インフィニット・ストラトス ~暮桜の懺悔~   作:熾天使セラフィム

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ストックが切れちゃった。


IS学園に、いざ行かん

 三月二十日。

 

 ――世界で二人目となる男性IS操縦者。

 

 その正式発表を翌日に控えたこの日、俺は一足早くIS学園へ向かうことになっていた。

 

 理由は単純。

 

 発表後に起こるであろう“面倒事”を少しでも避けるためである。

 

 本土側に設置されたIS学園行きモノレール駅では、倉持技研の皆が見送りに来てくれていた。

 

「それじゃ、永夢。IS学園でも頑張ってね」

 

 母さんが、そっと俺を抱きしめてくる。

 

 俺も抱きしめ返した。

 

「うん。頑張ってくるよ。……まあ、面倒事だらけになりそうだけど」

 

 冗談混じりにそう返すと、ロイド博士が肩を竦めた。

 

「いやいや、“なりそう”じゃなくて確定だろうねぇ」

 

 軽い調子で言いながらも、その顔にはどこか本気の苦労人感が滲んでいる。

 

「まあ、そこまで心配しなくても大丈夫だとは思うけどさ」

 

「その根拠を聞いても?」

 

「簡単だよ」

 

 ロイド博士はニヤリと笑った。

 

「IS学園で君に喧嘩を売ったら、間違いなく相手の人生が破滅するからさ。文字通りね」

 

 怖いこと言わないでくれません?

 

「ただ、国家代表候補生には気を付けたほうがいい」

 

 急に真面目な声音になる。

 

「知識量と頭脳性能じゃ、君のほうが圧倒的に上だ。でも、あっちは“人間関係”と“政治”で殴ってくるタイプだからねぇ」

 

 ……なるほど。

 そっち方面か。

 

「ハ、ハハ……気を付けることにします」

 

「本当だよ? 特にハニートラップには――ぶふぉっ!?」

 

 ロイド博士が最後まで言い切る前に、周囲の女性職員たちの拳が炸裂した。

 

「あ、その話はダメです」

 

「セクハラです」

 

「最低ですロイド博士」

 

 容赦ない。

 

 そのままタコ殴りにされ始めたロイド博士を見ながら、俺はそっと視線を逸らした。

 

 ……まあ、何を言おうとしたのかは分かるけど。

 

 その時、モノレール発車前のメロディーが駅構内へ流れ始めた。

 

「永夢。頑張ってね」

 

 母さんが優しく笑う。

 

「セシル。永夢のこと、よろしくね」

 

「はい。お任せください、所長」

 

 そう。

 

 今回のIS学園出向に際し、倉持技研側から一人の同行者が派遣されることになっていた。

 

 護衛。

 教師役。

 そして、Ex-Sガンダムのデータ分析担当。

 

 その全てを兼任する人物。

 

 セシル・クルーミー博士。

 

 倉持技研第一研究所副所長の一人であり、母さんの元教え子でもある。

 

 ロイド博士と同じく日英ハーフだが、国籍は日本。

 

 しかも――甲種資格保持者。

 

 世界でも僅か八人しか存在しない、IS工学最高峰資格の保持者である。

 

 ちなみに、俺とは四つしか歳が違わない。

 

 ……控えめに言って化け物だ。

 

 さらに戦闘能力も高く、IS適性ランクは母さんと同じ“S”。

 

 なお、現在確認されている女性の甲種保持者は、母さんとセシル博士の二人だけだったりする。

 

 もしかして甲種持ちって、戦闘能力までおかしくなるんだろうか。

 

「行こうか、永夢君」

 

 セシル博士が静かに声を掛けてくる。

 

「はい」

 

 俺は一度だけ振り返った。

 

「母さん。行ってくるよ。落ち着いたら、また連絡する」

 

「うん。いってらっしゃい」

 

 母さんに手を振り、モノレールへ乗り込む。

 

 扉が閉まり、ゆっくりと車両が動き始める。

 

 ドア越しに見える皆は、目に見えなくなるその瞬間まで、ずっと手を振り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 モノレールが駅へ到着し、俺とセシル博士は車両を降りた。

