陰キャVtuberな私は隣のギャルスクドルに今日も負かされる 作:あっぷる
春休みの最終日というのは、人生で最もテンションが下がる日の一つに数えていいと思う。
明日からまた億劫な学校が始まるというだけでも憂鬱だというのに、新学期となれば話はさらに別だ。
一年かけて構築してきた人間関係が、明日の朝にすべてリセットされるのだ。
……まあ、私にはリセットされて困る人間関係がそんなにあるわけでもないんだけど。
寮の自室の机に肘をついて、私は深く息を吐いた。
スマホを見る。
配信開始まで、あと15分。
——よし、切り替えていこう。
PCの電源を入れて、配信ソフトを立ち上げる。マイクの位置、ヘッドホン、入力レベル。声出し一回、「あー、あー」、OK。
3Dモデルを呼び出す。黒髪、猫耳、ふんわりしたワンピース。完璧に動く。
深呼吸を一回。私は配信開始ボタンをクリックした。
「ハロにゃ〜♪ 今日も楽しく配信していくにゃ〜♪」
私の声に合わせて画面の中で少女が手を振る。
可愛い。我ながら良いキャラデザだと思う。
この愛くるしい女の子(in 私)は黒霧レモン。
一年の春から始めてチャンネル登録者数1,500人。
高校生Vtuberとしては中堅とまではいかないくらい。
配信系の部活所属しないでゼロから始めてきたと思えば、よく1,500人もの奇特な皆さまがこのチャンネルを見つけてくれたものだ。
> ハロにゃー
> ハロにゃー
> 相変わらずひねりもない挨拶。駄ネコ
> 陰キャだから挨拶のバリエーション少ないのはしょうがない
「客層の質が悪いんよ」
> www
> さっそく素が出てて草
しまった。配信開始3秒で口調が崩れた。
「コホン。失礼にゃ。皆さま、ご機嫌よろしゅうにゃ〜♪」
> ご機嫌よろしゅうにゃ〜って何
> 武家の猫かよ
> 礼儀正しい野良猫
うっさい。
「えーと、今日はね、雑談回にゃ。
明日からとうとう新学期スタートだから、抱負とか語っていこうかなって」
> 抱負!
> 真面目だ
> どうせ教室の片隅で平穏に過ごしたいとか言うんだろ
> ↑それ去年達成したやん
「馬鹿にしおってからに……。
確かに1年生の頃は花の女子高生らしいことはしなかったよ。配信活動はじめて忙しかったし」
> 花の女子高生とか自分で言うなよ
> 休日無言でずっとゲーム配信して忙しかったもんな
> ……忙しい?
始めたての迷走期の話はやめろ。
その頃に比べれば話はうまくなった気がするし、コメント読みもだいぶ様になってきたはず。
それはさておき。
「とにかく今年はもっと配信を頑張っていきたいと思ってるにゃ! まずは夏までにチャンネル登録者数2,000人を目指していくよ!」
> いいね
> 真面目に積み上げる女、黒霧レモン
> 歌枠もっとやってくれよ
> もっと欲しい
「いやいや、ちゃんとやってるにゃ?」
歌は、私の配信の中で一番盛り上がる枠だ。
わかってる。私自身、歌には自信がある。
ただ、頻度を増やせと言われてもリアルの学校生活があるしなかなか難しい。
> で、学校生活の方は?
> そっちの抱負は?
するとリスナーから別角度の質問が来た。
学校生活の抱負ときたか。ふむ。
「……学校? 学校は、まあ、普通にやるよ。普通に」
そう振られると思っていなかったので、用意はない。
今日は配信の話をするつもりだったので。
> 普通って何
> 去年教室の端ですみっコぐらししていた人の『普通』?
> それは異端では?
「うっさい! 失礼な奴らだな!? 私だってやろうと思えば普通の女子高生やれるんよ!?」
> 本当に?
