渦巻く光の回廊。
深層記憶の境界線を突き抜け、時間の奔流へと投げ出された3人の周囲には数え切れないほどの巨大なスクリーンが無数に浮遊し、四方八方に目まぐるしい映像を映し出していた。
そこを満たしていたのは、驚くべきことに、そのすべてが『空崎ヒナの飽くなき食事の記録』であった。
あるスクリーンでは、トリニティ自治区の老舗寿司屋『銀鱗』の檜カウンターにドカリと腰掛け、醤油桶プールに浮かべた様々な寿司の残骸ごと丸呑みにしていくヒナの姿。
別の画面では、ヴァルキューレ警察学校の薄暗い取調室のパイプ椅子をへし折りながら、出前で運ばれた30kgの特盛カツ丼を特注容器ごとかっこみ、尾刃カンナの財布の息の根を止めているヒナの姿。
さらに頭上を旋回するスクリーンには、灼熱の鉄板の上でラード1ダースとホルモン100kgを泳がせた『至高の漆黒焼きうどん』を猛烈な勢いですすり上げる光景や、ナギサが血汗を流して圧縮成型した1個5kgの超高密度鈍器クッキーを、岩石粉砕機のごとき咀嚼音でバリボリと噛み砕く場面が映し出されている。
極めつけは、ミレニアムのメガスタジアムで総重量2tの油圧式特製ピザの山をシャベルカーのごとく胃袋へ流し込み、路地裏では『そらさき屋』の砂糖醤油まみれの真実牛丼を無慈悲に貪るヒナの凶悪な姿であった。
「おいおいおいおい! なんだありゃあ!? 画面のどこ見渡しても、あのチビが飯をガツガツ食い散らかしてる絵面しかねえじゃねえか!! 記憶の9割が食い物で埋まってんのかあいつは!?」
奔流に身を任せて流されながら、志真コノカが呆れ果てた声を張り上げる。
「ひ、ひえぇぇ……! どの画面を見ても、胃もたれと高血圧で血管が破裂しそうなカロリーの暴力しか映っていませんよぉ……! な、なんですかこの人生、フードファイターの悪夢の走馬灯なんですかぁぁ!?」
阿慈谷ヒフミが目を白黒させ、飛来する牛丼の映像に怯えてペロロ様の着ぐるみフードを掻きむしる。
「ふふ、実に興味深いですね。彼女の精神基盤における記憶インデックスは、8割以上が『捕食行動』と『摂取カロリー』に直接紐づけられているようです。雷帝の記憶を辿るための検索キーが、すべて胃袋を経由している証拠ですよ」
生塩ノアだけが優雅に虚空を漂いながら、次々と流れる暴食のアーカイブを手帳の余白へサラサラとペンで記録していた。
ズドォォォォンッ!!!!
突如として視界の床が抜け、3人の肉体は重力に従って地上へと激しく叩き落とされた。
スタッ!
コノカはスウェットからいつの間にかアロハシャツにヴァルキューレ公安局の制服を羽織った普段着へと姿を変え、純金の王冠を輝かせながら見事に両足で着地。
トン。
ノアもまた、純白のセミナー制服を翻して微塵の乱れもなくハイヒールを滑り込ませる。
「ふぎゃああああっ!?」
ドシャアッ! と無様に尻餅をつき、砂利の上で派手にバウンドしたのは、同じくトリニティの白セーラー制服へと戻っていたヒフミであった。
「痛たた……お尻が……お尻が4つに割れちゃいましたぁ……! あれ? パジャマじゃない……いつの間にか、いつもの制服に戻ってます……!?」
「深層記憶のダイブプロトコルが、各々の精神的自我に基づき、最も慣れ親しんだ装束へと外見を再構成したようですね。……そして」
ノアは手帳を閉じ、冷たい風が吹き抜ける周囲の景色を見渡した。
「どうやら、ここが目的地のようですね。2年前のゲヘナ自治区です」
ドドドドドドドッ!! ババババババッ!!
ドガアアアアアンッッ!!!!
