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春の陽光が、国立魔法大学付属第一高校の広大な敷地を淡く照らしていた。校門から講堂へと続く並木道には、満開の桜が風に舞い、新たな門出を祝うように新入生たちの肩に降り積もっている。
滄海凪沙(そうかい なぎさ)は、周囲の喧騒から少し離れた歩調で、その桜の絨毯を踏みしめていた。
身長183センチ。周囲の男子生徒より頭一つ分高いその体格は、制服越しでもしなやかな筋肉の存在を感じさせる。青みがかった黒髪を春風に遊ばせ、ブルーターコイズの瞳を眩しそうに細めた彼は、一見すればどこにでもいる、少し体格の良い男子高校生だった。
だが、彼の左胸には、第一高校の精鋭である一科生の証「花冠」のエンブレムはない。
「……ふぅ。ここが、僕の『普通の生活』のスタート地点か」
凪沙は小さく独り言を漏らした。彼をバックアップする『流体動力学研究所(ハイドロ・ダイナミクス・ラボ)』の室長、霧生慎一郎の顔が脳裏をよぎるが、すぐにそれを振り払う。今日からの僕は、ただの二科生、滄海凪沙だ。
「あ、そこの君。新入生の方かしら?」
鈴の音のような、涼やかで心地よい声が彼を引き止めた。
振り返ると、そこには透き通るような白い肌と、慈愛に満ちた微笑みを湛えた美しい上級生が立っていた。彼女の胸元には、生徒会役員、そして一科生であることを示す誇らしげな紋章が輝いている。
「あ、はい。そうですけど」
「会場の案内をしましょうか? 少し迷いやすい構造になっているから」
「助かります。僕は滄海凪沙といいます。……先輩は?」
「私は七草真由美。この学校の生徒会長をやらせてもらっているわ」
彼女は悪戯っぽく微笑んで見せた。その立ち居振る舞いには、名門の令嬢特有の気品と、人を惹きつけるカリスマ性が同居している。
「生徒会長……。そんな偉い人に案内してもらえるなんて、幸先が良いのかな」
「ふふ、そんなに硬くならないで。ところで、滄海くん。君の成績、少し気になっていたのよ。筆記試験の結果は、今年の新入生の中でもトップクラス。……それこそ、司波くんという子と並んでね」
真由美は歩きながら、凪沙の顔を覗き込むようにして言った。
「でも、実技試験の方は……随分と思い切った点数だったみたいだけど? 筆記の点数からすれば、少し不自然なくらい」
「ああ、あれは……。僕の持っているデバイスが、この学校の試験基準と少し相性が悪かったみたいで。出力の調整が上手くいかなかったんですよ」
凪沙は苦笑いを浮かべながら、当たり障りのない嘘を吐いた。本当は、彼の魔法計算尺(CAD)が、戦場の一区画を消滅させるような超大規模出力に最適化されていたため、試験用の精密標的など、大砲で蚊を射るようなものだったのだ。
「相性、ね……。でも、魔法工学の世界では、それも一つの実力のうちよ。期待しているわね、滄海くん」
真由美は講堂の入り口にたどり着くと、優雅に一礼して去っていった。その背中を見送りながら、凪沙は「期待しないでほしいんだけどな」と小さく肩をすくめた。
講堂内は熱気に包まれていた。一科生たちが前方で誇らしげに座る中、凪沙は必然的に後方の、二科生用のエリアへと向かう。空いている席を見つけて腰を下ろすと、隣には一人の少年が座っていた。
鋭い知性を感じさせる眼差し、どこか達観したような静寂を纏った雰囲気。凪沙よりも数センチ背は低いが、その体には無駄のない動きが染み付いているように見える。
「……隣、いいかな?」
「ああ」
少年は短く答えた。凪沙は彼に対し、自然体で言葉を掛けた。
「僕は滄海凪沙。よろしく。……君は?」
