非常に嬉しく励みになります!!
引き続き、誤字脱字やキャラのブレや印象に違和感を感じたら教えてください!!
書き直します!!
摂は、その激しい雨の中に一人、立ち尽くしていた。
手には、先ほど自室で破り捨てた『夏油傑・特例休職申請書』の破片が握りしめられている。雨水に濡れ、白くふやけた紙の切れ端が、指の間からボロ切れのように地面へと落ちていく。
感情のままに総監部へ突入し、あの腐った老人どもをその手で処理する――感情により一瞬だけ脳裏をよぎったその選択肢を、摂の冷徹な理性が否定した。
(……いや、非効率の極みだ。今ここで僕が総監部に無理な強行突入をすれば、警報が鳴り、僕は『呪詛師』として指名手配される。そうなれば、内側からシステムへアクセスする権利を永久に失う。最悪の悪手だ)
眼鏡のレンズを激しい雨粒が叩く。視界が遮られる中、摂は小さく息を吐き、驚異的な速度で頭を冷やした。
指名手配されて外部から動くより、呪術師という権限を持ったまま、高専の内側からシステムを変えていく方が遥かに合理的だ。
冷静になった摂が自室へ戻ろうとしたその時。
「摂!」
激しい雨音を割って、担任の夜蛾正道が息を切らせてグラウンドに走ってきた。
「夜蛾先生」
摂はつぶやきながら、振り返った。
夜蛾が摂の肩を強く掴み、その目を覗き込む。
「お前まで……どこかへ行かないでくれ……!」
教え子をこれ以上失いたくないという、大人の悲痛な懇願。摂はその濁りのない目を見つめ返し――そして、静かに術式を発動した。
(『遍虚呪法』)
夜蛾の脳内にある「摂に傑を洗脳せよという特級密命が下された」という認識を「摂に傑とは全く関係のない、極秘の重要特命任務が下された」という認識に強制的に書き換える。
「……っ」
夜蛾の瞳のハイライトが、一瞬だけ不自然に消失した。
激しい雨の中、夜蛾は摂の肩に置いた手をすっと放し、自身の頭を軽く押さえる。脳内で急激に書き換わった認識の矛盾を、本人の思考が「元からそうだった」と勝手に納得して補完していく。
「……摂。お前に下されたあの特命任務の件だが……こんな時にすまんな。俺にできる事があるなら何でも言ってくれ」
夜蛾の口から出た言葉は、すでに「傑の洗脳」ではなく、摂がすり替えた「別の特命任務」へと変貌していた。
術にかかった自覚すらなく、完全に騙されている。
「ありがとうございます、夜蛾先生。では、1つお願いがあります」
摂は雨に濡れた顔のまま、淡々と、しかし極めて誘導的に言葉を紡いだ。
「その任務をこれ以上ないほど効率的、かつ確実に遂行するために、提案があります。僕を直接総監部に連れていっていただくか、あるいは上層部の中枢と直接やり取りができる窓口を設けてもらえないでしょうか。その方がロスがありません」
夜蛾は、教え子のあまりにも合理的で迷いのない提案に、深く頷いた。
「効率を重視するお前のやり方は上に伝えておく。総監部の中枢の人間一人とだけ直接連絡を取り合える暗号回線を開くよう、俺から手配しよう」
「お願いします、夜蛾先生」
摂は静かに頭を下げた。夜蛾は「無茶はするなよ」と言い残し、校舎へと戻っていく。
一人残されたグラウンドで、摂は手に残った濡れた書類の破片を捨てながら、冷酷に唇の端を上げた。
(これでいい。僕は高専の内側から呪術界を改革する)
数日後。運命の日は、あまりにも呆気なく訪れる。
「――摂! 傑が新宿で硝子の前に現れた!」
家入硝子からの電話に五条悟の顔色が変わる。
傑が実家を呪殺し、完全な呪詛師として逃亡してから初の目撃情報。
「俺は先にいく……!」
次の瞬間、悟は『術式順転・蒼』による超高速移動で、硝子のいる新宿へと直接飛び去っていった。
凄まじい風圧が残された部屋を揺らす。しかし、摂はその場に立ち尽くしたまま、悟の後を追おうとはしなかった。