ノアの言葉を遮るように、鼓膜を劈く重機関銃の連射音と、空気を切り裂く砲弾の炸裂音が炸裂した。
目の前に広がっていたのは、現在のゲヘナよりも遥かに荒廃し、無秩序と混沌が支配する硝煙の地獄。
道路のあちこちで火の手が上がり、トゲ付きの装甲車や違法改造された重戦車がバリケードを粉砕しながら突進し、空を見上げれば爆音を轟かせる所属不明の戦闘機が数え切れないほど飛び交い、低空飛行でミサイルをばら撒いている。
道端ではガスマスクの不良生徒や重武装のスケバンたちが雄叫びを上げながらグレネードランチャーを乱射し合い、文字通りの世紀末パラダイスが広がっていた。
「と、とんでもなく治安が悪いじゃないですかぁぁぁ!? なんてところに来ちゃったんですか!! これなんですか、内戦ですか!? 戦争なんですか!? 私たち、間違えて中東の最前線にダイブしちゃったんじゃないですかノアさぁぁぁんッ!!!」
ヒフミは腰を抜かしたまま、両手で頭を抱えて絶叫した。
「もしもし、そこの生徒さん。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
「ええい邪魔だ! 撃ち殺されたくなかったら――ひぎゃっ!?」
ノアはヒフミの悲鳴を他所に、物陰からアサルトライフルを乱射していた生徒の肩をトントンと叩き、相手が振り向いた瞬間に胸ぐらを掴み上げ、片手で手帳を開いた。
「現在の自治区内の戦闘勢力比率、および前生徒会長『雷帝』の布告に対する一般生徒の支持率について、簡潔に3点でお答えいただけますか?」
「な、なんだお前ぇぇぇ!? ミレニアムの回し者かぁぁぁ!?」
目の前で乱射される銃弾の嵐をミリ単位で首を傾げて回避しながら、ノアは手帳に万年筆をサラサラと走らせる。
戦火のど真ん中で平然と街頭インタビューを敢行するノアの狂気に、ゲヘナの生徒が泡を吹きかける。
一方――。
「あぁん? ガタガタガタガタ、さっきからやかましい連中だな。王たるこのあたしの目の前で、無許可でドンパチおっ始めるたぁ良い度胸してんじゃねえか、オイッ!!」
眉間に青筋を浮かべたコノカが、猛スピードで突っ込んできた敵の重戦車の前へと立ち塞がった。
「オラァッッ!!」
振り抜かれたコノカの渾身の右手チョップが、分厚い複合装甲の砲塔へと直撃する!
ズッシャアアアアアアンッッ!!!!
真っ二つ。
豆腐のように両断された戦車が左右へ綺麗に裂け、爆破炎上する。
「「「バ、バケモノだあああああああっっっ!!!???」」」
銃撃戦を繰り広げていた周囲の不良たちが一斉に血の気を引かせて悲鳴を上げる。
外から乱入してきた2体の怪物の登場により、戦場はさらなる混沌の坩堝へと叩き落とされていた。
「うぅぅ……頭が割れそうに痛いです……! なんでこの人たちはどこに行っても暴れることしか考えないんですかぁ……!」
ヒフミが涙目で頭を押さえたその時、ふと通りの向かい側の角に、奇跡的に砲撃を免れて営業している大手牛丼チェーン『吉田屋』のオレンジ色の看板が目に入った。
「(あ、あそこだ……! あそこの頑丈な店舗の中に逃げ込めば、とりあえず流れ弾からは助かるはず……!)」
ヒフミが希望を見出し、避難しようと一歩を踏み出した、まさにその瞬間――。
ドゴオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!
吉田屋の強化ガラスの自動ドアが、内側からの凄まじい衝撃波によって枠ごと粉々に吹き飛んだ!
中から「ぎゃああああっ!」「た、助けてくれぇぇ!」と悲鳴を上げながら、客の不良生徒やエプロン姿の店員たちが、ピンボールの玉のように次々と路上へと弾き飛ばされていく。
ピタッ……!
