インフィニット・ストラトス ~暮桜の懺悔~   作:熾天使セラフィム

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誰だって苦労して作ったものを壊されれば怒る


取材

 白式の稼働試験が終わった後、織斑先生が白式を借りていった。

 

 なんでも、今日から一年一組は実習授業を始めるらしい。

 

 ……すごく嫌な予感がする。

 

 しかも俺は、昨日から一睡もせずに白式の修理と改修を続けていた。

 

 眠い。とにかく眠い。

 

 あとで食堂で朝飯を食って、そのまま寝よう。

 

 セシル博士も深夜まで付き合ってくれていたので、食事を済ませたら休むらしい。

 

「じゃ、おやすみなさい……」

 

 そこで俺の記憶は途切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 ――目が覚めた。

 

 時計を見る。

 

 午後五時。

 

「……うっそだろ」

 

 完全に寝過ごした。

 

 同室のセシル博士は既に起きているのか、ベッドには姿がない。

 

 俺は重い身体を引きずるように起こし、仕事服と白衣に着替える。

 

 頭がぼんやりする。

 

 だが、白式を放置するわけにはいかなかった。

 

 織斑先生に貸したままだ。

 

 嫌な予感しかしない。

 

 俺はそのまま職員室へ向かった。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 夕方のIS学園は、昼間とは違う静けさがあった。

 

 窓の外は赤く染まり、廊下には部活動帰りの生徒がちらほら見える。

 

 その中を、俺は欠伸を噛み殺しながら歩いていた。

 

 職員室の前に立つ。

 

 ……入りたくない。

 

 ものすごく嫌な予感がする。

 

 だが、白式を回収しないと話にならない。

 

 意を決して扉を開けた。

 

「失礼します」

 

 一瞬、職員室の空気が止まった。

 

 数人の教師がこちらを見る。

 

 その視線が妙に生温かい。

 

 嫌だ。

 

 この空気、絶対なんかあった。

 

「遅かったじゃないか。寝坊でもしたか?」

 

 織斑先生が話しかけてくる。

 

 寝坊って。

 

「いや、こちとら昨日から代表戦が終わった後に寝ずの修理と改修だったんですよ。勘弁して下さい」

 

「なに。冗談だ」

 

 そういって、彼女は笑った。

 

「それで白式を返しにもらいに来たんですが」

 

 瞬間。

 

 俺たちの会話を聞いていた一部の女性教師たちが一斉に顔をそっぽ向けた。

 

 マテ。イッタイ、ナニガドウナッテルンデス?

 

「あー、白式の件なんだがな」

 

 すると織斑先生が申し訳なさそうに答えてきた。

 

 ヤメロ。キキタクナイ。

 

「愚弟が無茶をして壊した。スマン」

 

「いぴゃーーーーーーー!」

 

 俺は頭を抱えて叫ぶ。

 

「ど、どこが壊れたんですか……?」

 

 震える声で尋ねる。

 

 頼む。

 

 メインフレームだけは無事であってくれ。

 

 あと一次移行装甲。

 

 いや待て、PIC系統も洒落にならん。

 

 白式はまだ未完成機なんだぞ。

 

「右腕部の瞬間加速機構が焼き付いた」

 

「あ、軽症」

 

「左脚部の姿勢制御スラスターが二基損傷」

 

「ま、まぁまだ許容範囲」

 

「一次移行装甲が二十八パーセント損耗。装甲が弾け飛んだ」

 

「重っっっ!?」

 

 遂に職員室の教師たちが全員一斉に視線を逸らした。

 

 山田先生なんて「ひぅっ」とか言ってる。

 

 そ、装甲が弾けとんだだと!?

 

 一体何をやらかしやがった!

 

「何があったら装甲が弾け飛ぶことになるんです!?」

 

「馬鹿がイグニッション・ブーストで地面に突っ込んだ」

 

「は?」

 

 地面に突っ込んだ?

