8000年と月の香り   作:文才の無い本の虫

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――月の香りがした


序章:はじまり、はじまり
それは月の綺麗な夜だった


 

 

 

 

 

――今は昔・・・。

 

「オゥ、イッツマジェスティック!!」

 

少々発音の可笑しい英語が口から飛び出る。

背後には死体の山・・・正確には倒れ伏したプレイヤーの山。

その数は百か二百か。

ただ言える事は皆、痛覚は無い筈なのに苦悶の表情を浮かべている事であった。

 

「狩人〜またエセ英語になってるよぉ〜?」

 

「なぬ?!英国紳士で通してる私のキャラが崩れてしまうではないか!!」

 

「ヤッチョはもう遅いと思うなぁ・・・」

 

――では、なくて。

 

「・・・そうか?」

 

「うん」

 

即座に飛んできた彼女――『仮想空間ツクヨミ』の管理者であるヤチヨの肯定に少し凹む。

無敵(笑)の狩人とは言え、心は硝子である。

 

「何がいけないのだろうか・・・貴公、思い当たる節は」

 

「いっぱいあるかな?取り敢えずヤッチョはモザイクをかけたりする必要がある必殺技を止めたらどうかなーって思うのです」

 

()()()?!内臓攻撃は狩人の流儀だぞ?!私からそれを取ったら何が残ると?!」

 

「うーん・・・狩人も良いとこは探せば沢山あると思うよ?」

 

「斜め下の玉虫色の回答!!」

 

――ちょ、超未来だったり・・・?

 

気を取り直して、とヤチヨがふわりと笑う。

頬を引きつらせながら。

笑えてないぞ貴公。

 

「ふぅ・・・狩人、250人切り達成おめでとー!!」

 

「引きつってるぞ、笑みが」

 

「正直ドン引き」

 

「キャラ、キャラ崩れてるぞおい」

 

――いやいや、大昔でも超未来でも無くて。

――今とあんまり・・・あんまり?変わらない、少しだけ未来の世界。

 

「狩人こそ英国紳士の狩人にしては言葉遣いが粗いなー?」

 

「・・・コホン。貴公、気の所為では無いかね?」

 

「やっぱ手遅れだと思うなぁ・・・」

 

――ゲームしてる自称普通の狩人(上位者)ありけり。

 

『9kv8xiyi強すぎワロタ』

『英国紳士って何だっけ』

『ヤチヨがドン引きするって・・・これがリアルチート』

『このコメントは削除されました』

『《帝アキラ》俺コレに挑まなきゃなんねえの?』

『英国紳士(自称)』

『あー帝死んだなこれ』

『250人切りすればヤチヨのドン引き顔が間近で見れる・・・?』

『おおっと??』

 

――・・・いや本当に大丈夫かこれ??

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

「・・・」

 

「・・・狩人、何やってるの?」

 

「『交信』だが」

 

片腕を真上に、もう片方の腕を真横に上げたままでそう返す。

あと2分なのだ。

あと2分このポーズを維持すれば・・・。

 

「私には意味無いかな?」

 

「何と?!」

 

カレル文字をくれたりはしないのか?!

 

「狩人がいつも言ってるカレル文字っていうのはあげられないけど『ふじゅ〜』あげてるでしょ?」

 

「ログボの?」

 

「そう、ログボの」

 

いやヤチヨ、『ふじゅ〜』は配信で腐るほどあってだな・・・。

俺としては効果がゴミでも構わないから何かアイテムが欲しいんだ(狩人の悲しき性)。

 

「アイテムねー。ヤッチョは皆のヤッチョなので狩人だけ贔屓する訳には行かないんだよね」

 

「うーん正論」

 

「キャラ崩れてるよ??」

 

「いや配信外だし、周りにプレイヤー居ねえし」

 

「この前の配信の14分32秒に『英国紳士たるもの常日頃から振る舞いには気を付けるものだ』とか何とか言ってなかったっけ?」

「・・・」

 

良く憶えてるな?

というか秒数まで出す必要あったか??

 

「狩人の言ったことは全部憶えてるよ?」

 

「重い重い重い」

 

「ヨヨヨ・・・狩人は私からの愛はいらないの?」

 

ヤチヨが潤んだ瞳で見上げてくる。

心無しかメンダコがジト目でこちらを見ている気がする・・・。

 

「いや俺が悪かった、愛は重いくらい丁度良いな、うん」

 

「(計画通り)」

 

気を取り直して。

 

「・・・そろそろだね、狩人」

 

隣に腰掛けたヤチヨが物憂げに言う。

その様子から何を指しているのかは直ぐに理解った。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「漸くってわけか」

 

「うん」

 

『いろは』『月』『ヤチヨ』・・・そして『かぐや』。

()()が言っていた物語がもう直ぐ始まる。

 

――そして俺は()()()()()()()()()()()

 

彼女には言えないが。

 

「それにしても長かったな」

 

「うーん。確かにね・・・でも、やっと此処まで来れた」

 

「ああ」

 

「狩人には感謝感激アラモード!!ってね」

 

「それは此方もだよ、ヤチヨ」

 

遠い過去に思いを馳せる。

まだ、己があの悪夢から飛び出した時の頃。

 

『喋る・・・獣の幼体か?』

『何それ?私は▓▓▓!!』

『▓▓▓?・・・貴公、まさか月からやって来たとか言わないよな??』

『え、なんでわかったの?!』

『・・・オウ、マイゴット』

 

俺の目の前に現れた喋るウミウシ。

もしくは舞い降りた▓▓▓姫。

 

――美しいものを見た。

 

意識を現実に戻す。

目の前でヤチヨが微笑む。

何時もの様に、けれど、何かを恐れている様にも見えた。

 

「そっか・・・・・・ねぇ、狩人。覚悟はよろしい?」

 

「8000年前からできてるさ」

 

お前に救われた時から出来ているとも。

クソッタレな輪廻の輪なぞ、狩り尽くしてやろうとも。

恩がある。

思いがある。

呪いがある。

 

だからこそ――上位者の狩りを知るがいい。

 

隣で宇宙を見上げるヤチヨを視界に収めながらそう、決意を新たにした。

 

 

 

 

 




狩人:プレイヤーネーム9kv8xiyi。モツ抜きが必殺技。
ヤッチョ:かわいい。

過去編とかぐやいろ編どっちが先が良い?

  • 過去編
  • かぐやいろ編
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