その瞬間であった。
先ほどまで激しい銃撃戦と殺し合いを繰り広げていた周囲の数十人の生徒たちが、まるでリモコンの停止ボタンを押されたかのように、一斉に発砲を止めた。
「あ?」
コノカが首を傾げる。
ノアはインタビューしていた生徒を放り出し、紫色の瞳を細めてその破壊の中心を観察する。
カツン、カツン、カツン……。
粉々に砕け散ったガラスの破片を踏みしめながら、瓦礫の煙の奥から重厚な軍靴の足音が響いてきた。
濛々たる粉塵を切り裂いて姿を現したのは――漆黒のゲヘナ学園情報部の制服に身を包んだ、小柄な少女であった。
深く被った軍帽の鍔の下から覗く、幼さを残しながらも研ぎ澄まされたナイフのように鋭利な眼光。背中には禍々しい漆黒の悪魔の翼が広がり、頭上には威圧的な巨大な角が天を衝いている。
「また偽物……。出汁の甘みだの、玉ねぎのシャキシャキ感だの……そんな不純物で肉を薄めたゴミを牛丼と呼ぶなんて、万死に値するわね」
少女は忌々しげに唾を吐き捨てた。
「いい加減『本物』を食わせなさいよ」
ズカズカと、周囲の瓦礫を踏み躙りながら偉そうに歩き出す少女。
その姿を視界に捉えた瞬間、道端にいた百戦錬磨の荒くれ者たちが、全員一斉に武器を放り出し、アスファルトの上に膝を突き、額を地面に擦り付けてガタガタと震え始めた。
「ひ、ヒィィッ……!情、情報部の……『
「目を合わせるな……! 殺される……!息の根を止められるぞ…!!」
周囲の異常極まりない平伏ぶりに、ヒフミは息を呑んで後ずさる。
「な、なんですかこの空気……!? 全員が、まるで死神を見るような目で怯えてますよ……!?」
だが、そんな張り詰めた空気を、隣のヤンキー王が意に介するはずもなかった。
「ケッ、なんだぁ? 1年坊主の癖にやけに偉そうなツラしやがってよぉ」
コノカは口角を吊り上げ、凶暴な笑みを浮かべながら、ズカズカと歩いてくる少女の真正面へと立ちはだかった。
「オイ、お前ヒナっちだーーーーーーーーー」
ドギャアアアアアアアン!!!!!!
「ぶっ!?」
挨拶も、名乗りも、何一つとして完了することはなかった。
少女の踏み込みから放たれた問答無用の音速パンチが、コノカの顔面にクリーンヒットし、コノカの身体は真横のビルへと砲弾のごとく吹き飛んだ!
突き出した右拳から白い煙を立ち昇らせながら、軍帽の少女――2年前の空崎ヒナは、眉ひとつ動かさずに冷徹に吐き捨てた。
「あ? 死ねよ」
ズガアアアアンッ!!
ビルの壁面を突き破り、瓦礫を跳ね飛ばして即座に飛び出してきたコノカ。
その口端からは一筋の血が流れていたが、その瞳には狂戦士の獰猛な炎がギラギラと渦巻いていた。
「ダッハハハハ!! いいパンチ持ってんじゃねえかコラァ!!! 挨拶代わりにしちゃ上等だぜ、遊ぼうぜチビ助ぇ!!」
超低空の跳躍から、コノカの渾身の右ストレートがヒナの顔面へと炸裂した!
ドバシャアアアアンッッ!!!!
大気が破裂するような衝撃音。
しかし――殴られた少女ヒナは、首をミリ単位たりとも傾けることなく、微動だにしなかった。
軍帽の隙間から覗く紅い双眸が、ギロリとコノカを射抜く。
「チッ……しつこいゴミね」
ドゴォッ!! バギャッ!! ドガガガガガッッッ!!!!
少女ヒナのカウンターの左フックを皮切りに、両者による一切の防御をかなぐり捨てた、ゼロ距離での超音速パンチラッシュの殴り合いが幕を開けた!