 

 そこで待っていたのは、一人の女性だった。

 

 黒を基調としたIS学園教師用制服。

 

 鋭い眼光。

 

 そして、近寄り難いほど張り詰めた空気。

 

 織斑千冬。

 

 かつて、俺の専用機――《Ex-Sガンダム》。その前身である《暮桜》を駆り、世界最強とまで呼ばれた女性。

 

「IS学園へようこそ。烏間永夢。セシル・クルーミー」

 

 静かな声音。

 

 だが、その一言だけで周囲の空気が引き締まる。

 

「私はIS学園教師、織斑千冬だ」

 

「初めまして。倉持技研所属テストパイロット、烏間永夢です」

 

「初めまして。倉持技研第一研究所副所長、セシル・クルーミーです」

 

 互いに簡潔な自己紹介を交わす。

 

 その間も、千冬さんの視線はずっと俺を観察していた。

 

 ……いや。

 

 正確には、俺ではない。

 

 俺の背後に存在する“Ex-S”を見ている。

 

 そんな気がした。

 

「聞いていたよりデカいな」

 

 唐突に千冬さんが言った。

 

「よく言われます」

 

「身長の話じゃない」

 

 あ、違うんだ。

 

 すると隣のセシル博士が、くすりと笑った。

 

「恐らく存在感の話ですよ、永夢君」

 

「なるほど」

 

「理解が早くて助かる」

 

 千冬さんは小さく息を吐いた。

 

 なんというか。

 

 怖い人なのに、会話のテンポは案外普通だった。

 

 もっとこう、軍人みたいな堅苦しい人かと思っていたのだが。

 

「ロイドと真理博士から話は聞いている」

 

 千冬さんが歩き出す。

 

 俺たちもその後ろへ続いた。

 

「お前たちの区画は既に用意済みだ。通常学生寮ではない。地下研究区画を使用してもらう」

 

「地下研究区画?」

 

「ああ。Ex-Sガンダムもお前たちも危険性と機密性が高すぎる。普通の学生と同じ場所へ置くわけにはいかん」

 

 ですよねー。

 

「また、お前たちは三年間、その区画への立ち入り権限を独占する」

 

「独占?」

 

 今度はセシル博士が反応した。

 

「他教員もですか?」

 

「許可制だ。私ですら事前認証が必要になる」

 

 厳重すぎない?

 

 すると千冬さんは、当然のように言った。

 

「当然だ。《Ex-S》は国家戦略兵器に片足を突っ込んでいる」

 

 否定できないのが困る。

 

 そのまま俺たちは、一般校舎とは別ルートのエレベーターへ案内された。

 

 途中から景色が変わる。

 

 無機質な白い通路。

 

 自動機銃らしきもの。

 

 幾重にも存在する隔壁。

 

 そして認証装置。

 

「……すごいセキュリティですね」

 

「世界で二人目の男性IS操縦者と、正体不明の超大型ISだ。当然だろう」

 

 その言葉に妙な説得力があった。

 

 やがて。

 

 重々しい隔壁が左右へ開く。

 

 そこに広がっていたのは――。

 

「おお……」

 

 思わず声が漏れた。

 

 地下とは思えないほど広い空間。

 

 生活区画。

 

 小型研究設備。

 

 シミュレーター。

 

 整備スペース。

 

 簡易ハンガー。

 

 一通りの設備は揃っている。

 

 普通に考えれば破格だ。

 

 だが。

 

 隣のセシル博士が、微妙な顔をしていた。

 

「……設備規格が三年ほど古いですね」

 

「え?」

 

「演算設備も旧式です。研究精度も足りませんね」

 

 いや分かるの!?古いのは分かる。だが、どのくらい古いやつなのかは俺では把握できん。

 

 すると千冬さんが少しだけ眉を寄せた。

 

「倉持技研基準で語るな。IS学園の研究設備は世界最高峰クラスだ」

 

「失礼しました。倉持が異常でしたね」

 

 認めるんかい。

 

「もっとも」

 

 千冬さんが続ける。

 

