呪術廻戦『懐玉・玉折・玉消』   作:神切優羽

5 / 6
今までの話の中で最大文字数になりました。
キリの良いところまで書くとこうなってしまいました。

しおりの追加ありがとうございます!!
励みになります!!

引き続き表現の違和感や誤字脱字等ありましたら教えていただけると幸いです!!


第5話:夏の終わり、墜ちた星

「蒼──!!」

 

鼓膜を震わせる咆哮とともに、五条悟の周囲の空間が猛烈に歪み、収束した。指向性を持たされた無限の引力が、突如現れた襲撃者——伏黒甚爾の身体を強引に吹き飛ばす。

 

凄まじい衝撃波が敷地内を駆け抜け、高専のコンクリートが派手に爆ぜた。

 

「悟!」

 

傑が近寄ろうとするが悟はそれを手で制する。

 

「問題ない!術式は間に合わなかったけど内臓は避けたし、その後呪力で強化して刃をどこにも引かせなかった。ニットのセーターに安全ピンを通したようなもんだよ」

 

そう笑う悟の額には脂汗が浮かんでいた。無理をしているのは明らかだった。

 

「それより天内優先! あいつの相手は俺がする。傑たちは先に天元様の所に行ってくれ」

 

悟がサングラスの奥の六眼を鋭く光らせ、叫ぶ。

二日間、一睡もせずに術式を出しっぱなしだったのだ。最強と謳われる彼の脳と精神には、すでに限界以上の負荷がかかっている。摂はその事実を、持ち前の冷徹な観察眼によって瞬時に見抜いていた。

 

(……まずい。悟の呪力出力が落ちている。それに、あの男——、呪力が完全にゼロだ。そんな異常な人間が、このタイミングで、この場所を選んで悟の『隙』を突いた。……周到すぎる。まともに戦えば——)

 

一瞬、摂の脳裏に最悪の選択肢が過る。だが、今は考えている時間すら残されていなかった。

 

「……分かった。行くよ、傑、理子ちゃん!」

 

「ああ。悟、無理はするなよ!」

 

傑が即座に理子の腕を引き、駆け出す。摂もまた、背後で再び激突する悟と男の戦闘音を背に受けながら、全速力で地下の本殿へと続く隠し通路へ滑り込んだ。

 

 

 

 

 

 

高専の最深部、天元様の座する『薨星宮(こうせいぐう)』。

長い階段を下りきった先には、地上とは完全に切り離された、どこか神聖で、同時に不気味なほど静まり返った大空間が広がっていた。

 

巨大な御神木が佇む本殿の前に辿り着いた瞬間、天内理子は一歩を踏み出すことができず、その場に立ち尽くした。

 

「ここが、本殿……」

 

理子の声が、暗い空間に寂しく反響する。

黒井さんはここには来られない。ここから先は、同化を受け入れて現世から消える。彼女には選択肢は無かった。

 

はずだった。

 

傑が理子に向き直り、静かに、しかし確かな温もりを込めて手を差し伸べる。

 

「理子ちゃん。……天元様のもとへ行き同化するか、それとも、家に帰るか。君が選びなさい」

 

理子は目を見開いた。

 

「……え?」

 

「担任からこの話を聞かされた時、あの人は同化を抹消と言った。あれは、それだけ罪の意識を持てという事だ。うちの担任は脳筋のくせによく回りくどい事をする」

 

傑がそう言いながら理子を見つめる。

 

「君と会う前に三人で話し合いは済んでいる。私たちは最強なんだ。君がどんな選択をしようと、君のこれからの未来は、僕たちが全力で保証する」

 

傑の言葉に、摂もまた銀縁の丸眼鏡の位置を直し、いつもの穏やかな、けれど嘘偽りのない笑みを浮かべて頷いた。

 

「傑の言う通りさ、理子ちゃん。君が普通の女の子として生きたいと願うなら、僕の術式で世界中を騙してあげる。君の戸籍も、存在も、すべてを隠し通せる完璧な『嘘』をね。だから……怯えなくていい」

