志村家長女のリベンジアカデミア   作:M.T.

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遅れてしまい申し訳ございません。
ここ二週間、スランプ気味で完全に筆が止まっておりました。


第3話 何がヒーローたらしめるのか

 前世で、私の人生を変えるきっかけとなった出来事がある。

 私は中学1年生の頃、いじめに遭って不登校になってしまった事があった。

 お母さんが私を心配してカウンセリングを受けさせてくれたけど、カウンセラーは皆当たり障りのない事を言ったり求めてもいないアドバイスを言うだけで、ただただ時間を無駄にしただけだった。

 そんな中、家で引きこもっている私を見兼ねてか、お姉ちゃんがある提案をしてくれた。

 

「一回うちの大学の先生に会ってみる? 話が難しくてつまらないとか言われてるけど、私は結構救われたよ」

 

 お姉ちゃんが、大学の先生を紹介してくれた。

 精神科医で精神医学専攻の、西崎教授。

 お姉ちゃんは、西崎先生の講義はほとんど皆サボってるから、講義の時間中でも話を聞いてくれると言っていた。

 

 お姉ちゃんが代わりにアポを取ってくれて、いざ会ってみると、本当に教室に学生が一人もいなくて、眼鏡をかけた男性が教壇で静かに本を読んでいた。

 頬は痩け深く皺が刻み込まれていて、天然パーマの白髪が混じっている。

 見たところ、60代前半といったところだろうか。

 私は、勇気を出して先生に話しかけた。

 

「あの…失礼します。私、看護学部3年の──」

「九条カリンさんの妹さん……ですよね」

「私のこと、知ってるんですか?」

「あなたのお姉さんから、お話は伺っています」

 

 そう言って先生は、教壇から降り、真ん中の席に椅子を置いた。

 私は、思い切って先生に悩みを打ち明けた。

 初対面の私に対してもニコリとも笑わず、少し厳しそうに見える先生だったけど、何故か今までのカウンセラーよりスラスラと悩みを打ち明ける事ができた。

 赤の他人なのに…いや、赤の他人だからこそ打ち明けられたのかもしれない。

 

「実は私、学校でいじめられてるんです。最初は無視されたり私物を隠されたりするだけだったのが、日に日にエスカレートしていって……最近は、ほとんど学校に行けていなくて…」

「カウンセリングは受けましたか?」

「はい、受けました…でも皆、『無理して学校に行かなくていい』とか、『転校したらどうか』とか、当たり前のことしか言ってくれないんです。わかってますよ、逃げるしかないってことくらい! でも、なんで私が逃げなきゃいけないんですか!? どうしても行きたくて、一生懸命勉強してやっと入れた学校なのに…!! 先生、お願いします…助けてください…」

 

 先生も、カウンセラーの人も、誰も助けてくれなかった。

 逃げるしかないって事くらいわかってる。

 でも、なんで私が逃げなきゃいけないんだってずっと思ってる。

 本当は、逃げたくなんかない。

 今の学校を卒業したい。

 ただ普通に学校に行きたいだけなのに、誰もわかってくれない。

 

 私は、先生に泣いて縋った。

 これが最後のチャンスだと思ったから。

 だけど先生は、コーヒーを一口飲んでから、辛辣な一言を放った。

 

「できません」

 

 先生が最初に放ったのは、その言葉だった。

 思いがけない言葉に、私は一瞬放心してしまった。

 

「私にはあなたを救うことはできませんし、その必要もありません」

「どういう意味ですか……?」

「あなたは弱いのではなく、賢く生きる方法を知らないだけだからです。本当に救うべき弱者は、他にいます」

「救うべき弱者って…?」

「あなたをいじめていた人達です」

 

 先生の放った言葉は、当時の私には衝撃だった。

 というか、意味がわからなかった。

 どうして私をいじめてきた人達こそが、救うべき弱者だという結論に至ったのか。

 私が唖然としていると、先生は淡々と語り始めた。

 

「誰かを攻撃するということは、大抵の場合は敵から自分を守る為の手段です。弱い人ほど、自分より弱く見える誰かを攻撃することでしか、自分を強く見せられない。常に誰かを攻撃していなければ、冷静でいられない。本当に救わなければならないのは、そういう弱者なんです」

 

 私がいじめられたのは、私が弱いからじゃなくて、いじめている側が弱いから。

 私はそれまで、真逆の事を信じ続けていた。

 そんな事、今まで誰も教えてくれなかった。

 

