皆さんありがとうございます!!
引き続き、誤字脱字やキャラのブレや印象に違和感を感じたら書き直しますので教えてください。
総監部の上層部幹部全員の脳を具現化刀『空音』を介した『遍虚呪法』によって書き換え、完全なハッキングを終えてから、数か月が経過していた。
「摂、顔色があまり良くないみたいだけど……大丈夫? 傑の件、あまり無理はしないでね」
高専の廊下ですれ違いざま、家入硝子がいつもの気だるげな、しかしその奥では心底心配そうな目を向けてくる。
摂は立ち止まり、優しい笑みを浮かべながら振り返る。
「……ありがとう、硝子。でも大丈夫。僕よりも悟の方が心配かな。そうだ、今度3人でご飯でも食べに行こう」
仲間を失った傷を抱えながらも懸命に生きようとする、おとなしく可哀想な生徒――宵町摂は、その完璧な「役」を高専内で演じ続けていた。
だが、自室へと戻り、重い扉を閉めた瞬間、その瞳から一切の感情が蒸発する。
眼鏡のブリッジを無機質に押し上げると、彼はデスクの端末を起動した。画面にズラリと並ぶのは、呪術界全体の任務配置図、各術師の適性データ、そして総監部幹部たちの様子。
摂は手元の端末ひとつで、呪術界の命令系統、人員査定、結界の維持管理のすべてを冷徹に統制していた。
政治的思惑や保身のための不条理な圧力――老害ども特有の無駄な「ノイズ」は完全に排除された。各術師の戦力に適した緻密な人員配置と、補助監督による徹底したバックアップ。その結果、現場の術師の生存率は過去最高を記録し、無謀な殉職は劇的に減少していた。
(システムのエラーチェックは完了している。僕が冷酷なシステムとなり、陰からこの構造を維持する限り、第二の傑や灰原のような無駄な犠牲者が出ることはない。……これが、最も効率的で正しい)
感情論で動く人間が指揮を執るから犠牲が出る。自分がシステムそのものとなり、世界を正しく回す。
己の構築した「完璧な最適化」に確信を深める摂。
しかし、そのシステムが「正しくなりすぎた」ことによる違和感を、あの『最強の目』が見逃し続けるはずもなかった。
◇
数時間前。
単独任務を終えて高専へと戻った五条悟は、担当の補助監督から受け取った事後報告書を眺めながら、不快そうに眉をひそめていた。
「……ねえ。最近の上層部からの指示、妙に手際が良すぎない? バックアップの配置も、危険度の見積もりも、寸分の狂いもない。おかげでここ数か月、現場の死者がほぼゼロだ」
「はい! 現場の術師たちの間では『上層部が急に改心してまともになった』と、安堵の声が広がっていますよ」
笑顔で答える補助監督に対し、悟の心中に浮かんだのは安堵ではなく、冷や汗が出るような異様さだった。
(あの頭の固い、自分の保身しか頭にない老害どもが改心? 冗談じゃない。不条理な圧力や無駄な嫌がらせ……あのジジイどもの『人間的な醜悪さ』が根こそぎ消え失せてる。……まるで、血の通っていない精巧なプログラムが指示を出してるみたいだ)
その違和感の正体を確かめるため、悟は単身、総監部本部へと足を踏み入れた。
薄暗い本部の廊下。重苦しい空気の中、かつて悟に向かって威圧的な態度をとっていた老幹部たちが、粛々と事務処理を行っていた。
だが、その光景は異常だった。
「……やあ、五条か。報告書ならそこに置いておけ」
感情の平板な、乾いた声。
普段なら悟の態度に怒声を上げ、嫌味の一つも叩きつけてくるはずの老人が、薄笑いを浮かべたまま、まるであらかじめ設定されたプログラムに従うNPCのように無感情に書類を処理している。
悟は無言のまま、ゆっくりとサングラスを鼻先へとずらした。
蒼く澄んだ『六眼』が、老人の頭部を透過し、その脳内構造をミクロの単位まで詳細に引き裂いていく。
「……っ!?」
悟の息が止まった。
老人の脳神経系――思考と認識を司る中枢領域に、べったりと、幾重にも巻きついた不気味な呪力の波紋。
それは、かつて高専の同期として隣にいた男の、あの透き通るような呪力の残滓に他ならなかった。
(……なんなんだ、これは。脳ミソを完全に書き換えられて……中身スカスカの操り人形にされてやがる……!)
