陰キャVtuberな私は、今日も隣のギャルに負かされる   作:あっぷる

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9敗目 オタクは同輩の気配に敏感って話

体育祭の四日前。月曜の朝。

 

教室の前の黒板の脇に、体育祭のプログラムが貼り出されている。開会式から閉会式まで、学年ごとに様々な種目がびっしり。

各種目の横には出場するクラスメイトの名前が書いてある。出場種目の割り振りは、先週のうちに全部決まった。

 

私の種目は、玉入れ、借り物競走、大縄跳び。

ガチで走る種目はなし。

 

玉入れは、籠に向かって投げるだけでいい。間違っても走らない。

借り物競走は少し走るが、あれは勝ち点は低いし、お題の運で盛り上がるお祭り種目だから遅くても誰も気にしない。

大縄跳びに至っては、大人数で跳ぶので、私一人の運動神経など誤差に消える。

完璧だ。

 

教室は、朝から騒がしい。先週、種目の割り振りが決まったあたりからずっとこの調子だが、本番四日前ともなると、飛び交う声の張りが一段違う。

 

「大縄さー、昼休みちょっと練習しない?」

 

「百メートル、D組に速い子いるらしいよ」

 

「棒倒し、今年こそ勝ちたいんだよね」

 

先週まで考査の点数の話をしていた人たちが、全員体育祭の話をしている。

うちのクラス、こんなに勝ちたい人の集まりだったのか。

 

よくよく見ると輪から輪へ、宮下さんが渡り歩いている。

 

大縄の相談をしているところに「昼練いいじゃん、アタシも出るー!」と混ざる。

不安そうな顔をしていた子の肩を叩いて、「大丈夫だって、引っかかったらみんなで笑お!」とにっこり。そして、次へ。

 

宮下さんが混ざった後は、どこもよりテンションを上げていた。

 

応援団のリーダーというのは、ああいう仕事なのか。それとも、あの人が普段からやっていることに、後から役職がついてきただけなのか。

たぶん、後者だ。

 

「愛ちゃん、リレー頼むねー、アンカー!」

 

「まっかせてー!」

 

宮下さんが親指を立てて、周りの子たちも「たのもしー」と笑う。

 

勝ち気な教室。戦国時代も戦前はこんな感じだったのだろうか。案外悪くない眺めだと思う。ただ眺めている分には。

私の机に、影が落ちる。

 

「ユッキー、おはよー!」

 

顔を上げると、宮下さんが、私の机の正面に立っていた。

教室中を渡り歩いた締めくくりが、うちの机らしい。

 

「お、おはようございます」

 

「ユッキー、種目何だっけー? 玉入れと……」

 

「玉入れと、借り物と、大縄跳びです」

 

「そだそだ、それ!」

 

宮下さんが、指を三本、順番に折る。

 

「玉入れいいよねー。みんなでわーって投げるの、アタシ好きなんだよね」

 

「……あ、はい」

 

「借り物競走も、お題引くまで何が出るかわかんないの、ワクワクしない? 去年、『校長先生』引いて連れてった人いたんだって!」

 

「……それは、すごいですね」

 

私の種目は、クラスのエースである宮下さんとは、真逆だ。

 

宮下さんが、私を見て、にこっと笑う。

眩しい笑顔だ。

 

私を見るときの宮下さんはいつもより少しだけ嬉しそうに笑っている、気がする。

本人が意識しているのかはわからない。私は毎朝そう感じては、そのたびに目を逸らしている。

 

「玉入れの時は次の準備があるから応援席にいないけど、借り物競走の時はめっちゃ応援するからね!」

 

「い、いや、そんな大丈夫です」

 

「わー、ユッキー照れてる!」

 

て、照れてなんかないはず。

というか私はあまり顔に出ないタイプだと思ってるんだけど……。

 

そうして宮下さんが笑って、自席に戻っていく。

すると早坂さんが宮下さんに声をかけた。

 

「愛ちゃん、結局何出んだっけー!?」

 

宮下さんは両手をぱっと広げる。

 

「全部!」

 

教室が、笑う。

そんなわけないだろ。

 

 

***

 

 

放課後。第二会議室の隣の作業スペースに、美化委員が集まっている。

 