「司波達也だ」
その名を聞いた瞬間、凪沙は先ほどの真由美の言葉を思い出した。自分と並んで筆記試験のトップを獲ったという男。彼もまた、自分と同じ二科生の席に座っている。
「司波、か。よろしく、達也くん。……奇遇だね、僕らはどうやら同じような境遇らしい」
凪沙がそう言って微笑むと、達也もわずかに視線を動かし、凪沙のブルーターコイズの瞳を見返した。お互いに多くは語らないが、心のどこかで「自分と同じ、枠に収まりきらない人間」であることを察知したような、奇妙な沈黙が流れた。
その時だ。達也を挟んで、二人の少女がこちらに座るのが見えた。
「ちょっと、そこのきみ! 司波くんの知り合い?」
「……え?」
振り返ると、通路を挟んだ向かい側に、赤毛をショートカットにした活発そうな少女と、眼鏡をかけたお淑やかそうな少女が座っていた。
「私は千葉エリカ。で、こっちが柴田美月」
「あ、あの……柴田美月です。よろしくお願いします、ええと……」
「僕は滄海凪沙。よろしく、エリカちゃん、美月ちゃん」
凪沙は座席越しに挨拶を交わした。
すると、エリカがニヤリと口角を上げた。
「何かしらの運命なのかしらね、千葉に司波(しば)、それに柴田(しばた)……。なんだか、みんな発音が似てるわね。」
「本当ですね。なんだか語呂が近いような……」
美月がたしかにと補足すると、凪沙は一人だけ置いていかれたような、少し大げさなアクションを見せた。
「えっ、僕だけ仲間外れ? 滄海(そうかい)だけ少し遠くないかな。……僕もそのグループに混ぜてよ。仲間外れは寂しいからね」
凪沙がおどけて見せると、エリカはケタケタと笑い、美月は顔を赤らめて小さく会釈した。
入学式が始まる直前、凪沙の視線は美月の胸元に一瞬だけ釘付けになった。制服のブレザーを押し上げる、その圧倒的なボリューム。眼鏡の奥にある内気そうな瞳とのギャップが、凄まじい破壊力を秘めている。
やがて式典が始まり、静寂が訪れた。新入生総代として登壇した司波深雪の、寒気を覚えるほどの美しさと圧倒的な魔力の波動。それを間近で受けながら、凪沙は自身の内側に眠る「絶対零度」の魔力が、共鳴するように微かに震えるのを感じていた。
入学式が終わり、生徒たちは掲示板の前に集まっていた。自分のクラスを確認するためだ。掲示板には、凪沙と、達也、エリカ、美月の名前が同じ場所に並んでいた。
「あ、あった! 達也くんも美月も私も、みんなE組! 凪沙くんも一緒だわ!」
「はは、これは面白いね。さっきの『発音が似てるグループ』が全員同じクラスだ」
凪沙が笑っていると、背後から凛とした声が響いた。
「司波くん、それに滄海くんも。クラスは決まったかしら?」
現れたのは、生徒会長の七草真由美だった。
そこで始まった、達也と深雪のやり取り。兄を熱烈に敬愛する妹と、それを淡々と受け止める兄。周囲の一科生たちが不快感を示し、二科生たちが羨望の眼差しを向ける。
「兄様……。あのような者たちの言葉など、気になさらないでください」
「分かっているよ、深雪。僕は気にしていない」
真由美はそれを苦笑いで見守りつつ、凪沙の方へ向き直った。
「滄海くん。君と同じクラスには、個性的な子たちが集まったみたいね。退屈しない高校生活になりそうじゃない?」
「ええ、本当に。……でも、少し個性が強すぎて、僕みたいな平凡な男は影が薄くなっちゃいそうですよ」
「ふふ、そんなわけないでしょう? そのブルーターコイズの瞳、一度見たら忘れられないもの」
真由美は優雅に歩み去っていった。
その後、エリカが「ねえ、この後みんなで教室に行かない?」と誘いをかけた。美月も期待を込めた眼差しを凪沙に向ける。
