インフィニット・ストラトス ~暮桜の懺悔~   作:熾天使セラフィム

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ストックがなかろうとも、書けば良かろうなのだぁ!!


ぼくはごらんの通り、ごく普通の青年だよ

 三月二十一日。

 

 午前六時四十分。

 

 IS学園食堂。

 

 朝食にはまだ少し早い時間帯だというのに、食堂内は妙な熱気に包まれていた。

 

 理由は単純。

 

 今日、世界がひっくり返るかもしれないからだ。

 

 食堂中央に設置された大型モニターでは、朝のニュース番組が流れている。

 

『――本日午前十時より、日本政府及びIS委員会合同による緊急記者会見が予定されています』

 

『内容は非公開。しかし各国報道機関は、“IS関連の重大発表”であると報じています』

 

 画面下には、速報テロップが何度も流れていた。

 

 そして。

 

 そのテレビを、俺は一人で眺めていた。

 

「…………」

 

 カチャ。

 

 味噌汁を啜る。

 

 焼き鮭を食べる。

 

 白米を口へ運ぶ。

 

 だが、落ち着かない。

 

 非常に落ち着かない。

 

 なぜなら――。

 

(視線が痛い……)

 

 周囲の女子生徒たちが、朝からずっとこちらを見ていた。

 

 昨日の件が完全に尾を引いている。

 

 しかも今日は、昨日と違ってセシルさんがいない。

 

 つまり俺一人だ。

 

 結果。

 

 女子生徒たちは遠慮なくこちらを観察していた。

 

「やっぱり昨日の人だよね……?」

 

「うん、絶対そう……」

 

「でもほんとに男の人なんだ……」

 

「背高……」

 

「ていうか、顔よくない……?」

 

「バカ、聞こえるって!」

 

 聞こえてます。

 

 めちゃくちゃ聞こえてます。

 

 俺は無言で焼き鮭を咀嚼した。

 

 助けてほしい。

 

 非常に帰りたい。

 

 だが逃げ場はない。

 

 地下研究区画へ戻れば確実にセシルさんに捕まる。

 

 しかも朝から、

 

『今日は面白いことになりそうですねぇ』

 

 とか言いながら送り出された。

 

 絶対面白がってる。

 

 すると。

 

「隣、座るぞ」

 

 不意に低い声が飛んできた。

 

 顔を上げる。

 

 そこには、朝食の乗った盆を片手にした織斑千冬が立っていた。

 

 黒を基調とした教師用制服。

 

 相変わらず隙のない雰囲気だ。

 

 そのまま彼女は俺の向かいへ腰を下ろした。

 

「別に構いませんよ」

 

 俺はそう返し、再び朝食へ意識を戻す。

 

 だが。

 

 向かい側から、じっとりとした視線が突き刺さってきた。

 

「昨日は、よくもやってくれたな」

 

 恨みの籠もった声音だった。

 

 俺は味噌汁を飲みながら即座に反論する。

 

「あれはセシルさんがやりました。俺はただ、上司の命令に従っただけです」

 

「ほう?」

 

 千冬先生の口元がわずかに歪む。

 

「その割には――」

 

 彼女は制服のポケットから携帯端末を取り出した。

 

 嫌な予感がした。

 

 そして。

 

「随分と幸せそうな顔をしているように見えるなぁ?」

 

「げっ」

 

 画面に映っていたのは、昨日の俺だった。

 

 セシル博士に腕を抱かれ、胸を押し付けられながら歩いている姿。

 

 しかも。

 

 俺の顔が酷い。

 

 完全に理性が蒸発しかけている男の顔だった。

 

「私には、“二つの魔力”に屈した男の顔にしか見えんのだが? 気のせいか?」

 

「監視カメラ映像を勝手に使うのは犯罪ですよ」

 

「私はこの学園のセキュリティ管理責任者だ。業務の範囲内だ」

 

 ぐうの音も出ない。

 

 千冬先生は端末をしまい、深くため息を吐いた。

 

「貴様らが昨日やらかしてくれたおかげで、生徒からの質問と外部からの問い合わせが止まらん」

 

「ご愁傷様です」

 

「他人事みたいに言うな。原因の半分は貴様だ」

 

 否定できないのが辛い。

 

 周囲の女子生徒たちも、こちらの会話を聞こうとしているのか、完全に耳をそばだてていた。

 

 しかも“織斑千冬と普通に会話している男”という光景そのものが衝撃らしく、食堂内の空気がまた妙にざわついている。

 

「……まあいい」

 

 千冬先生はお茶を一口飲む。

 

「貴様がセシル博士とどれだけいちゃつこうが、私には関係ない」

 

「いちゃついてません」

 

「客観的に見ろ」

 

 正論だった。

 

 俺が黙り込むと、千冬先生は少しだけ口元を緩めた。

 

 そして。

 

「聞かせろ」

 

「何をです?」

 

「貴様とセシル博士は、どういう関係なんだ?」

 

 その目が、わずかに輝いていた。

 

 ……この人。

 

 ちょっと面白がってないか?

