ようやく焼きうどん出てきます!!
それとバトルもするよ♪
ヴァルキューレ警察学校、第1中央会議室。
バタン! と分厚い防音扉が固く閉ざされた瞬間、室内に押し込められていた重苦しい緊張の糸が一気に弾け飛んだ。
先ほどまで志真王国にて、額を床に擦り付けて平伏していたヴァルキューレ上層部の3年生幹部4名が、一斉に胸元を緩めながらパイプ椅子へと崩れ落ちる。
「はぁ……息が詰まるわ」
1人が息を吐き捨て、制服の第一ボタンを乱暴に外しながら革張りのソファーへと身を投げ出す。
「ちょっと……油断しないでよね。あの部屋の近くでうっかり『バカ王』の前で素が出たら命がないわよ」
もう1人が窓のブラインドの隙間から階下の様子を神経質そうに窺いながら、忌々しげに爪を噛む。
「まったく……怪力さえなければあんなスケバン崩れにペコペコ頭下げるなんてマジありえないんだけど。何が国王よ、ただの汚部屋の引きこもりじゃない」
3人目が眉をひそめ、汚部屋のゴミで汚れたスカートの裾をウェットティッシュでゴシゴシと拭き取る。
「まぁまぁ……『八囚人』は別として、残りの七囚人を逮捕したという事実があるのはデカイよ。アレをヴァルキューレに引き留めることで核爆弾のような抑止力として使えるんだからさ」
4人目が冷めた笑みを浮かべ、腕を組みながら天井を見上げる。
「いくら頭が悪くて自堕落な暴力バカでも、あの規格外の腕力だけは本物だからね。連邦生徒会や他校に対する最大の威嚇カードとして飼い殺しにしておくのが、一番効率的なのよ」
「それにしてもさぁ」
ソファーに寝そべっていた幹部が、天井を見上げながら気だるげに問いかける。
「さっきバカ王に『リークされた』って言ってたけど、あれどこ情報? 私初耳なんだけど」
「あー、今朝きた匿名通報。ご丁寧にボイチェン使って、番号も公衆電話からだろうから身元特定出来ずの怪しさ満点。だけど、実際縦縞ヤエが日々の業務で怪我してた時期だったから利用させてもらったわ」
「ふん、誰の差し金か知らないけれど、実に都合のいい情報だったわね。どうせゲヘナの暴食魔王に痛い目を見せられた、どこかの自治区の残党か何かの復讐劇でしょうけど」
「んじゃ、縦縞には適当に口裏合わせるとして、私達は高みの見物と決めよっか」
「賛成。ゲヘナの正義気取りの野蛮人どもには思い知らせないとね………『上には上がいる』ってことを」
クスクスと醜い嘲笑が、密室の会議室の中にねっとりと木霊した。
同時刻。ヴァルキューレ警察学校、裏門前。
ブオンブオンブオンブオンブオンブオンブオン!!!!!!!!!
法と規律を重んじる警察機関の敷地にはおよそ似つかわしくない直管マフラーの爆音と地鳴りのような重低音がアスファルトを揺らしながら猛スピードで迫っていた。
後部座席に豪奢な大理石の玉座が直付けされた、世紀末覇者御用達の超大型トライク型バイク――『ヒナ帝号』。
「委員長、本日のヴァルキューレの学食は焼きうどんとのことです」
フルフェイスヘルメットを被り、真剣な眼差しでハンドルを握る火宮チナツが、インカム越しに背後の主へと呼びかける。
「ふん…『偽物』で満足するなんて貧弱な公僕どもね」
足を組み、偉そうに玉座に深く腰掛けている暴食王ヒナは片手に握った『超特厚チャーシュー串(3kg)』を奥歯で噛み砕きながら、相変わらず鼻で笑っていた。
「出汁の風味だの、減塩醤油だの、キャベツの甘みだの……そんな水分と繊維質の塊を『焼きうどん』と呼称してありがたがるなど、食に対する冒涜以外の何物でもないわ。真の麺料理とは、純粋な油と塩分、そして肉汁の暴虐によって胃壁を蹂躙するためにのみ存在するものよ」
「おっしゃる通りです! 今回もアコさんに見つからないうちに正義執行しちゃいましょう!」
「えぇ。油と肉汁の真理を、あの無能な警察どもの脳天に叩き込んでやるわ」
そして裏口の鉄柵へ突っ込む勢いで流星のように突進した……まさにその瞬間――。
ドガアアアァッ!!!!