> かわいい
> 去年隣の席の人に名前間違えられたとか言ってたやつが言うことかな
「あれは隣がたまたまうっかりさんだっただけ! 私のせいではない!」
> 草
> ドンマイ
「とにかく今年は違うんよ。私だって2年生だし、ちょっとは要領わかってきたし」
とは言ったものの、『要領わかってきた』と言える根拠はあまりない。
ないが、ここで黙ったら負けだ。
リスナー相手に見栄を張り通す技術だけは、配信を続けてきた一年で多少は身についている、はずだ。
> どうやって
> 具体策は
具体策。
具体策、と言われると、一つだけ、ある。
一年間の学校生活の中で、私が体得したささやかな処世術。
「『あ、はい』『えっと』『そうですね』。私の経験則によると、この3パターンを駆使すれば、大抵の会話は受け流せる」
> それ会話放棄では
> 普通に喋れよ
> 受け流すってドッジボールかな?
「失礼な、これは熟練の技にゃ。相手に不快感を与えずに会話を流す、高度なスキル」
> 高度(笑)
> 自分から喋ること1ミリも考えてなくて草
「私から話す必要はないんよ。聞き上手というポジションを確立すれば、相手が勝手に喋ってくれる」
皆わかってないな。
世の中、話し上手よりも聞き上手の方が圧倒的に人気者だというのに。
> 聞き上手じゃなくて、ただの無口な人だろ
「うっさい!」
> 喧嘩しないの〜
> レモンちゃん怒ると素出るから可愛い
> ここで話すみたいに学校でも素出せばいいのに
「無理にゃ。ここはホーム、学校はアウェー」
> まあそういうもんか
> とりあえず明日頑張れ
> 隣の席にいい人が来ますように
> ↑祈っといた
明日頑張れ。隣の席にいい人が来ますように。
雑に投げられた応援が、地味に効く。
それからリスナーからはアドバイスをもらったり煽られたり。
なんやかんや私のリスナーは優しい奴らなのである。可愛いやつらめ。
そう話を続けていると、そろそろいい時間になってきた。
「遅い時間になってきたのでそろそろお開きにゃ。明日早いから」
> 早寝偉い
> おやすみにゃー♪
> おやすみにゃー♪
> おやすみー
「ばいにゃー♪ また明日、新学期初日報告配信でお会いしましょうにゃ〜♪」
配信終了ボタンを押す。
ふう、と息を吐いて、私は椅子に深くもたれかかった。
次は歌回にしようかな。
まあ、いい。明日からか。
『あ、はい』『そうですね』『えっと』。
頭の中でローテーションを確認する。これさえあれば大丈夫。たぶん。
そう思いながら、私はベッドに転がって電気を消した。
***
新学期初日の朝。
寮を出て、虹ヶ咲学園に向かう。
道すがら、ぼんやり考える。
新しいクラス、新しい担任、新しい教室。
慣れた環境を一度ぜんぶリセットされて、ゼロからまた位置取りを構築し直さなければならない。新学期というのはどうしてこう、独特の重さがあるのだろう。
去年のクラスでは、結果として一年間ずっと空気だった。
担任に名前を呼ばれた時、クラスの子が「え、こんな子いた?」みたいな顔をしたのを今でも覚えている。あれは少し傷ついた。
——でも、今年は違う。
胸の中で言い聞かせる。今年は、ちゃんと、普通に、やる。普通の女子高生として、普通に教室で過ごす。リスナーに啖呵を切った手前、それくらいはやってみせる。
しばらく歩くと、虹ヶ咲学園の校舎が見えてくる。
虹ヶ咲学園、お台場にある自由な校風の進学校。
都内だけでなく地方からも入学者が来るし、海外の留学生も多い。
学科も普通科や私が所属している情報科の他に、ライフデザイン学科や音楽科なんかもあって多種多様。
ゲームみたいな自由さを誇る、ちょっと変わった学校なのである。
ちなみに、ここに通っている私は、世の中的にはそこそこ賢い側の人類ということになる。
配信で陰キャムーブをやっていても、勉強面では一定水準にいる。これは大事な前提だ。誰にも聞かれてないが、強調しておく。
