インフィニット・ストラトス ~暮桜の懺悔~   作:熾天使セラフィム

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やっちゃた。でも、後悔はしていない。


異常に強い山田先生

 Ex-Sの背部ブースターが唸りを上げる。

 同時に、4門の背部ビームカノンが展開。白い砲身が空へ突き出された。

 

「実力しかない!」

 

 先行するIS学園教師山田真耶の《ラファール・リヴァイブ》をFCSが捕捉する。

 

 オムニ・カルキュレーションによる未来予測。

 機体挙動解析。

 PIC偏向予測。

 回避ルート演算。

 

 複数のロックオンマーカーが、山田真耶の機体へ重なった。

 

「縁起、予測、そんなもので!」

 

 シュート・キュー。

 

 永夢は4門のビームカノンを二射に分けて発射した。

 

 空間を灼く高出力ビームが、偏差射撃によって逃げ道ごと《ラファール》を呑み込む。

 

 だが。

 

 《ラファール・リヴァイブ》は、まるで背中に目でも付いているかのように、その全てを回避した。

 

 紙一重。

 

 常識外れの反応速度。

 

 元代表候補生として積み重ねた経験が、演算結果すら踏み越えていく。

 

「決着がつくものかぁぁぁ!!」

 

 永夢は叫びながら、Ex-Sのフレームへ直付けされたコンテナを強制排莢。

 

 内部から現れたのは、残存する最後のファンネルミサイル群。

 

「行けッ!」

 

 次の瞬間。

 

 無数の小型誘導弾が白煙を引きながら、山田真耶へ襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 Ex-Sガンダムが起動して以降、永夢を取り巻く環境は大きく変化した。

 

 まず所属についてだ。以前からアルバイトとして働いていた倉持技研には、今回の件を機に正式所属となった。

 

 さらに日本政府との取引により、永夢は正式に二人目の男性IS操縦者として認定された。ただし、社会的混乱を避けるため、正式発表は三月下旬まで延期されることになったらしい。どうやら、各方面から不用意に手を出されないようにするための政治的配慮も含まれているようだ。

 

 高校時代から現在に至るまで世話になっている枢木先輩は、内閣直属「IS特別管理局」の所属だったらしい。

 俺がEx-Sガンダムを起動させたと知った時には、本気で頭を抱えていた。

 

 ……ごめんよ、スザク先輩。

 絶対に日本の利益になるよう働くから許してくれ。

 まあ、これから先も間違いなく迷惑はかけるんだけど。

 

 そして俺自身は、IS学園へ出向という形で所属することになった。もっとも、既に第一種免許を取得済みであるため、一部の授業を除き免除になるらしい。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 そして現在、俺は一人で海上モノレールに揺られながら、IS学園へ向かっていた。

 

 IS学園――アラスカ条約に基づいて設立された国立高等学校。所在地は東京湾沿岸部に存在する人工島であり、かつては篠ノ之束の研究拠点だったという噂もある。

 

 もっとも、“学園”などという穏やかな呼び名とは裏腹に、その実態は半ば要塞だ。

 

 施設全体には濃厚な軍事色が漂い、本土との往来手段も海上モノレールに限定されている。世界唯一のIS教育機関という事情を考えれば当然なのかもしれないが、その警備体制は異様なほど徹底されていた。

 

 そんな場所に、俺は入学前である三月中旬から呼び出されている。

 

 理由は――受験。

 

 正直、喧嘩を売られているのかと思った。

 

 これからISを学ぶ少女たちに試験を課すのは分かる。だが、俺は既に八年間IS工学を学び、日本第一種資格を最年少で取得済みだ。

 

 しかも教員免許持ちである。

 

 いや、本当に今さら受験?