 

「どういうって……普通に上司と部下ですよ」

 

「ほう」

 

「本当にそれだけです」

 

「ふむ」

 

「なんですかその納得してない顔」

 

 すると千冬先生は頬杖をつきながら、じっとこちらを見てきた。

 

「セシル博士が、男に対してあそこまで距離感を詰めるとは思わなかっただけだ」

 

「俺だって思ってませんでしたよ」

 

「だろうな」

 

 妙に即答だった。

 

「貴様、昨日完全に処理落ちしていたからな」

 

「やめてください思い出したくない」

 

「無理だ」

 

 きっぱり言われた。

 

 しかも若干楽しそうだ。

 

 この人絶対Sだ。

 

 すると不意に、千冬先生の表情が少し真面目なものへ変わった。

 

「……話は変わるが」

 

「はい?」

 

「ここへ来てから、誰かに何かされてはいないか?」

 

 その声音は、教師というより保護者に近かった。

 

「いませんね」

 

 俺は肩を竦める。

 

「この肉体に感謝ですよ」

 

 そう言って、自分の体格を軽く示した。

 

 百九十近い身長。

 

 鍛え上げられた身体。

 

 さらに昨日の一件で、“倉持技研第一研究所所属”という印象まで付与されている。

 

 結果として。

 

 女子生徒たちは興味津々ではあるものの、誰も物理的に近寄ってこない。

 

「そうか」

 

 千冬先生は静かに頷いた。

 

 だが次の瞬間、その目が鋭く細められる。

 

「もし何かありそうなら、すぐ言え」

 

「……はい?」

 

「一夏はともかく、貴様に何かあったら私たちの首が文字通り飛ぶ」

 

「怖いこと言わないでください」

 

「事実だ」

 

 断言だった。

 

 そしてかなり小さい声で、

 

「世界で二人目の男性IS操縦者。しかも倉持技研所属。その上、《Ex-S》などという戦略兵器まで抱えている」

 

 千冬先生は淡々と続ける。

 

「そんな存在に、IS学園内で問題が起きたとなれば……日本政府もIS委員会も責任問題で吹き飛ぶ」

 

「うわぁ……」

 

 想像以上に洒落になってなかった。

 

「だから遠慮なく頼れ。教師権限でどうにでもしてやる」

 

「……意外ですね」

 

「何がだ?」

 

「もっと放任主義かと思ってました」

 

 すると。

 

 千冬先生は一瞬だけ目を細め――

 

「教え子を守るのも教師の仕事だ」

 

 そう、静かに言った。

 

 その言葉には妙な重みがあった。

 

 俺が少し黙っていると、彼女は照れ隠しみたいに咳払いする。

 

「……それに」

 

「?」

 

「貴様は放っておくと、面倒事へ自分から突っ込みそうだからな」

 

「否定はしませんね。どちらかというと何もしていないのに寄ってきますが」

 

「だろうな」

 

 即答だった。

 

 その瞬間。

 

『速報です! 本日予定されている緊急記者会見について、新たな情報が入りました――!』

 

 食堂中の視線が、一斉にテレビへ向く。

 

 そして俺も。

 

 静かに箸を置き、モニターを見上げた。

 

 ――世界が変わる瞬間まで。

 

 あと、三時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 午前九時五十八分。

 

 IS学園食堂。

 

 もはや食事をしている者はほとんどいなかった。

 

 女子生徒たちは皆、食堂中央の大型モニターへ視線を向けている。

 

 誰もが落ち着かない様子だった。

 

 当然だ。

 

 世界規模で報道されている“IS関連の重大発表”。

 

 しかも、昨日からSNSでは“IS学園に現れた謎の男”が話題になっている。

 

 無関係だと思っている者など、もう誰もいなかった。

 