 

「つまり、地面に急加速して突っ込み白式ごと地面にはじき返されたと?」

 

「いや、犬神家になった」

 

「犬神家!?」

 

 俺はもう驚き疲れた。

 

「分かりました。とりあえず白式返して下さい」

 

 俺は彼女から白式を受け取ると、その場でイメージインターフェースを開き解析し始めた。

 

 うわぁ。

 

 ダメージレベルがBにまで行ってるよ。

 

 今朝直したばっかりなのによぉ。

 

 コンチクショウめ。

 

「それでどうするんだ?白式」

 

 うん?

 

「お前言ってたろ、白式を改修するか、そのままにするか」

 

 あぁ~。言ってたな。

 

「そうなんですよねぇ。そこが目下の悩みどころなんですよねぇ」

 

 現状の白式はマズイ。パイロットも機体もダメだ。

 

「しばらく考えてみます。ただ白式はしばらく授業で使えないんで」

 

「当然だ。気長に待つことにするさ」

 

 そうして職員室から俺は出た。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 俺は職員室を出た後、食堂に向かった。

 

 そして月見うどんを食べながら、鍵をPICで浮かべながらインタラクティブモードで内部ログを確認していた。

 

 もちろん他人には見れないようにしている。

 

 他人から見れば何も書いてない真っ白な投影モニターを見ているだろう。

 

 余談だが、食堂に入るときすれ違う女子生徒たちがヒィッと悲鳴を上げやがった。

 

 おそらく俺の顔は今、鬱憤でものすごいことになっているんだろう。

 

 そんな中俺に話しかける恐れ知らずの女子生徒がいた。

 

「あのーすみません。新聞部の黛薫子と申しますけど、インタビューをしてもよろしいでしょうかぁ?」

 

 俺はモニターを消して白式を服に隠し、後ろを振り返ると眼鏡をかけた2年生の女子生徒がいた。

 

「取材、ですか」

 

「は、はい。その日本が世界に誇る倉持技研の若き天才、烏間永夢1級IS技師に取材をしたくて」

 

 うーん。取材か。受けるか。だがしかし

 

「あ、条件が一つあります」

 

 俺は黛薫子の胸元を指差した。

 

 制服のポケットから伸びる細いコード。

 

 その先にある小型レコーダー。

 

「それ、切ってください」

 

「……へ?」

 

 黛先輩が目を丸くする。

 

「録音禁止ですか?」

 

「えぇ」

 

 俺は月見うどんを啜りながら頷いた。

 

「記事にするのは構いません。けど録音データは残さないで下さい」

 

「理由を伺っても?」

 

「国家機密と企業機密と危険技術の塊なので」

 

「うわぁ」

 

 ドン引きされた。

 

 失礼な。

 

「まぁ、信用問題でもあります。俺、あんまり表に出る側の人間じゃないんで」

 

「……なるほど」

 

 黛先輩は少し悩んだ後、素直にレコーダーの電源を切った。

 

 そのまま机へ置く。

 

「これで大丈夫ですか?」

 

「はい。どうぞ」

 

 すると彼女は小さく咳払いをした。

 

 完全に記者モードへ切り替わる。

 

「ではまず最初に」

 

 メモ帳を構える。

 

「世界で二人しか存在しない男性ISパイロットになった感想をお願いします」

 

「楽しいですよ」

 

 即答だった。

 

 自分でも少し意外なくらい、迷いが無い。

 

「へ?」

 

「思った以上に楽しいです」

 

 俺は白鍵を指先で回しながら続ける。

 

「自分で組んだ機体を、自分で動かせる」

 

「しかも、その場で問題点を洗い出して修正できる」

 

「研究者としては最高ですね」

 

「普通、IS開発ってフィードバックまで時間かかるんですよ」

 

「でも今は違う」

 

「乗る」

 

「壊す」

 

「直す」

 

「また乗る」

 

「異常な速度で改善できる」

 

「……便利なんですよ。びっくりするくらい」

 

 黛先輩が若干引いた顔をした。

 