 

 ちなみに日本の第一種資格は、世界的に見ても最難関クラスだ。合格率は例年一〜二パーセント。さらに五段階評価制となっており、俺はその中でも最高評価を取得している。

 

 なお、第一種のさらに上位資格として「甲種」が存在するが、こちらは世界でもわずか八名しか保持していない。母さんやロイドさんがその資格保持者であり、倉持技研第一研究所の職員は全員が第一種最高評価保持者だという。

 

 俺の知る限り、IS学園の教員にも第一種資格保持者は存在する。もっとも、最高評価保持者となると話は別だ。

 

 そもそも第一種資格は、各国の国家代表に取得が義務付けられているレベルの超難関資格である。現役時代の織斑千冬ですら取得には相当苦戦したと聞くし、ロシア国家代表兼IS学園生徒会長である更識刀奈でさえ第三段階評価止まりだ。

 

 そんな資格で最高評価を取得している俺に、入学前の学生向け試験を受けさせるというのは、どうにも釈然としないものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 モノレールを降りると、緑髪の小柄な女性教師が出迎えてくれた。

 

 ……いや、小柄というのは語弊があるかもしれない。単純に、身長一九二センチの俺がデカすぎるだけだ。

 

 しかし、その女性教師――山田先生は、俺を見るなり目に見えて緊張し始めた。

 

「ぁ、あ、あわわわわ……!」

 

 本当に「あわわわわ」って言う人間、いるんだな。

 

 どう落ち着かせたものか本気で悩んでいると、不意に山田先生の後ろから水色の髪をした女性が現れ、手に持っていた扇子を勢いよく脳天に叩き込んだ。

 

「はうっ!?」

 

 可愛らしい悲鳴を上げて頭を押さえる山田先生。

 

 その様子を完全に無視しながら、水色の髪の女性はこちらへ歩み寄ってきた。

 

 ……この娘、肝が据わってるな。嫌いじゃない。

 

「初めまして、烏間永夢様。私はIS学園生徒会長の更識楯無と申します。本日は山田教諭と共に、学園内をご案内させていただきます」

 

 彼女はそう言ってこちらに頭を下げてきた。

 

「ご丁寧にどうも。倉持技研所属テストパイロット、烏間永夢です」

 

 一度言葉を切る。

 

「……まさか、ロシア国家代表の更識刀奈さん直々に案内していただけるとは思いませんでした」

 

 どうやら、こちらを試すつもりだったらしい。ならば、軽く打ち返しておく。

 

「……ご存じでしたか」

 

 更識楯無――いや、更識刀奈は一瞬だけ目を細めた。

 

「少しばかり、人の縁に恵まれていてね」

 

 ありがとう、スザク先輩。

 

 以前、先輩から更識家について軽く聞かされたことがある。

 

 曰く、更識家は日本の裏社会や情報機関とも繋がりを持つ名家であり、“楯無”とは当主が代々受け継ぐ襲名名なのだとか。

 

 ついでに、

 

『性格はイタズラ好きの猫そのものだ。気を付けろ』

 

 とも忠告されていた。

 

 ……多分、先輩自身が散々振り回されたんだと思う。

 

「一応、世間では“楯無”の名で通していますので、そちらで呼んでいただけると助かります」

 

 一瞬だけ柔らかく笑った後、更識刀奈――楯無さんは、未だ頭を押さえている山田先生へ視線を向けた。

 

「山田先生。そろそろ痛みは引きましたか? 烏間さんに自己紹介をお願いします」

 

「は、はぃぃ……」

 

 情けない声が足元の方から聞こえてきた。

 

「IS学園教師の山田真耶と申します。先程はご無礼を働いてしまい、申し訳ありませんでした……!」

 

 山田先生はそう言うと、何度もぺこぺこと頭を下げてきた。

 

 ……なんだろう。

 

 もう普通に可愛く思えてきた。

 

「いえ、お気になさらず山田先生。これは年上からのちょっとしたアドバイスですが――過ちを気に病む必要はありません。ただ認めて、次の糧にすればいいんです。それが大人の特権ですよ」

 

 ……俺にしては、なかなか良いことを言った気がする。

 

 まあ、丸パクリなんだけど。

 

「同い年です」

 

 え?

 

「私、二十歳なんです」

 

 駅のホームに、少しだけ冷たい風が吹いた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 先程の微妙な空気を吹き飛ばすように、更識さんが勢いよく扇子を開いた。

 

 そこには、

 

『祝! IS学園へようこそ!』

 

 と、やたら達筆な文字が書かれていた。

 

 ……それ、わざわざ用意したの?

