今日も今日とて営業中。気づけば結局松田君を土下座させられなかった爆弾事件から2年程経過していた。
最近は定期的につながってしまった腐れ縁の警察官共がいる為以前以上に営業に気を使わなければいけなくなった。最近は詐欺事件への風あたりも強い。そんなに凄くぼったくってるわけではないからある程度目溢ししてくれてもいいのではないだろうか?相談料まで考えたら世の中のギリ合法なあれこれより多分良心的だ。
「それで、今付き合っている殿方と上手くいくかだったかしら」
「そう。私はワタルと上手くいくと信じてるのだけど気になるじゃない」
今占っているのは外国人の血が入ったハーフの女性。さっきまで私に彼氏さんとののろけ話を散々聞かせていた。付き合ってからもそれなりに長いがまだ婚約とかの状態には入っていないらしい。
⋯⋯彼女のエピソードトークだけ聞くと大事にされているとは感じるがこれは彼女のフィルターが多分に入っているだろうから恋愛マスター占い師の私は話6分くらいで聞いておく。それだけの付き合いの長さで婚約をしていないというのが昨今の事情からすると若干気にかかる。もしかすると彼女はキープの状態で遊ばれているのではないか?
だとすると面倒だ。もしそうだとして恋に熱を上げている女性に冷や水を浴びせたとして水は蒸発するのが落ちだし私は蒸気で火傷をする。かといって調子のいいことを言えば不貞に気付いた際私が不利益を被る可能性もある。
⋯⋯地雷案件だ。と笑顔の下で頬をぴくぴくとさせていても仕方ないので彼女の未来を視る。
すうっと意識を潜らせる。
断崖の崖上、強い風が吹きすさぶ中明らかに危険な立ち入り禁止だろう崖淵近くに立つ彼女。おそらくワタルさんだろう写真を見つめる彼女の表情は昏く絶望に染まっている。靴はすでに脱がれており今からその仄暗い瞳と同じ色をした海に飛び込むのは容易に想像できる。
写真を見つめて、枯れたであろう涙は腫れに腫れた瞼から想像がつく。それからは早かった。命を絶つ躊躇とかを感じさせないあたり覚悟の具合が伺える。
彼女の命運も尽きており彼女は近日中に命を絶つことになる。
度々こういうヴィジョンに当たるがなかなか慣れないものだ。目の前の彼女の顔が身投げをする直前の彼女の貌と重なる。すべてに絶望していたあの貌と、今幸せの絶頂期ですといった彼女の表情が重なる。
表情は変えない。彼女の非業を思うと胸が痛むし、あまりに残酷な対比に直面して吐き気すら感じるがプロである私は笑顔を向け続ける。⋯⋯昨日深酒しなくてよかったー。
あんまり深入りしないが得策か。適当なことを言って帰って貰おう。私は人の人生まで責任を持つ必要はないしいちいち顧客の未来を気にかけていれば私の精神に異常をきたしてしまう。それに伝えたところで私にいいことはあまりない。
言ってしまえばいい。貴方は彼氏さんと仲睦まじいと。
しかし後ろ髪がひかれる。こういう時は天命に任せることにしよう。カードを並べて普段は私がめくるがそれをお客さんに任せる。2枚を選び相手の前に伏せて出す。
お客様が運命を選んでください。そう言って私は女帝と死神を伏せて渡す。
彼女は捲り、そしてヒッと声を上げる。そのカードはたとえタロットにそこまで詳しくなくても悪いカードなのは一目瞭然である。
「⋯⋯そちらを選びましたね。はあ、あまり言いたくないのよね」
DEATH。義務教育レベルの英語知識があればそれが表す意味は理解できる。
「ナタリーさん。貴方の未来に非常に悪い予兆が出ているわ」
彼女は息をのむ。そりゃ当たり前だ。彼女は彼氏さんとの幸せな未来を信じて占いに来たのに。
ひどく残酷な事をしているという自覚はある。が知っている以上言わない方とどちらが残酷なのかは私には判断できない。
