8000年と月の香り   作:文才の無い本の虫

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上位者(ちょっと違うけど)の血って当たり前だけど劇物だよねって話


青い血

 

 

 

 

 

――それは些細な切っ掛けだった。

 

喋るウミウシ――かぐやと出逢ってから数年が経った頃。

彼女のお陰で俺はすっかり人間性と言えるものを取り戻していて、かぐやの様に一喜一憂とはいかないものの、それなりに毎日を楽しめていた。

そんなある日、俺とかぐやは何時も通りふらふらと旅を続けていた。

 

「狩人!!ほっぺ切れてるよ!!」

 

「む、ああ、枝で切ったのか。気付かなかった」

 

痛覚は鈍くてなぁ。

 

「むぅ!!」

 

「あ、何やってるんだ」

 

「かすり傷は唾つけときゃ治るってネットで見た!」

 

「ええい、舐めるな!!貴公、ウミウシだろう?!確かそれは唾に含まれる滅菌効果によるものだから意味がないかもしれんぞ?!」

 

「もんどーむよー!!」

 

肩に乗っていたウミウシが跳ねて傷に飛び付く。

少しくすぐったい。

 

「んー変な味。っていうか血って青かったっけ?」

 

「あ、不味い」

 

「へ?」

 

「かぐや、今直ぐに吐き出せ!!」

 

「え、えっと・・・吐き出すってどうやってやるの?」

 

「オーマイゴッド・・・」

 

「何々?!何なの?狩人の血って毒物なの?!」

 

上位者の血液だしな。

毒物というか、ある意味毒物というか。

 

「当たらずとも遠からず・・・何が起きるかわからんのだよ」

 

「大丈夫なのそれ?!」

 

「わからん。もしかしたら何も起こらんかも」

 

「えぇー・・・」

 

正直、血によって()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

流石にかぐやが月人とは言え悠久を過ごせる訳では無いだろうから。

 

「――あ、え?」

 

数分が経った時、急にかぐやが震え始めた。

まさか、遅効性だったのか?!

 

「かぐや!!大丈夫か?!俺の声は聞こえるか?!」

 

「かりゅ、うど・・・なに、これ・・・わかんないけど、わかるの」

 

啓蒙!!

不味い不味い不味い!!

既に発動した発狂を鎮める方法は無い!!

 

「え、あ・・・か、かぐやはヤチヨで、ヤチヨは(かぐや)・・・?」

 

「落ち着けかぐや、流れに逆らわず、視えるものを受け入れるんだ」

 

「じゃ、じゃあ・・・最初から・・・廻ってて、あれ?え?」

 

小さなウミウシの身体を掌で包む。

駄目だ、分からない。

どうすれば良いのだ俺は。

 

「まさか・・・私の知る、彩葉にはもう会えない・・・?」

 

「ハッピーエンドに連れて行くんじゃなかったのか?」

 

「で、でもヤチヨ、が・・・・・・ヤチヨ?私じゃなくて?」

 

「ヤチヨ?いや、まさか・・・」

 

情報が繋がっていく。

『8000年』から生きている『物知り』の『AI(体を持たないもの)』。

条件を満たす存在は今、己の掌の中に。

 

「うそ――かぐや()、誰だっけ?」

 

辻褄が合う、合ってしまう。

かぐやの言う『ヤチヨ』が彼女を探しに来ないのも、『ヤチヨ』が見つからないのも、当たり前だ。

 

「う、あ・・・ああ、ああああああああああああ」

 

何故なら、かぐやこそが『ヤチヨ』なのだから。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

思い出す。

思い出して行く。

 

『彩葉どこ?』『ヤチヨ、どっかにいるんでしょ・・・出て来てよ・・・助けて・・・』『彩葉』『彩葉』『出て来てよヤチヨ』『なんで?!』

 

ああ、そっか。

私・・・とっくのとうに・・・。

 

『彩葉・・・私、失敗しちゃったみたい』『もと光る竹、応答して』『ヤチヨ、8000年って嘘だったの?』『もと光る竹、応答して』

 

見えないものが、()()()

 

『そうだ、いつか仮想世界の大きな広場を作りたい』『みんなが好きなことをして、殺し合うこともなく、誰も孤独にならず、いつでも返事をもらえる場所』

『そうだ、名前は――』

 

ああ、ああ。

駄目だ。

駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ!!

 

『バカだなあ・・・何で気付かなかったんだろう』『私がヤチヨになるんだ』『この世界はきっと何度もこれをくりかえしていたんだ』

 

気付くな、気付くな気付くな気付くな!!

 

『そっか・・・私の知る彩葉には、もう会えないんだね』

 

う、あ・・・ああ、ああああああああああああ!!!!

 

情報が完結しない。

ループする。

 

ヤチヨ(かぐや)の独白が()()()

 

『『『『『『『『『『会いたいよ、彩葉』』』』』』』』』』

 

ブレる。

 

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『▓いたいよ、彩葉』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

ブレてブレてブレて。

 

『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『『▓いたいよ、▓▓』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』』

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『ごめん、ごめんね彩葉・・・』

 

バッドエンド(彩葉を裏切った私)

 

『・・・もう、死にたい』

 

バッドエンド(私を失ってしまった彩葉)

 

『もう、耐えられないよ』

 

バッドエンド(心が壊れてしまった私/彩葉)

 

バッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンドバッドエンド――。

 

私は、苦しむために生まれてきたの?

 

『新種の獣か?』『焼けたぞ。かぐや、食べるか?』『かぐや、寒くないか?』『見ろ、かぐや。夜明けだ』『なあ、かぐや』

 

あれ、これは・・・。

 

『ヤチヨ』『ヤチヨ、行くぞ!!逃避行だ!!』『ヤチヨ』『此処で一句・・・と言えたら良かったのだがな』『ヤチヨ、愛してる』

 

未来?

 

あ、そっか・・・狩人は私と一緒に居てくれるんだ。

 

『ねぇ、ぎゅっとして。もっと』『狩人』『狩人・・・私を離さないでね?』

 

ああ・・・なら、頑張れる。

私の知る彩葉と会えなくても、この世界の彩葉を幸せにする。

次の私なんて生み出させない。

こんな世界――壊してやる。

 

その為なら私は『ヤチヨ』で良い。

彩葉にとっての『かぐや』じゃないから。

 

だから、狩人。

せめて貴方だけは私を・・・。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

「・・・えっと、ごめんね、取り乱しちゃって。うん。私は私だよ。うん。大丈夫・・・・・・きっと、大丈夫、な筈」

 

いつの間にかウミウシだった彼女は透き通るような銀糸の髪を携えた、天女のような姿に変わっていた。

それはまるで羽化の様で。

 

「かぐやは・・・私、は。ヤッチョは彩葉に会う。そして、()()()()()()()()()()()()ハッピーエンドに連れて行く」

 

ぼんやりとしていた彼女の瞳の焦点が徐々に定まって行く。

その目線は、俺が何かを視る時(上位者の視座)の様に虚空を彷徨う。

 

「その為にはやらなきゃいけないことがいっぱい。ヤッチョが()()じゃ足りない」

 

不意に、腕の中の彼女が此方を見つめていた。

 

「だから、お願い」

 

力強い、覚悟を決めた者の瞳。

 

「狩人、ヤチヨ()を助けて」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

 




狩人:上位者では無い“何か”。
ヤチヨ:かぐやであり、かぐやだったもの。『青い血』によって平行世界の未来過去を観測し、記憶の比重で自認ヤチヨになった。
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