 

「さあ、IS学園をご案内しますよ。山田先生、落ち込んでないで行きますよ?」

 

「……はい」

 

 おう。想像以上にダメージが入っていた。

 

 どうにかして元気づけなければ。

 

 そうだ。

 

「山田先生も、かつては日本代表候補だったのでしょう? 母さんも『次の日本代表は彼女だろう』って――あ」

 

「……………………」

 

 マ・ズ・イ・ゾ。

 

 どうやら、傷口に塩を塗り込んでしまったらしい。

 

「わ、私……実は第一種を五回受けて、五回落ちちゃったんですよね……。それで当時ライバルだった結花さんが先に合格しちゃって……」

 

 あ、アカン。

 

 どうする。どうすればいい。

 

 良し、話題転換をしよう。

 

「そ、そういえば今日俺を呼んだのは試験なんですよね?一体何をするんです?まさか、筆記だなんて言いませんよね?別に自信が無いわけじゃありませんよ。やるなら満点を取ってみせます」

 

 俺は、そう聞くと更識さんが返してくれた。

 

「試験は試験ですが、筆記ではありません。釈迦に説法をしても意味ありませんでしょ?」

 

「では何を試験するんです?」

 

 更識さんは、意味深に扇子で口元を隠した。

 

「簡単ですよ、烏間さん」

 

「貴方が“学生”なのか、“怪物”なのかを確認するだけです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、冒頭に戻ることとなる

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 「決着がつくものかぁぁぁ!!」

 

 永夢の叫びと共に、無数のファンネルミサイルが《ラファール・リヴァイブ》へ殺到する。

 

「行けッ!」

 

 四方八方から迫る誘導弾。

 

 通常のISであれば回避など不可能。

 

 だが――。

 

「甘いですっ!」

 

 山田真耶は悲鳴のような声を上げながら、《ラファール》を急加速させた。

 

 瞬間。

 

 機体後部スラスターが爆発的な推力を発生。

 

 白煙を引きながら突撃してくるミサイル群の狭間を、針の穴を通すような機動で潜り抜けていく。

 

「なっ――!?」

 

 永夢の目が見開かれた。

 

 回避ルートは塞いだはずだった。

 

 オムニ・カルキュレーションは最適解を提示していた。

 

 だが山田真耶は、それを“勘”で踏み越えてくる。

 

 あり得ない。

 

 普通なら選ばない。

 

 機体接触寸前の超高G回避。

 

 PICが存在するISだからこそ成立する、自殺じみた暴力的機動。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!」

 

 半泣きの絶叫を上げながら、《ラファール》が最後の一発を紙一重で回避した。

 

 直後。

 

 永夢の視界で警告表示が点滅する。

 

『WARNING』

『HIGH SPEED APPROACH』

 

「速――ッ!?」

 

 次の瞬間、《ラファール・リヴァイブ》がEx-Sの懐へ飛び込んでいた。

 

 近接。

 

 完全なゼロ距離。

 

 長砲身火力型であるEx-Sにとって最悪の間合い。

 

「しまっ――!」

 

「やぁぁぁぁっ!!」

 

 山田真耶が振るった近接ブレードが、Ex-Sの左肩装甲をほんの少しだけ浅く斬り裂いた。

 

 火花。

 

 衝撃。

 

 鈍い警告音。

 

 巨体が空中で大きく姿勢を崩す。

 

「くっ……!」

 

 永夢は即座にスラスターを噴射。

 

 無理やり後退しながら距離を取る。

 

 だが山田真耶は追う。

 

 恐ろしいほど正確な追撃。

 

 先程までのオドオドした教師の姿はそこに無かった。

 

 居るのはただ一人。

 

 かつて日本代表候補とまで呼ばれた、歴戦のIS操縦者。

 

「逃がしませんっ!!」

 

 《ラファール》が再び肉薄する。

 

 永夢は舌打ちした。

 

 近接戦では分が悪い。

 

 Ex-Sは火力と演算能力に特化した機体だ。

 

 対して山田真耶は、“実戦経験”で動くタイプ。

 

 演算で読む相手ほど、経験則で動く人間は厄介になる。

 

 予測がズレる。

 

 未来が固定されない。

 

「なら――!」

 

 永夢の瞳が鋭く細められた。

 

 オムニ・カルキュレーションの演算領域がさらに加速する。

 

 予測ではなく。

 

 誘導。

 

 相手の回避先を制御し、行動そのものを限定する。

 

「逃げ道ごと作る……!」

 

 Ex-Sの背部ビームカノンが再び展開。

 

 同時に腰部リフレクター・インコム射出。

 

