「俺、死ぬ所だったんだよね」
「爆弾の前で一服してる奴なんかいつか死ぬだろ。今までなんとも無かったのが奇跡なんだよバカヤローが」
「返す言葉もございません」
呑みの席、ハギのヤローが爆弾の解体に失敗して、それまでの天狗になっていたハギの自己意識の低さを説教してやろうかと思っていたら妙にしおらしい様子だった。
まああんな事故を起こせば鼻っ柱は折れるかとも思うが嫌に聞き分けがいい。それまで聞き入れなかった態度を改めるには充分な出来事だったが違和感もある。
それこそ今回は死ななかったラッキーツイてるとか言い出す可能性も考えられるわけで、何かおかしい。
「ハギよぉ、なんか隠してねえか」
「別に隠してはないよ。本当に死ぬ所だったんだ」
問い詰めてみるがさっきの答えと変わらない。いや隠してるんじゃなくてコレが答えなのか?死にかけたではなく死ぬ所だった。この部分だ。
あそこで死ぬのが当然だった、死ぬ筈だった。そういう感じのニュアンスが混じっているのを感じる。ハギの奴はそんな俺の疑問に気づいているのか話を続ける。
「ねぇじんぺーちゃん。リンネちゃんって覚えてる?小学生の時の」
ハギの言葉に記憶を呼び起こす。名前だけだとピンと来なかったが時代まで指定されればなんとなく思い出せる。そしてだんだんと当時の記憶が思い起こされる
『松田君、松田君のお父さん、悪い事したの?』
『親父が悪い事なんてする筈ないだろ!!』
ああ、思い出してきた。俺はその失礼な女の頸元を掴んだのは仕方ない。そしてそれから数日後、本当に親父が連れていかれてからもう一度その女に詰め寄った。喧嘩に発展しそうになり先生たちに止められて以来その女とはかかわっていない。遠巻きにその女を見ていれば学年が上がるたびに輪をかけて胡散臭い印象とあだ名が増えていった。しまいには『嘘つき』。お似合いだと鼻で笑った記憶がある。
その後女は転校していった。結局あの時の真意は知らない。当時は親父が侮辱されたと思ったがどうだったのだろうか?まあ『嘘つき』ヤローの真意なんて知らなくても構いやしない。
「あぁ?嘘つきだか死神だか言われてた女子か」
「そうそう。昔じんぺーちゃんが大喧嘩しそうになったことがあったよね」
「⋯⋯んでその胸糞悪い話が関係あんのかよ」
苦笑しながら話を続けるハギに余計なこと思い出させやがってという非難の目を向ける。
「あの日の前の日にたまたまリンちゃんに再開してね。言われたんだ、明日死ぬって」
⋯⋯は?それだけ?
拍子抜けなハギの話に感情の持っていくところを一旦失う。そしてだんだんと怒りに傾いていく。ハギが自分を改めた原因がそんな胡散臭く眉唾物の『嘘つき』の言葉っていうのが気に入らない。
「お前、んな胡散臭い話信じたのかよ」
「⋯⋯でもいつも通り解体していたら俺は遠隔操作で死んでいた」
「⋯⋯んなもん奴が適当吹いただけだろうよ」
それに結局予言を外している。嘘つきは嘘つきでしかねえ。
「リンちゃん」
11月の頭。あれ以来定期的に私のもとに萩原君は足を運んできた。正直マッポに目を付けられるのは困るのでほっといてほしい⋯⋯がこうなると逆に探られる方が面倒なので意図的に萩原君が来るだろう曜日は営業場所を固定することにした。それに今や萩原君はそれなりの頻度で占いをしに来てくれる上客と言えば上客である。
「ごきげんよう萩原君。今は怪しいことしてないわよ」
「そういう事にしとくよ」
「それで占いかしら。随分とインチキ占い師にご執心なことで」
そう言いながら萩原君を見る。不自然にならないようにタロットカードをいじりながら私が語りたい内容に都合のいいカードをチョイスする。このカードはカウントできるようになっており運命とかそういうのでは決してない。
萩原君にはこのカードがポーズであることとっくにはバレているが私が路上でやっている以上人の目もある。ある程度は占いを装う必要がある。
⋯⋯ああ、これは。