拳と拳がぶつかり合うたびにソニックブームが吹き荒れ、周囲の道路のアスファルトが粉々に剥ぎ取られていく。
「ひ、ひぃぃぃぃっ! 逃げろぉぉぉ! 巻き込まれたらミンチだぁぁっ!!」
平伏していたゲヘナの生徒たちが、恐怖のあまり悲鳴を上げて蜘蛛の子を散らすように逃走していく。
「あ、あの人が2年前のヒナさんなんですかぁぁ!? な、なんですかあれ、今のヒナさんよりも遥かに血気盛んで危なすぎますよぉぉぉ!!」
ヒフミが頭を抱えて叫ぶ。
その横で、ノアは万年筆をサラサラと走らせながら冷静に分析を口にした。
「ええ。風紀委員長という重責と激務を背負う前の、情報部時代の空崎ヒナ……。噂には聞いていましたが、統率者としての理性や自制心というリミッターが一切存在せず、純粋な闘争本能と食欲だけで動く、極めて血の気の多い危険な個体だったようですね。それに――」
ノアは薄紫色の瞳を僅かに細め、激闘を繰り広げる2人の動きを冷徹に見据えた。
「この勝負、思ったよりも早く決着がつきそうですね」
「えっ!?」
ヒフミが驚愕して視線を戻す。
爆音の嵐の中――あの七囚人を素手で制圧したはずの志真コノカが、徐々に、しかし確実に後退を余儀なくされていた。
「(な、なんだこのガキの馬鹿力は……!?)」
コノカの額から、一筋の冷や汗が顎を伝って滴り落ちる。
殴り合うごとに、少女ヒナの繰り出してくる一発一発の打撃が、より重く、より鋭く、倍々ゲームのように威力を増しているのだ。
しかも、コノカの渾身の拳を何十発と顔面や鳩尾に受けているにもかかわらず、少女ヒナの肉体には傷ひとつ、痣ひとつ浮かび上がってこない。
「(今のヒナっちでさえ、フルパワーで殴りゃ血ぃ流すのに何十発殴ってもかすり傷の一つさえできやしねぇ…! 本当に同一人物か…!?)」
コノカの額から、焦燥の冷汗が滝のように流れ落ちる。
すると、少女ヒナは苛立たしげに舌打ちし、突如としてバックステップを踏んで数m後方へと跳躍した。
「チッ……殴り合いに時間をかけるのも、まどろっこしいわね」
少女ヒナは自らの左胸――その薄い制服の上から、自らの心臓の位置を右手で鷲掴みにするように強く握りしめた。
「心 臓 エ ン ジ ン」
ドルルンッ!!!! ドルルルルルルルルルンッッ!!!!
それは、生身の人間から鳴り響いていい音では断じてなかった。
大型の改造バイクがセルモーターを回し、超大排気量のエンジンを一気に吹かしたかのような、暴虐の重低音がヒナの体内から轟き渡る。
シューーーーーーッッッ!!!!
瞬間、ヒナの全身の毛穴から、超高圧の灼熱の蒸気が爆発的に噴き上がる!
「なっ……!?」
コノカは反射的に両腕を交差させ、顔面を覆って熱風を防ごうとする。
だが、その防御態勢が完了したコンマ0.001秒後――。
ドゴオオオオオオオオオオオン!!!!!!
音速を超越した踏み込み。
コノカの動体視力をもってしても、ヒナがいつ間合いを詰めたのか、その初動を捉えることすら叶わなかった。
「ガ……ハ……ッ?」
コノカの口から、肺の中のすべての空気が吐き出された。
腕によるガードごと、コノカの腹部深くまでめり込んだヒナの拳。
これまでキヴォトスのあらゆる武装勢力を素手で蹂躙してきた志真コノカの人生において、一度たりとも経験したことのない前代未聞の超絶質量衝撃。
ドサ……ッ。
そのまま、糸の切れた操り人形のように、志真王国の絶対君主が前のめりに倒れ伏した。
赤熱化し、チェリーレッドのように真っ赤に染まった肌。
倒れたコノカを見下ろすヒナの身体からは、まるで高圧蒸気機関車のように絶え間なく白い蒸気がプシューッと激しく噴き上がっていた。
「す、素晴らしい……! なんという生体出力……! 現代のヒナちゃんですら一度も見せたことのない、肉体を意図的に暴走させる未知の強化技……! あの傲慢のコノカさんを、たった一撃で完全な戦闘不能に追い込むとは……! もっと近くで、詳細な循環器データを観察したいですね」
