ヒロアカ世界に転生した者が千手を背負い過ごしていく。 作:名も無き住人
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ヴィラン連合アジト
USJ襲撃事件直後、黒霧の"ワープゲート"で連合のアジトまで戻って来た死柄木、BARの椅子に座り少し怒りのこもった声でモニターに話しかける。
「脳無もやられた……手下共は瞬殺だ……子供も強かった……平和の象徴はわからなかったが、あの圧と一瞬で間合いに入る速度……恐らくは健在だ……!話が違うぞ……先生!」
モニターに向かって先生という人物に不満をぶつける様に言い放つ。
「違わないよ。ただ見通しが甘かったね、だがそれは僕も同じ…ごめんよ、死柄木弔。まさか生徒がここまでやるとは…完全に想定外だったよ」
「うむ…舐めすぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい」
モニターから低く不気味な声と老人口調の年寄りの声が部屋に響く。
「ところで、ワシと先生の共作、脳無は?回収してないのかい?」
「…完膚なきまでに破壊されました……一人の雄英の生徒の手によって……」
「あいつ…!脳無が再生できない程の拳を…!なにがヒーロー科だ…!あいつさえ、あいつさえいなければ!生徒を何人か殺せていた…!オールマイトも殺せてた…!クソッ!」
だんだんと怒りを表す死柄木。
「悔やんでも仕方ない! 今回だって決して無駄ではなかったはずだ。精鋭を集めよう! じっくり時間をかけて!」
さ
「先生」がモニター越しに口を開く。
「我々は自由に動けない! だから君のようなシンボルが必要なんだ死柄木弔!次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!」
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駆けつけた先生達がまだヴィランが残っていないか確認に向かいその間オールマイトから幾つか確認とも取れる質問を受け、その後警察も到着した。
警察の事情聴取を受けるためバスで学校に戻る途中、クラスが静かだった。
俺は窓の外を見ていた。
今日——本物の敵に出会った。
死柄木弔という存在が何を考えているのかは、今の俺にはわからない。でも——何れまた来る。
その確信だけはあった。
(次に来たとき——俺は今日より強くなっていなければいけない)
俺は静かにそう思った。
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透が俺のそばに来た。
「悠太……無事?」
「無事だ。透は?」
「……怖かった。でも、轟君が強くてびっくりしちゃった……でもそのおかげで怪我はないよ」
「そうか。良かった」
「……悠太が広場で戦ってるの、少しだけ見えた」
「そうか」
「九十九の掌……初めてちゃんと見た」
「どうだった」
た」
「……すごかった。地面が割れて、USJ全体が揺れたように感じた。でも——」
「でも?」
「悠太が、周りへの影響を考えながら使ってるのがわかった。広場の端に向けて、クラスの皆んなが少しでもいない、影響の受けない方向に」
俺は少し驚いた。
「……見えてたか」
「見てたから。悠太のことは、よく見てる」
「……そうか」
悪い気はしなかった。
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家に戻って、台所に立った。
スマホが鳴った。ねじれから。
『悠太!!! ニュースで見た!!! USJでヴィランが!!! 大丈夫!?!?!?!?』
続けて。
『透ちゃんも大丈夫!?!?!?!?!?!?!?』
続けて。
『今すぐ行っていい!?!?!?!?!?!?!?』
俺は包丁を置いて返信した。
『二人とも無事。今から飯作るから来い』
一秒で来た。
『今すぐ行く!!!!!!!!!!!!!!!!』
(しかし……もうニュースになっているのか……まぁ仕方ないか、あの雄英にヴィランが入り込んだんだからな……)
その後ねじれも来て三人で食卓を囲み今日は少し早くに眠りについた。
二日後
俺は六時に起きた。
いつも通りの時間だ。やはり体に異変はない。USJで個性を大きく使ったが、消耗は思ったより少なかった。真数千手は使えば使うほど体が慣れていく感覚がある。まだその限界は見えていないが——それはつまり、まだ伸びる余地があるということだ。
台所に下りて、昆布を水に浸した。
窓の外が明るくなっていく。
今日は何を作ろうか。
冷蔵庫を開けた。鮭の切り身が一枚。卵が四個。長ねぎ、豆腐、しめじ。
(鮭と豆腐の味噌汁にするか)
俺は鍋を取り出しながら、一昨日のことを頭の中でもう一度整理した。
USJ。本物のヴィランと向き合った。
死柄木弔という男が「今度は」と言った。
あれは脅しじゃない。本気の言葉だ。俺にはそれがわかった。あの男は——何かを本気で求めていて、その過程で俺たちが邪魔だと判断した。次に来るとき、今日と同じ手は使わない。
(備えないといけない)
俺は鮭を焼きながら、静かにそう思った。
歌い手の夢は変わらない。
でも今は——もっと強くなる必要がある。それは確かだ。
七時半に透が来た。
「おはよう、悠太」
「おはよ。今日は顔色が良いな」
「……昨日よりだいぶ落ち着いた」
「そうか。良かった」
透が台所に上がってきて、俺の隣に立った。
「鮭の味噌汁……いい匂い」
「座って待ってろ」
「……うん」
透が椅子に座った。しばらく黙っていたが、やがて静かに言った。
「悠太、一昨日の事怖くなかった?」
「怖くはなかった。ただ、軽くもなかった」
「違いは?」
「怖いのは、何が起きるかわからなくて体が止まること。軽くないのは、何が起きているかわかって、それでも重さを感じること。俺は後者だった」
透が少し黙った。
「……私は怖かった。でも、轟君が横にいてくれたから、なんとか動けた」
「それで十分だ」
「十分かな」
「ああ。怖くても動ける、というのは、怖くない人間より価値がある場合がある」
「……そうかな」
「俺はそう思う」
透が「……ありがとう」と言った。
俺は鮭をほぐしながら、「飯食ってから学校行くか」と言った。
「うん」
「ねじれは?」
「今日は寮から直接来るって言ってた。LINEが来てた」
「そうか」
手を合わせて、二人で食べた。
鮭の旨みが味噌汁に溶け込んでいた。今日はよく出汁が出た。
因みにこの作品の九十九の掌は頂上化仏の下位互換ですが、その分速度は高く殆どの人間は全てを理解できず兎に角凄まじい速さの掌が打ち込まれたという感覚になっています。簡単に言えば原作通りの九十九の掌ですね。後ねじれが寮にいると言っていますが、この作品では雄英近くの寮に住んでいるという設定です。