「改造制限は設けていない」

 

「……はい?」

 

「好きに使え。好きに改造しろ。そのための区画だ」

 

 その瞬間。

 

 隣のセシル博士の目が、すっと細められた。

 

 あ。

 

 これダメなやつだ。

 

「なるほど……つまり、“自由研究可”ということですね?」

 

「予算申請が通ればな」

 

「ふふっ」

 

 セシル博士が笑った。

 

 ヤバい。

 

 母さんと同じタイプの笑い方だ。

 

 絶対ロクでもない研究始まる。

 

「永夢君」

 

「はい」

 

「忙しくなりますよ」

 

 セシル博士が、実に楽しそうに笑う。

 

 その視線は既に研究設備へ向いていた。

 

 新しい玩具を見つけた子供そのものだ。

 

 ……どうやら俺のIS学園生活は、入学前から既に終わっていたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 「セシルさーん? この作業用アーム、どこに移動させますー?」

 

 ヤタガラスの補助アームで大型ラックを抱えながら声を張る。

 

 区画中に工具の駆動音と金属音が響き、まだ整理途中の第一研究区画は雑然としていた。

 

 その奥で、端末を操作していたセシルさんが振り返る。

 

「向こうの起動試験室にお願いー」

 

「了解です」

 

 私たちは今、絶賛区画整理の真っ最中だった。

 

 研究設備というのは、とにかく重い。大型ジェネレーター、試験用フレーム、作業用アーム、装甲材コンテナ。人力でどうにかなる代物ではない。

 

 だからこそ、俺はEx-Sを、セシルさんはヤタガラスを起動し、半ば工事業者みたいなことをしていた。

 

「ふぅ……さて、この《はんだごて》は――」

 

 問題は、そこじゃない。

 

 セシルさんのISスーツ姿が、あまりにも刺激的すぎた。

 

 ISスーツは操縦者の筋電信号を感知・増幅する都合上、身体へ完全に密着する構造になっている。つまり、体のラインが嫌というほど浮き出る。

 

 しかもセシルさんは、妙に無防備だった。

 

 棚の上に手を伸ばす。

 

 しゃがみ込んで工具箱を漁る。

 

 こちらへ振り返る。

 

 そのたびに、俺の理性がゴリゴリ削れていく。

 

(落ち着け……落ち着け俺……)

 

 ちなみに俺のISスーツだけは方向性が完全に違う。

 

 Ex-Sは全身装甲型――いわゆるフルスキン構造だ。

 

 そのため、俺のスーツは耐G性能を極限まで高めたパイロットスーツ仕様になっている。ヘルメット内には各種インターフェースが投影され、見た目はほぼ戦闘機パイロットだ。

 

 研究員と特殊部隊が同じ空間にいるみたいな絵面になっていた。

 

 俺は雑念を振り払うため、無理やり思考を切り替える。

 

(ヤタガラスを俺専用に改修するとしたら……推力偏向ノズルの追加と、姿勢制御補助AIの再構築。それに――)

 

 必死に機体設計へ意識を逃がしながら、黙々と作業を続けた。

 

 ――三時間後。

 

 結論から言おう。

 

 肉欲は振り切れなかった。

 

 Ex-Sのコクピット内で悶々としながら、俺は半ば死んだ目でコンテナを運んでいた。

 

(なんなんだあの人……)

 

 偶然なのか天然なのか知らないが、セシルさんは絶妙にこちらの情欲を刺激する動きをしてくる。

 

 前屈みになる。

 

 密着する。

 

 距離が近い。

 

 危険だ。非常に危険だった。

 

「永夢くん。作業もひと段落ついたし、休憩にしましょうか」

 

 ヤタガラスを解除しながら、セシルさんが笑みを向ける。

 

「学園の食堂、今日から利用できるらしいから」

 

「……え?」

 

 思わず素の声が出た。

 

「いや、今って普通に昼時ですよね? 他の生徒いますよね?」

 

「いるでしょうね」

 

「そこに男の俺が行ったら大騒ぎになりますよ。俺、明日正式発表なんですよ?」

 