だが、凪沙はふと思い出したようにポケットから携帯端末を取り出した。画面に表示された暗号化された通知を素早く確認すると、誰にも内容を盗み見られないよう手際よく画面を閉じ、穏やかに首を振った。
「ごめん。僕は今日は遠慮しておくよ。一人暮らしを始めたばかりでね、まだ荷解きが全然終わってないんだ。……知り合いからも、早めに片付けろって急かされててさ」
「えー、冷たいな、凪沙くん」
「はは、ごめん。その分、明日からしっかり付き合うから。……それじゃ、また明日、教室で会おう」
凪沙は軽く手を挙げると、一人で校門の方へと向かった。
ところ変わって
西新宿。空を切り裂くようにそびえ立つ、超高層マンションの最上階。
凪沙は専用のキーをかざし、自身が住むペントハウスへと入った。広大なリビングの壁一面が強化ガラスになっており、そこからは東京の夜景が一望できる。
彼はソファに深く沈み込み、空中に秘匿回線のホログラムを投影した。
『初日はどうだった、凪沙』
画面に映ったのは、流体動力学研究所の室長、霧生慎一郎だ。
「……別に。普通の高校生を演じるのは、意外と疲れるよ、霧生さん。あ、でも、面白い連中と同じクラスになった。司波達也っていう、底の知れない男とかね」
その名を聞いた瞬間、霧生はわずかに目を細めた。
『……司波、か。その名、十師族の頂点に君臨する“四葉”の文字を脳裏に過らせる。ただの偶然か、あるいは……。あの家系が関わっているとなれば、事は慎重に運ぶ必要があるな』
「そんなに警戒しなくてもいいだろ。彼は二科生だし、僕と同じで目立たないように振る舞っているだけに見えるよ。……まあ、僕の方は、君たちに『現象』を観測してもらうためのサンプルとして、大人しく座っているだけだけどさ」
凪沙は一方的に通信を切った。
静寂が訪れた広いリビングで、彼はキッチンカウンターに置かれた水の入ったグラスを、離れたソファから無造作に見つめる。
すると、グラスの中の水が、まるで意志を持っているかのように「ひとりでに」動き始めた。水面が不自然に盛り上がり、蛇のように鎌首をもたげると、重力を無視して空間へと躍り出る。それは凪沙の視線に導かれるように、リビングの隅に飾られていた、研究所から送られてきた重厚な合金製のオブジェへと狙いを定めた。
空間を滑るように飛翔する水。その一筋がオブジェに接触する直前、凪沙の瞳のブルーターコイズが、夜の闇の中で鋭く発火した。
「……位相転移」
一瞬。柔らかな水筋は、接触のコンマ数秒前にダイヤモンドをも凌駕する「硬化水」へと変質。音速を超える弾丸と化した水は、合金のオブジェを紙細工のように貫き、粉砕した。飛び散る破片が床に落ちるよりも早く、役割を終えた水は空中で即座に解除される。
パシャリ、と。
先ほどまで恐るべき破壊力を持っていた「凶器」は、ただの無害な水滴へと戻り、床をわずかに濡らした。
「……出力調整、やっぱりまだズレてるな。この感度じゃ、学校のテストで点が出ないわけだ」
凪沙は自嘲気味に呟くと、砕け散ったオブジェには目もくれず、寝室へと歩き出した。窓の外には、欲望と魔力が渦巻く東京の夜景が広がっている。
「さて……これからの学校での日々やいかに、かな」
その呟きは、誰に聞かせるでもなく夜の闇に溶けていった。凪いだ日常が終わり、何かが激しく動き出そうとしている。その予感だけが、静かに彼の胸に広がっていった。
どうでしたか(((´。•(•ω•。`)スリスリ♡
良かったですか?( +,,ÒㅅÓ,,)=3
最期まで読んでいただけるぐらいには仕上がってたでしょうか?
それなら良かったです。
また次の話ができたら投稿します。気にしないで待っていただければと思います。