突如として、巨大な鉄柱に正面衝突したかのような凄まじい衝撃とともに、ヒナ帝号がその場で完全停止した。
「きゃあっ!?」
凄まじい慣性エネルギーに引っ張られ、運転席のチナツは危うく前方へ放り出されそうになりながら必死にハンドルにしがみつく。
しかし、後部座席のヒナは足を組んだ体勢を崩すことすらなく、玉座から1mmも離れていなかった。
「ふぅん…随分な『歓迎』じゃないの」
ヒナはチャーシューを飲み干すと、冷え切った絶対零度の眼光でバイクの眼前を見下ろした。
立ち込める白煙と火花が晴れたその先――。
回転し続ける極太フロントタイヤを、たったの『左手1本』で鷲掴みにして力づくで静止させている少女の姿があった。
「よぉよぉ、ゲヘナのクソチビ。ハジメマシテ。あたしはコノカ。ここの王やってるもんだ」
お気にの派手な原色アロハシャツに身を包み、頭上に純金の王冠を斜めに載せた志真コノカが、不敵な八重歯を剥き出しにして笑っていた。
ギリギリと、コノカの指先が強化ゴムのタイヤへと深々と食い込んでいく。
パァンッ!!
ものの一瞬で超高圧タイヤが破裂。
バランスを失ったヒナ帝号はその凄まじい勢いから豪快に横転し、「ぶぎゃっ!?」と情けない悲鳴を上げてチナツが地面へと投げ出された。
スタッ。
空中で軽やかに身を翻し、漆黒の軍靴で華麗にアスファルトへと着地したヒナ。
彼女はコノカの着崩したラフなアロハシャツを見定め、またしても鼻で笑った。
「『王』…? スケバンが警察学校の前で寒いジョーク吐くのは流行らないわよ?」
「あー…ダメだわ。分かっちゃいるけど、低脳な野蛮人はどうにもあたしをイラつかせるのが上手いもんだわ」
ビキビキと瞬く間にコノカの額からこめかみにかけて極太の青筋が浮き上がり、バキリボキリと両の拳を力任せに鳴らす。
その時であった。
「きゃーー!! 国王様ーーー!!! 野蛮なゲヘナをぶっ潰しちゃってください!!」
コノカの背後の校舎の物陰から、黄色い大歓声が響き渡った。
そこには、コノカの顔イラスト付き巨大横断幕やキラキラ光る応援うちわ、メガホンを手にした志真王国の国民であるヴァルキューレ警察学校の生徒たちが、いつの間にか大挙して押し寄せていたのだ。
「国王様ーー!! いつもみたいにワンパンでぶっ飛ばしてください!!」
「国王様カッコいいーーー!!!」
「国王様こっち向いてーーーー!!!!」
まるでトップアイドルのスタジアムライブのように熱狂的なエールを飛ばす国民たち。
その大歓声を耳にしたコノカは、すっかり落ち着きを取り戻したのか顔の青筋をスッと消し去り、背後のファン部隊へと優雅に振り返った。
「おうおう! 可愛い臣下たち! 今日も王の勇姿、しっかりその目に焼き付けろよな!」
バチコーン! と派手なウインクを飛ばすコノカ。
「きゃーーーーーーーー!!!!!!!!!」
卒倒寸前の悲鳴を上げて湧き上がる国民軍団。
その茶番劇を、ヒナは氷のように冷ややかに見つめていた。
「……で? 茶番がしたいならそこで永遠にしてなさい。私は忙しいのよ」
「まぁ待てよ、おチビちゃん。お前さ…縦縞ヤエって知ってる?」
落ち着きを取り戻したコノカが、鋭い視線をヒナへと戻して問う。
「は? 誰よ? そいつがどうしたの?」
「はぁー……そうか………加害者の半数はそう言うよな」
コノカは深く俯き、重いため息をひとつ吐き出した。
「それじゃあ……………」
「殺 す か」
「ッ…!?」
ヒナの視界から、コノカの輪郭が完全に消失した。
ドゴオォン!!!!
ヒナが無意識で両腕をクロスさせ腹の前に置いた、まさにその0.001秒後――コノカの踏み込みから放たれた超音速のストレートが、ヒナのガードごと肉体を打ち抜いた!!
ゴシャアアアアアアアアン!!!!!!!
