なんとか続きを書きました。
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引き続き、誤字脱字やキャラのブレや印象に違和感を感じたら書き直しますので教えてください。
第11話:侵蝕
暗く静まり返った総監部本部の地下書庫。
古文書と呪術界の古い記録が蠢く独特の重苦しい空気の中、足音を殺して佇む一人の男がいた。上層部の重臣であり、夜蛾を通じて連絡窓口となった文官だ。
その瞳は、焦点が定まらないまま虚空を彷徨っている。
昨日、通信越しに食らった宵町摂の『遍虚呪法』。浅い催眠状態にある男の脳は、自身の意思とは無関係に、摂から命じられた指示を実行していた。
上層部の防護結界のパスコードを書き換え、地下書庫へのアクセス権限を「宵町摂」へ付与すること。
軋む音を立てて、地下書庫の重い扉が開く。
「……時間通りだな」
薄暗がりの中から姿を現したのは、制服姿の宵町摂だった。変装すらしていない自身のそのままの姿で、堂々と呪術界の最深部へと足を踏み入れる。
「……宵町……様……。手配は……完了、して……おります……」
連絡係の男が、ぎこちない動作で頭を下げる。
摂は静かに歩み寄ると、感情の籠もっていない瞳で男を見下ろした。
(やはり、映像越しでの暗示は脳の認識層の表面を撫でた程度か。完全に傀儡化するには、直接叩き込む必要がある)
摂が静かに右手を差し出すと、その掌から呪力が収斂し、一振りの異形な刃が立ち現れる。
鞘のない、音叉状に二股へ分かれた美しい剣。シャボン玉のような虹色の光沢を放つ刀身――具現化刀『空音』。
摂は『空音』の刀身を軽く指先で弾いた。
――コーーーン……。
透き通るような澄んだ衝撃音が地下書庫の静寂を揺らし、同時に虹色の刀身が妖しく明滅する。
聴覚を打つ澄んだ音、視覚を焼き付かせる虹の光。二つの情報が、耳孔と網膜から男の脳幹へダイレクトに突き刺さる。
(『遍虚呪法』――催眠完了)
「……ッ!?」
男の身体が大きく跳ね上がり、瞳の奥で青い呪力の波紋が弾けた。次の瞬間には糸が切れた人形のように脱力する。
ふっと戻った瞳の光。だが、その光はすでに「総監部の重臣」のものではなく、摂の思考をそのままトレースする完全な傀儡のそれだった。
「……命令を」
「総監部の上層部、老齢幹部たちの動向、および彼らが展開している護衛体制と結界コードをすべて出力しろ」
「承知いたしました」
男は淀みない動作でデスクに向かい、総監部の最高機密であるセキュリティデータと幹部たちの動静一覧を端末に吐き出していく。
摂は吐き出されるデータを冷徹な瞳で走査した。
(なるほど。老人どもは傑の離反によって極度の人間不信に陥っている。本部の自室に閉じこもる者もいれば、裏社会の傭兵を雇い、外部の密会場所へと避難している者もいるか)
摂の薄い唇が、小さく弧を描く。
(警戒を強め、外部との接触を遮断している……僕に催眠してくださいと言わんばかりの、非効率的で完璧な閉鎖環境だ)
まずは一人目。
総監部本部の奥深く、重苦しい和室の扉の前。傀儡となった連絡係に「極秘文書の確認」と偽らせて扉を開けさせる。引きこもっていた老幹部が不快そうに顔を上げた瞬間、摂は滑り込み、掌の『空音』を指先で弾いた。
――コーーーン……。
部屋に響き渡る澄んだ衝撃音と、闇を彩る虹色の残光。
絶叫すら上げさせず、老人の瞳から光が消える。触れることすらなく、一人目の催眠が完了した。
そのまま摂は、次の標的が潜む高専外の拠点へと向かう。
新宿の路地裏に佇む、上層部御用達の結界で護られた高級料亭。
外部の権力者と密会していた二人目の幹部は、傑の逃亡以降極度に疑心暗鬼になっており、総監部の正規術師ではなく、裏社会から雇った精鋭の呪詛師を護衛として侍らせていた。
畳敷きの廊下を進む摂の前に、殺気を孕んだ影が立ちふさがる。
「何者だ。ここは――」
言葉の半ばで、護衛の呪詛師が呪力を纏わせた短剣を抜き、音もなく摂の喉元へ突き出してきた。目にも留まらぬ刺突。
だが、摂の眼球は、相手の重心移動と呪力の動きを冷静に認識していた。
最小限の体の開きで刃をかわし、右手に具現化させた『空音』の二股の刃で、相手の短剣を弾き、甲高い音を鳴らす。
カキーーーン……!