「大丈夫、大丈夫」

 

 セシルさんは軽く手を振る。

 

「IS学園施設内で実力行使はできないから」

 

「そういう問題じゃ――」

 

「ほら、行きましょう?」

 

 そう言って彼女はヤタガラスを完全解除し、その上から倉持技研のロゴ入り白衣を羽織った。

 

 研究者モードへ切り替わったはずなのに、むしろ色気が増している気がする。なんでだ。

 

「……分かりました。じゃあ俺、向こうでパイロットスーツ脱いできます」

 

 Ex-Sを解除し、首に待機形態の天球儀を下げる。

 

 そのまま別室へ向かおうとした瞬間――

 

 むにっ。

 

「っ!?」

 

 右腕に、柔らかな感触が押し当てられた。

 

 ギギギ……と音が鳴りそうな勢いで首を動かす。

 

 すると、セシルさんが悪戯っぽい笑みを浮かべながら、俺の腕に胸を押し当てていた。

 

「ちょ、セシルさん!?」

 

「ふふっ。永夢くん、かわいい」

 

「かわいいで済ませる気ですか!?」

 

「さ、このまま行きましょう?」

 

 完全に遊ばれていた。

 

 そして俺は、そのまま抵抗もできず、食堂へ連行されることになった。

 

 ――IS学園食堂。

 

 昼休み真っ只中の食堂は、女子生徒たちの賑やかな声で満ちていた。

 

 だが。

 

 入口が開いた瞬間。

 

 空気が、止まった。

 

 最初に入ってきたのは、倉持技研のロゴ入り白衣を羽織った女性研究員。

 

 その隣には――

 

 全身をガッチガチのパイロットスーツで覆い、首から天球儀を下げた長身の男。

 

 しかも、そのスーツには白文字ではっきりと所属が刻まれている。

 

『倉持技研 第一研究所』

 

 一瞬前まで賑やかだった食堂が、水を打ったように静まり返った。

 

「……え?」

 

「男……?」

 

「うそ……」

 

「え、でも今……」

 

 女子生徒たちの視線が、一斉にこちらへ突き刺さる。

 

 しかも俺は、パイロットスーツのせいで体格が余計強調されていた。

 

 ただでさえ高い身長に、軍用じみた装備。

 

 結果、どう見ても“普通の男子高校生”には見えない。

 

 むしろどこかの特殊部隊員だ。

 

 俺は死んだ。社会的に。

 

 だがそんな空気など意に介さず、セシルさんは当然のように歩いていく。

 

「永夢くん、こっち空いてるわ」

 

「……はい……」

 

 俺は魂の抜けた声で返事をし、席へ座った。

 

 周囲の視線が痛い。痛すぎる。

 

 しかも、ちらちらとこちらを見てくる女子生徒たちが何人もいる。

 

 話しかけたい。

 

 でも近寄れない。

 

 そんな空気が露骨に伝わってきた。

 

 原因は明白だ。

 

 俺の身長。

 

 そしてパイロットスーツに刻まれた《倉持技研 第一研究所》の文字。

 

 IS関連企業でも世界トップクラスの名前だ。

 

 しかも第一研究所所属。

 

 一般生徒からすれば、どう考えても得体の知れない危険人物だった。

 

「じゃあ、私はご飯取ってくるわね」

 

 セシルさんはそう言うと、平然とカウンターへ向かっていった。

 

 取り残された俺は。

 

「…………」

 

 耐えきれず、机へ上半身を突っ伏した。

 

 もう空気になりたい。

 

 むしろ床のシミになりたい。

 

 だが――

 

「ね、ねえ……話しかける?」

 

「でもなんか怖くない……?」

 

「研究所所属って書いてある……」

 

「軍関係者とかじゃ……?」

 

「でも声ちょっと若かったよね……?」

 

 ひそひそ声だけは、しっかり聞こえていた。

 

(帰りたい……)

 

 切実にそう思う瞬間だった。

 

 

 

  十分後。

 

 ――俺をこの地獄へ連れてきた元凶が、ようやく戻ってきた。

 

