【DB×HxH】サイヤ転生 〜バーダックの弟だが、飛ばされたHUNTER×HUNTERの世界で修業してフリーザたちをぶっ倒す〜   作:えーあいの下請け

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エピソードオブシャロ5

 

 船を降り、案内役から指示されたルートを歩く。

 活気のあった港町から少し外れただけで、景色はまるで別の星のように一変した。太陽の光すら淀んで見えるような、薄暗く湿気たスラム街だ。

 不快なのは、物陰のあちこちからオレたちを値踏みするようにねっとりと絡みついてくる視線。

 

 ただの治安の悪い街じゃねぇ。

 明らかに、この街全体がハンター試験の『(ふるい)』として機能している。

 

 前を歩くゴンは相変わらず野生動物のような警戒心でキョロキョロと周囲を観察しているが、後ろを歩くクラピカは、あからさまに神経を尖らせていた。

 レオリオは「人いねぇ」とかほざいてる。

 

「おい、本当にこの道で合ってんのか?」

「警戒を怠るな、レオリオ。ここもすでに試験会場の一部と考えた方がいい」

 

 そんな二人のヒソヒソ声を背中で聞きながら、オレは鼻を鳴らした。

 

(直接戦闘なら軽く揉んで、昼飯代でも巻き上げてやるんだがな)

 

 サイヤ人としての好戦的な血が微かに疼くのを抑えつつ、人気のない路地を歩いていた――瞬間。

 

 オレたちの足が止まる。

 

 立ち塞がってきたのは、奇妙な集団だった。ヤツらはガスマスクのようものを被っていて呼吸音がうざい。

 その中央には、やたらと背の低い、顔中シワだらけの老婆が座っていた。

 

 老婆の放つ気配は、そこらの人間とは違う。

 念使いではないようだが、奇妙な圧を感じる。

 

「ドキドキ二択クイズゥ!」

 

 老婆がいきなり、しわがれた奇妙な声を張り上げた。

 

 なんだそりゃ。ふざけた余興でも始まるのかとオレが眉をひそめた。

 クイズの説明はややこしかった。オレは兄貴ほど頭はキレない。兄貴ならこのクイズの意図も分かっただろうに。その時――

 

「おいおい、早くしてくれよ~」と、後ろから無駄だらけの足音と声が聞こえた。

 

 振り返るまでもない。さっきからオレたちの後ろをコソコソと尾行していたネズミだ。ニヤついた顔の男が、オレたちを横から強引に追い抜こうと駆け込んできた。

 

「悪いな、ボウヤたち。オレが先に答えさせてもらうぜ」

 

 男は勝ち誇ったような下劣な笑みを浮かべ、オレの肩にわざとぶつかるようにして前に出ようとした。

 

 ……あぁ?

 オレは反射的に動いていた。頭で考えたわけじゃない。顔の周りを飛ぶ鬱陶しいハエを払うような、ごく自然な動作。

 

 ただ、軽く右腕を裏拳の軌道で振っただけだ。

 

 ドォォォォンッ!!!

 

「が、べっ!?」

 

 オレの拳は、男の顔にも体にも、一ミリたりとも触れてすらいない。

 だが、オレの腕が薙いだ瞬間に生じた『凄まじい風圧』――圧縮された空気の壁が、見えない巨大なハンマーとなって男の全身を真正面から撥ね飛ばした。

 

 男の体は紙くずのように宙を舞い、数メートル先の壁に激突。壁にクモの巣状の亀裂を走らせて、そのままズリズリと地面に崩れ落ちた。

 白目を剥き、口から泡を吹いてピクピクと痙攣している。完全に意識が飛んでいた。

 

 場が、バケツで氷水をぶちまけられたように静まり返った。

 ガスマスクっぽい仮面を被った連中がピクッと身をこわばらせ、老婆ですら一瞬、目を丸くして呆然としていた。

 

 ゴンだけは「あーあ、横入りするから……」と苦笑いしているが、横を見るとレオリオとクラピカは目と口を点にして完全にフリーズしている。

 