長机が三つ、教室の机を借りてきて並べてある。机の上には模造紙、ポスターカラーのバケツ、筆、雑巾、養生用の新聞紙。床にも新聞紙が敷かれている。準備のいい委員会だ。

 

委員長が出席を取った後で、作業の割り振りを読み上げる。

 

「応援看板を何枚か作るので、二人一組で担当してください。一組目は——渡さんと、高咲さんで」

 

「はい」

 

「はーい」

 

私と高咲さんが、ほぼ同時に返事をする。

 

長机の一つに、二人分の作業道具が用意されている。模造紙、下書き用の鉛筆、ポスターカラーの基本色一式、筆。私が机の右側、高咲さんが左側に着く。

 

「友紀さん、絵、描けるタイプ?」

 

高咲さんが、模造紙を広げながら、聞いてくる。

 

「……人並み、くらいなら」

 

「ほんと!? よかった〜」

 

よかった?

 

「私ね、こういうの少し苦手で」

 

「……ああ」

 

高咲さんが、模造紙の上に、鉛筆で薄く線を引く。枠取りのつもりらしい。定規を使っていないのを差し引いても、なんだか微妙に曲がっている。

 

「……ね? だから、下書き、お願いしていい?」

 

「はい」

 

私は、ポスターカラーの蓋を開ける。

下書きを引きながら、高咲さんが、ぽつりと言う。

 

「体育祭、もう四日後だね」

 

「そうですね」

 

「聞いてよ、友紀さん。私、障害物競走にも出ることになっちゃった」

 

「……え。障害物競走ってわりと運動できる人の種目じゃ?」

 

「運動神経問われる種目、全部回避したはずだったのに。一個、障害物競走が余ってて。じゃんけんで負けて、それになった」

 

「それは……、ご愁傷様です」

 

「最下位にはなりたくないなあ」

 

高咲さんが、あはは、と笑う。困っているというより、もう諦めているという笑い方だ。

 

「ハードル絶対引っかかるし、網くぐるの遅いし、最後のパン食いは跳躍力が足りないし」

 

「何て悲惨な……。そして想像が具体的ですね」

 

「去年がそうだったからね!」

 

去年同クラの人いたら止めてあげなよ……。

 

私は、下書きの線を一本、書き加える。「FIGHT」の、「F」の字。

高咲さん、ファイト。私はそう心の中で応援してあげた。

 

「せめて一緒に出る借り物だけは、最下位、避けたいよね」

 

「そうですね。脚が遅くてもお題次第では最下位回避できますもんね」

 

「お互い、頑張ろう」

 

「はい」

 

これには頷くしかない。

 

 

 

作業を始めて、二十分ほど経った頃。

 

応援看板の下書きが終わって、色塗りに入っている。インクの匂いが、作業スペース全体に漂う。

 

廊下側のドアから、生徒会の腕章をつけた人が入ってくる。

 

中川会長だ。

 

二年生の生徒会長。校内では誰もが「中川会長」と呼んでいる。

朝礼でマイクの前に立っているのを見たり、廊下ですれ違いざまに挨拶されたりしたことはあるが、直接話したことはない。

 

中川会長は、クリップボードを片手に、作業机を一つずつ順番に回っていた。

進捗を確認して、何か書き込んで、短く声をかけて、次の机へ。事務的だが丁寧だ。

 

私たちの机にも、来る。

 

「お疲れ様です、渡さん」

 

「あ、お疲れ様です」

 

初対面のはずなのに、苗字で呼ばれた。

生徒会長ともなると、他クラスの委員の名前くらい頭に入っているんだろうか。それとも、名簿を確認しながら回っているのか。

どちらにしても、丁寧な仕事だ。

 

中川会長が、模造紙を覗き込む。

 

「いい感じですね。色もはっきりしていて、遠くから見やすそうです」

 

「ありがとうございます」

 

「高咲さんもお疲れ様です」

 

中川会長が、高咲さんに、視線を移す。

高咲さんが、顔を上げる。

 

「あ、せつ——」

 

——せつ?