「九条カレンさん、あなたは本当に強い人だと思います。あなたは、わざわざここまで足を運んで私に悩みを打ち明けてくれた。それが、どれだけ勇気の要ることか。あなたのような人が、自分を犠牲にしてやりたいことを諦める必要なんてありません。自分の望みの為に戦う覚悟があるのなら、あなたが逃げなくて済む方法をお教えします」

 

 先生は、私がこれからも学校に通い続ける為の秘策を授けてくれた。

 先生が実験で()()()()余った小型カメラを譲ってくれて、それを制服のポケットに仕込んでいじめの証拠を集めた。

 さらには知り合いの弁護士を紹介してくれて、裁判を起こす準備までしてくれた。

 私がかき集めた証拠や今まで書き溜めていた日記が決定的な証拠となって、最終的には裁判沙汰になるのを怖がったいじめっ子達の親御さんが転校に応じてくれた。

 先生のおかげで、残りの中学生活を平穏に過ごす事ができた。

 

 先生は、私に同情する事も、気休めを言う事もなかった。

 ただ淡々と、自分が正しいと思った事を言っただけだった。

 だけど私は、そんな先生の言葉に救われた。

 

「西崎先生、ありがとうございました。先生のおかげで、毎日学校に行けるようになりました」

「良かったですね」

 

 そう言って先生が、心理学の本を読みながら、砂糖とミルクのたっぷり入ったコーヒーに口をつける。

 ぴくりとも笑わず、他人事のように言ってのけるところが先生らしい。

 私は思い切って、先生に自分の正直な気持ちを伝えた。

 

「私、先生のもとで心理学を学びたいです。もし迷惑じゃなければ、先生の講義を受けてもいいですか?」

 

 私がそう言うと、先生は本を閉じ、真剣な目を私に向けて言った。

 

「お気持ちはありがたいですが、お勧めしません。私は、ユーモアで生徒を笑わせたり、生徒の心に寄り添ったりすることができません。私にできることは、つまらない自論を並べ立てることだけです。そんなことに、あなたの貴重な時間を割くべきではありません」

「今までの大人は、面白くない冗談を言ったり、人の気持ちをわかった気になって気休めを言う人ばかりでした。こんなに真摯に向き合ってくれたのは、西崎先生だけです。だから私、西崎先生の授業を受けたいんです」

 

 私は、先生の反対を押し切って、講義に出席して、先生のもとで心理学を勉強した。

 お姉ちゃんの言う通り、先生の講義を受ける人はほとんどいなかったから、実質ほぼマンツーマンだった。

 お姉ちゃんの通っていた大学は外部の人でも自由に出入りできて、気に入った講義を受ける事もできるから、時々気が向いて出席した生徒も、私が講義を受けている事について何か言ってくる事もなかった。

 

「先生、今日もありがとうございました」

「九条さん。いつも私の授業を真剣に聞いてくれているお礼に、世の中が生きやすくなるアドバイスを差し上げましょう」

 

 最後の講義を受けた時、急に先生が真剣な表情でそう言ってきた。

 

「あなたはとても頭のいい人だから、世の中がくだらないと感じることがあるかと思います」

 

 心当たりがない……とは思わなかった。

 世の中なんてくだらない、大人の言う事なんてくだらないと思った事は何度もある。

 

「実際、その通りだと思います。世の中なんて、くだらないんです。ですがどんなにくだらない世の中でも、幸せに生きることはできます。世の中が悪いと悲観する前に、たくさん勉強して、いろんなことを経験してください。そうすればそのうち、あなたを苦しめる理不尽なんて、大抵は何とかなるということがわかってきます。そしていろんな人と話をして、好きなもの、やりたいことを打ち明けてみてください。その中でたった一人でも、誰かと幸せを分かち合うことができれば、世界はもっと生きやすくなるはずです」

 

 先生は、私に大切な事を教えてくれた。

 その言葉が、ずっと頭から離れない。

 

「私が今語ったことは、ごく普通のことです。それでも私があなたにどうしても伝えたかったのは、多くの人が、そんな普通のことに気づく前に一生を終えてしまうからです。私は、それに気づくのに60年かかりました。もっと早くに知っていれば、もっと生きやすかったと思います」

 

 私が先生と話したのは、それが最後だった。

 その次の日から、先生は二度と大学に来なかった。

 そしてその翌年の冬、先生は亡くなった。

 後から知った話だけど、私が初めて会った時点で、先生は末期の膵臓癌を罹患していて、余命1年と宣告されていたらしい。

 

