ルナ・ライズ   作:とんかつ野郎

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息抜きに書きます。
続きます。


シチュエーションが悪かったらしい

 

 

 

 

 

「"個性"のない人間でもヒーローになれますか?」

 

 

 かの英雄デクはオールマイトにそう尋ねたそうだ。

 ヒーローである以上は求められる個性。彼は無個性で、それでも理想が諦めきれなかった。諦めが悪いといえばそこまでだけれど、どうせダメだと言われる当たり前を跳ね返す自分を持っていた。

 これを個性と言わず他に何と言うべきか、ヒーロー『アシガル』はわからずにいる。

 

 個性はあるが無個性な人間がいる。自分のような人間である。

 周りに合わせ流されてばかりで言いたいことが言えず、自分自身のことすらどこか他人事のように過ごしている人生。まるで窓越しに外の景色を覗くかのような心地で、実際自分は何をどうしたい人間なのかもわからない。

 本音が薄まっているのを感じたのだ。なるだけ自分に正直に生きようと決めた。

 

「というわけで、付き合ってください」

「何がというわけなのかわからん。断る」

 

 というわけで、数十回目となるヒーロー・ミルコへのプロポーズはまたしても成就しなかった。

 

「ちなみに理由を聞いても?」

「周りみてわからなかったら私以上の馬鹿だぜ、アシガル」

 

 ちらと見る周囲は夜の工事現場であり、そこいらには影から這い出る人影の群れ。

 人影には明確な敵意が感じられ、手先が剣や槍などの武器へと変貌していた。既に数体ミルコが撃破しているものの、所詮は影である。一度は崩れるもすぐにとぷんと地面の影と同化し、元通り群れに戻っていた。

 

 改めてだが、状況が良くなかった可能性がある。

 プロポーズにはそのための雰囲気作りが大事なのだと聞く。彼女はこういった状況を喜ぶ節があるためもしやとも思ったけれど、案外普通に夕暮れのビーチにでも連れていくのが良かったかもしれない。

 女心というものの難しさをひしひしと感じつつ、アシガルは吐息。

 

「まあいいや。かたっぱしから倒せば問題ないだろ?」

「多分本体倒せば消えるやつですね。どっかで見てるだろうから目の前のこいつらは無視して――」

「しゃらくせぇ!」

「あぁ、」

 

 ミルコはそう言って飛び出すなり人影の頭を前蹴りで砕き、近くの二体を回し蹴りで吹き飛ばす。

 次いで、振りぬいた右足をすぐ畳んでしゃがみ込むような姿勢。前方から上半身を狙った二本の槍による攻撃を躱すと、今度は飛び上がってそのまま空中でくるりと回転し、その勢いを乗せた両足で正面の人影二体に痛恨のかかと落としを決める。

 

「次ィ!」

 

 指示こそ聞いてはくれないが圧巻の戦闘力である。

 そんな彼女が大立ち回りをしてくれれば、一旦はアシガルにも落ち着いて考える余裕ができるわけで。

 

(......さて)

 

 正直、倒される可能性のある影の中に本体がいるとは思えない。

 仮にそうだとすればこのヴィランは大バカ者だし、何よりミルコのあの調子なら五分と経たないうちに本体にあの蹴りがヒットすることだろう。

 その線は考えても無駄なので即座に排し、別の可能性。どこか違う場所からこちらを監視し、影による攻撃を加えているというのはどうかと。

 

 思考し、特に見晴らしの良さそうな条件に絞ればおおよそ居場所は限定できる。

 すなわち、

 

「ミルコさん! 上だ、こいつは上の鉄骨のどこかに隠れてる!」

「うん?」

 

 刹那、ウサギが跳ねた。

 無重力かと錯覚するほどだった。ズドンと爆発が起きたかと錯覚するほどの踏み込み音を轟かせ、地面の影たちを置き去りにミルコはみるみる上に跳躍していく。

 そうして、骨組みとして置かれている鉄骨をいくつか渡った先。

 

「見つけたァ!」

「ひひぃ!?」

 

 やはりというかそこに隠れていたらしい。

 黒スーツのヴィランは逃げ腰のまま人影を生み出すが、ミルコはサーカスのように鉄骨間を飛び回り、

 

「踵半月輪ゥ!!」

 

 ――踵半月輪。

 高速移動により相手の視界を左右に散らしたところで上を取り、防御も反撃もままならない状態のヴィランに渾身のかかと落としが入る。

 数年前に全国で猛威を振るった脳無をも一撃で屠ったというミルコの十八番で、これをまともに受けて立ち上がる者はそういない。

 

「ほい終わりっと、おッ、?」

 

 その、はずなのだけど。

 

 遠目でもわかる。ヴィランは間違いなく意識を落としている。

 しかしミルコの下には人影が多数出現し、中にはヒーロースーツを掴んで離さない個体もいた。剣や槍を持った個体現れ、彼女にずんずんと歩を進めていく。

 

「お前、しっつこいなぁ!」

「ミルコさん待って! それ以上殴ったらそいつ死んじゃうから!」

「待てっつったってこの状況じゃな!」

「俺がなんとかします! ええとあいつよりももっと上、上~、見つけた! あれだ」」

 

 個性の大半は意識と同期されるもので、使用者が気絶すればその効力を失うのが常だ。

 にも関わらず個性が発動し続けているのであれば、理由は単純。それすなわちその他の協力者による事象である線が濃厚になるわけで。となればやることは単純である。

 アシガルは軽く手首をならし、次いで全身の柔軟運動。一息と、覚悟。ヒーロースーツの隠しボタンを押し込むと、全身に強化装甲のプロテクターがガシャガシャと展開される。

 

「――加速!」

 

 強く、深く、速く、地を蹴る。

 その刹那。次の瞬間にはまた地を踏みしめていた。

 

「ぐ、が、ごぇ、」

 

 正しくは、鉄骨に隠れていたヴィランに蹴りが刺さっていたわけなのだけど。

 そんな一撃によりヴィランが意識を刈り取られたことで、ようやっと影の軍勢が鳴りを潜めていく。これにて終幕だった。

ミルコが蹴りによる破壊を十八番とするならば、アシガルの必殺はこうなる。数十か数百メートルかの距離だろうと自身を加速し続けることで瞬時に縮め、超速による早くて重い攻撃を浴びせることだ。

 

「グゥッ、いってええぇぇぇぇぇ!!」

 

 わりかし強い。ただし、めちゃくちゃに痛い。

 

「おいおい大丈夫かよ?」

「ミルコさんが膝枕してくれれば治る......あ待ってください、蹴りの構えしないで」

 

 

 

 




Tips
ミルコ:めっちゃウサギ
アシガル:めっちゃ速い
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