「順番も守れねぇのか、テメェは。クイズがやりてぇなら、大人しく一番後ろに並んでろ」

 

 オレがゴキキッと首の骨を鳴らすと、その音でようやく我に返ったらしいレオリオが、顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。

 

「おっ、おいバカ! お前、今なにしやがった!?」

 

「あ? 見りゃわかるだろ。横入りするクズに、整列の礼儀を教えてやっただけだ」

 

「教えてやった、じゃねぇ!  試験官の目の前でいきなり暴力振るう奴があるか! っていうかここでオレたちまで連帯責任で失格にされたらどうすんだよ! だいたいなんだ今の、殴ってもいないのに人が吹っ飛んだぞ! 暴力……だよな、さっきの!?」

 

 レオリオが唾を飛ばしながらオレの胸ぐらを掴もうとするが、オレはそれを軽く手で払いのけた。

 

「ゴチャゴチャうるせぇな。横入りを黙って見過ごす方がどうかしてるだろ。オレたちの世界じゃ、横取りしようとする奴は殺されても文句は言えねぇんだよ。ガキがピーピー喚くな」

 

「ガキじゃねぇ! オレはもうすぐ二十だ! 立派な大人だぞ!」

 

「じゃあ十代だろ。オレからすりゃ、立派なピヨピヨのガキだ」

 

「なんだと、この非常識おっさん!」

 

 オレとレオリオが額を突き合わせて本気で睨み合う。レオリオの奴、ビビってるくせに一歩も引かないところは嫌いじゃないが、今すぐその鼻っ柱をへし折ってやりたい衝動に駆られる。

 

 その後ろで、クラピカが「はぁ……」と深すぎるため息をつきながら、頭を抱えていた。

 

「おいゴン、お前からもこの野蛮人に言ってやれ! お前の親代わりなんだろ!?」

 

「まあまあ、レオリオ落ち着いて。シャロも、あんまりやりすぎるとミトさんに怒られるよ?」

 

 ゴンの『ミトさんに怒られる』という一言で、オレの動きがピタッと止まる。あの冷たい視線と説教を思い出し、オレは舌打ちをしてレオリオから顔を離した。

 

 そんなオレたちのドタバタを見て、老婆がコホンと一つ大きな咳払いをして、無理やり場を仕切り直した。

 

「……ここから先はアタシのルールに従ってもらうよ。では、いくぞ。問題」

 

 しわがれた声が、広場に重く響き渡る。

 

「凶悪な人物にお前の『兄』と『妻』、二人が捕まった。お前には、どちらか一人しか助けられない。

 どちらを助ける?

 ①兄。

 ②妻。

 さあ、どっち?」

 

 ――ピタッ、と。

 オレの思考が、完全に停止した。

 

「あぁ!? ふざけんな、なんだそのクソみたいな問題は! 答えられるわけ――」

 

 隣でレオリオがブチギレて声を荒らげる。

 だが、その言葉は最後まで続かなかった。

 

 広場の空気が、突如として『凍結』したからだ。

 いや、凍結じゃない。オレの奥底から、どす黒くて、ひどく冷たい、けれどマグマのように煮え滾る『怒気』が、制御を外れて無意識に漏れ出したのだ。

 

 兄貴――バーダック。

 いつもオレより前に立って敵に向かっていった、あの不器用で誇り高き背中。

 

 妻――ミト。

 オレの過去を深く聞かず、ただ温かいメシを出してくれる存在。エトという宝物を産んでくれた、オレの帰るべき新たな場所。

 

 どっちを助ける?

 ふざけんな。天秤にかけろってのか? 人の命を? オレの大切な家族を?