 

二人の言葉が、理子の心を縛り付けていた運命という名の鎖を、音を立てて解きほぐしていく。

 

理子の大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙が溢れ出した。強がりも、星漿体としての使命感も、すべてが崩れ去っていく。

 

「妾は……! 私は……! もっとみんなと、一緒にいたい! もっとみんなと色んなところへ行って、色んな景色を見て……黒井と一緒に、生きたい……!!」

 

本音だった。沖縄の青い空の下で、美ら海水族館の水底の光の中で、彼女が心の底から望んだ「日常」が、そこにあった。

 

「うん。帰ろう、理子ちゃん」

 

傑が優しく微笑み、差し伸べた手をさらに一歩、彼女へと近づける。

 

理子が涙を拭い、その手を掴もうと、一歩を踏み出した——その、救いの瞬間。

 

乾いた音が、薨星宮の静寂を無慈悲に切り裂いた。

 

タァン。

 

「————え?」

 

摂の思考が、一瞬だけ停止した。

現実を疑った。自身の五感催眠が暴走して、最悪の幻覚でも見せられているのではないかと、脳が理解を拒絶した。

 

目の前で、手を伸ばしていた理子の頭部が、不自然に跳ね上がっている。

側頭部から鮮血が激しく噴き出し、彼女の小さな身体が、糸の切れた人形のように生気なく床へと崩れ落ちていく。ピシャリと、冷たいコンクリートに赤い水溜まりが広がった。

 

「理子ちゃん……?」

 

傑の声が震えている。

床に倒れ伏した理子は、二度と動かない。ただの肉の塊へと成り果てていた。

 

「はぁい。お疲れー。解散解散」

 

暗闇の奥から、聞き覚えのある、ひどく低く泥臭い声が響いた。

のっそりと姿を現したのは、返り血で黒いシャツを汚した、あの口元に傷のある男——、伏黒甚爾だった。その右手には、硝煙を上げる一丁の拳銃が握られている。

 

呪力が、ない。気配が、ない。

摂の鋭敏な知覚をすり抜け、本殿の結界すらも無視して、男は完全に『無』としてそこに存在していた。

 

「……なんで、お前がここにいる」

 

傑の全身から、どす黒い殺気が爆発するように膨れ上がり最強格の呪霊を二体出現させる。

 

「悟は、どうした」

 

摂も『空音』を構えて、怒涛の呪力を開放する。

 

甚爾は面倒くさそうに頭を掻き、せせら笑うように、最悪の現実を言い放った。

 

「五条悟か? ああ、俺が殺した。……やるなら、次はテメェらの番だ」

 

「……そうか。なら、死ね」

 

傑の冷徹な宣告と同時に、顕現した二体の特級呪霊が、凄まじい呪力を引き絞って伏黒甚爾へと襲いかかった。

薨星宮の強固な床が自重と風圧で派手に爆ぜる。巻き上がった爆煙と土屑を真っ二つに切り裂くようにして、呪霊の巨躯が甚爾の頭上から肉薄した。

 

(——『遍虚呪法』!)

 

摂は即座に呪力を解放し、『空音』の刃を地面に叩きつけて音を鳴らし、虹色に光らせた。

狙うは甚爾の『空間知覚』の完全な誤認。呪霊の鋭い爪が打ち下ろされる位置、傑が操作する間合い、そして摂自身の踏み込みの足音——それらすべての位相を、甚爾の脳内で「数寸だけ」強引にズラす。

ほんのわずかな感覚の狂い。それさえ生み出せば、呪力を完全に遮断する無下限呪術を持たない目の前の男に、特級呪霊の一撃を確実に叩き込めるはずだった。

 

だが——。

 

ヒュン、と空気を切り裂く風切り音が、摂の鼓膜を打った。

 

「ッ……!?」

 

