※次回はまた更新遅れると思います。次の事件を4択くらいで悩んでるので
人魚の島の事件の犯人は命様⋯⋯を演じていた君恵さんだった。3番目の、蔵で焼け死んでいた犠牲者が君恵さんだと思われていたが、その死体は行方不明であった沙織さんのものであった。
彼女は沙織さんの保険証を隠し、代わりに自身の保険証で歯の治療をさせることでカルテを偽装し歯の治療痕から死体を自分だと誤認させるトリックを仕組んでいたのだった。
その用意周到な計画性は彼女の持つ動機に関わっていた。先代の命様、君恵さんの母親は酒に酔った沙織さん、寿美さん、奈緒子さんに蔵で命様の不老不死を確かめる為と焼き殺されている。
その事実を矢を無くして恐慌している沙織さんから聞かされ彼女は復讐を決意したのだった。
パチリパチリと拘束具のボタンを外して、老婆の特殊メイクを外した君恵さんの語り口は最初こそ何処かおどけたような様子であったが、それは何かを押し殺しているように見えて仕方がなかった。
「二人きりやない⋯⋯」
殺害の動機を怒りとも悲しみともつかない表情で語る君恵さんの言葉を遮ったのは服部であった。服部は村の大人達が命様のカラクリを知っていたことを暴いたのだった。
村の大人達が君恵さんに頭を下げる姿に君恵さんは唖然と、虚を突かれた様子でありながら涙を拭い大人達を見つめていた。
大人達の懺悔と様々な感情が行き来していただろう君恵さんが不意に何かに気づいたように顔を上げて会場をキョロキョロと見渡す。
「どないしたん、君恵さん」
「⋯⋯占い師さんは?あの人は、いったい何処まで⋯⋯」
俺の背中につうっと冷たい液体が滑り落ちたような感じがした。事件の裏に出てくる全てを見通しているような存在。その碧の瞳が俺の全てを見透かしているようなうすら寒い感覚。
彼女はそもそもなんでこの絶海の孤島なんて言うシチュエーションで、祭りの観光客の立場に関わらず喪服を、いやそれに類する服を準備できた?男性のおっちゃんはスーツで俺達は学生服だ。しかし女性が前もって準備できるだろうか?
飛び出すように俺は占い師⋯⋯明日谷リンネの姿を探した。部屋の入り口にいた服部の横を走り抜ける。
「ちょ、おい工藤!!どこ行く気や」
「確認したいことがある。占い師、明日谷リンネに!!」
リンネさんはすぐに見つかった。蔵の焼け跡の前で物憂げな表情で煙草を吸っていた。やはりこれまでに抱いていた彼女の印象と大きく異なる。
「コナン君、服部君。事件は解決したのかしら」
「おう、解決したで、占い師の姉ちゃん」
「リンネさんはどうして此処に」
彼女は聞かれれば少し視線を逸らす。あまり言いたくないことなのだろう。ここは君恵さんという事にして沙織さんが殺された現場だ。であるとすれば彼女が関係あるのだろうか。
「⋯⋯門脇沙織さんと知り合いだったの」
「いいや、前にも言った通りちょっと前に占った客ってだけよ」
「その割には随分と感傷に浸っとるように見えるで」
「工藤から聞いたで。アンタの占い、ごっつ当たるそうやないか」
俺の質問にそっけなくリンネさんが返したところで服部が踏み込んだ。服部はそのからくりを暴いてやるといった感じの挑戦的な声音で言ったのだろう。一方でリンネさんは蔵の方を一瞥し服部に向きなおる。
「そうね。百発百中なんて謳わせてもらっているわ」
そんなことはないけどと少し苦笑しながらそういうリンネさん。俺の中で彼女の占いのカラクリの答えは出ていない。⋯⋯いや、本当は出てはいるのだがそれを認めてしまうのは思考停止である。だからあらゆる可能性を考えるのが探偵のやり方である。
だからカラクリの方ではなく、事実を聞く。
「リンネさんは君恵さんが沙織さんを殺していると知っていたの?」
俺の質問にリンネさんは一度煙草を咥え深く吸った後にふぅーと煙と共に大きく息を吐き出す。そして短くなった煙草を携帯灰皿に押し付けた。そして新しい煙草に悠長に火をつける。その焦らすような所作に緊張が高まるのを感じる。
「怖い顔しないでよ。私はここで煙草を吸っているの。それで私は新しい煙草をつけた。だから吸っている間は話してあげるわよ」
新しい煙草はまるで指に挟まれたままで彼女はそれに口をつけない。左の指に挟みそこから煙が線香のように上っていた。
「改めて島袋さんが門脇さんを殺していると知っていたかだったかしら?」
「ええ。否定しないわ。探偵さん」