戦慄とともに脳裏に浮かんだのは、高専で何事もない顔をして淡々と日常を送っている、宵町摂の冷ややかな横顔だった。
◇
放課後。夕闇が迫る高専の古い資料室。
西日が赤黒く差し込む室内で、摂が一人で古い文献の整理を行っていた時、背後で重い扉が閉まる音が響いた。
「……何の用だ、悟」
摂は振り返ることなく、淡々と尋ねた。
入口の扉を背にして立っていたのは、五条悟だった。いつもの軽薄な笑みは一切なく、サングラスの奥にある『六眼』の凄絶な光が、静かに摂の背中を射抜いている。
「なあ、摂。最近の上層部、気味が悪いと思わないか?」
悟の声は低く、地響きのように静かだった。
「保身のための不条理な圧力も、くだらない嫌がらせの特命もゼロになった。まるで、血の通っていない精巧な機械が指揮を執ってるみたいだ」
「……効率的で何が悪い」
摂は手に持った書類を机に置き、ゆっくりと悟の方へ振り返った。
「無駄な死が減り、現場の生存率は跳ね上がっている。不条理な命令で使い潰される術師がいなくなったのなら、システムとして正しく機能し始めたということだろう」
「そうだな。結果だけ見れば『完璧』だ」
悟はゆっくりと歩み寄ると、ポケットから手を出して冷たい瞳で摂を見下ろした。
「だが、騙せると思ったか? 摂。昨日、久々に総監部のジジイどもの顔を見に行ってきたんだよ。……六眼で覗いたら一発だったぜ。あの老害どもの脳ミソ、神経系にべったりお前特有の『遍虚呪法』の呪力が巻きついてやがる。中身スカスカの操り人形だ」
『六眼』による完全な視覚的看破。
摂は表情ひとつ変えず、ただ静かに悟を見つめ返した。否定も弁明もしないその無言の肯定に、悟の拳が小刻みに震え始める。
「人を操って、脳を壊して……それで世界を救ったつもりかよ! 傑は外で狂って、お前は内側で狂ったのか!?」
「狂ってなどいないさ、悟」
摂の声には、一切の感情の起伏がなかった。
「感情で動く人間がシステムを運用するからエラーが出るんだ。だから僕がツールとして最適化してやっている。君が『最強』としてどれだけ暴れ回ろうと、システムが腐っていれば犠牲者は出続ける。なら、僕がシステムそのものになるしかない」
「だからって、気に入らない奴の脳ミソ壊して操り人形にして良いわけねえだろ! そうやって一人で線を越えて、世界を管理した気になって……そんなので誰も死なない世界を作ったとして、お前自身はどこへ行くつもりなんだよ!?」
悟の怒声に対し、摂は静かに眼鏡のブリッジを押し上げた。
「どこにも行かないさ。僕はただ、犠牲を出さないための構造を維持するだけだ。……現に、僕が介入してから現場の死者・負傷者は共に劇的に減った。灰原が死んだ時、お前はその『最強の力』で彼を救えたのか? 僕のシステムなら、彼は今日も生きている」
「……っ!?」
過去の凄惨なトラウマ――灰原雄の名を直接突きつけられ、悟は息を飲んで言葉を詰まらせた。
「言葉が出ないか。君の言う正義は、犠牲が出た後に悔やむだけの無力な情論だ。だが僕のシステムは、そもそも死を出さない。どちらが正解かは明白だ」
二人の間に、冷たく重い沈黙が流れる。
言葉による理解も、歩み寄りも、絶対に不可能なのだと悟った瞬間だった。
「……止めなきゃダメだな。お前を」
悟の掠れた声が、夕闇の資料室に切なく響く。
サングラスの奥の六眼が、摂の全身を、そしてその冷たい瞳を捉えて悲しげに揺れた。
「もう……誰もいなくなったら、意味がねえんだよ。傑の時みたいに、一人で抱え込んでどこかへ行こうとするな! 今度こそ……今度こそ俺は、友達を救ってみせる!」
最強でありながら、かつて唯一の親友を止められなかった悟の、剥き出しのトラウマと切実な叫び。
だが、摂の瞳には、一切の揺らぎも差し込まない。
「勘違いするな、悟。僕は傑のように自滅的な理想に酔ってもいなければ、一人で苦しんでもいない。ただ、システムのエラーを修正しているだけだ」
「摂……!」
「君は『友達を救う』という個人的な感情で動いている。だが僕は、呪術界という巨大な構造そのものを演算しているんだ。情で世界は救えない……来い、悟」
摂が静かに右手を差し出すと、空間が揺らぎ、シャボン玉のような虹色の光沢を放つ二股の刃――具現化刀『空音』が神々しく現れた。
「君の圧倒的な『力』が正しいのか、僕の完璧な『理』が正しいのか――ここで答え合わせをしよう」
――コーーーン……。
透き通るような澄んだ衝撃音が響き渡ると同時に、五条悟の全身から凄まじい『無下限』の呪力が爆発的に跳ね上がった。
膨大な圧力が資料室の空気を歪ませ、床や壁がミシミシと悲鳴を上げる。
かつて同じ蝉時雨を聞いた二人の少年が、今、互いのすべてを懸けた死闘へと足を踏み入れた。
6話の内容を変更しました。どちらが良いと思いますか?特に反応が無ければ改訂版で続きを書こうと思います。
-
改定前が良い
-
改定後が良い