 

『ホッホッホ……素晴らしい花火ですよ! ()()()()()から消してあげましょうかねぇ?』

 

 脳裏に、絶対に聞こえるはずのない、フリーザとクウラのあの嘲笑うような甲高い声がフラッシュバックした。

 

 サイヤ人の誇りも、故郷も、仲間も、全てを塵に変えたようとしたあの絶対的な絶望。

 

 オレが一番吐き気を催す『悪意』が、このババアの出したクイズと完璧に重なってしまったのだ。

 

「……オイ。ババア」

 

 気づけば、オレの全身からバチバチと火花のような『気』が弾けていた。

 カイトに教わった念の『絶』も『纏』も、今はもう関係ない。ただ純粋な、サイヤ人としての果てしない殺意と怒りがオーラとなって噴出している。

 ゴゴゴゴゴ……と地面が小さく揺れ、周囲の空気が何倍にも重く沈み込む。重力場が歪んだかのような錯覚。

 

「テメェ、今……なんつった?」

 

「ひっ……!?」

 

 オレの低い、地を這うような声に、レオリオが青ざめた顔でガクガクと震えながら後ずさった。

 

 さっきまで泰然としていたババアの顔にも、明確な『死の恐怖』が走り、仮面の連中は圧に耐えきれず次々と膝をついている。

 

 オレが一歩、老婆に向かって足を踏み出そうとした、その時だ。

 

 ピキッ……ミシィッ……!!

 

 オレの踏み出した足元の岩が、オレの体重と気圧に耐えきれず、まるで薄いガラスのようにクモの巣状にひび割れ、砂となって消えた。

 

「なっ……なんだありゃ!? あんな硬そうな岩が……足を踏み込んだだけで砕けただと!?」

 

 レオリオが目をひん剥いて、信じられないものを見るような顔でオレの足元を指差した。

 クラピカも滝のような冷や汗を流しながら、オレをじっと凝視している。

 

 その瞳に浮かんでいるのは、理解不能なバケモノに対する純粋な恐怖か、あるいは、自らの同胞を滅ぼされた『怒り』の深さをオレの中に見た共感か。ひどく警戒しきった、刃のような目だ。クラピカはあの日のオレと一緒だ。トーマ、セリパ。みんな。

 

 ただの人間とは明らかに違う、異世界から来た戦闘種族の、異質な力の暴走。

 広場全体が完全に凍りつき、オレが老婆の首を刎ね飛ばすのも時間の問題かと思われた、その刹那――。

 

「シャロ! やめるんだ!!」

 

 微かに、けれど必死に声を震わせたクラピカの叫びが響いた。

 

「今ここで彼女を殺せば、全てが終わる! それでいいのか!」

 

 その悲痛な響きに、オレはハッとして我に返った。

 

 見渡せば、レオリオは完全に腰を抜かして尻餅をついており、ゴンも珍しく顔をこわばらせて、心配そうな、悲しそうな目でオレを見つめていた。

 クラピカも必死に冷静さを保とうとしているが、木刀を握るその拳はかすかに震えている。

 

 ……そうか。ゴンたちを巻き込むわけにはいかねぇ。ミトに怒られる。

 オレはフゥ、と深く、長く息を吐き、その場でスッと口を噤んだ。

 

 全身から噴出していた爆発的な気を、無理やり腹の底へとねじ伏せる。軋むような痛みが走るが、今はそれに耐える。

 

 冷静になれ、思い出すんだ。

 

 この胸糞悪いババアの趣味の悪い二択クイズも、本試験へ向けた『試験』の一部だったはずだ。前世の記憶が正しければ。

 

 そして、正解は『沈黙』だ。二択なんて最初から存在しない。選べないという現実を受け入れること。今は、だがな。

 危うく過去のトラウマと怒りに任せて、原作のルートごとこの広場を物理的にぶち壊すところだった。

 

 果てしなく長く感じる沈黙。

 オレたちは誰も口を開かず、ただ時間が過ぎるのを待った。オレの殺気の余韻が残る中、やがてタイムアップを告げるババアのくちブザーが無機質に鳴り響いた。

 

 ババアは額の汗を拭い、大きく息をついてから、オレたちに本道への扉を開けた。

 

 無言こそが正解。わかってはいたが、やっぱり胸糞悪いクイズだ。

 