ノアが目を輝かせ、万年筆を猛烈な速度で走らせる。
「な、何を呑気なこと言ってるんですかノアさんッッ!? こっち来ますよ! 完全に目が合ってますよぉぉぉッ!!」
ヒフミが半狂乱になってノアの肩を激しく揺さぶる。
その言葉の通り、赤熱化した肌から蒸気を吹き上げるヒナは、冷酷な眼光でノアとヒフミをギロリと睨みつけ、ゆっくりと軍靴を踏み鳴らして近づいてきていた。
「あわわわ……! た、助けてペロロ様ぁ……!」
ヒフミは完全に腰が砕け、観察を続けるノアの背中へと必死にしがみついた。
絶体絶命――ヒナが2人の息の根を止めようと、無慈悲に右拳を振り上げた、まさにその瞬間。
「コラァ! 空崎!! やめなさい!!!」
路地の向こうから、凛とした怒声が響き渡った。
ピタリ、と。
空気を切り裂く凛とした鋭い怒声が響き渡った。
ヒナの拳がピタリと空中で静止する。
振り向いたヒナの視線の先。
煙の晴れた大通りの角から、同じくゲヘナ情報部の腕章を巻いた、上級生の制服を着た長身の女生徒が腕を組んで仁王立ちしていた。
「……チッ。先輩、コイツら他学園の奴ですよ? トリニティとミレニアムの制服を着てます。スパイかもしれないので、尋問する前に先に殺しておけば後が楽じゃないですか」
ヒナは舌打ちをしながら、億劫そうに拳を下ろした。
「誰彼構わず暴力振るうのはやめなさいって、いつも言ってるでしょ!! 情報部の仕事は街中の破壊工作じゃないの!!」
情報部の先輩はヒナの頭をパシッと軽く小突くと、深々と頭を下げた。
「まったく……ごめんなさいねあなたたち。ウチの空崎が乱暴を働いて、大変なご迷惑をおかけしてしまって」
「いえ、お気になさらず。極めて有益な観察データを採取できましたので、お構いなく」
ノアは微笑みを崩さずに会釈する。
「は、はひ……ご、ごめんなさいでしたぁ……」
一方のヒフミは、涙と鼻水で顔面をぐちゃぐちゃに濡らし、声にもならない掠れ声を絞り出すのが精一杯であった。
そんな中、ヒナは先輩の袖をクイクイと引っ張りながら不服そうに口を尖らせた。
「そうだ先輩、聞いてくださいよ。この近くの店が、またシャバい偽物の牛丼を出してきたせいで、昼飯を完全に食い損ねたんですよ。腹が減ってるので一緒に美味しいご飯、食べに行きましょうよ」
「あんた、またお昼ご飯のために店を1軒潰したの……!? ……って、いやそうじゃなくて!」
先輩はハッと思い出したように表情を引き締め、ヒナに向き直った。
「『雷帝閣下』が、至急あなたを本部に呼んでいたわよ! お昼ご飯は、閣下への報告が終わったあと!」
その言葉が投げかけられた、まさにその刹那――。
ヒナの顔が、これ以上ないほど露骨に嫌そうに歪んだ。
「はあぁ〜〜〜〜〜〜〜?…………………………チッ、分かりましたよ。行けばいいんでしょ、行けば」
「露骨に嫌そうな態度を取るのも、そろそろ直そうね、空崎」
先輩はため息をつき、去り際にノアとヒフミへと振り返った。
「ここは今、治安が最悪で危ないから、他校の生徒さんは早く自治区の外へ出たほうがいいわよ。それじゃ!」
スタスタと歩き去る情報部の先輩と、その後ろを心底億劫そうに、だるそうについていく少女ヒナ。
粉塵の舞う路上には、白目を剥いて倒れたままの志真コノカと、完全に腰が抜けて震え続ける阿慈谷ヒフミ。
そして――遠ざかっていく情報部の2人の背中を、紫色の瞳の奥に底知れぬ狂気と愉悦を滾らせ、ニヤニヤと笑いながら見つめ続ける生塩ノアの姿であった。
「…………へぇ」
ノアの静かな呟きは、遠くで炸裂した砲弾の硝煙の中へと静かに溶けて消えていった。
チャゲチャの人間バイクとONE PIECEのギア2の複合技です。
雷帝編の後にはどの話が見たいですか?
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