 そして。

 

 その“元凶”である俺はというと。

 

「…………」

 

 食堂の隅で、静かにコーヒーを飲んでいた。

 

 もう何をしても視線が集まるので諦めた。

 

 慣れって怖い。

 

 ちなみに隣にはセシルさん。

 

 向かいには織斑先生。

 

 なんでこの席配置なんだろう。

 

 逃げられないんだけど。

 

「いよいよですねぇ」

 

 セシルさんが妙に楽しそうに笑う。

 

「他人事みたいですね」

 

「実際、私は研究者側ですから」

 

「俺は当事者なんですが」

 

「大丈夫ですよ」

 

 セシルさんはにこやかに続けた。

 

「永夢君なら、そのうち諦められます」

 

「慣れろってことですか?」

 

「はい♪」

 

 笑顔が眩しい。

 

 助けてほしい。

 

 すると。

 

 向かい側でお茶を飲んでいた千冬先生が、呆れたように息を吐いた。

 

「朝から騒がしい奴らだ」

 

「先生が言います?」

 

「私は巻き込まれた側だ」

 

「俺も巻き込まれた側なんですが」

 

「諦めろ」

 

 酷い。

 

 その時。

 

 大型モニターの画面が切り替わった。

 

『まもなく、日本政府及びIS委員会合同記者会見を開始します』

 

 食堂内の空気が、一気に張り詰める。

 

 ざわめきが消えた。

 

 静寂。

 

 全員がテレビへ釘付けになる。

 

 画面に映し出されたのは、大規模な記者会見場だった。

 

 世界各国の報道陣。

 

 無数のカメラ。

 

 フラッシュ。

 

 壇上には、日本政府高官とIS委員会職員が並んでいる。

 

 そして中央には――。

 

「母さんか」

 

 倉持真理博士。

 

 倉持技研第一研究所所長。

 

 俺の母親。

 

 白衣姿のまま壇上へ立つその姿は、普段の柔らかな雰囲気とは別人みたいだった。

 

 研究者としての顔。

 

 世界最高峰技術者の一人としての顔。

 

 食堂内でも、女子生徒たちがざわつく。

 

「え、あの人って……」

 

「倉持技研の……」

 

「テレビで見たことある……!」

 

 すると会見場のマイクが開いた。

 

『それでは、会見を開始します』

 

 司会者が淡々と告げる。

 

『本日、我々は世界に対し、二つの重大事項を公表します』

 

 二つ。

 

 その瞬間、俺の隣でセシルさんが口元を隠しながら笑った。

 

 嫌な予感しかしない。

 

『第一に――』

 

 司会者が言葉を区切る。

 

『世界で二人目となる、男性IS操縦者の存在を正式確認しました』

 

 直後。

 

 記者会見場が爆発した。

 

『!?』

 

『男性!?』

 

『二人目だと!?』

 

『日本以外にも存在したのか!?』

 

 怒号のような声。

 

 フラッシュ。

 

 飛び交う質問。

 

 食堂側も同様だった。

 

「きゃああああっ!?」

 

「やっぱりぃぃぃ!!」

 

「昨日の人ぉぉぉ!!」

 

「えぇぇぇぇぇっ!?」

 

 大絶叫。

 

 椅子から立ち上がる生徒までいる。

 

 そして。

 

 視線。

 

 食堂中の全視線が、一斉に俺へ突き刺さった。

 

「…………」

 

 俺は静かにコーヒーを飲んだ。

 

 もうどうにでもなれ。

 

 テレビでは会見が続いている。

 

『該当人物は現在、日本政府及びIS委員会保護下にてIS学園へ入学済みです』

 

『氏名は――』

 

 その瞬間。

 

 食堂内の空気が凍りつく。

 

『烏間永夢』

 

 静寂。

 

 次の瞬間。

 

『きゃあああああああああっ!?』

 

 食堂が崩壊した。

 

「名前出たぁぁぁ!!」

 

「本当にいたぁぁぁ!!」

 

「うそぉぉぉぉ!!」

 

「え、同じ学校!?」

 

「ちょ、待って無理無理無理!!」

 

 もはや収拾がつかない。

 

 俺は机へ突っ伏した。

 

「帰りたい……」

 

「無理ですねぇ」

 

 セシルさんが即答した。

 

「諦めろ」

 

 千冬先生まで追撃してくる。

 

 酷い。

 

 だが。

 

 会見は、まだ終わっていなかった。

 