 ババアはオレが通り過ぎる際、少しだけ安堵したような顔でつぶやいた。

 

「なんだいあんた。見かけによらず、身内想いの熱い男じゃないか。そっちのサングラスもね」

 

「……ふん。二度とそのツラ見せんな」

 

 オレはそれだけ吐き捨てて、ババアの横を通りすぎた。

 

 

     * * *

 

 

 本試験会場へと続く、薄暗くなった森の道。

 夕闇が迫る空を眺めながら、四人で黙々と歩く。だが、さっきの船の上の嵐の時とは、明らかにオレたちを包む空気が違っていた。

 

「…………」

 

「…………」

 

 レオリオとクラピカが、あからさまにオレから距離を取って歩いている。

 

 時折、背後からチラチラとこちらを窺う二人の視線には、隠しきれない『警戒心』と『畏怖』、そして『コイツはヤバい』という明確な恐怖が混じっていた。

 

 無理もない。いくらなんでも、あんな得体の知れない力の片鱗を見せちまったんだ。足元の岩を気圧だけで粉砕するような奴が隣にいれば、誰だってバケモノ扱いする。

 文句は言えねぇ。

 

(まあ、試験が終わるまで適当に距離を置いておくか……)

 

 そうオレが諦めかけた時だった。

 

「シャロってさ、本当に素直じゃないよね。あんなに怒るんだったら、ミトさんにももっと直接『好きだ』って言えばいいのに」

 

 重苦しい空気をぶち破るように、ゴンが突然、前を歩きながら振り返って無邪気に笑った。

 その言葉に、後ろでビクビクしていたレオリオとクラピカが、ポカンと口を開けて歩みを止めた。

 

「「……ミトさん?」」

 

 二人の声が見事にハモる。

 

「うん! シャロはね、エトとミトさんのために、ハンターになっていっぱいお金を稼ぎたいんだって!」

 

「「……は?」」

 

 レオリオとクラピカが、オレとゴンを交互に見比べる。

 

「エトってのはシャロとミトさんの子供でね、ミトさんが奥さん! 前に船とかで言ったでしょ、一緒に暮らしてる家族だって。

あと、エトはすっごくたくさん食べるから、シャロは『家族にはいつも腹いっぱい食わせてやりてぇんだ。そのためなら何だってする』って言ってたんだ。

だから、さっきあんなに本気で怒ったんだよ。お兄さんのことも、すっごく尊敬してるって聞いてたしね」

 

 ゴンの屈託のない、100パーセント善意からの暴露。

 数秒の沈黙の後、レオリオとクラピカが、今度は信じられないものを見るような目でオレをガン見してきた。さっきの恐怖とは全く違う、ひどく間の抜けた目だ。

 

「お、お前……あんな殺戮兵器みたいな顔と力しといて……嫁さんと、子供までいんのかよ!?」

 

「てっきり、血も涙もない、殺戮を好むだけの気狂いかと思っていたが……ただの、極度の家族思いの父親だったというのか……?」

 

「しかも、ハンター試験の応募動機が『子供の食費を稼ぐため』……!?」

 

 オレは顔が一気にカッと熱くなるのを感じた。

 恥ずかしい。サイヤ人の誇りもクソもない、ただのマイホームパパじゃねぇか!

 

「いってぇ!!」

 

 オレはゴンの頭に、愛を込めて思い切り拳骨を落とした。

 

「バカ野郎! 人の事情を、ペラペラと得意げにしゃべんじゃねえよ!」

 

 頭を押さえて涙目になるゴンを放って、オレは真っ赤になった顔を隠すように、一人足早に一本杉へと歩き出した。

 

 後ろからは、「おい待てよ子煩悩!」「シャロ、意外と可愛いところがあるのだな」というレオリオとクラピカの笑い声が聞こえてくる。

 

 まったく。どいつもこいつも、オレの調子を狂わされやがる。

 だが、オレの口元は、自分でも気づかないうちに微かに緩んでいた。

 

 

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