「悪魔の正位置。友人を失うかしらね。具体的に言うと萩原君は私達とタメくらいの男の葬儀に出ているヴィジョンが見えるわね。遺影はグラサンかけてるけどこの人ほんとにケーサツ?」
悪魔のカードを広げているカードの中から探し当て正位置になるように小細工をしてめくる。私の言葉を聞けば詰め寄るように萩原君は顔を近づけてくる。その顔は強張っており明らかに緊張している。
「それは何時の事なの、リンちゃん!!」
「その前に少し聞くわよ。萩原君。貴方は何か懸念事項がある。それはこの時期に関係がある」
「⋯⋯それは」
「それはあの爆発事件、の事のようね。とすると犯人が捕まってない⋯⋯とか」
動揺している萩原君の顔は分かりやすい。占い師は警察とは違うが探る職業だ。萩原君の様子と以前知った萩原君の所属を考えればきっと爆弾事件が起こるのだろう。
「貴方が葬式に出るのが5日後。あくまで葬式の描写だから正確な死亡時期は断言できないわ。私がソイツの顔でも見ない限り」
「だよね。ごめんねリンちゃん。今からじんペーちゃん呼ぶね」
⋯⋯は??待て待て萩原君。君さらに刑事呼ぶのか。私の肩身が狭すぎる。それに私は未来を見える事を喧伝する気はないし第一そいつが信じる保証なんて何もない。
「私は逃げるわよ」
「リンちゃん、待ってお願いだから」
「いーやよ。あまりに私に不利じゃない」
「ほんとに、頼むよ。リンちゃん」
⋯⋯コレガチな奴だな。萩原が私の商売の事とかで脅してこなかった以上逃げることは簡単だが、コイツがあのグラサンが死んだあと非協力的な答えを出した私に報復をしない保証はない。おそらく萩原の反応的にグラサンに今私が合うよりもグラサンの死に非協力的な姿勢を見せる方がリスクが高い。そう判断する。
「仕方ないわね、出張料金弾みなさいよ」
「んでハギ、急に呼び出したかと思えば誰だその女」
「萩原君のご相談で貴方を見に来ました。占い師をしてるリンネです」
仕方なく萩原君の依頼を受けて喫茶店で待機してれば萩原君が件の人物を連れてくる。目つきが悪くグラサンをかけてるその姿にとても刑事らしく見えない。普段の私と組んで美人局してる方が似合いそうな風貌だ。しかもいきなり不躾に疑ってくる始末。やりたくないったらないわね。
「⋯⋯リンネ?ああ、ハギがご執心の占い師か。俺には死神でもつけるのか?それともてめえがつくのは嘘か?」
なんとも的確な挑発の台詞。萩原君が話した⋯⋯とはあまり考えない。死神に嘘つき、的確にあの小学校時代の関係者。つまり萩原君と長い付き合いであり私と面識がある人物。そっちがその気なら
「⋯⋯誰かと思えば、お父さんは元気かしら?それとも思い出したくない?犯罪者の身内は警察だと風当り強そうだものね、松田君」
私、舐められるの嫌いなのよ
バンッ!!という音とともに机がたたかれ私の頸元は掴まれる。怒りの表情で睨む松田君に私も睨み付ける。先にけしかけたのはそっちだし私としてはこの話が破談になったところで一向にかまわない。私は歩み寄りを見せた。それを無下にしたのは松田君だ。
「おめえの事の方がよっぽど思い出したくなかったぜ」
「へえ、あの頃と同じ状況を再現しといて?よく言えるわね」
「はい二人ともそこまで。じんぺーちゃん、リンちゃんが嫌いでも今のは失礼すぎる。リンちゃんもだよ」
萩原君が一触即発な私たちの間を仲裁する。松田君はチッと舌打ちを打ちながらも矛を収める。そうされたらこちらも萩原君から出張料をせしめる手前真面目にやらざる負えない。
「まず松田君。約束として途中で遮るのはやめてほしい。信じなくても構わないから」
「じんペーちゃん、お願い」
私の言葉に松田君は不服そうだが萩原君がそれを制する。松田君を見ながら意識を潜り込ませていく。
爆発するビジョン、爆発したのは観覧車。時間は明後日。そこから意識を集中させて少し巻き戻す。松田君は爆弾を⋯⋯解除していない?いや、手を止めている。何かを待っているようで、それがなんだかは分からない。そして爆弾解体ではなく携帯をもって⋯⋯爆発。は?なんで?