丸眼鏡の奥で、摂の瞳が驚愕に目を見開いた。

甚爾は、摂が仕掛けた完璧な五感催眠など「最初から存在しない」かのように、一切の迷いなく最小限の動きで呪霊の死角からの爪撃をかわしていた。それどころか、自身の背後から迫るもう一体の呪霊に対し、振り返り様、黒い大刀を凄まじい速度で一閃させる。

 

肉を引き裂く鈍い音と、硬い骨が両断される甲高い音が薨星宮に響き渡る。

最強格のはずの特級呪霊が、悲鳴を上げることすら許されず、一瞬にして黒い霧のような光の塵へと還っていった。

 

(術式が、効いていない……!? いや、違う。僕の術式は確かに奴の脳に届いている。脳の認識はバグっているはずだ。なのに、なぜ完璧に動ける——!)

 

「無駄だ。俺には呪力がねぇ。その代わり、テメェらの小細工が世界にどう影響を与えてるか、空気の密度の変化や音の反響、地面の震えで『すべて見えてる』んだよ」

 

甚爾は歪んだ笑みを浮かべ、コンクリートの床を爆裂させて地面を蹴った。

その踏み込みの速度は、もはや呪力による肉体強化という概念を遥かに超越していた。一瞬で間合いを詰められた摂の視界に、甚爾の持つ大刀の切っ先が迫る。

 

「摂、反応を遅らせるな! 距離を戻せ!」

 

傑の声と同時に、摂の足元から数体の低級呪霊が湧き出し、甚爾の足首に絡みつく。

 

「チッ、鬱陶しいな」

 

甚爾は顔色一つ変えず、足首に纏わりつく呪霊ごと床を踏み抜き、強引にその拘束をちぎり飛ばした。だが、その一瞬の足止めで摂は辛うじてバックステップを踏み、甚爾の横一文字の払いから数センチの差で逃れる。

 

「傑、下がれ!」

 

摂が叫ぶ。すれ違いざま、摂は『空音』で甚爾の視覚を「上下反転」させた。三半規管を強烈に揺さぶる呪力の波動。

しかし、甚爾は視界が狂ったその瞬間に「見る」ことを放棄した。目を閉じ、ただ風を斬る音と摂の呪力の残滓だけを頼りに、残る一体の特級呪霊の頭部へと跳躍する。

 

バキィッ!! と、骨を粉砕する嫌な音が響いた。

甚爾の容赦ない踏みつけが呪霊の脳天を直撃し、床に叩きつけられた呪霊が消滅する。その跳躍の勢いを殺さぬまま、男の身体は空中を滑るようにして傑の懐へと肉薄した。

 

傑は驚異的な反応速度で、自身の周囲に呪霊を層のように重ねる「呪霊の壁」を展開した。

並の術師であれば一級クラスの呪力出力がなければ突破できない強固な防壁。しかし、甚爾の持つ大刀——あらゆる術式を強制解除する特級呪具『天逆鉾』の前に、呪霊の壁は紙切れのように容易く、一文字に切り裂かれた。

 

「が、はっ……!」

 

肉が裂け、血が噴き出す描写がスローモーションのように摂の視界に映る。

傑の胸元から肩口にかけて、鮮血が派手に飛び散った。肉を削がれた傑の身体がわずかに浮き上がる。そこへ間髪入れずに放たれた甚爾の容赦ない蹴りが傑の腹部を正確に捉え、その巨躯が薨星宮の太い石柱へと猛烈な勢いで叩きつけられ、そのまま力なく崩れ落ちた。

 

「傑!!」

 

崩れ落ち、動かなくなる親友の姿。

激しい怒りと焦燥が摂の脳内を駆け巡る。しかし、この極限状態にあっても「勝つための確率」を冷徹に計算しようとしていた。

 

(まともに殴り合えば一瞬で肉体を破壊される。奴の天与呪縛の五感は、僕の催眠を『周囲の環境の違和感』から看破してくる。脳の認識が狂っていても、肌が覚えている現実で補正をかけているんだ。なら——その圧倒的な五感そのものを、処理しきれないほどの過剰な情報量(ノイズ)で圧殺するしかない!)