正門をくぐる。
あー。緊張してきた。
校庭の掲示板で自分のクラスを確認する。
2年E組。情報科。
掲示を見終えて、教室棟に向かう。階段を上り、廊下を進み、教室の扉を開ける。
中に入ると、すでに何人かが席についていた。黒板に座席表が貼られている。私は近づいて、自分の席を確認した。
——窓際、最後列。
「……っし」
思わず小さくガッツポーズを取った。
窓際の最後列、それは陰キャにとっての一等地である。
授業中に指されにくく、休み時間に外を眺めるフリで時間を潰せて、何より背後を取られない。
背後を取られないというのは精神衛生上きわめて重要なのだ。あの有名な暗殺者の人もそう言うだろう。
初手から好調。
私は静かに席に着き、鞄を机の横にかけた。
ふう。ここなら大丈夫。ここは私の陣地。
辺りを見回す。前の方ではすでに何人かのグループができはじめている。
去年同じクラスだった子もいれば、初めて見る顔もいる。誰も私を見ていない。
……まあ、初日はこんなものだろう。
文庫本を取り出して開く。読みかけの推理小説。
前のクラスでも休み時間によく読んでいた。
本というのは便利な道具で、開いているだけで「本を読んでいる人」になれる。
実際には字面なんて目で追っているだけで内容は頭に入っていないのだが、それは関係ない。
重要なのは「読んでいる」という外見だけだ。
ページをめくる。そわそわして一文字も頭に入らない。
そろそろ隣の席にも誰か来るだろうか。
去年の隣はクラスの同じ部活の人とつるむタイプだったので、関係性はゼロのまま終わった。
それはそれでこちらに干渉しないから悪くはなかった。……まあ、ちょっと寂しかったけど。ちょっとね。
今年の隣はどうだろう。
願わくば、波長の合いそうな人。趣味の合う人。主張が強すぎなくて、こちらのペースを尊重してくれる、控えめな人。
そういう人だったら、もしかしたら、普通に仲良く——いやいや、贅沢は言うまい。
まあ、そんな都合のいい人類が隣にぽんと座る確率は、宝くじ並みではある。
とりあえず、極端に陽な人でなければ何でもいい。
がらり。
教室のドアが、勢いよく開いた。
「おはよー!!!」
明るく大きな声が教室に響く。
ぱっと顔を上げる。
視線の先には、明るい髪色の女子生徒が立っていた。
金に近い色の髪、整った顔立ち、笑顔。
輝かんとばかりのオーラを幻視した。
眩しさのあまり思わず手をかざしかけた。
「お、愛ちゃんおはよー!」
「おっはよー」
「今日も元気ね〜」
教室の前方の子たちが、次々と声をかける。
近くにいた子はそのまま彼女の方へ歩み寄り、二、三人がすぐに彼女を取り囲む輪を作った。
別の方向からも「愛ちゃんだー!」と笑い声が飛んでくる。
ついさっきまでの教室は、ぽつぽつと小さな会話が成立している程度のいつもの朝の空気だった。
それが一人入ってきただけで、温度が二度くらい上がった気がする。
彼女が立っているところだけ、ぽっかり明るい。
彼女はそれぞれに笑顔で応じながら、囲んでいる子たちと軽く言葉を交わして、つかつかと歩いてくる。
こっちに来る。
え、こっちに来る?
近づいてくる。近づいてくる。近づいて——止まった。
私の隣の席で。
「おはよー! アタシ、A組だった宮下愛。よろしくね!」
満面の笑みで挨拶された。
近くで見ると、より分かる。
顔、小さい。
スタイル、いい。
肌、白い。
睫毛、長い。
見たことがないくらいにめちゃくちゃ可愛い。
そして、目力が、強い。
こちらをまっすぐ見て、にこっと笑う、その目が、強い。
息が止まる。
陽キャ。本物の陽キャだ。
草むらでくつろいでいたら肉食獣と目が合った草食動物、今の私はそれである。
「あ、おはよう、ございます。渡、友紀、です……」
声が掠れた。視線は反射的に机の木目に逃げる。
「渡友紀ちゃんかー。じゃあユッキーだね! アタシのことは愛って呼んでね!」
い、いきなりあだ名!?