その答えに思わず握る拳が強くなる。服部も目つきを鋭くして剣呑な雰囲気を纏わせている。リンネさんはそんな俺達の視線を真正面から受け止めていた。まるで今この場でそうされるのを望んでいるかのような、そんな雰囲気すら感じた。
「なんで、なんで君恵さんを止めなかったんだよ!!止めていれば奈緒子さんも寿美さんも死ななくてすんだはずだ!!」
「ええ、きっとそう。門脇さんも死ななかったかもしれないわ」
リンネさんは淡々と告げる。薄情にも見えるその口調や温度感に俺や服部は嫌悪感を抱く。貴女は助けることができる位置にいたんじゃないのか。そう思って仕方がない。彼女が事件の顛末をどの程度、どうやって知っていたのか、それを論理的に説明できない以上本当にそうなのかはわからない。確たる証拠はなくリンネさんの自供だけだ。
「選んだのは私。選ぶ権利を持っていたのも私だけ、選ぶ義務を突きつけられたのも私だけ」
全部知っていて結末を選ぶことができたのは自分だけだ。そのように、まるで脚本家の傲慢のように聞こえる。その傲慢さで人の人生を弄んでいるのかと憤る気持ちがあるが彼女の眼は言葉とは裏腹に鈍く光の反射しない瞳をしていた。
「悔恨はあるわ。だから門脇さんの殺された場所で答えているのだしね」
信じられないかもしれないけど私は誠実なのよとリンネさんは囁く。
「じゃあさ、リンネさんはコレが一番いい選択だったって言えるの?後ろの蔵で亡くなった沙織さんにも言えるの」
俺は縋るようにそう聞いていた。リンネさんは黒こげの蔵を一瞥する。黒い服、喪服のような姿の彼女は先ほどつけた左手の、半分くらい短くなった煙草に口をつけ、息をはあと吐き出す。
「言うわよ。きっと門脇さんは私の事を殺したいと思うだろうけど、私は私の選択した世界で生きていくしかないのだから。もし私が呪い殺されるなら甘んじて受け入れるだけよ」
はっきりと答えられる言葉に偽りはないんだろうと感じられる。いっそ冷徹に感じる割り切りに俺や服部は気圧される。左手の煙草がどんどんと短くなっていく。聞きたいことはたくさんある筈なのに彼女の雰囲気にのまれていた。
「人が死んでまう、しかも3人も死んでまう結末が正しいなんて俺は認めへんぞ」
服部がそれでも探偵としての自身の矜持を口にする。その言葉にハッとする。どんな理由があろうと人が死ぬ結末を探偵として許容していいはずはないのである。リンネさんは目を瞑ってから空を仰ぐ。その行動と彼女の心情は伺い知れない。
「⋯⋯価値観の相違で平行線の話よ。私も理解してもらおうなんて思ってないもの」
「私の『選択』が気に食わないのならより良い『答え』を私に見せる事ね、探偵さんたち」
彼女は左手の煙草を消して携帯灰皿にしまう。もうこれ以上語る気はないという事だろう。いいぜ明日谷リンネ。お前のその挑発、受けてやるよ。
「上等だぜ明日谷リンネ」
「ええ、期待しているわよ。江戸川コナン君」
『人が死んでまう、しかも3人も死んでまう結末が正しいなんて俺は認めへんぞ』
服部君の発言が頭の中でリフレインする。
彼の言う事はもっともである。最善を目指す彼らの心意気としては正しい。それが正しいであろうと判断できる理性はまだ私に残っている。
「随分とアンニュイな顔をしてるわねバンシー」
私をそう呼ぶ相手は一人しか知らない。シャロン・ヴィンヤード。顔を上げればその顔には皺やシミといったものは見当たらず、肌のハリ感も下手すれば私より若々しいほどである。
「少し旅行に行ってたのよ。人魚の棲む島にね」
「あら意外?貴女も不老不死に興味があったなんて」
私の言葉にシャロンは冗談めかしてそう言う。まさかと鼻で笑う。
「不老不死を求める心境に興味があったのよ、呪いを求めるなんて滑稽だと思っていたのだけれど」
「呪いに魅せられた時点で呪われているのかしらね?いや在るだけで人の心を狂わせるから呪いなのかしら」
どう思う?とシャロンに振る。シャロンは笑みを深める。彼女がどう呪われ誰を狂わせているのか?
「それならば呪いを身に宿し狂気を振りまく貴女や私は魔女としていつか火あぶりにされるのかしら」
シャロンは洒落を効かせて冗談めかし答えた。しかし私は冗談と受け取れなかった。そしてシャロンも冗談として言ってはいないだろう。
人に過ぎたる呪いは人の人生を壊す。これは結局そういう事なのだろう。
※リンネの未来視の在るだけで人を狂わす呪いの形→千里眼教会