 

摂は自身の全呪力を限界以上に絞り出し、銀縁の丸眼鏡の奥の瞳を、血走るほど鋭く光らせた。

『空音』から放たれる呪力が、薨星宮の空間全体を急速に満たしていく。彼の全存在を賭した、術式の最大出力。

 

「『遍虚呪法・万象狂騒(ばんしょうきょうそう)』!」

 

甚爾の五感へ、あり得ない方向からの爆音、網膜を焼くような光の乱明滅、呼吸を狂わせる悪臭、そして皮膚を直接炙られるような架空の激痛の感覚が一斉に、同時に叩き込まれる。世界そのものがバグを起こしたかのような、過剰な感覚の濁流。脳の処理速度を強制的にオーバーフローさせるための、精神の檻。

 

「へぇ。ちったぁ骨のある手品じゃねぇか」

 

甚爾の口元が、狂気的に釣り上がった。

脳が、耳が、肌が、すべての感覚が狂わされている。常人であればショック死してもおかしくない精神負荷。にもかかわらず、男の動きは一瞬たりとも止まらなかった。

奴の肉体は、もはや感覚など必要としていなかった。ただ純粋な『殺戮の経験』と、骨の髄まで染み付いた『野生の勘』だけで、過剰な情報量を強引に無視し、真っ直ぐに摂の居場所を正確に捉えて肉薄する。

 

(嘘だろ……。五感をすべて潰されて、なぜ迷いなく動けるんだ……!)

 

一歩。甚爾が床を踏み込んだ瞬間、摂の知覚から奴の姿が完全に消えた。

あまりの速度に、脳の認識が追いつかない。

 

気がついた時には、目の前にあの返り血で汚れた黒い半袖のシャツと、冷酷な獣の瞳が迫っていた。

 

「お前さ」

 

甚爾は圧倒的な腕力によって、摂の胸ぐらを片手で強引に掴み上げ、宙へと引きずり上げる。

そして、ひどく退屈そうな、そして獲物の価値を品定めするような冷たい目で、吊るし上げられた摂を見つめる。

 

「あの二人に比べると、お前、戦闘面でのフィジカルやテクニックが数段劣るな」

 

「な、に……」

 

摂は掠れた声で呟きながら、手にした『空音』を甚爾の首筋へと突き立てようとする。しかし、その腕の動きすらも、甚爾にとっては止まっているかのように遅かった。

 

「なるほどな。脳味噌がハッピーになっちまう術式だ。六眼のガキや呪霊操術より、よっぽどタチが悪い。……だがよぉ」

 

甚爾は歪んだ笑みを深くし、冷酷に言葉を続けた。

 

「術式が便利すぎて、泥臭い殺し合い(ハジキ合い)の経験が足りねぇんじゃねえか?」

 

ドスッ。

 

重苦しい、鈍い衝撃が摂の腹部を真後ろまで貫通した。

天逆鉾ではない。呪具すら使わない、ただの剥き出しの拳。しかし、天与呪縛の筋力から放たれたその一撃は、摂の肋骨を数本まとめて容易く叩き折り、内臓を容赦なく破壊し尽くした。

 

「ごふっ……!」

 

内臓の破片を孕んだ大量の鮮血が口から勢いよく溢れ、摂の視界が急速にセピア色へと狭まっていく。

甚爾は、興味を失ったゴミでも捨てるように、摂の身体を床へと無造作に放り投げた。

 

冷たいコンクリートの床に激しく顔を打ち付けながら、摂の意識は、底のない冷たい暗闇へとゆっくりと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

───────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

「……摂。摂、起きなよ、摂」

 

耳元で、酷く疲れ切った、しかし聞き馴染みのある少女の声が響く。

ゆっくりと目を開けると、眩しい白い天井が視界に飛び込んできた。鼻を突くのは、高専の医務室特有の消毒液の匂いだ。

 

「……しょ、こ……?」

 

「よかった。一時はどうなるかと思ったよ。心臓、止まりかけてたんだから」

 