 

高咲さんが、何かを言いかけて、止まった。

一拍。高咲さんの肩が、小さく、跳ねた気がする。

 

「……菜々さん、お疲れさま」

 

高咲さんが言い直す。いつもの高咲さんの笑顔だ。

ただその笑顔に切り替わるまでにコンマ何秒か、間があった気がする。

 

中川会長の眉が、ほんの一瞬だけ動いたような気がする。気のせいかもしれない。

 

「……噛みました?」

 

「あー、うん、噛んだ噛んだ。ごめん、私、たまに人の名前、間違えそうになるんだよね。やだなあ、本人の前で」

 

高咲さんが笑う。

 

名前を呼び間違えることはまあ誰にでもある。

しかも本人が目の前なら、高咲さんが慌てるのも無理はない。

 

私も名前はよく間違えられる。「わたし」と読むのに、たいてい「わたなべさん」にされる。

出席で「わたなべ」と呼ばれた時、訂正するのも面倒で、はい、と返事をしてしまったことが何度かある。

 

それより、別のことが気になった。

 

「高咲さん、生徒会長と、お知り合い、なんですか」

 

聞いてから、すこし踏み込みすぎたか、と思う。

 

「えっと、知り合いっていうか……同好会の申請の時に、お世話になって」

 

「同好会、というと、スクールアイドル同好会の?」

 

「そう、それ! 再結成する時、書類が必要でさ。私、そういうの全然わかんなくて、生徒会に泣きついたら、菜々さんが対応してくれて」

 

「なるほど」

 

「だから、知り合い、っていうほど親しいわけじゃないんだけど、お世話になった人っていうか」

 

「ええ、業務上の関わりです」

 

中川会長が、横から、きっぱりと言い足した。

 

そういうものか、と思っていると、中川会長が、ふと、視線を落とした。私の足元、床に置いたバッグの、ファスナーの金具のあたり。

 

「あれ、そのキーホルダー……」

 

会長の目に留まったのは、バッグに付けていたヒヨコ型のぬいぐるみ。オレンジの体色に、五本の特徴的なアホ毛。

ありふれていそうなデザインではあるが、一般的な知名度は五パーセントを切るだろう。

そして話題づくりでたまに「それ可愛いね!」と言われるが、何のキャラか話したら「そうなんだね」で終わるやつでもある。

 

「『エターナル・リンケージ』の、タルタルくんですよね!」

 

「え!?」

 

思わず声が出た。

 

「二周年記念の抽選限定のやつですよね。私も三回応募したのですが、どれも外れてしまして」

 

さっきまで事務的だった声が、明らかに速い。

姿勢はまっすぐのままなのに、視線だけが完全にキーホルダーに固定されている。

 

「そうなんですね。私は一回目で運よくあたることができまして」

 

「うらやましいですね!」

 

中川会長が、胸の前で、両手を小さく握った。

 

「タルタルくん、可愛いですよね」

 

「はい」

 

「この子の声も好きで。見た目に反して、口が悪いんですけれども」

 

「相棒のカイルにも普通に暴言を吐きますしもんね」

 

「だけどそれは仲間への信頼の裏返しになっていて」

 

中川会長のタルタルくんへの解像度の高さに私は思わず頷く。

 

「七章で相手の策略でみんなが疑心暗鬼になっていた時に、タルタルくんが自分は何があってもみんなを信じるって啖呵切ったシーンは感動ものですよね」

 

「クレール大橋のシーンですね!」

 

中川会長、ゲームでちょっとしか出てこない地名もご存じとは。この人、できるっ……!!

 

「普段はカイルの肩から軽口言っているばかりなのに、肝心なところではかっこいいんですよ、あの鳥。本編で三本の指に入る漢ですね」

 

「渡さん、わかります。私、カイルが大好きなんですけど、あの子が隣にいるからカイルが成立している面はあると思っていて」

 

「中川会長もカイルが好きなんですか!?」

 

「もちろんです! 通常verとサマーver、あと最終決戦仕様のフィギュア持っています」

 

ど、同志......!! これはもう止まらない。

 

「カイルが終盤に覚醒するシーンいいですよね。負傷離脱したミハイル君の意志を継いで覚悟を決めるところ。私、そのシーン見るために何周もしました」

 

と私。

 

「何周もしますよね」

 

中川会長も、深く頷いた。

 

「私は、その後の船上のシーンが」

 

「オルフェリア号!!!」

 