 それから毎年、私は先生のお墓に線香をあげていた。

 次の元旦も、お墓参りに行くつもりだった。

 先生から教わった事は、転生した後も、ひとつも余さず覚えている。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

志良木瑠奈 side

 

 どうも、志良木瑠奈です。今日も弧太朗がかっこいい。

 今をときめく18歳の高校3年生です。

 ついこの前、今世での年齢が前世に追いつきました。

 

 あれから未来のエンデヴァーこと轟くんとも仲良くなって、最近は一緒に食堂でご飯を食べたりもしている。

 原作ではこの頃から力に焦がれて拗れていたけど、この世界線での彼は全然そんな事はなくて、DV親父になりそうな兆しは全く見えない。

 今の轟くんなら、轟家の悲劇は起こさない……はず。

 地獄の轟家を回避できそうな事に安堵しつつ、弧太朗の分のお弁当を作っていると、弧太朗が話しかけてくる。

 

「姉さん、どうかした? 最近なんか機嫌が良さそうだけど」

「いやぁ、初めて人助けできたのが嬉しくって」

「はぁ?」

 

 私が微笑むと、弧太朗が怪訝そうな表情を浮かべる。

 ……弧太朗になら、そろそろ話してもいいかな。

 私の前世の事。

 

「あのさ、弧太朗。今から大事な話していい?」

「何だよ、怖いんだけど」

「私ね、前世の記憶があるの」

 

 私は、弧太朗に前世の事を打ち明けた。

 前世の世界線では、私は普通の女子高生で、弧太朗には私のような姉はいなかった事。

 私が助けた人は、前世の世界線では親を失って破滅の未来を進んでいたという事。

 そして、私は弧太朗を幸せにする為に2回目の人生を送っているという事。

 

 でも、自分達が今生きている世界が漫画やアニメの世界だという事は伏せた。

 自分が漫画やアニメのキャラクターだと知ったら、弧太朗の人生にどんな影響を及ぼすのかわからない。

 とはいえ、いきなり前世の記憶があるなんて言われても受け入れられないよねぇ…

 

「……あぁ、そっか」

 

 弧太朗は、私の予想に反して、あっさり私の話を受け入れた。

 

「『あぁそっか』って……飲み込み早っ!? 普通『何言ってんだ』とか『そんなことあるわけないだろ』とか言うもんじゃない!?」

「いや、俺も最初そう思ったよ。でも、そう考えると納得できることが色々あるから」

「例えば?」

「姉さん、子供の頃からやけに頭が良かったし…あと、母さんは料理が下手だったのに、料理のレシピを『お母さんに教えてもらった』って言おうとしてたことあっただろ?」

「よく覚えていらっしゃる……」

 

 さすが我が弟、聡い……

 

「でも、さっき姉さんは『初めて人助けできた』って言ってたけど、それは間違いだよ」

「間違いって?」

「姉さんの話が本当なら、最初に救われたのは俺だよ。母さんがいなくなってから姉さんがそばにいてくれて、俺は結構救われたよ」

 

 弧太朗のその言葉を聞いて、思わず頬が緩む。

 そっか、そんなふうに思ってくれてたのか。

 私が今までしてきた事は、無駄じゃなかったんだなぁ。

 

「何だよその顔、気持ち悪いな」

「元々こういう顔だよ。はいお弁当」

 

 弧太朗にお弁当を渡して、私も出かける準備をした。

 その後、私は澪との待ち合わせ場所に向かった。

 今は夏休みだから、澪と一緒に買い物に行く約束をしている。

 

「ごめん、待った?」

「ううん、全然!」

 

 澪と駅前で合流した私は、早速買い物を楽しんだ。

 合宿に必要なものを買ったり、スタバに寄ったりして、久々に勉強から解放された休日を満喫した。

 日が沈んできた頃、私と澪は買い物袋を両手に持って、駅に向かおうとした。

 するとその時、跨線橋から声が聴こえた。

 

「バカな真似はやめなさい!!」

「早まっちゃいけない!! 君にはまだ未来があるんだ!!」

 

 見ると、中学生くらいの男の子が、跨線橋の柵の向こう側に立って、今にも飛び降りようとしていた。

 その場に駆けつけたヒーロー達が、男の子を説得しようとしている。

 すると男の子が、説得しようとしたヒーローのスレスレのところ目掛けて、掌から火球を放つ。

 