傍らには、目の下に濃い隈を浮かべた家入硝子が、ゼェゼェと荒い息を吐きながら反転術式の手を離すところだった。彼女の制服は、摂の治療の際に付着した血で赤黒く汚れている。

 

「傑は……、悟は……、理子ちゃん、は……」

 

鉛のように重い身体を強引に起こそうとする摂を、硝子が静かに、しかし拒絶の意思を込めてベッドに押し戻した。

 

「……今は、何も考えないで寝てなよ」

 

硝子のその沈痛な表情が、すべてを物語っていた。

あの化け物に、自分たちは完全に敗北したのだ。

 

だが、摂の理性が眠りを拒絶する。壊死しかけた内臓が反転術式で強引に再生された生々しい痛みに耐えながら、摂はベッドから這い出た。

 

「……行くよ」

 

「摂、あんたその身体で——」

 

「大丈夫。治してもらったからね」

 

その声の主は、隣のベッドで、同じように血に染まった包帯を巻きながら立ち上がる傑だった。その瞳からは、かつての温厚な光が完全に消え失せ、底知れない濁った呪力が狂おしく揺らめいている。

 

「行こう、摂」

 

傑の低く、押し殺した声に、摂はただ無言で頷いた。

 

 

 

 

 

摂と傑は盤星教の巨大な施設へと足を踏み入れ、その奥にある薄暗い本部のホールへと辿り着いた。

 

すでに冷たくなった天内理子の遺体を血塗れの、しかしどこか神聖なまでの呪気を身にまとった男が、優しく腕に抱き抱えていた。

 

「遅かったね、傑、摂。いや、早い方か」

 

そこにいたのは、五条悟だった。額の傷からは血が流れ落ちているが、その六眼はかつてないほどギラギラと輝き、纏う雰囲気がまるで違った。

悟の声には、悲しみも怒りもなく、ただ世界の真理に到達してしまった者のような、異様な力で満ちていた。

 

「……悟、だよな?」

 

傑の声が、広く冷たい空間に響く。

 

「硝子には会えたんだな」

 

「ああ、治してもらった。私は問題無い」

 

傑の視線が、悟の腕の中にある理子の死体へといく。

 

「いや、私に問題が無くても仕方ないな」

 

「すまない。悟。僕たち二人がいながら理子ちゃんを守れなかった…」

 

摂の銀縁の眼鏡の奥の瞳が、自身の無力さへの悔恨と悲しみに揺れる。

 

「俺がしくった。お前らは悪くない」

 

その異常な光景を囲むようにして、集まった大勢の非術師の信者たちが、何一つ悪びれる様子もなく、一斉に満面の笑みを浮かべる。

 

パチパチパチパチパチパチパチパチ。

 

不気味なほど揃った、乾いた拍手の音が、薄暗いホールの中にいつまでも、いつまでも響き渡っていた。

彼らが沖縄で、水族館の青い光の中で命をかけて護ろうとした少女の「日常」は、非術師たちの歪んだ歓声によって、無残にも踏みみにじられていた。

 

「……傑。摂。こいつら、殺すか? 今の俺ならたぶん何も感じない」

 

悟の静かな、しかし決定的な問いかけに、摂はただ冷徹に見つめ返すことしかできなかった。感情に流されることもできず、ただ目の前にある「異常な現実」を脳に焼き付ける。

 

「いい。意味がない」

 

傑は摂とは違い明確に否定した。

 

「見たところ、ここには一般教徒しかいない。呪術界を知る主犯の人間はもう逃げた後だろう。懸賞金と違ってもうこの状況は言い逃れできない。元々問題のあった団体だ。直に解体される」

 

「意味ね……。それ、本当に必要か?」

 

「……」

少し時間を置いて、傑が答える。

 

「大事な事だ。特に術師にはな」

 

薄暗い祭壇に響き続ける不気味な拍手。その中心で、バラバラになってしまった「最強」の三人の影が、冷たい床に長く伸びていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。