものになる。溜息をついた後で彼女の携帯で通報を始めた。

 

 

「貴女、もしこれが悪戯だったら」

 

「悪戯ならどれだけよかったか。まあ悪戯だったら私がアイツをぶん殴るから」

 

 

 

 

 

 暗闇の中の逃避行は意外とうまく行っていたが生憎最後の場面でケチがついた。子供より大柄なくせに煙草で肺をやられた女は思った以上に足手まといだった。射線は通っていない。探偵団は必死にこの道の抜け方を考えてくれている。

 

 であるならば私は私らしくいこう。

 

 

「ねえ、少しお話しないかしら」

「貴方にとってもとても有益なお話」

 

 

 私の声の方に当然近づいてくる。けれど少し考えて欲しい。

 

 

「貴方のそれ、何発残ってるのかしら。ああ言わなくていいわよ。でもそれが貴方の命綱なのだからしっかり握ってなさいな」

「⋯⋯気づいてないのかしら、それ撃ち切ったら貴方は用済み。そうすれば彼らの取り分は増えるじゃない」

 

 

 嘲るような声音で陰からそう告げる。これは当然ブラフだが仲間の死体を捨てに来た彼らにとって殺さない理由はなく殺す理由ができれば殺される関係。

 

 

「私達は5人よ。5発も貴方が撃てば⋯⋯あなたを殺す理由ができるわね」

 

 

 私のあまりな発言に子供たちは固まっている。後ろから惑わされんなと仲間が言っているようだがそれは無理だ。フェアにやらなければこの場面は膠着する。そして私が大っぴらに裏切りの可能性を示唆したことで目の前の男も奥の男も迂闊に動けない。

 

 

 

 

 

 さてどれだけ稼げるかといった所で洞窟に光が差し込む。どうやらMs.Hermitは助けを呼んでくれたようだ。警察の到着とともに事態は大きく傾き私達は無事に鍾乳洞を出ることができた。⋯⋯できたのだが

 

 

「⋯⋯ち、千速さんはなぜここに居るのかしら」

 

 

 私の問いは般若の形相を浮かべた千速さんのアームロックで返された。

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