『そして第二に――』

 

 司会者の声色が変わる。

 

『現在、烏間永夢専用ISとして確認されている機体について説明を行います』

 

 その瞬間。

 

 千冬先生の目が鋭く細められた。

 

 セシルさんの笑みも、研究者のものへ変わる。

 

 そして俺は。

 

 嫌な予感しかしなかった。

 

『機体名称――《Ex-Sガンダム》』

 

 会見場の巨大スクリーンに映像が映し出される。

 

 そこに現れたのは。

 

 白と青を基調とした、巨大な人型兵器。

 

 通常ISとは比較にならない巨体。

 

 異様な武装量。

 

 圧倒的存在感。

 

 そして、その背後に展開された無数のブースター。

 

 食堂内から、誰かの呟きが漏れた。

 

「……なに、あれ」

 

 それは。

 

 少女たちが知る“IS”という兵器の常識を、根底から破壊する存在だった。

 

『質問を!』

 

『Ex-Sガンダムとは一体何なのですか!?』

 

『通常ISとの関連性は!?』

 

『男性がISを操縦可能になった理由は判明しているのですか!?』

 

『烏間永夢氏は倉持真理博士の実子なのですか!?』

 

 記者会見場が怒号に包まれる。

 

 フラッシュが絶え間なく焚かれ、無数のマイクが壇上へ突き付けられていた。

 

 世界中のメディアが、この瞬間へ食らいついている。

 

 当然だ。

 

 世界観そのものが変わりかねない発表だった。

 

 食堂の女子生徒たちも完全にテレビへ釘付けになっている。

 

 そして俺は。

 

「……うわぁ」

 

 他人事みたいに画面を眺めていた。

 

「凄いことになってますねぇ」

 

 隣でセシルさんが実に楽しそうに呟く。

 

「絶対他人事だと思ってますよね?」

 

「半分くらいは♪」

 

 否定しないんだ。

 

 すると。

 

 壇上中央に立っていた母さん――烏間真理博士が、一歩前へ出た。

 

 それだけで、会場の喧騒がわずかに静まる。

 

 倉持真理。

 

 世界最高峰IS技術者の一人。

 

 その名前には、それだけの重みがあった。

 

『順番にお答えします』

 

 静かな声だった。

 

 だが、不思議と会場全体が耳を傾けてしまう。

 

『まず、“Ex-Sガンダム”について』

 

 背後スクリーンに、再びEx-Sの機体映像が映し出される。

 

 巨大な白き機体。

 

 通常ISとは一線を画す異形。

 

 それだけで記者たちの空気が変わる。

 

『本機は現在、正式には“特殊大型IS”として登録されています』

 

『特殊大型……!?』

 

『大型ISの実在を認めるのですか!?』

 

『従来理論では不可能だったはずでは!?』

 

 再びざわめきが広がる。

 

 だが母さんは淡々と続けた。

 

『従来型ISとの最大の違いは、機体規模と演算領域です』

 

『Ex-Sガンダムは、通常ISを遥かに超える拡張領域を有しています』

 

 スクリーンに比較図が表示される。

 

 一般IS。

 

 そしてEx-S。

 

 サイズ比率がおかしかった。

 

 会場からどよめきが漏れる。

 

『でか……』

 

『なんだこのサイズは……』

 

『本当にISなのか……?』

 

 食堂側でも、女子生徒たちが青ざめ始めていた。

 

「え……大きすぎない?」

 

「ラファールより全然……」

 

「待って、武装の数おかしくない……?」

 

 当然だ。

 

 IS世界の常識では、“個人携行兵器”がIS。

 

 だがEx-Sは違う。

 

 あれはもう、“戦術兵器”だった。

 

『また、本機は単独での長距離高速機動、多重同時攻撃、高火力制圧戦闘を可能としています』

 

『お待ちください!』

 

 一人の記者が立ち上がる。

 

『それは既存ISの軍事バランスを崩壊させる性能では!?』

 

 鋭い質問だった。

 

 その瞬間。

 

 会場の空気が変わる。

 

 政治。

 

 軍事。

 

 国家安全保障。

 

 誰もがそこへ意識を向け始めた。

 

 だが母さんは、真正面から答えた。

 

『その通りです』

 

 会場が凍った。

 

 食堂も静まり返る。

 

『Ex-Sガンダムは、既存ISとは思想そのものが異なります』

 