「うるせえよ、拝金主義者どもが。次、余計な事したら、そこにいる野次馬達を殺すから。なんなら、この橋ごと下に落としたっていいんだよ?」

「っ……!!」

「今から死ぬ俺と、関係ない善良な市民の命、どっちが大事かよーく考えろ」

 

 男の子が橋の上にいる人達を人質にして脅すと、ヒーロー達が後退りする。

 

「何してるの…!?」

 

 私は、今にも飛び降りようとしている男の子に声をかけた。

 彼は、私に気づくと、こちらを振り向いて呆れたように笑う。

 

「はぁ? 見てわかんねえ? 今から今世とオサラバするんだよ」

「なんでそんなこと…!!」

「なんでって…人生ってつまんねーなって思っただけだけど。親も、先公も、世の中も、どいつもこいつもみんなくだらねー。だったらいっそ、来世はマシな人生になると信じて、今の人生を終わらせちまおうと思ってさ」

 

 男の子は、橋の下を見下ろしながらそう言った。

 すると、その時だった。

 

「ふざけんな!!」

 

 澪がキレた。

 

「人生がつまらない…? 何それ、たったそれだけの理由で死のうとするなんてバカじゃないの!? 命を粗末にするなよ!!」

「そ、そうだぞ!!」

「こっちはあんたより苦労してんのよ!!」

「そんなくだらない理由で飛び降りて人に迷惑かけんな!!」

 

 澪が男の子に向かって叫ぶと、周りにいた人達も、次々と男の子を非難した。

 男の子は、全てを諦めたような顔をして、体を後ろに傾け、線路に身を投げようとした。

 

「くだらなくなんかない!!」

 

 気がつけば、私は声を張り上げて叫んでいた。

 すると、男の子が立ち止まって私を見る。

 

「たったそれだけの理由が、君にとっては、命より重い絶望だったんでしょう? そこに立つまで絶望と向き合って、傷ついてきた君を、私はくだらないとは思わない」

 

 私は、前に出て自分の意見をハッキリ伝えた。

 男の子は、僅かに目を見開いて、私の言葉を黙って聞いていた。

 私にはまだ、言わなきゃいけない事がある。

 

「でも、だからって、大勢の人を巻き込んでいい理由にはならないよ」

「そんなの、俺の勝手だろ」

「諦める前にさ、全部曝け出してみようよ。死のうと思ったのは、抱えてきた絶望を、誰にもわかってもらえないと諦めたからなんじゃないの?」

「あんたに何がわかるんだよ。ただの通りすがりのくせに」

「そうだよ。こんなことを言うのは、君のことを何も知らない、ただの通りすがりだから。家族も、友達も、先生も、ヒーローも、誰も助けてくれなかったからそこにいるんでしょ? ただの通りすがりが助けなかったら、誰が君を助けるの?」

 

 私がそう言うと、男の子が唇を噛んで涙を流した。

 そして、震える声で話し始める。

 

「……退屈だったんだよ。何もかも」

 

 柵を掴んで、その場にしゃがみ、嗚咽を漏らしながらそう語る。

 

「何をしてても生きてる実感が湧かなくて、何のために生きてんのかわかんなくて……幸せに思えない自分が嫌で、このまま生きるのが怖くなって……っ、でも、みんな俺なんかよりずっと苦労してて、こんなこと、誰にも言えなくて…そんなこと考えんのも嫌んなって…っ、んだこれっ…なっ、言ってん…のか、わかんねっ……」

 

 男の子は、涙を拭う事も忘れて、泣きながら悩みを打ち明けた。

 前世で、西崎先生に教えてもらった事がある。

 生まれた時から恵まれた環境を与えられた人ほど、ちょっとした事で不満や退屈を感じ、その度に『もっと苦労している人もいるのに自分は』と、不満や退屈を抱く事に罪悪感を感じてしまう。

 誰にも相談せずに一人で抱え込んでいると、自分の不満や退屈に対する否定的な感情を、自分の存在そのものに対する否定と錯覚してしまう事がある。

 この子も、きっとそうだったんだと思う。

 

「恵まれてるから不満を言っちゃいけない、なんてことはないと思うよ」

「え……?」

「私の友達なんてさ、授業で先生に怒られたとか、髪が上手く巻けなかったとか、この世の終わりみたいに愚痴ってくるんだよ。いや、別に同列に語るつもりはないんだけどさ。どんなに恵まれてるように見えても、何の不満もなく生きてる人なんていないと思うんだ。全部諦めて死ぬくらいだったら、ぶっちゃけてみてもいいんじゃないかな。愚痴くらいだったら私、いくらでも聞くから」