 さらに残存ミサイルを拡散配置。

 

 三次元空間そのものが、瞬く間に“殺戮領域”へ変貌していく。

 

 その光景を見た山田真耶の顔から、ついに余裕が消えた。

 

「う、嘘ぉぉぉぉっ!?」

 山田真耶の悲鳴が訓練空域へ響き渡る。

 

 無理もない。

 

 今この空間には、もはや“安全地帯”という概念が存在していなかった。

 

 上空には四門の高出力ビームカノン。

 

 左右にはリフレクター・インコム。

 

 背後には散開したファンネルミサイル。

 

 さらに。

 

 オムニ・カルキュレーションによる未来予測が、山田真耶の回避行動を先回りし続けている。

 

 逃げれば誘導される。

 

 避ければ追い込まれる。

 

 まるで見えない壁そのものが空間を圧迫してくるようだった。

 

「これ、試験ですよねぇっ!? 本当に試験ですよねぇっ!?」

 

 半泣きで叫びながら、《ラファール・リヴァイブ》が急旋回。

 

 直後。

 

 空間を裂くように放たれたインコムの反射ビームが、その軌道を掠めた。

 

 シールドエネルギーが大きく削れる。

 

『Shield Energy 68%』

 

「ぅぇぇぇっ!?」

 

 一方。

 

 Ex-S内部の永夢は、逆に冷静になり始めていた。

 

 見える。

 

 山田真耶の回避傾向。

 

 癖。

 

 恐怖を感じた瞬間の挙動。

 

 防御優先時のPIC出力偏向。

 

 全部。

 

 全部データになる。

 

「右上回避率七十二……いや、次は変えるか」

 

 演算領域がさらに加速。

 

 視界内へ幾何学的な予測線が無数に走る。

 

 だが。

 

 それでも決定打にならない。

 

「っ、この人……!」

 

 永夢は思わず息を呑んだ。

 

 山田真耶は弱くない。

 

 むしろ異常だ。

 

 恐怖で涙目になりながら、それでも最適回避を継続している。

 

 経験が違う。

 

 場数が違う。

 

 今の永夢は確かに“性能”では勝っている。

 

 だが操縦者としての地力では、まだ山田真耶が上だった。

 

「ひぃぃぃぃっ!!」

 

 絶叫しながら、《ラファール》がさらに急加速。

 

 その瞬間。

 

 永夢の瞳が見開かれた。

 

「――誘った?」

 

 気付いた時には遅かった。

 

 山田真耶は、逃げながら誘導していたのだ。

 

 Ex-Sの射線。

 

 インコムの反射角。

 

 ファンネルミサイルの包囲網。

 

 それら全てが、“ある一点”へ収束するように。

 

 そして。

 

 《ラファール・リヴァイブ》が、その空間を一気に突破した。

 

「なっ――!」

 

 瞬間。

 

 Ex-Sの全火器が、互いの射線を阻害した。

 

 誤射防止制御。

 

 自動安全ロック。

 

 一瞬だけ生じる、火力空白地帯。

 

 山田真耶はそこへ飛び込んできたのだ。

 

「近い近い近いぃぃぃぃっ!!」

 

 涙目で叫びながら、《ラファール》がブレードを振り抜く。

 

 斬撃。

 

 衝撃。

 

 Ex-Sの右腕部装甲が少しばかり裂けた。

 

『WARNING』

『RIGHT ARM DAMAGE』

 

「くっ……!」

 

 永夢は強引に後退。

 

 だが、山田真耶は止まらない。

 

 むしろ勢いが増していた。

 

「まだですぅぅぅぅっ!!」

 

 《ラファール》が空中で変則軌道を描く。

 

 その動きは、美しいというより“生存本能”そのものだった。

 

 死にたくない。

 

 当たりたくない。

 

 だから避ける。

 

 だから生き残る。

 

 その極限が、今の超反応を成立させている。

 

「この人……本当に実戦型か……!」

 

 永夢が歯噛みする。

 

 すると通信回線の向こうで、更識楯無の呆れ混じりの声が響いた。

 

『烏間さん。言い忘れていましたけど』

 

『山田先生、“回避能力だけ”なら世界でもトップ寄りですよ?』

 

「先に言って欲しかったなぁ!!」

 