⋯⋯爆発した観覧車を眺めながら考える。松田の死因と時期、場所は分かった。これ以上する義理はあるのだろうか?これで二人は納得させられる。松田君はどうせ信じないだろうけど。
⋯⋯ああ、それはムカつくな。松田君には生きて土下座させないと気が済まない。
そうと決まれば再びビジョンを巻き戻しビジョンの中の松田君に近づく。ああ、死臭が濃くて嫌な予感がする。
カチカチと命を刻む時計の針の音が聞こえる。そんな中携帯で松田君は女と暢気に電話?⋯⋯違うわね。これは遺書あるいは遺言。という事は松田君はこの時点で死ぬ気でいる。今電話で語っていたもう一つの爆弾の位置を知るために。
そのまま電話をおろすとメール画面を開く。死へのカウントダウンが刻一刻と迫ってくる。その表示に、私は死ぬことはないが追いつめられる気がしてくる。いやらしい作りだ。ヒントを知るために液晶を眺めようとすると嫌でも命の刻限が目に入る。
来た。
表示された文字を頭に刻み込む。米花中央病⋯⋯
とたん視界が爆ぜる。熱と光が私を襲う。音は大きすぎて何もわからない。それはビジョンだとは言えここまで集中して接近すれば全くの無事とはいかないわけで。
私の意識は浮上することなく刈り取られた。
「⋯⋯ちゃん、リンちゃん」
意識を浮上させれば周りには警察の二人と救急隊員、いすを並べた上に横たわらせられている。直前のイメージが爆死なので混乱しておりとっさに身体の状態を確認したのは仕方ないだろう。萩原君はもちろん松田君まで心配そうに見ている。肝が冷えた?ならざまあみろだ。
救急隊員の方々はバイタル等に問題がなく意識も取り戻したことを確認すると救急搬送について私に聞いてくるのでそれは丁重に断る。身体は別に問題はない。
騒動を起こした手前、喫茶店にはいられないので二人と外に出る。安静にしててかまわないと喫茶店の方も言ってくれたがあそこまで注目を集めてしまった以上人の目がある。近くの公園で煙草に火をつけってリラックスしようとする。
ライターに火をつけた瞬間手が震える。あー、今はダメだ
「⋯⋯で何をしたんだ」
「ええ、でも少し頼み事していいかしら。これに火つけて渡してくれない?」
萩原君がつけてくれた煙草を吸うとゆっくりリラックスする。交感神経優位の緊張状態を少しほぐすようにする。
「あの約束は有効よ。口を挟まないで聞いてちょうだい」
さっきとは違い異常な私の状態を見ており、それは萩原君も初めて見たはずだ。有無を言わさない説得力があった。紫煙を吐き出すと煙草の火を消す。今の私は火や熱に触れるとどうなるかわからずリスクは減らすべきだ。
「松田君、まず君は明後日爆死するわ。観覧車の72番ゴンドラね」
反論や茶々は入らない。ありがたい限りだ。今の私の精神はそんなに余裕がない。死ぬ場面を体験して平然とはしていられない。
「まず言っておくけど松田君の解体失敗ではないわよ。松田君は解体を放棄するの。爆発直前にもう一つの爆弾の場所が分かるギミックでね」
二人の息をのむ声が聞こえる。爆死までは松田君はそんなはずはないといった感じであったが私が理由を言うとそのシチュエーションなら自身が起こす行動として納得できるのか目を逸らす。
「それでもう一つの爆弾の場所だけど」
思い出そうとして視界が揺らぐ。さっきの死ぬ直前がフラッシュバックする。熱い、痛い、怖い。ぜえぜえと息が荒くなる。煙草は消しといて正解だった。このタイミングで火傷でもしようものなら発狂するだろう。
「ちょっと大丈夫リンちゃん」
「大丈夫かリンネ」
「ごめん、ちゃんと見たはずなのよ。でも爆発の衝撃で飛んじゃったわ」
私がそう言うと二人はポカンとした顔をする。そして微笑みながらも怒気を感じる。なんでそんな気を向けられなければならないのか。心外だ。
「まさかさっきのは」
「私が松田君の視点で未来を見て爆弾で吹き飛んで失神したという事ね」
「て、てめえは」
松田君は凄んでくる。いくら信じてないだろうし、荒唐無稽な事をしている挙句一番大事な情報を取り逃す失態を起こしているからって⋯⋯
「そんな不機嫌な顔しなくてもいいんじゃない、どうせ嘘つきの戯言なんだから」
「信じてはねーけど、さっきの失神がその無茶によるものならなんでそんな無茶しやがった」
「そんなの、松田君に土下座させるために決まっているでしょ。あと情報料」
私の答えに萩原君はあきれた様子であり松田君も呆れている。
「でも肝心な所が分かんなくて悪いわね。爆死する経験は初めてで」
「「米花中央病院だろ/でしょ。」」
⋯⋯二人の言葉になんとなく思い当たる節があり携帯を取り出す。そこにはメモ帳アプリで書かれた米花中央病の文字が映っていた。
失態だ。先にこれを見れば余計なことまで話す必要はなかった。余計な自己開示を行った。
「ほんと最悪。覚えてなさいよね。次会った時絶対土下座してもらうからね松田君。それと萩原君、出張料のほかに今度会った時情報料もらうわよ。二人から、10万ずつ」
荷物をまとめて二人から逃げるように離れる。この後向こう一週間は火が使えず煙草も据えなかったため一週間の禁煙に成功した。
この前のロードショーでハロウィン見たからここにvsプラーミャ挟まってんだよなってちょっと頭抱えた