距離感がおかしい……。私のデータにそんな距離の詰め方は載っていないぞ。
「あ、はい……」
無意識に出た「あ、はい」。
昨晩リスナーに啖呵を切ったあの「あ、はい」が、こんな形で発動するとは思っていなかった。
口から漏れただけで、頭は完全に止まっている。
「ユッキーって去年B組だったんだよね?」
「えっと……はい」
「やっぱり! アタシA組だったんだ、惜しいよねー!」
宮下さんがきらきら笑う。
何が惜しいのかはよくわからないが、嬉しそうだ。
「B組の担任、黛先生でしょ? あの人、地理の話が超面白いって有名だよね!」
「そうですね」
「だよねー! アタシも一回授業受けてみたかったなー」
「あ、はい」「えっと、はい」「そうですね」。
頭が回らないなりに、なんとか言葉を返す。
おかしい。
私のこの応答だと普段なら数回のやりとりで会話を区切らせられる。なのになぜか彼女は途切れない。
それどころか、嬉しそうに次の話題を投入してくる。テンポも微妙に落としてくれている気がする。
私が答えやすいように。
私の貧弱な「はい」「そうですね」を、ちゃんと会話として受け取ってくれている。
そして本人は心から楽しそうである。
私なんかと話して、楽しそうに笑っている。
私の知る限り、人と人の会話は、もっとこう、ぎこちなくて、当たり障りがなくて、なんとなく途切れて終わるものだった。
それを、ここまで滑らかに、自然に、一方の貧弱な相槌だけで成立させる人類が、地球に存在するとは知らなかった。
宮下さんは、もしかして宇宙人?
「ねえねえ、ユッキーってどんな音楽聴くの?」
「えっと、まあ、いろいろ……」
「いろいろ! いいね、アタシも雑食だから話合いそう!」
違う。違うんだ。
ここで言う「いろいろ」は「これ以上深掘りしないで」という陰キャ語であって、決してジャンルが豊富という意味ではない。陽キャの辞書には掲載されていない用法らしい。
「あっ、愛ちゃんだ! やった、今年同じクラスだ!」
別の女子が駆け寄ってきた。背の高いスポーティな子。確か、去年同じクラスだった田辺さん。バレー部の。
「おっ、まゆまゆじゃん! 今年もよろしくねー!」
「愛っちー、こっちこっち! ゆかりんたちもいるよ!」
「マジで!? 今行く!」
宮下さんはぱっと立ち上がりかけて、ふと振り返った。
「ユッキー、あとでまた話そうね!」
「あ、はい」
完璧な「あ、はい」が出た。何も意味を含まない、空気と同じ「あ、はい」。
宮下さんは手を振って、教室の前方の輪の中に吸い込まれていった。
あっという間にその輪は大きくなって、笑い声が響く。中心にいるのは間違いなく彼女だ。
切り替えが速い。あまりに速い。
肩から力が抜けた。
気づけば、握りしめていた手が汗ばんでいる。
私は文庫本に視線を戻した。
ページを開いてはいるが、相変わらず一文字も入ってこない。
(……無理だ、あれは)
宮下さんと一言二言交わすたびに、体力が削られていく感覚があった。
桁違いの陽キャのオーラで、スリップダメージを受けるのだ。私みたいな陰キャにはこうかばつぐんなのである。
しかも厄介なことに、悪い人ではない。
むしろ、良い人だ。たぶん、すごく良い人。
にこにこ笑って近づいてきて、こちらのペースに合わせて話を振ってくる人。普通なら「嬉しい」と感じるはずの相手。
それが、こんなに、こたえる。
昨日リスナーに啖呵を切った自分が信じられない。
普通の女子高生やれる、と言った。あれは何だったんだ。
午前中の数十分で、見栄は完全に底を尽きた。
文庫本のページを意味もなくめくる。
朝のホームルームすらまだ始まっていない。
***
寮の自室。配信用のヘッドホンを耳に当てて、私は深く息を吸った。
「はろにゃー♪ 帰宅配信だにゃ〜♪」
> はろにゃー
> はろにゃー
> 早速の帰宅配信、新学期初日が気になりすぎる視聴者の図
「皆さま、本日はお疲れさまでしたにゃ。レモンも先ほど学校から帰ってまいりました」
> 丁寧にいくスタイル
> 報告会の様相を呈してきた
> で、どうだったの
「結論から申し上げますと——」
私は一拍置いた。
「昨日のあの威勢のいい私を、ぶん殴りたい」
> ファッ!?