(悟が動いた。総監部が傑の対処と『最強』の動向に意識を奪われる、完璧なタイミングだ)
摂は一人、薄暗い高専の通信室へと向かった。
夜蛾が手配して開設させた、総監部の中枢にいる連絡係――老人たちの足元を支える重臣の一人との暗号通信を起動する。
モニターに接続され、画面に男の顔が映し出された。
『……宵町か。夏油の件で上層部も混乱している。例の任務の件だが――』
「傑が新宿に現れたようです、悟が向かいました。僕もすぐに向かいます」
連絡係の言葉を遮り摂は先ほどの出来事を伝える。
『なんだと!?早急に──』
「落ち着いてください」
摂は表情ひとつ変えず、言葉に、身振りに、呪力を乗せる。
通信回線の映像を媒介にして、摂の呪力が男の脳の認識システムへと滑り込む。
「――あ」
男の言葉が止まり、その瞳からすっとハイライトが消え去った。
だが、摂は眉をひそめる。手応えが、夜蛾の時よりも遥かに浅い。
(やはり映像越し、かつ距離がある環境での『遍虚呪法』の流し込みでは、催眠効果が薄いか……。完全な催眠下に置くためには、直接会って術式をかける必要があるな)
摂は思考を切り替え、映像の向こうでぼんやりと佇む連絡係の男に、淡々と、しかし絶対的な命令を下した。
「僕は新宿に向かいます。あなたは明日、総監部の内部に僕を招き入れるよう、最優先で面会の約束を取り付けていただきたい。今後について極めて重要な話についてだ」
男は視線を彷徨わせながら、ロボットのように機械的に答えた。
『……承知した。明日、総監部の地下書庫にて、極秘面会の場を設定する……』
(よし。これで本丸への引き金は引いた)
摂は通信を切り、上着を掴んで新宿へと向かった。
◇
新宿の雑踏。
五条悟と夏油傑の、あまりにも重苦しい決別は、すでに終わっていた。
「非術師を皆殺しにする。それが私の選択だ」と言い残し、人混みの向こうへと消えていく傑。それを攻撃できずに、ただ立ち尽くす悟。
その喧騒から少し離れた路地裏。
人混みを避け、一人で歩いていた傑の前に、静かに影が落ちる。
「……摂か」
傑は足を止め、いつも通りの、しかしどこか寂しげな笑みを浮かべた。
「君なら、私のこの選択を『非効率だ』と切り捨てるだろうね」
摂はいつものように眼鏡の位置を直し、感情の起伏がない声で答えた。
「術師だけで世界を維持する管理システムがない以上、非術師を間引くというアプローチは戦術としては稚拙だ。だが、動機としては極めて論理的だよ、傑。お前が選んだその地獄を、僕は否定しない」
「ふっ……君は本当に、冷徹なリアリストだ。救われるよ」
傑はすれ違いざま、摂の肩を軽く叩いた。
「じゃあね、摂。お互い、自分の信じる理(ことわり)のために」
傑の気配が、雑踏の向こうへと完全に消え去る。
摂はその背中を一度も振り返ることなく、人混みの中でうなだれている悟の元へと歩き、その隣に並んだ。
「……摂」
掠れた声で、五条が呟く。
「俺、あいつを殺せなかった。……俺が最強なのに、あいつ一人すら救う事ができなかった」
悟の大きな掌が、怒りと無力感で小刻みに震えている。
摂は悟のその背中を見つめながら、心の中で、決意を固めた。
その決意は誰にも知られないまま秋の冷たい風が、新宿のビル風となって吹き抜けていく。
ここからリアルが忙しくなるため更新がしばらくできなくらるかもしれません。
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6話の内容を変更しました。どちらが良いと思いますか?特に反応が無ければ改訂版で続きを書こうと思います。
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