(『遍虚呪法』――)
短剣と空音に衝突によって発生した高音が、至近距離で呪詛師の耳腔と脳幹を直接ぶち抜く。
刀身から爆発的に放たれた虹色の光が、男の視界を真っ白に染め上げた。
「が、あ……ッ!?」
刺客として訓練されていたはずの呪詛師は、技を繰り出す間すら与えられず、脳の認識システムを暴力的に書き換えられて白目を剥き、その場に崩れ落ちた。
奥の個室で腰を抜かしていた老幹部は、目の前の異常事態に口をパクパクと開かせるばかりだ。
摂は静かに血の気の引いた老人に歩み寄り、その額へ『空音』の澄んだ刃先をそっとあてがった。
――コーーーン……。
「これで二人目だ」
一晩、そしてまた一晩。
屋敷の密室で、料亭の暗がりで、移動中の車内で。
摂は『空音』の音響・光・直接接触を完璧に使い分け、護衛を冷徹に無力化しながら、呪術界の頂点に君臨する老人どもを次々と「摂のシステムを維持するための末端データ」へと書き換えていった。
一週間が過ぎる頃には、総監部の最高意思決定権は、誰にも気づかれないまま完全に摂の手中に収まっていた。
◇
それからの数か月間。
呪術界の任務運用体制は、不気味なほど「効率的」へと激変していった。
これまでのように適性やリスクを無視して現場を死なせるような無謀な派遣は突如として途絶えた。
代わりに発令されるのは、各呪術師の戦術特性に合わせた緻密な人員配置と、補助監督による徹底した事前調査・バックアップ体制。現場の術師たちからは「最近、上層部の指示が急にまともになった」「無駄な死に方が減った」と安堵の声すら漏れ始める。
だが――システムが「正しくなりすぎた」ことこそが、最大の異常だった。
個人の感情や政治的思惑、保身のための不条理な圧力――老害ども特有の不快な「ノイズ」が完全に削ぎ落とされ、機械のように精密で冷徹な最適解だけを吐き出し続ける総監部。
高専の自室で、摂は届いた任務報告書に静かに目を通し、眼鏡のブリッジを押し上げた。
(現場の負傷率は前年比で42%向上。無駄なエラーは排除され、システムは正しく機能し始めている。……これでいい)
高専に在籍しながら、裏で世界を正しく回す。
摂の構築した「完璧な最適化」は、着々と呪術界を侵蝕していた。
季節が巡り、寒風が吹き抜ける高専の廊下。
ポケットに手を突っ込み、暗い目をした五条悟が、一人立ち尽くしていた。
(……おかしい。あの頭の固い老害どもが、急に改心して完璧な指揮を執り始めるわけがない。……まるで、誰か凄まじく頭の回る奴が、裏でシステムごとそっくり書き換えたみたいだ)
六眼に映る、呪術界全体の気味が悪いほどの「清浄さ」。
悟の脳裏に、高専に残り、淡々と任務をこなし続けている一人の同期――宵町摂の顔が浮かぶ。
(……摂。お前、一体何をやった?)
視線の先、冬の澄み切った空の下で、高専の校舎が静かに佇んでいる。
吹き抜ける寒風が木々を揺らし、カラスの鳴き声が遠くで一つ、乾いた音を立てて響き渡った。
廊下の角を曲がると、西日に照らされた長い影を引いて、摂が一人歩いてくるのが見えた。
手に抱えた書類の山。歪みのない眼鏡の奥で、その瞳は変わらず平穏で、冷ややかな凪を湛えている。
すれ違いざま、衣擦れの音だけが微かに響く。
声をかけることすらなく二人の距離は離れていくが、悟の背中に落ちる陽光は、すでにどこか冷たく陰り始めていた。
6話の内容を変更しました。どちらが良いと思いますか?特に反応が無ければ改訂版で続きを書こうと思います。
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改定前が良い
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改定後が良い