> なんかあった
> 1日もたなかったのか
「いや、事件は起きてない。ほんとに何も起きてない。誰にも怒られてないし、転んでもないし、忘れ物もしてない。客観的には、平和な1日だったんよ。ただ……ただね、もう、私は、疲れた。心が、疲れた」
> ファッ
> 何があったw
> 心がて
「……あのね、隣の席の人がね、ものすごい陽キャだったの」
> 草
> レモンちゃんにはハードルが高い
> 陽キャといってもいろんな種類いるから……
> 穏やかな子ならへーきへーき
「その陽キャね、金髪のね、明るいギャルなの。それにコミュ力が爆発していて出会って3秒であだ名つけられたの」
> 金髪ギャル!?
> ハードモードすぎませんかね……
> ギャルにあだ名とかご褒美じゃん
> 初対面でそれはびびるよ
「そうだよね! びっくりするよね! 私もそう思った! だけどすごい話しかけてくるから対応するしかなかったの」
> というか陽キャギャルとちゃんと会話できたの!? レモンちゃんが!?
「……『あ、はい』『そうですね』『えっと』のローテーションで耐えた」
> 完全に防御
> 昨日の威勢どこ行った
> けどよく頑張った。コールド負けだけど
> 陽キャに負けて悔しくないの? 陰キャのプライドは?
「別に勝負してないから! けど肉食動物に遭遇した草食動物の気持ちが、今日初めてわかったの」
> 比喩が大袈裟
> でも言いたいことはわかる
> 動物奇想天外
> ↑たとえが古い
「ほんとなんよ。あの人、見るからに上位種なんよ。輝いてるんよ。教室でね、入ってきた瞬間に空気が変わるの。皆がぱーって群がるの。カーストピラミッドの頂点が来た、って感じだったの」
> 生態系で語るな
> とんでもない子が隣なのか。かわいそう
> さすがに多少盛ってるでしょ
「いやガチで困惑してるんよ。一年間同じクラスと考えると恐ろしい」
> 普通に仲良くなればよくない?
「無理にゃ。私はあの陽キャのテンションについていけない」
> 合わせなくていいだろ
> というか向こうも話合わないと思ったなら興味失せるやろ
「それがあの人、私がテンパって相槌しかできなくてもめちゃくちゃ話振ってきてニコニコしてくれるの。ギャルの癖に人柄もよさそうなの! 優しすぎるの!」
> ギャルの癖にて
> コミュ障に寄り添ってくれるっていい子じゃん
> オタクちゃんに優しいギャル!?
> 優しいなら別に警戒する必要なくね?
「優しい陽キャが一番危険なんだよ! 嫌な奴ならまだ距離が取れるけど、優しいと断る理由がないでしょ! じわじわ懐に入られて、気づいたら逃げ場をなくされるの!」
> 想像力豊かで草
> どうせ三日後には相手もレモンちゃんの存在忘れてるよ
> クラスの裏チャットで陰口たたかれないようにな
「あわわわわ……」
> あまり気にしすぎるな。だいたいは気にしすぎで終わるから
> 明日も頑張ってね
「……うん。頑張る」
***
その後、今後の配信予定などの話をし、配信を切った。
私はヘッドホンを外して、椅子の背にもたれかかった。
宮下さん、ね。
明日もまた、あの人が隣にいる。
ただただ眩しい。私にはあまりにも眩しすぎる。
ただリスナーも言ってたけど、そもそも住む世界が異なるのだからそんなに関わるということはないだろう。
去年も隣の人との交流は絶無であったし。
——だけどこの時の私は、宮下愛という存在にめちゃくちゃに振り回されることになるということを、まだ知らない。