「ナタリーさん。おそらく貴女に非常に苦痛な事が起るわ。あくまでこれは推察なのだけれど、貴女の入れ込み具合からきっと彼氏さんの事。貴女はその事実に耐え切れず、死を選ぶわ」
死神のカードを指でつつきながらそう言う。運命が選んだ以上私は従う。あくまで私の精神ケアの一環でしかないが運命には真摯で誠実にいることにしている。
ナタリーさんは死神を引いたショックからいまいち立ち直れていないが、縋るように私に聞いてくる。
「どうすればいいの、私はどうしたら」
ここでこのツボを買えばとか言えば完全に霊感商法である。しかし私としてはそんな彼女に具体的策を享受してあげることはできない。原因が彼氏さんの不貞だとすれば彼女の入れ込み具合からすでに手遅れであろうことは察せられるからである。
「私には答えかねるわ。悪いわね」
それしか私には言えなかった。修羅場には巻き込まれたくないし場所変えるかしら。
「お前か、俺のナタリーを泣かせたのは」
後日来店したその男は憤怒の形相で私を睨み付けていた。なぜバレた。そもそも占い師は数いるはずだし場所も変えた以上私だと断定はできないはず。
「占い師リンネ。ナタリーが言ってた名前を同僚が知っててな。聞けば連絡をくれた」
後ろを見れば萩原と松田の二人。とんだ恩の返し方じゃないかオン?そんな風に二人を睨むが違う違うと手を振る。
「おめえが胡散臭いのは百も承知だが班長の彼女さんに言ったことが気になる。それに」
「班長がリンちゃん殺しちゃわないか止めるためのストッパー要員だよ俺たちは」
完全にお冠のワタルさん。今にもつかみかかりそうな雰囲気。だとしてもと私は息を吐きスイッチを入れる。
「私は私の占いの結果を言っただけよ。それでみっともなくキレるなんてやましいことがあるんじゃないかしら」
「テメエこそナタリーを不安にさせた目的はなんだ?詐欺にでもかける気だったか?」
今一度2人の方を見る。今回はどちらかというとジト目で返される。あまりにも信用がない。それに2人の同僚ならそりゃマッポである。……3対1、わーおとても不利。
「貴方がナタリーさんを安心させてあげないのが悪いんじゃないかしら?長い付き合いなのでしょう?」
私の言葉にぐっと言葉に詰まるがワタルさんは今にも掴みかかりそうな状態は変わらない。事前にナタリーさんを視た時に感じた私の下世話よりの推測とは外れているだろうが彼女が命を断つ理由はワタルさんでまず間違いないだろう。
おおかたマッポであるから危険がとか色々あって先延ばしにしていたのだろう。そのせいかナタリーさんは幸せの絶頂からの喪失感に耐えられなかった。
「愛に形はないけれど形あるモノがあった方が色々残るのよ」
そう言うと私はワタルさんの未来を視る。現れるヴィジョンはワタルさんが後輩だろう若い刑事さんと歩いている。交差点に差し掛かり、彼は突っ込んで来たトラックに轢かれていた。時間帯としては夜の帳が降りきっており、時間もそこまで遠くない未来だと思われる。
「ところでこんな騒動になっちゃ商売あがったりなんだけどどう保証してくれるわけ」
「脅迫か?やっぱりロクな奴じゃないなインチキ占い師」
「だから今から定価で私に占われなさい。拒否はさせないわよ」
ワタルさんを無理やり座らせると私はいつものようにカードを並べていく。当然これは例のイカサマカードだ。インチキ占い師というのはあながち間違ってはいない。
一方でワタルさんは渋々といった様子だがインチキ占い師の正体を暴いてやるといった様子も感じられる。挑発に乗ってきたようだ。
私はワタルさんにナタリーさんと同じカードを突きつける。死神のカードだ。その選択にワタルさんは鼻で笑うが後ろの2人はそうはいかない。明らかに緊張が走っている。それでもコレが私の予言なのか、私が当てつけで出してるかは判断がついていないようだ。
