詐欺占い師と呪いの在り処
不老不死とはどれほどの魅力があるのだろうか。この福井県の宿の予約状況や宿泊代金を見るにそう思わずにはいられない。
需艮祭り。その名前は昔から聞いていた。私の家⋯⋯明日谷の家はとある旧家の分家であり、まあ色々あって本家に引き取られていた時期もある。故にこの類の
とはいえ
一方で私は老いの来ない呪われた女を知っているし、その類の呪いは自分自身の事で身に染みている。そんな呪いを授かるかもしれない
色々調べてみたかったしと少し長めの休みを取って福井に入っていた。まずは本土側の美國島への資料を漁り島に渡ろうと思っていた。昼は調べもの、夜は営業をしようと思った福井の一日目。その女たちはやってきた。
私の店にやってきたのは酷く怯えた雰囲気の女とそれを諭している女だった。怯えているのは茶髪に眼鏡の女が私を見つければ縋るようにやってきて、後ろの黒髪の女は必死になだめようとしている。
そして茶髪の女にはあの時の萩原君のような色濃い死の運命が纏わり付いていた。おそらく今日明日、何らかの事象により命を落とす可能性が非常に高い。
「人魚に、人魚に殺されちゃう」
「そんなことあるわけないでしょ沙織。ほら占い師さんも困っちゃうわよ」
厄介事の香りはすさまじく感じるが人魚という言葉にそそられるのも事実である。それに座ったなら客である。料金分の仕事はしなければならない。
「何を占ってほしいのかしら」
「矢を、矢がどこに行ったか知りたいの。それが無ければ私⋯⋯私‼」
茶髪の女性、門脇沙織さんは取り乱しながらそう言う。尋常ではない様子である。度々こういう依頼人に遭遇することがあるが今回の依頼はかなり切迫したものであろうことが察せられた。
時期的には需艮祭りに関係するであろうことは想像に難くない。彼女が口にする矢とは不老長寿の念が込められているという需艮の矢でおそらく間違いないだろう。
そして私への依頼は失せものの矢を探すこと。つまり門脇さんの認識では矢の紛失が死の運命に繋がっていると捉えていると考えられる。⋯⋯信心深いのだろうか。しかしこの様子は狂信に近いともとらえられる。それこそ神秘を実感でもしたと考えるのが自然である。
しかしこの
つまりは矢の紛失と彼女の死の運命に直接関わりはない。がおそらくこの狂乱ぶりが何かの引き金を引いた。そんな感じかしらね。
「⋯⋯門脇さんは島の出身の方かしら」
「はい、そ⋯⋯そうです」
「今から貴女の事を視ます。少し私に異変が起こるかもしれませんが気にしないで」
話をしながら反応を伺う。異様な緊張感以外に変わったところはそんなに見られないと感じる。そろそろかと思い彼女の未来に潜り込んで視る。
直面した場面は暗い夜。雰囲気のある蔵の中。おそらくは門脇さんが島に戻ってからだろう。死の運命の濃さからしておそらく明日の出来事だ。薄暗い蔵の中で彼女の頸に巻きつけられる縄。彼女を絞めつけている顔に覚えがある。⋯⋯今私の占いに門脇さんと共に来た女だ。その形相は後悔が無いわけではなさそうだが決意した者の顔である。
思わず米神に手を当てる。門脇さんに渦巻く死の運命の強さはそのまま付き添いの彼女の殺意の強さと見ていいだろう。ヴィジョンの中での表情を鑑みれば思いとどまる可能性は薄い。頭が痛くなる。
何かヒントはないだろうかと今度はターゲットを変えることにする
「付き添いの貴女も島の人かしら」
「はい。島袋君恵と言います」
島袋⋯⋯確か需艮祭りの象徴。命様の家の名前が島袋だったのではなかっただろうか。矢を渡すのが命様だった筈だ。呪いの大元に近い人間と捉えてもいいだろう。
⋯⋯この状態になってしまう情報が欲しいため、彼女の事も視たいが露骨に視線を向けるのはよろしくない。なのでこういう時用の小細工をする。
「うっ。少し貴女の事は見えづらいわね。ちょっとこちらを見てもらってもいいかしら」
雰囲気のある大きめの手鏡を机に置く。二人の視線は鏡に向く。そして私も鏡に視線を落とす。こうすれば私の視線が島袋さんに向かっていると気づかれづらい。
そのまま島袋さんの未来に侵入する。彼女の最も衝撃的な未来に。