自分でもびっくりするくらいばかでかい声が出た。

 

「あそこの曲、いいですよね」

 

「いいですよね」

 

いつも朝礼台の上でマイクを持っている人と、同じ人だとは思えない。

目がさっきより明らかに輝いている。

 

隣で、高咲さんが、あははと笑った。

 

「菜々さん、そういうの好きだもんね」

 

中川会長の動きがぴきりと止まった。

 

「ゆ、高咲さんに、そういう話を、したことはないのですが……」

 

「あ! そうだった、人違いだったかも。ごめんなさい!」

 

「人違い! 人違いでしたら、しょうがないですね! それでは私は、他のところも巡回しますので、これにて失礼します!」

 

中川会長が、深く一礼して、次の机へ歩いていった。歩く速度が来た時より明らかに速い。

 

「……高咲さん」

 

「うん?」

 

「やっぱり、中川会長と知り合いなんじゃ」

 

「いやいや、生徒会への申請の時に少しお世話になっただけだから! ほんとに!」

 

高咲さんが、両手を振る。

何となく仲良さそうかなと思ったけど、ただの私の思い違いか。

 

「……っていうか、菜々さんもだったけど今の友紀さん、すごかったね」

 

「……忘れてください」

 

ふいっと私は侑さんから顔をそらした。

 

 

***

 

 

午後九時。配信開始。

 

「ハロにゃー♪ みんな大好き黒霧レモンですにゃー」

 

> ハロにゃー

> おつ

> 待ってた

 

「今日はね、久しぶりゲームしようと思うのにゃ」

 

> ゲーム

> 何やんの

> 久しぶりじゃん

 

「少し前に流行った、あのアクションゲーム。みんなでわちゃわちゃ走ったり跳ねたりして、最後の一人になるまで生き残るやつ」

 

> あれか

> あれね

> 懐かしい

 

「で、なんでこれを選んだかというと、今週ちょっと体を動かす行事があるんだけど、私、そういうのが、その、苦手にゃ」

 

> 体育祭か球技大会かな

> 体育祭とか滅べ

> レモンちゃん運動苦手だもんね

 

「だからせめて、画面の中だけは、軽快に走り回るキャラを操作して、現実逃避しようかなって」

 

> 動機が前向きに後ろ向き

> 現実とゲームは別物です

> 現実逃避を堂々と宣言する配信者の恥

 

「うっさいにゃ。現実逃避は精神を安定させるために人類が発見した偉大な発明の一つなのだよ」

 

ゲームを起動すると、タイトル画面の音楽が流れ出す。

ヘッドホンの位置を直して、コントローラーを持つ。

 

「じゃ、いきますにゃー」

 

> がんばってー

> ドン勝ち目指そ

> ゲームの中くらい勝ってもろて

 

ロビー画面でマッチングを待つ間、軽く伸びをする。

 

> ワイプ、なんか、ヌルヌル動いてない?

> 動きが滑らか

> 前と違う

 

「え、ワイプ?」

 

画面の右下に映っている自分のアバターを見る。

私が伸びをしたのに合わせて、アバターの肩も軽く伸びて、視線がふっと上を向いた。

 

いつもより、動きが滑らかな気がする。

 

「気のせいかにゃ……前はもっと、こう、カクッとしてた気がするんだけど」

 

> モデル更新した?

> アバターの動きが綺麗

 

「いや、特にいじってないはずだけど」

 

私が首を傾げていると、コメント欄に特徴的な色のコメントがぽつんと入る。

 

> ALAN:モデルをアップデートしておいたよ

 

「あ、ALAN。じゃあこの動き、ALANの仕業にゃ?」

 

> お母様だ

> お母様降臨

 

モデラーを「お母様」と呼ぶのは、この界隈あるある。うちの場合もご多分に漏れず。

私は椅子の上で軽く首を横に傾ける。ワイプのアバターがちゃんとついてくる。

 

「ありがと、ALAN。すごく動きがいいにゃ」

 

> ALAN:よかった

 

マッチングが始まる。画面が切り替わって、本編のステージへ。

最初の種目は、障害物を避けながらゴールを目指すレース。

 

「いきますにゃー!」

 

スタートダッシュ。コントローラーを握る手に、力が入る。前を走るプレイヤーを追う。

回転する丸太を、ジャンプで飛び越える。

 