 永夢は叫びながらEx-Sを急後退させる。

 

 だが、《ラファール・リヴァイブ》は喰らいつく。

 

 まるで猛禽類だ。

 

 獲物へ食らいついた瞬間を逃さない。

 

 近接特化ではないはずの《ラファール》が、恐ろしい圧力でEx-Sへ迫ってくる。

 

「まだまだぁっ!!」

 

 山田真耶のブレードが閃く。

 

 斬撃。

 

 火花。

 

 Ex-Sの複合装甲が悲鳴を上げる。

 

『WARNING』

『LEFT BINDER DAMAGE』

 

「っ、この……!」

 

 永夢は奥歯を噛み締めた。

 

 強い。

 

 純粋に操縦技術が強い。

 

 恐怖で泣きそうになりながら、ここまで戦える人間を永夢は知らなかった。

 

 だが。

 

 それでも。

 

「――性能差は、覆らない」

 

 次の瞬間。

 

 Ex-Sの全身スラスターが一斉噴射。

 

 轟音。

 

 空気そのものが爆ぜる。

 

「えっ」

 

 山田真耶の顔が凍り付いた。

 

 Ex-Sが消えた。

 

 否。

 

 加速した。

 

 通常ISでは有り得ないレベルの瞬間推力。

 

 大型ブースターユニットによる強引な機動加速。

 

 PIC負荷など知ったことかと言わんばかりの暴力的推進。

 

「な――ぁっ!?」

 

 気付いた時には、Ex-Sは《ラファール》の頭上を取っていた。

 

 上。

 

 完全な死角。

 

 永夢は迷わずトリガーを引く。

 

 腰部ビームカノン連射。

 

 至近距離砲撃。

 

「きゃあぁぁっ!?」

 

 《ラファール》が強引に回避。

 

 だが避け切れない。

 

 ビームが左脚部を掠め、シールドエネルギーが大きく削れ飛ぶ。

 

『Shield Energy 41%』

 

「うそぉっ!?」

 

 山田真耶が悲鳴を上げる。

 

 永夢は追撃。

 

 背部ビームカノン再展開。

 

 さらにインコム同時射出。

 

 Ex-Sという機体は、一度主導権を握ると止まらない。

 

 火力。

 

 継戦能力。

 

 演算性能。

 

 推力。

 

 その全てが高水準で噛み合っている。

 

「くっ……!」

 

 山田真耶は回避する。

 

 避け続ける。

 

 だが。

 

 押され始めていた。

 

 回避し続ける側は、いつか限界が来る。

 

 対してEx-Sは違う。

 

 膨大な火力を維持したまま、なお余力を残している。

 

 それが“機体性能差”。

 

「まだ、まだぁっ!!」

 

 《ラファール》が再び肉薄。

 

 ブレード突撃。

 

 だがその瞬間。

 

 永夢の口元が初めて笑った。

 

「待ってた」

 

 Ex-Sの腰部フロントアーマー展開。ビーム・スマートガン接続。

 

 内部ジェネレーター出力急上昇。

 

『High Output Mode』

 

「――――え?」

 

 山田真耶の目の前で、ビーム・スマートガンが発光した。

 

 圧倒的火力。

 

 回避不能距離。

 

「きゃあああああああああっ!!?」

 

 轟音。

 

 白光。

 

 凄まじいエネルギー奔流が空間を呑み込んだ。

 

 直後。

 

 《ラファール・リヴァイブ》のシールドエネルギーが、一気に限界値へ到達する。

 

『Shield Energy Critical』

『Automatic Protection』

 

 絶対防御展開。

 

 同時に、《ラファール》の機体が吹き飛ばされた。

 

 空中で何度も回転しながら、訓練フィールド外縁へ激突。

 

 土煙が舞う。

 

 静寂。

 

 そして。

 

『――勝者、烏間永夢』

 

 機械音声が響いた。

 

 Ex-Sのコックピット内で、永夢は大きく息を吐く。

 

「……勝った」

 

 正直、冷や汗が止まらなかった。

 

 操縦技術だけなら、間違いなく相手が上だった。

 

 だが。

 

 最後に勝敗を決めたのは、純粋な機体性能差。

 

 その時。

 

 土煙の向こうから、涙目の山田真耶の叫びが響いた。

 

「こ、こんなの学生の試験じゃないですよぉぉぉぉっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど」

 