需艮祭りの前日。美國島への船の上。海に浮かぶ小島と、空を飛ぶウミネコの姿を見ながら煙草を燻らせ私は考える。
結局あの夜私の占いは門脇さんの願いを叶えるに至らなかった。死に怯える彼女に死神のカードを突きつけるのはただの追い討ちだ。だからわかんないわねと誤魔化した。しかしその理由に人魚を使ったのは失敗だった。これでは死神を提示してるのと変わらない。
島袋さんは絶望する門脇さんを慰めながら仕方ないわねと言っていた。門脇さんのヴィジョンで見た彼女の顔はどことなくあの日私の占いにやってきた浅井君と似た表情をしていた。
私は結末を知っている。識ってしまっている。だから需艮祭りに沸く、日本海の寂れているはずの島での狂騒の裏側。誰も幸せにならない結末があることを知っている。だからこそ帰るというのは逃避である。
あそこで門脇さんを救えた可能性を私は持っていた。なりふり構わず島袋さんを告発すれば門脇さんの命は助かったかもしれない。しかしそうはしなかった。私は未来から突き付けられた選択でそうしない事を選んでしまった。
当然祭りや
「あら?先日の」
「リンネです。明日谷リンネと申します。島袋さん」
軽く挨拶をすればその目を見る。にこやかに私と話しているが十中八九すでに門脇さんを手にかけているだろう。別に私はその確認をしたいわけではないし、私からそのことを口にすることはない。
「不老長寿を願うお祭りらしいですね。なにやら矢を手に入れればそれが叶うとか」
「そう言われてますけどもともとは呪禁の矢と言って魔よけの矢だったんですよ。大おばあちゃんが長生きでいつの間にか長寿のお守りになってますけど」
そうらしい。資料を漁っているうちにそこにはたどり着いていたし裏も取れている。だからこそ私は面白いと感じている部分もある。少々趣味の悪い考察になるが需艮の矢を不老長寿の矢たらしめているのは人々の共通認識なのである。
「神職の島袋さんが言うから正しいと思いますし私が調べた資料でもそうなっていたわ」
「でも今の需艮の矢を需艮の矢たらしめているのはそういう人の勘違いによるものなのよね。そのせいか矢に強い価値が生まれているんだもの」
「心理学的にはプラセボであったとしてもやはり自身の思い込みと集団の刷り込みというものは
「あの、祭りの準備で忙しいのでもういいですか」
私の要領のえない話に島袋さんは切り上げようとする。若干の苛立ちは感じるがそれはこの忙しい時期に余計なことを的な感じが強い。
「ああ、ごめんなさい島袋さん。島袋さんに聞くのも野暮かもしれないのだけれど。最後に一つだけ」
「不老不死ってあるのかしら」
「世迷言ですね。そんなものあるはずないですよ」
明確な否定。⋯⋯彼女は神社の巫女であり立場上は需艮の矢の効果を信じさせる立場の人間のはずである。一方で需艮の矢の本来の意味とは違うという事も知っておりかつ彼女が命様のからくりに強く寄与してる以上、否定するというのは理解できる。
⋯⋯違和感、ちぐはぐさであろうか。彼女の正体からすれば否定するのは納得できる。しかし彼女が選んだ立場からは否定してはいけないはずだ。本来の需艮の矢の意義を尊重するならこの狂乱には強く異を唱えなければ説明がつかない。
「そう。私もそう思うわ。でももしあったらそれは祝福なんかじゃなくて呪いなんじゃないかしら」
「そうかもしれませんね。禁断の果実を求めることが呪いなのかもしれません」
島袋さんの最後の答えが今までで一番感情がこもっているように感じられた。求めることが呪い。私のいった事とは解釈が少し違うがこの狂乱を呪いというならいいえて妙だ。そしておそらくこの呪いが蝕んだのだろう。
「門脇さんは呪われてたのかしらね。一昨日の彼女、尋常じゃなかったもの」
私が聞こえるように言った独り言に島袋さんが答える前にじゃあねと手を振り私は背を向けて歩き出す。流石に境内で煙草なんて吸えない。
それにしても求めることが呪い。その観点は無かった。私はもともと呪われていたのだし。
ヴィンヤード様は果たしてどう呪いにかかったのだろうか。土産話でも交えつつ嫌がらせをしてもいいのかもしれない。