「幼馴染の子が気になるけどそっけないんだ」
「そうなのお姉さん」
営業をしてればおずおずと女子高生がこっちを見ていたので一計を案じる。手を滑らせてタロットをばらまけば相手の心理的ハードルを下げることができる。そうすれば少女はクスッと笑う。掴みは上々。
そのまま悩みがあるのかしら、話すだけでもいいわ。貴女かわいいからまけてあげちゃうわとワンコインくらいで席に着かせる。いい子だなと思うのとカモだなと思う心は両立しうる。
席につかせて話を聞いてれば幼馴染が鼻の下を伸ばしているだとかいつも青子に意地悪するだとかのろけが飛び出してくる。この手の話は聞きまくっているので私は恋愛マスターだ。
ならばと言ってカードを大げさに広げてから切る。恋人が上に出るようにして。めくってごらんと促す。
「ね、大丈夫。彼との繋がりは切れてないから」
「バーロ青子。そのお姉さんはカード選んでんぞ」
私の運命の恋人は後からやってきた男子生徒にすぐにばれる。こっちに一発で気づかれるのはちょっと久しぶりだ。彼が彼女の言ってた幼馴染君なのかしらと一目見て未来も視てみる。
真っ白のシルクハットに気障な紳士服に身を包んだ紳士。その姿に思わず声が漏れた。
「黒羽盗一さん⋯⋯」
「アンタ、親父のこと知ってんのか」
漏らした言葉に隣の彼は私を見つめてくる。そして青子ちゃんの横から身を乗り出して私に問い詰めてくる。あの人と同じ姿をした彼の姿。
「昔占った事あるのよ。これが初めてバレたから覚えているわ」
「お嬢さん、占ってもらえるかな」
それは萩原君と再会する少し前。私は昼夕は占い師として、夜は夜のお店で働く生活をしていた。大学時代にバイトしていたお店の先輩に占い師を兼業している人がおり、私が予言めいた事をしていると知ると占い師のバイトも勧めてきた。
大学は心理学科だったし、お店での経験もあるし何より未来も見えるのでこれ一本でも慎ましく生きれなくはない程度稼げている。まあ閑古鳥は鳴くことはないくらいだ。
そんな中珍しく男性が話しかけてきた。年のころは若者以上中年未満といったところか。鼻の下に整えられた髭からダンディズムを感じる。なかなかの男前だ。さてこんな小娘に占ってほしいのは何なのだろうか?それとも
「いらっしゃい。あら、ほんとに占いだけかしら。何か他の思惑があったりするのでは」
「はは、とても魅力的な話だけど妻も子供もいる身だ。お嬢さんもあまり火遊びをするものではないよ」
ひらりとあしらわれる。まあその方が健全ではあるのだが⋯⋯だとすると何なのだろうか。女性が恋愛系の相談に来ることは多いし未来を見てというタイプにはあまり見えない。ありていに要れば堂々としている。不安だったり困りごと、探し物待ち人といった困惑があまり見られない。どちらかというと決意とかを感じる。
「うーん、でもお客サン、あんまり困ってるようには見えないのよねー。私に導いてほしいというより私に何かを言わせたいってところかしら」
「驚いた。いい占い師という評判は聞いていたけど、よく見ているね」
「目には自信あるんで」
ニカリと笑顔を作る。ギャル占い師がちょっと舐めてきた客をあかして自信満々の様子を作った。そう見えているはずだ。
「それで何を占ってほしいのかしら」
「今度大きな手品のショーがあってね。成功するかどうか気になってね」
そういわれて男性を視る。確かに彼はマジシャンのようで彼が箱に入る。脱出マジックという奴だ。箱は炎上して⋯⋯一向にマジックの終わりが訪れない。周りが騒がしくなってくる。盗一様、盗一様と周りが彼の名を呼ぶが黒い炭になった人型が在るだけ。
⋯⋯これが私の反則技でなければだませるだろうが彼の命運は尽きてない。つまり彼は生きているのだ。
となれば私は何を伝えればいいのだろうか。事故か生きる事か、マジックの成否か。そう悩みながらいつものカードを手に取ればそれは制される。
「なによ」
「失敬。それは運命じゃなくなるのでは?そのカード、貴女は何がどこにあるか自由に選べますよね」
「流石マジシャンね。ではカードを変えるわ」
「そのカードは香水か何かでマーキングしているね。君も中々意地が悪い」
一つ目の仕込みがばれてから二つ目の仕込みを使えばそちらも看破される。ただこれ以外カードはないのでしらっと匂い付けされたカードを並べていく。
「ではあなたの手で運命を選んでください、盗一様」
なんで名前を、という動揺を隠して盗一さんはカードを引く。引いたカードはハングドマン。なんとも都合のいいカードが出るもので。
「ハングドマン、吊るされ人。正位置は自己犠牲、試練、復活。逆位置はわがままや自己主張がメインの意味かしらね。貴方はマジック中に事故に遭うかもしれないわ⋯⋯その後あなたがする選択はあなたがやらなければいけないものか、我を押し通してもするべきなのかそれを問いかけているのかもしれないわ」
「弱ったな、少し背中を押してもらおうかと思ったのだけれど思わぬ突き付けられ方をした。不思議なお嬢さんだ」
「貴方が選んだ運命よ」
盗一さんは苦笑いをする。しかし揺らいでいない。こういう人は本来占いに来る人ではない。
「お嬢さん名前は」
「紳士から名乗る方がベターではなくて」
「黒羽盗一だ。Ms.Wonder Fortune」
ショーマンらしく恭しく礼をするその姿は大変様になっていた。
「リンネよ。源氏名で悪いわね、昔の名前は捨てたの。それで相談料代わりにこういうのはどうかしら」
「⋯⋯ふふ、商魂たくましいな。いいだろう、ひとつもらおうか。君の加護でもあると思えば格安だ」
盗一さんとの話を快斗君と青子ちゃんに話す。もちろん未来視や二つ目のイカサマは伏せてだ。
「あまり面白い話もできなくてごめんね」
「いやこっちこそ親父の話が聞けて良かったぜ」
ならよかった。青子ちゃんをカモろうとしてたこともうやむやにできたし二人からの感触も悪くない。これで終わろうかとも思うが少しいたずら心がわいた。
私は二番目のイカサマタロットを取り出す。それを混ぜながら快斗君に声をかける?
「快斗君も占ってみるかしら」
「うーん、やめておくぜ」
盗一さんにバレた手法に快斗君は気づくかなと思ったのだけれど快斗君は気が乗らないようで。
それは面白くないなと感じれば去り際に一言言う事にする。カードは見ずに運命の輪のカードを手に取り突き出す。
「君は近いうちに大きな運命の分かれ道に直面するわ。そして盗一さんの遺した謎とその影を追うことを選ぶかもしれない」
「はあ?俺は占いは信じないって」
◆◆◆◆◆◆
あの占い師の女は最後に言っていた。運命の分かれ道と。
それを思い出したのは隠し部屋を開けた時だ。確かに運命の分かれ道はやってきた。
違和感はあった。あの女は運命の輪のカードを確認もせずに見せつけ、このことを当てて見せたのだ。
あてずっぽうかもしれないがあの怪しい占い師の女が親父の知り合いなのはマジなようで、もしかしたらあの女は親父の死の謎を知っているのかもしれない。