 セシルさんは両手に盆を抱えている。

 

 片方には普通のカツ丼。

 

 そして、もう片方には――明らかに量がおかしい大盛りカツ丼。

 

「はい、永夢くん」

 

 当然のように、デカい方がこちらへ差し出された。

 

「……どうも」

 

 俺はそれを受け取り、無言で箸を持つ。

 

 食べる。

 

 ひたすら食べる。

 

 周囲から突き刺さる視線を忘れるように、黙々と食べ続ける。

 

 ……いや無理だ。忘れられるわけがない。

 

 女子生徒たちの視線が、ずっとこちらへ集中している。

 

 しかも誰も大声で話さない。

 

 食堂に満ちていた喧騒は完全に消え失せ、聞こえるのは食器の触れ合う小さな音だけだった。

 

 居心地が悪すぎる。

 

 針のむしろどころじゃない。

 

(帰りたい……)

 

 心の底からそう思いながら、俺はカツ丼を胃へ流し込んでいく。

 

 そして数分後。

 

「……ごちそうさまでした」

 

 俺は空になった丼を置いた。

 

 だが向かい側を見ると、セシルさんはまだ普通に食事中だった。

 

 ……いや、なんで俺より食べるの遅いんですか。

 

 この空気の中で平然と食事できる精神が凄すぎる。

 

 俺は耐えきれず、盆を持って立ち上がった。

 

「食べ終わったんで、先に戻ってます」

 

 すると。

 

「待って」

 

 即座に止められた。

 

「いや、きついんですよ。この空気」

 

 思わず本音が漏れる。

 

 周囲の女子生徒たちは、俺たちが食堂へ入ってきてからほとんど会話をしていなかった。

 

 ただひたすら、“男”という存在へ全神経を集中させている。

 

 視線。

 

 気配。

 

 緊張。

 

 全部伝わってくる。

 

 生きた心地がしない。

 

「私も食べ終わったから」

 

「え?」

 

 視線を落とす。

 

 そこには、ついさっきまで食べていたはずのカツ丼が綺麗さっぱり消えていた。

 

 ……いつの間に。

 

 さっきまで普通に口へ運んでませんでした?

 

 俺が困惑している間に、セシルさんは何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「行きましょうか」

 

「……はい」

 

 俺たちは並んで返却口へ盆を戻し、そのまま食堂出口へ向かった。

 

 ――そして。

 

 あと数歩で外へ出る、その瞬間。

 

 セシルさんが不意に立ち止まった。

 

「?」

 

 次の瞬間。

 

 彼女はくるりと百八十度反転し、食堂中の女子生徒たちへ視線を向ける。

 

 その動きだけで、空気が再び静まり返った。

 

 そして。

 

 セシルさんは、口元に笑みを浮かべたまま言い放つ。

 

「明日のニュース――全神経を巡らせて見ていなさい」

 

 爆弾だった。

 

 特大級の。

 

 一瞬の静寂。

 

 直後。

 

 俺たちが食堂を出た瞬間、背後から――

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

 爆発みたいな絶叫が轟いた。

 

 食堂全体が、一気にパニックへ変わる。

 

「今のどういう意味!?」

 

「ニュースって何!?」

 

「え、待って、まさか……!」

 

「男の人だったよね!?」

 

「倉持技研って言ってたよね!?」

 

 阿鼻叫喚。

 

 完全に大騒ぎだった。

 

 俺は引き攣った顔で隣を見る。

 

「……何やってるんですか」

 

「ふふっ」

 

 セシルさんは実に楽しそうに笑った。

 

「どうせ明日には分かることだもの」

 

「いや、心の準備ってものがあるでしょう!?」

 

「大丈夫よ」

 

 セシルさんは悪戯っぽく微笑む。

 

「たぶん、明日はもっと凄いことになるから」

 

「全然大丈夫じゃない……」

 

 遠くから聞こえてくる混乱の声を背に、俺は頭を抱えながら地下研究区画への通路を歩いていく。

 

 ……やっぱり。

 

 俺のIS学園生活、絶対平穏にはならない。

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