ゴム毬のように吹き飛ばされたヒナの小柄な肉体は、音速の壁を軽々と突破し、裏門の防壁を粉砕、後方に建ち並んでいたヴァルキューレ警察学校の第3別館、第4倉庫、そして教官用宿舎の分厚いコンクリート壁を何重にも貫通して遥か彼方の演習場へと吹き飛ばされた。
「あ…あぁぁ………」
瓦礫の中から這い出したチナツは、あまりの衝撃に全身の筋肉が硬直し、指一本動かすことができなかった。
あの絶対無敵の風紀委員長が、初撃でここまで一方的に弾き飛ばされるなどあり得ない。
実母である空崎ヒナコ以外に、この世にこれほどの理不尽な暴の化身が存在することに、チナツの常識は完全に崩壊していた。
「いやぁ〜、さっすが国王様。ゲヘナの角付きかぼちゃなんて目じゃありやせんねぇ〜」
手揉みしながら揉み手でヨイショを稼ぐのは、入学早々に志真王国の臣民となった元生活安全局1年生の合歓垣フブキであった。
志真王国への帰化と絶対安全の保障を目的としてヴァルキューレ警察学校に入学したという筋金入りの自己愛者。三度の飯とより自分の身が可愛い。
「これで今日の警備当番も不戦勝で終わりですなぁ〜! いやはや笑いが止まらんねぇ〜」
他の国民たちも「さすが国王様!」「ゲヘナの魔王なんて口先だけだ!」と狂喜乱舞して湧き立つが、コノカだけは眉ひとつ動かさなかった。
「……おい、下がってろ。あと4秒ってとこか」
コノカはスッと右拳を頭上高くへと掲げ、仁王立ちのまま構える。
その瞬間――。
ビュオッ!!!!
瓦礫の彼方から、大気を切り裂く赤い軌跡が音速で突っ込んできた。
「おかえりいいぃっ!!!!」
ドゴオオオオオオォン!!!!!!
コノカは目にも止まらぬ神速の振り下ろしで、突撃してきたその影を地面へと叩き落とした!
その何かは深さ数mのアスファルトへとめり込む………が!
チャキッ。
叩き落とされた黒煙の底から、コノカの眉間目掛けて無骨な漆黒の銃口が突き立てられた。
ドン! ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!
愛銃『終幕:デストロイヤー』の零距離連射斉射!!
大口径の徹甲榴弾の嵐が、コノカの顔面を至近距離で爆砕する!
「んが!? ……しゃらくせぇ!!!」
ガギィッ! ボキィッ!!
驚くべきことにコノカは、その顔面に迫る大口径弾のすべてを強靭な奥歯で直接噛み止め、バリボリと鉄屑のように噛み砕いて吐き捨てた!
だが――ヒナの狙いはそこではなかった。
「ゆっくり味わいなさい」
銃撃の煙を突き抜け、すでにコノカの頭上へと跳躍していたヒナ。
両手の拳を隙間なく組み合わせ、超重量の鉄槌へと変形させたヒナは、ただ無情にコノカの無防備な脳天へと渾身の力で振り下ろした!
ゴガアアアアアアアアアアアァァァァン!!!!!!!!
人体から決して鳴ってはならない、巨大隕石の落下の如き爆圧がゲヘナとヴァルキューレの境界を越えて響き渡った。
コノカの両足が膝元までアスファルトへと深々と埋まり、そこを中心に半径50mに及ぶ巨大な擂り鉢状のクレーターが形成され、その余波で巻き起こった超高圧のソニックブームが周囲の建物の窓ガラスを全方位で粉砕した!
「さ、流石委員長…! やはり委員長は絶対無敵の最強です!!」
瓦礫にしがみついていたチナツは、己が崇拝する王の圧倒的暴力に興奮を隠せず叫ぶ。
だが――。
「いや、まだよ」
着地したヒナはぷらぷらと痛む手首を回しながら、クレーターの中心から一瞬たりとも目を離さなかった。
その直後。
ドッゴオオォン!!!!