「普通、“便利”って表現します?」

 

「しますね」

 

「俺からしたら、動く実験場みたいなもんですし」

 

「うわ研究者だ……」

 

 何故か小声でそんなことを言われた。

 

「では次の質問です」

 

 黛先輩が気を取り直す。

 

「今後はISパイロットとして活動されるんですか?それとも研究者として?」

 

「両方です」

 

 これも即答。

 

「パイロットをやらないと実戦データ取れないんですよ」

 

「でも研究者をやらないと機体改善できない」

 

「だから両方やります」

 

「過労死しません?」

 

「もう片足突っ込んでます」

 

「笑顔で言わないで下さい。怖いです」

 

 失礼な。

 

「では……少し踏み込んだ質問を」

 

 黛薫子が眼鏡を押し上げた。

 

「なぜ男性である烏間さんがISを動かせたのでしょうか?」

 

「不明です」

 

 嘘だけど。

 

「不明!?」

 

「分かりません。本当に」

 

 俺は肩を竦める。

 

「ISコア側のログも解析しましたけど、理由らしい理由が出てこないんですよ」

 

「反応したから動いた」

 

「現状それ以上でも以下でもないです」

 

「研究者としては気持ち悪すぎますけどね」

 

「世界的発見なのにそんなテンション低い人初めて見ました……」

 

「いや、理由不明って気持ち悪いでしょう」

 

「それはまぁ……はい」

 

 黛先輩が苦笑する。

 

「では最後に」

 

 ペン先が止まる。

 

「昨日のクラス代表決定戦について感想をお願いします」

 

「ブルー・ティアーズのデータが取れて良かったです」

 

「もっとこう無いんですか!?」

 

「例えば劇的勝利だったとか!」

 

「イギリス代表候補生に勝った感想とか!」

 

「いや別に……」

 

 俺は真顔で答える。

 

「データ取れたし」

 

「新型ビット見れたし」

 

「エナジーウィングの実戦データも取れたし」

 

「収穫多かったですよ」

 

「完全に研究者視点だこの人!」

 

 食堂に黛先輩の悲鳴が響いた。

 

 周囲の女子生徒たちがビクッと肩を震わせる。

 

 止めてくれ。

 

 俺がまた怖がられる。

 

「……ちなみに」

 

 黛薫子が恐る恐る聞いてくる。

 

「烏間さんって、戦闘そのものは好きなんですか?」

 

「んー」

 

 少し考える。

 

 箸を止める。

 

「好きというより」

 

 俺は白鍵とアーミラリ天球儀を見る。

 

「機体を限界まで使い切れた時が気持ちいいんですよ」

 

「理論通り動いた時とか」

 

「想定以上の挙動した時とか」

 

「あと改修した箇所が綺麗にハマった時」

 

「それ戦闘狂じゃなくて技術屋ですね?」

 

「でしょうね」

 

 自覚はある。

 

 すると黛先輩は、ふっと笑った。

 

「でも、少し安心しました」

 

「何がです?」

 

「烏間さんって、もっと怖い人かと思ってましたから」

 

「……あー」

 

 思い当たる節しかない。

 

 代表戦。

 

 ヤタガラス。

 

 Ex-S。

 

 ファンネルミサイル二十発同時制御。

 

 そりゃ怖がられる。

 

「まぁ、怒る時は怒りますけど」

 

「例えば?」

 

「今朝直したばっかの白式をクソガキに半日で半壊させられた時とか」

 

「……」

 

「今すぐガバメントをぶち込んでやりたいです」

 

 黛先輩の笑顔が凍った。

 

 俺は静かに月見うどんを啜る。

 

「ちなみに現在進行形でキレてます」

 

「そ、そうですか……」

 

 黛先輩がそっとメモ帳を閉じた。

 

 うん。

 

 賢明な判断だと思う。




評価バーに色が付くことになんてあるんですね。都市伝説かと思ってました。

評価をしてくれた皆様方ありがとうございます。これからも頑張っていきます。
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