するとリスナーのコメントが、流れる。

 

> ワイプかわいい

> 表情ヌルヌル

> 跳んだ瞬間の顔

 

「え、何、ワイプ?」

 

私は、画面の右下に映っている自分のアバター——黒霧レモンの上半身を、ちらっと見る。

 

声に合わせて、アバターの口が動く。そこまでは、いつも通りだ。

ただ今日は、口だけじゃない。頬が笑う形に持ち上がって、眉が動いて、跳ねた拍子に肩まで軽く上下している。

 

「待って、なんでこんな表情動くの、私のアバター!?」

 

> 声に連動してるんじゃない?

> 中身より外面の方が感情豊か

> お母様の仕事すごすぎ!

 

「外面って。わ、私だって表情豊かなんだが!? ALAN、これどんな仕組みで動いてるの!?」

 

> ALAN:表情、声、上半身の動きをAIで分析して表情を作ってる

> ALAN:レモンちゃんの気持ち、みんなに伝わりやすいでしょ?

> ALAN:計算時間を短縮するのに苦労したけど、ラグはほとんどないよ (`・ω・´)フンス

 

「いやフンスじゃないんだが?」

 

あっ、今アバターが (`・ω・´)フンスって顔した。いや、そうじゃなくて。

 

「えっ、じゃあ見栄張ってたりドヤっている時も表情に出ちゃうの!?」

 

> ALAN:そうなる (・ω・)b

> それは表情に出なくてもわかるから……

> ほな、無駄機能やないかい

 

「う、うるさい!」

 

ワイプのアバターはぷんぷんと表情豊かに怒っている。

そうしてゲームではゴールラインを上位の順位で抜けた。

 

> 突破

> レモンちゃんめっちゃ笑顔でよき

> すごい嬉しそう

 

ゲームはあっという間に進む。

二回戦、三回戦、四回戦。途中で転んだり、足場から落ちたりもしたが、その都度ワイプのアバターが苦笑いをしたり、視線を泳がせたりと忙しい。

 

転んだ瞬間、アバターの眉がこれ以上ないくらい寄った。本気で悔しがっている顔だった。

 

「やめて、そんな顔しないで。負けず嫌いがバレるにゃ」

 

> すでに知ってる

> 今更じゃない?

 

「……ふ、ふーん。知ってたんだ」

 

自分の弱みを知られたようでなんだか恥ずかしい。

それでも、つい、コメント欄を覗いてしまう。リスナーがいつもよりずっと私のアバターを見て楽しんでいる。

 

決勝ステージで、私のキャラは、惜しいところで落ちる。優勝はできなかった。

画面の隅で、アバターが悔しそうに、ふっと息をつく動きをした。

 

「あー、試合には勝てなかったけど、めっちゃ楽しかった」

 

> 「楽しかった」って素直に言うレモンちゃん珍しい

> アバターも笑ってる

> レモンちゃんすごいにっこり。可愛い。

> アップデートありがたい

 

「……そういうのを拾うんじゃないにゃ」

 

> おっ照れてる

> ツンデレツンデレ

> かわいい

 

照れ!?

私は両手で顔を隠した。アバターもしっかりと反応して顔を隠すしぐさをする。

 

「はい、今日はおしまい! ALAN、本当に、ありがとにゃ。すごく楽しかった」

 

> ALAN:気に入ってくれてよかった

 

「うん、気に入った。ちょっっっとモデルの調整必要だけど!」

 

> ALAN:十分にいいのに

 

このあとALANと話して一部機能をマイルドにしてもらわないと。

そうしてリスナーの皆さまにも、軽く挨拶をして、配信を切った。

 

配信オフのアイコンが灯った画面をぼんやり眺める。今日はいつにも増してコメントが流れていた気がする。

久しぶりに笑いの多い二時間だった。頬が、まだ少し温かい。

 




◆かんたん解説
〇高咲 侑
愛さんが所属するスクールアイドル同好会のマネージャー。
友紀と同じ美化委員に所属。

〇中川 菜々
虹ヶ咲学園の生徒会長。
正体を隠して優木せつ菜としてスクールアイドルをやっている。
アニメやゲームが好き。
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