 モニタールーム。

 

 織斑千冬は腕を組みながら、静かにEx-Sの戦闘記録を見つめていた。

 

「技量は未熟。だが――」

 

 戦場構築能力が異常。

 

 更識楯無が苦笑する。

 

「まるで艦隊戦術を一機でやってますねぇ」

 

「ああ。普通のIS操縦者じゃない」

 

 千冬の視線が、複数同時制御されたインコム軌道へ向く。

 

「“空間制圧”を前提に戦っている」

 

 通常のISは違う。

 

 高速機動。

 近接。

 一撃離脱。

 

 だが、Ex-Sは違う。

 

 逃げ場そのものを消す。

 

「しかも厄介なのは」

 

 千冬が小さく息を吐く。

 

「まだ、機体に振り回されている側だということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれが元、暮桜だと?何があった?」




ファンネルミサイルは、倉持技研で開発したものを無理やり取り付けています。

Omni-Calculation(オムニ・カルキュレーション)

暮桜がサードシフトした際に発生したワンオフ・アビリティ。

■概要

Omni-Calculationとは、
あらゆる情報を瞬時に収集・解析・予測し、
“最適解”を導き出すことに特化した演算支援型ワンオフ・アビリティである。

本能力は純粋な火力強化能力ではなく、

情報処理
戦術演算
エネルギー制御
ネットワーク干渉
機体最適化

といった“戦闘支援・制御領域”に極端に特化している。

その性質上、
性能はパイロット自身の知識・判断力・発想力に大きく依存する。

■コンセプト

「世界を理解し、最適化する」

Omni-Calculationは、
単なるスーパーコンピューターではない。

これは、

人間の思考
ISの演算能力
AI支援
外部ネットワーク

を統合し、
“人間が神域の情報処理を行う”ための拡張知性システムである。

■基本性能
●超高次演算処理

通常のスーパーコンピューターを遥かに超える演算能力を持つ。

可能な処理例:

弾道予測
敵行動予測
空間解析
エネルギー配分
地形解析
通信傍受
暗号解析
軌道計算
リアルタイム戦術生成

これらを並列処理可能。

●未来予測演算

戦場情報をリアルタイム解析し、
数秒〜数十秒先の状況を高精度で予測する。

完全な未来視ではないが、

相手の癖
視線
機体挙動
過去戦闘データ

などから極限レベルの予測を行う。

●エネルギー最適化

ISエネルギー消費を限界まで圧縮。

特徴:

無駄な出力を自動削減
必要箇所にのみ瞬間出力集中
シールド展開最適化
推進剤消費最適化

結果として、

異常な継戦能力
長時間稼働
高機動維持

を実現する。

■ネットワーク干渉能力
●電子侵入(ハッキング)

理論上、世界規模ネットワークへの侵入が可能。

対象例:

軍事ネットワーク
衛星
無人兵器
通信網
インフラ制御
監視システム

ただし、

“可能”であることと
“実行できる”ことは別問題

である。

●重要制約

Omni-Calculationは、

「勝手にハッキングしてくれる能力」

ではない。

必要なのは:

プログラミング知識
セキュリティ知識
ネットワーク理解
戦術理解

であり、

パイロットが未熟であれば
単なる高性能解析装置に留まる。

■操作体系
●初期段階
選択式支援
推奨行動表示
半自動制御

初心者向け。

●中級段階
スクリプト編集
戦術カスタム
条件分岐設定

●上級段階
リアルタイムコード生成
戦場アルゴリズム構築
自律戦術制御

戦闘中に動的最適化を実施。

■得意分野
●対多数戦

敵戦力を解析・分断し、
少数で大軍を翻弄可能。

●長期戦

エネルギー効率に優れるため、
継戦能力が極めて高い。

●情報戦

本能力の真価。

電子戦
情報撹乱
指揮妨害
通信制圧

などを得意とする。

■弱点
●パイロット依存

能力上限=操縦者の知性・知識。

●情報過多

未熟な操縦者は処理負荷に耐えられない。

●未知への弱さ

未知法則・未知技術に対しては予測精度が低下。

●直接火力ゼロ

火力強化能力を持たない。

そのため、

武装性能
操縦技術
戦術

が極めて重要。






え?わかりづらい?六眼。
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