粉砕されたアスファルトの巨岩を跳ね飛ばし、クレーターの底からゆっくりと志真コノカが立ち上がった。
頭上の王冠はひしゃげ、額からは一筋の血が流れていたが、その瞳には狂気的なまでの獰猛な歓喜がギラギラと渦巻いていた。
「お前…骨があるなぁ…。ここまで質のいいサンドバッグは七囚人のアホども以来だぜ」
「あっそ、いい加減死んでくれない? 頑丈なだけのゴミは目障りでしつこいんだけど」
ヒナの背中から漆黒の悪魔の翼が大きく広がり、コノカの全身からは赤い闘気が陽炎のように立ち昇る。
両者から漂う、目の前の生物を細胞レベルでミンチにしてやるという冥王の殺気。
大気は目に見えて歪み、バチバチと見えない火花が散る一触即発の地雷原――。
まさに、両者が再び音速で激突しようとしたその刹那。
「こ、国王様ぁーーーっ!!」
その極限の均衡を木っ端微塵に打ち破ったのは、あまりにも場違いで頼りないひとつの叫び声であった。
頬に白い絆創膏を貼り、トレードマークの長い三つ編みを乱暴に振り乱しながら、涙目で走ってきたヴァルキューレ警察学校の生徒――縦縞ヤエであった。
「お…お前………ヤエか!?」
先ほどまで鬼神の如き形相をしていたコノカの顔に、初めて驚愕と動揺の色が灯った。
コノカは戦闘態勢を完全に解除すると、慌てて駆け寄る。
「怪我はもう大丈夫なのか!? 痛いとこはないか!? 頭打って記憶飛ばしてねぇだろうな!?」
ヤエの両肩をガシガシと激しく揺さぶり、全身の傷を隅々まで確認するコノカ。
「は、はい…かすり傷ですからもう全然大丈夫ですけど……なぜ国王様とゲヘナの空崎ヒナが、こんな裏門で血みどろの決闘をしているのですか……?」
「んなもん決まってるだろ!! お前の仇討ちだ!!」
コノカは親指で背後のヒナをビシッと指差し、怒鳴り散らした。
「このゲヘナのチビの暴動鎮圧の時に、テメェが重傷を負わされたって上層部のアホどもから聞いたんだよ! ウチの可愛い国民が血を流したってんなら、王であるあたしがこのチビをぶっ飛ばさなきゃ浮かばれねぇだろ!!」
その言葉を聞いた瞬間、ヤエはきょとんとした顔でパチクリと瞬きをした。
「え…? 空崎ヒナの……ですか?」
「あ?」
訪れる、数秒間の静寂。
「あの……私、先日自治区の第3通りでヘルメット団の暴走トラックを止めようとして転んでかすり傷を負いましたけど……空崎ヒナの鎮圧任務には私、最初から参加してませんよ?」
「……………………………………」
コノカの動きが、彫像のように完全に静止した。
「……参加……してない?」
「はい。その時間は、生活安全局のオフィスでキリノちゃんと一緒に書類整理をしていました」
「……」
コノカの額から、スゥーッと全ての血の気が引いていく。
「…………あのアホども騙しやがったな」
ボソリと漏れ出た、地獄の底よりも冷たい死神の呟き。
しかし――コノカはその漆黒のオーラを一瞬で霧散させると、満面の笑みを顔面に貼り付け、クルリとヒナの方へ振り返った。
「いやぁ〜〜〜〜!!!! 悪かった『っすねぇ』『ヒナっち』!!」
バシバシバシッ! と、親愛の情を込めてヒナの華奢な背中を力任せに叩くコノカ。
「……っ!?」
あまりの情緒の急旋回と態度の変わり身の早さに、ヒナは目を丸くし、後ろにいたチナツは顎が外れそうになって絶句した。
「おぉ〜〜!! 出たぁーー!! 国王様の聖慮!!」
「あの口調を使われるのは、国王様お気に入りのカンナ局長以外にいないはずなのに!!」
「流石国王様!! ゲヘナの最高戦力と瞬時に和睦を結ぶとは、なんと柔軟で卓越した外交能力の高さ!!」
「いやぁ〜、やっぱ志真王国について正解でしたなぁ〜」
後ろでドーナツの袋を開けながら手揉みするフブキを含め、国民軍団は「国王様万歳!」と歓喜の拍手喝采を巻き起こす。
一方、ベタベタと巨大な悪魔のツノを撫で回されながら、ヒナは心底不機嫌そうに口を開いた。
「……チッ。喧嘩が終わりならそれでいいわ。角をベタベタ触るのをやめなさい。それよりも私は食堂に行きたいのよ」
「おぉ、そうかそうか! 誤解も解けたことだし、和睦の証にあたしが食堂まで案内してやるっすよ!」
「案内なんていらないわ。場所くらい知ってる」
「まぁまぁ、そうツンツンすんなってヒナっち! ほら、行くっすよー!」
ズンズンと肩を組む勢いでヒナとチナツ、そしてぞろぞろと後をついてくる国民たちを引き連れて校舎内へと入っていくコノカ。
数分後。ヴァルキューレ警察学校、中央大食堂。
厨房の調理員たちが怯えて隅っこに固まる中、コノカはテーブルの席にドカリと腰掛けた。
「ところでヒナっち、食堂に何の用っすか? 今日の日替わりメニューの焼きうどんでも食いにきた感じっすか?」
「いいえ、ただ『偽物』をばら撒いてるって耳に挟んだものだから……『本物』を布教してあげようと思ってね」
「本物?」
コノカが首を傾げると、ヒナは腕を組み、冷然と言い放った。
「これ以上は
「はっ!!」
チナツは医療鞄から取り出した特注のコック帽を被ると、厨房の超巨大業務鉄板の前に仁王立ちした。
【ヒナヒナクッキング♪ これぞ真実! 至高の焼きうどん】
① 鉄板に10kg単位の純度100%牛豚ラードの塊を1ダース(12個)豪快に投げ込みます!