『従来型ISが“対人戦闘兵器”であるならば、本機は“対軍級戦術兵器”です』

 

 記者たちの顔色が変わる。

 

『なっ――』

 

『対軍!?』

 

『そこまで言い切るのですか!?』

 

『はい』

 

 母さんは一切迷わなかった。

 

『故に、本機は現在、日本政府及びIS委員会共同監視下に置かれています』

 

 その発言に、世界中の人間が理解した。

 

 これは単なる新型ISではない。

 

 “国家戦略級案件”なのだと。

 

 すると。

 

『では次に質問です!』

 

『烏間永夢氏についてお聞きします!』

 

 記者の一人が声を張り上げた。

 

『烏間真理博士との関係は!?』

 

『実子なのですか!?』

 

 その瞬間。

 

 食堂中の視線が、再び俺へ突き刺さった。

 

「…………」

 

 やめて。

 

 俺を見るな。

 

 テレビを見ろ。

 

 だが母さんは、少しだけ柔らかな笑みを浮かべた。

 

『はい』

 

『烏間永夢は、私の息子です』

 

 爆発。

 

 今度こそ、世界が爆発した。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

『実子!?』

 

『烏間真理博士の!?』

 

『では彼は倉持技研の――!?』

 

『次世代開発者でもあるということですか!?』

 

 質問が雪崩みたいに飛び交う。

 

 食堂側も完全に崩壊していた。

 

「うそぉぉぉぉ!?」

 

「烏間博士の息子!?」

 

「待って情報量!!」

 

「え、じゃあ超エリート!?」

 

「しかも顔良っ!!」

 

 最後関係なくない?

 

 俺が遠い目をしていると、隣で千冬先生が呟いた。

 

「もう隠す気ゼロだな」

 

「止められなかったんですか?」

 

「無理だ」

 

 即答だった。

 

 するとテレビ側では、さらに追撃が始まる。

 

『では烏間永夢氏は、Ex-Sガンダム開発にも関わっているのですか!?』

 

 一瞬。

 

 母さんが笑った。

 

 その笑みは、研究者のものだった。

 

『深く関わっています』

 

 嫌な予感がする。

 

『Ex-Sガンダムは、“烏間永夢専用IS”として開発されました』

 

『また、機体OS及び基礎戦術理論の一部は、烏間永夢本人によって構築されています』

 

 食堂が静止した。

 

 数秒。

 

 誰も声を出さない。

 

 そして。

 

『…………え?』

 

 誰かが、そう漏らした。

 

 直後。

 

『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?』

 

 再び大絶叫が轟いた。

 

 もう駄目だった。

 

 情報量が多すぎる。

 

 男子。

 

 IS操縦者。

 

 倉持博士の息子。

 

 研究者。

 

 しかも自分専用IS持ち。

 

 さらに開発関係者。

 

 女子生徒たちの脳が完全に処理落ちしていた。

 

 そして俺は。

 

「……穴掘って埋まりたい」

 

 本気でそう思っていた。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 記者会見終了から、およそ三十分後。

 

 IS学園食堂。

 

 もはや食堂は、食事をする場所ではなくなっていた。

 

 世界で二人目の男性IS操縦者。

 

 その本人が、今まさに同じ空間にいる。

 

 その事実だけで、学園中の生徒たちが食堂へ集まり始めていた。

 

 テレビ前。

 

 テーブル席。

 

 二階通路。

 

 どこも女子生徒で埋まっている。

 

 そして、その視線の中心には――。

 

「…………」

 

 俺。

 

 逃げたい。

 

 非常に逃げたい。

 

 だが。

 

「観念しろ」

 

 隣でお茶を飲みながら、織斑千冬が淡々と言った。

 

「もう手遅れだ」

 

「他人事みたいに言わないでくださいよ……」

 

「実際、私は管理側だ」

 

 この人絶対楽しんでる。

 

 すると。

 

 千冬先生がゆっくり立ち上がった。

 

 その瞬間、食堂内のざわめきが徐々に静まっていく。

 

 やはり存在感が凄い。

 

 教師というより猛獣だ。

 

 千冬先生は食堂全体を見渡し、低い声で言い放つ。

 

「静かにしろ」

 

 一瞬で静寂が訪れた。

 

 数百人規模の女子生徒が、一斉に口を閉じる。

 

 怖い。

 

 統率力どうなってるのこの人。

 

「既にニュースで知っている者が大半だろう」

 