 

 私がそう言うと、男の子は涙を拭いながら立ち上がり、柵を跨いで越えようとする。

 だけど、その時だった。

 

「あ……!!」

 

 男の子が足を滑らせ、跨線橋から落ちそうになる。

 ちょうどその時、電車が跨線橋に近づいてきていた。

 気がつくと、体が勝手に動いていた。

 

「あ、危なかった…!!」

 

 私は、男の子のもとへ駆け寄って、咄嗟に腕を掴んだ。

 でも、この体勢だと腕の力だけでこの子を持ち上げられない。

 私が彼を引っ張り上げようとしている間にも、電車が近づいてきていた。

 

「瑠奈!!」

「おい、引っ張り上げるぞ!」

「あ、ああ…!」

 

 澪やヒーロー達が助けに来てくれた。

 数人がかりで引っ張り上げられ、男の子は柵の内側に着地した。

 無事助かった後で、電車が何事もなかったかのように通り過ぎていく。

 

 その後、私はヒーローの仕事を邪魔したと言われてこっぴどく怒られた。

 逆に、自殺しようとした男の子は、助けに来たヒーロー達にスカウトされていた。

 そこに“個性”社会の負の面を垣間見た気がして、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 ありがたいお言葉を貰った後、駅に向かおうとすると、後ろから誰かに呼び止められた。

 

「お姉さん」

 

 振り向くと、そこにはさっきの男の子が立っていた。

 

「俺、やっぱり幸せとかさっぱりわかんねえ。でも、お姉さんが腕を掴んでくれた時、俺、お姉さんの手を掴むのに必死で、そんなこと考える余裕もなかった。あの時初めて、『生きたい』って本気で思ったんだ。俺は、今日のことを一生忘れない」

 

 そう言って、男の子は私達に頭を下げて、立ち去っていった。

 そのあと家に帰ると、弧太朗が先に帰っていた。

 夕ご飯を食べ終わった後、私は食器を洗いながら弧太朗に話しかけた。

 

「ねえ、弧太朗」

「何?」

「私さ、本気で目指してみようと思うんだ。精神科医」

 

 何がヒーローたらしめるのか、この世界に転生してから毎日のように考えている。

 職業ヒーローは、犯罪者を倒したり、事故や災害から守ったりするのが仕事だけど、ヒーローっていうのは本来そうじゃないと思う。

 誰かを喜ばせたり、絶望から救ったりできれば、誰かのヒーローになる事はできる。

 前世での私のヒーローは、西崎先生だった。

 私はずっと、先生みたいなヒーローに憧れていた。

 私がこの世界に転生した事で弧太朗を救えたように、誰も助けてくれないと諦めている人を助けたい。

 そうすれば、私の知っている別の世界よりも、少しだけ生きやすい世界になるはずだから。

 

 

 

 

 




転生モノで前世の人物や経験が今世で重要になってくるパターンって珍しいと思うので、本作では前世の描写を挟みたいなと思っています。
ちなみに今回の自殺未遂の男の子ですが、500日の方のとある人物だったりします。
またまた人物紹介をば。


志良木瑠奈(18)

本作の主人公。
雄英経営科3年I組所属。
ブラコンを拗らせた女子高生。
中学までは弟と同じ学校に通っていたが、金銭的な理由と情報収集目的で雄英経営科に進学し、在学中に偶然未来のエンデヴァーこと轟炎司の父親を救う。
高校卒業後は、医学部に進学して精神科医を目指す予定。
小学校入学前に里子に出されており、旧姓は志村。


志良木弧太朗(18)

主人公の双子の弟。
現時点で、唯一主人公が転生者である事を知っている人物。
中学までは姉と同じ学校に通っていたが、高校は都内の難関高に進学した。
本作では、原作ほどヒーローに対して強い憎しみは抱いていない。
小学校入学前に里子に出されており、旧姓は志村。


九条カレン(18)

主人公の前世。
大学受験を来年に控えた女子高生。
模試の帰りに、猫を助けようとしてトラックに轢かれて即死。
中学時代にいじめを受けて不登校になってしまったが、姉の大学の教授でもある精神科医に救われ、それ以降心理学を勉強している。


西崎義彦(62)

カレンの姉の大学の教授。
カレンが中学生の時にいじめに苦しむ彼女を救い、心理学を教えた。
死後も彼女の人生に影響を与えている。
間接的に本作のヒロアカ世界に影響を及ぼした人物。
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