② 熱せられて沸騰した脂の海へ、合計100kgを超える極厚牛バラ肉、シマチョウ、マルチョウの大群をダイビング!
③ そして、キャベツや人参などの不純物を一切排除し、ラードをふんだんに練り込んだ特製極太うどん1万玉も集団ダイビングとともに炒め合わせましょう!
④ ほどよく具材が火を吹いたところで、塩分濃度300%の特製漆黒超濃厚ソース100Lを惜しげもなく注ぎ込むのが最大のポイント!
⑤ 具材、麺ともにソースと脂を限界まで吸い切ったら完成!! おあがりよ!!
コトリ、と。
コノカの目の前に、洗面器ほどもある巨大な平皿が置かれた。
「……………………」
そこに盛られていたのは――光を一切反射しない完全なる『黒』であった。
いや、厳密には肉とうどんのシルエットは視認できる。焦げて炭化しているわけではない。
それなのに、宇宙の特異点ブラックホールのように光を呑み込み、周囲の景色を歪ませるほどの漆黒。
イカ墨パスタよりも圧倒的な暗黒を冠した、魔界の麺料理がそこにあった。
「うんうん、夏はやっぱりこれね」
ヒナは隣で、山盛りの魔麺を割り箸で豪快に持ち上げると、ズババババッ! と音速の勢いで一気に胃袋へとすすり上げた。
その口元には、年相応の無邪気で至福に満ちた笑顔が浮かんでいる。
「こ、国王様……これは流石に……生物が口にしていい代物では……」
後ろに控えていた国民生徒が、顔を青くして耳元で囁く。
「馬鹿野郎!!」
コノカは立ち上がり、一喝した。
「せっかく友達の部下が腕によりをかけて作ってくれたんだ! 志真王国の王たるあたしが、不味そうだからって食わねぇわけにはいかねぇだろ!!」
男気――否、王の意地を見せつけるコノカ。
彼女は迷うことなく割り箸を割ると、暗黒の麺を豪快に一掴みし、口の中へと一気に流し込んだ!
ズゾゾゾッ、モグッ……。
「食いもんで遊ぶんじゃねぇクソチビがああああああああああああ!!!!!!!」
その異常な塩分濃度と脂っこさに一瞬で激怒したコノカは、テーブルを蹴り飛ばしてヒナの胸ぐらを力任せに掴み上げた!
「あぁ!? 人の手料理を残すどころかケチをつけるなんていい度胸ね! ぶち殺すぞクソヤンキー!!」
胸ぐらを掴まれたヒナも即座に逆ギレし、デストロイヤーの銃身をコノカの顎下へと突きつける!
「上等だオラああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
ボガアアアアアアアアアアンッ!!!!!!
こうして、誤解が解けたはずの場所で再び幕を開けた頂上決戦。
粉々に倒壊し、瓦礫の雨が降り注ぐ食堂の中で、2人の怪物の激闘は日が暮れて夕方になるまで延々と続いたそうな。
【暴食 VS 傲慢 ―― 引き分け(両者腹が減ったことでお互い帰宅)】
この後、帰るついでに上層部たちは国王様によるお尻ペンペンの刑に処されたそうな。