 千冬先生は俺へ視線を向けた。

 

「本日よりIS学園へ正式所属となる人物を紹介する」

 

 その瞬間。

 

 食堂中の空気が変わった。

 

 期待。

 

 緊張。

 

 興奮。

 

 全員の視線が、完全にこちらへ固定される。

 

 やめて。

 

 見ないで。

 

「立て、烏間」

 

「……はい」

 

 俺は重い腰を上げた。

 

 その瞬間、食堂中から小さな悲鳴が漏れる。

 

「わっ……でか……」

 

「本当に男の人だ……」

 

「近くで見るとヤバ……」

 

 聞こえてます。

 

 めちゃくちゃ聞こえてます。

 

 俺は胃痛を感じながら立ち上がった。

 

 すると千冬先生が、淡々と紹介を始める。

 

「彼の名は烏間永夢」

 

 静かな声。

 

 だが食堂中が息を呑んだ。

 

「本日、日本政府及びIS委員会合同記者会見で発表された通り、世界で二人目となる男性IS操縦者だ」

 

 ざわっ――と空気が揺れる。

 

「専用機は《Ex-Sガンダム》」

 

 再びどよめき。

 

「あの化け物……」

 

「普通のISじゃなかったよね……」

 

「武装多すぎ……」

 

 女子生徒たちの顔には、興奮と恐怖が入り混じっていた。

 

「また、彼は倉持技研第一研究所所属テストパイロットであり、《Ex-S》開発計画にも関与している」

 

 さらにざわめきが広がる。

 

「開発側!?」

 

「え、同年代だよね!?」

 

「意味わかんない……」

 

 俺も時々そう思う。

 

 すると千冬先生は、小さく息を吐いた。

 

「なお」

 

 その瞬間。

 

 空気が引き締まった。

 

「現在、烏間永夢及び《Ex-Sガンダム》は、日本政府・IS委員会・倉持技研共同監視管理下に置かれている」

 

 一瞬で空気が変わる。

 

 国家案件。

 

 国家機密。

 

 そういう言葉が、生徒たちの脳裏を過ったのだろう。

 

「つまり」

 

 千冬先生の目が鋭く細められる。

 

「余計な騒ぎを起こすな。以上だ」

 

 圧。

 

 圧が凄い。

 

 女子生徒たちが一斉に背筋を伸ばした。

 

 だが。

 

「では烏間」

 

 千冬先生がこちらを見る。

 

「自己紹介しろ」

 

「……はい」

 

 食堂中の視線が集まる。

 

 緊張する。

 

 めちゃくちゃ緊張する。

 

 俺は小さく息を吐き、口を開いた。

 

「烏間永夢です。20歳です」

 

「二十歳……?」

「え、年上!?」

「大学生!?」

 

 驚いた声が聞こえてきた。

 

「ニュースで大体公開された通りです。倉持技研第一研究所所属のテストパイロットをやってます」

 

 女子生徒たちが真剣に聞いている。

 

 なんか記者会見みたいになってきた。

 

「専用機はEx-Sガンダムです」

 

 そこで一度言葉を切る。

 

 そして。

 

「……多分、皆さんが思ってるより危ない機体なんで、近付く時は気を付けてください」

 

 暮桜とか暮桜とか暮桜とか・・・・・・

 

 一瞬。

 

 静寂。

 

 そして。

 

「いや怖っ!?」

 

 誰かが叫んだ。

 

 直後。

 

 食堂が爆笑に包まれた。

 

「アハハハハ!」

 

「自己紹介で言うこと!?」

 

「危険物扱い!?」

 

「でも絶対危ないでしょアレ!」

 

 一気に空気が和らぐ。

 

 少しだけ、張り詰めていた空気が崩れた。

 

 ……その時だった。

 

「質問いいですかっ!?」

 

 女子生徒の一人が勢いよく手を挙げた。

 

 嫌な予感しかしない。

 

「彼女いますか!?」

 

 食堂が爆発した。

 

「おい馬鹿者ォォォォ!!」

 

 千冬先生の怒号が轟く。

 

 だがもう遅い。

 

「好きなタイプは!?」

 

「身長何センチですか!?」

 

「Ex-Sって変形するんですか!?」

 

「筋肉触っていいですか!?」

 

 カオスだった。

 

 完全にカオスだった。

 

 そして俺は、心の底から思った。

 

 ――この学園、絶対平穏じゃない。

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