「バカバカしい。コレで次は何か買わせるのか?おい松田、萩原、コイツしょっぴくぞ」
「いや待って班長。リンちゃん、コレはどっちなの」
「さぁ?話を聞いてからでも遅くはないんじゃないかしら」
私は薄く微笑む。ココまでされた以上一定の意趣返しは行わないと気がすまない。だからまだ迷わせる。
「ワタルさん、この先を聞きたいなら前金で10万よ。あらコレは霊感商法ってやつかしら」
「リンネお前煽るな!!」
わざとらしく挑発するようにそう言えばワタルさんは堪忍袋の緒が切れそうなくらい顔を紅潮させている。多分私が女だから殴られてないだけだ。いや多分女でも殴られるわコレ
「ハギ、いくらある」
「じんぺーちゃん、なんとか10万あるかな」
「残念だけど2人からは受け取らないわ。ワタルさん。貴方は自分とナタリーさんにいくらの値をつけるかしら?こんなインチキ占い師相手の戯言にいくら払うかしら」
私は舐められるのが大嫌いだ。
……正直私は捕まるかもしれないがもしワタルさんがこの未来を行くならこの事は最期に強烈な傷になるだろう。ここで私を軽んじるなら安らかな死は与えない。後悔して死んでいけ。
「……もしただのペテンなら地獄の底までお前を追って逮捕してやるからな」
……ああ、その顔が見たかった。
握りつぶした一万円札を私に押し付ける。熟考の末に出した答えに私は満足する。是非松田君にもこうして欲しかった。そういう目線を松田君におくれば引いていた。
「まいどあり。まぁ貰った以上真剣にやるわよ」
そう言ってビジョンに深く這入っていく。ワタルさんの視点で後輩の刑事、高木刑事との会話を聞く。どうやら張り込みをしていたようだ。詐欺の犯人を捕まえたって話は笑えないわね。
そして話題はナタリーさんの話題。どうやら手帳を見せようとして落としたみたいね。ソレを拾おうとして
私の身体は横薙ぎに吹き飛ばされる。けれどまだ命運は尽きてないようでその状態で手帳を高木刑事に託そうとする。横薙ぎに飛ばされた時点で意識が飛ばなかったのはワタルさんのタフネスがなせる技なのか。
そして手帳から覗くのは……ナタリーさんの写真と、指環?
気づけば私はイスから落ちている。そりゃそうか。怪訝そうかつ不思議なモノを見る目のワタルさんと明らかに圧を感じる2人の姿。
「さて、じゃあ話していきましょうか」
「死神は当然死を意味するわ。ワタルさん。貴方は多分今追ってるだろう詐欺の犯人を張り込みの末捕まえた日、高木刑事って後輩といるわ。そこでトラックに轢かれるわ」
ワタルさんに初めて驚愕の色がうつる。高木刑事を私が知る由もない筈だからね。でもここからよ。
「貴方は手帳を取り出した。高木刑事になにか見せたかったのでしょうね。でもその手帳を取り落としてしまう。そしてその手帳を拾おうとした際トラックに突っ込まれるわ」
「手帳にはナタリーさんの写真と指環が入っていたわね。最期に見つめていたから結婚指環かしら?でもそれが貴方の命を奪うなんて悲しいわね」
途中で口を挟まれないようにノンストップで話しつづける。私が知らないはずの情報で畳み掛けて余計な茶々を防ぐ。
ワタルさんは私の占いが受け入れられて無さそうだ。一方で付き添いの2人はワタルさんを通り越して私を見てくる。
「それじゃリンちゃん。ちょっと霊感商法について話聞こうか」
「俺達は班長が詐欺に遭う場面目撃してるし事情聴取って奴だな。班長は今惚けてるけどすぐ戻るだろ」
やべぇ言い訳出来ない。
後日萩原君経由でナタリーさんとワタルさん、伊達刑事との結婚式の招待状が届き、どんな神経してんだと思うのはまた未来の話。