ヒロアカ世界に転生した者が千手を背負い過ごしていく。   作:名も無き住人

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職場体験二日目です。


二十五話

 二日目の朝。

 

 俺は五時半に起きた。

 今日は訓練がある。

 

 朝食を食べながら、今日のことを整理した。

 真数千手の上限確認。

 これまで、俺は真数千手の出力を「必要な分だけ使う」という形で使ってきた。壱乃掌も、九十九の手も——全部、状況に合わせた出力だった。

 では、本当の最大出力はどこか。

 それを、今日初めて確認する。

 怖くはない。ただ、何が起きるかわからない、という感覚はあった。

 それは——怖さではなく、未知への緊張だ。

 

 リューキュウ事務所の訓練スペースは、事務所裏の広い空き地を利用していた。

 周囲は高い防護壁で囲まれていた。上空も開けている。広さは十分だ。

 リューキュウさんが待っていた。

 

「おはよう。体の調子はどう?」

「問題ありません」

「よく眠れた?」

「六時間は寝ました」

「食事は?」

「朝食は済ませてあります」

 

 リューキュウさんが頷いた。

「今日の進め方を説明するね」

「はい」

「まず、普段の技の出力から始めましょう。まず壱乃掌から始めていって、日輪ノ環、九十九の手、そしてさらに高威力の技——それぞれ、君が普段使っている出力で動かしてもらう。私が状態を確認するわ」

「わかりました」

「それから、少しずつ出力を上げていきましょう。十パーセント単位で上げて、その都度止まる。体に異変がないか確認してから、次に進む」

「はい」

「無理に進まなくていいわ。少しでもおかしいと感じたら、即座に止める。それが絶対条件よ。いいね」

「わかりました」

「それと——昨日話してくれた零の手についてね」

 俺は少し緊張した。

「零の手だけは、今回は試さないわ。この技だけは、恐らくだけど他の技と性質が違うと思っているわ、光弾を放つ技だね」

「はい。これまでも本当の意味での全力では使ったことがありません」

「そうだと思った。恐らくその技を使うとここが持たないと思うの、上限を知ることを目的としてるけど安全にできなくては意味がないわ。ごめんなさいね、従ってもらえるかな」

「従います」

「ありがとう」

 リューキュウが防護壁を確認した。

「ねじれが来てるね」

「はい。見ていたいと言っていました」

「構わないよ。ただし、防護壁の外から見てもらう。何があっても中に入らないよう、君から伝えてあげて」

「伝えておきます」

 

 ねじれに伝えた。

「見ててもいいって。ただし壁の外から」

「わかった!!絶対入らない!!」

「頼む」

「……悠太、緊張してる?」

「少しある。未知の感覚、と昨日透に話した」

「そっか。でも——悠太なら大丈夫だよ」

「根拠はあるか」

「ない。でも、そう思う」

 俺はその言葉を聞いた。

「……ありがとう」

「頑張ってね」

「ああ」

 

 訓練が始まった。

 まず、真数千手を顕現した。

 黄金の光が広がった。千の腕が展開される。

 リューキュウが静かに見ていた。

「普段の出力で、壱乃掌から」

「はい」

「——壱乃掌」

 ドォォン!

 

 前方に設置した偽ヴィランに展開した掌打の衝撃が、地面を揺らした。

 

 リューキュウが何かを確認していた。

「体に変化は?」

「ありません。いつも通りです」

「疲労感は?」

「この程度ではありません」

「わかったわ。次は、九十九の手を——普段の出力で」

「——九十九の手」

 

 ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!

 

 九十九本の腕が一斉に前方に向かった。衝撃が防護壁に当たり、低い轟音が響いた。

 

「止めて」

 俺は止めた。

「体の状態は?」

「問題ありません。少し気力を使いますが、疲労はほぼありません」

「なるほどね」

 リューキュウさんがしばらく考えた。

「だったらこれから出力を上げていきましょう。まず、普段の出力を基準として、二十パーセント増しで壱乃掌を」

「わかりました」

 

——————————

 

「——九十九の手」

 

 ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!ドオオン!!

 

 衝撃が増した。地面に亀裂が入った。

「体は?」

「少し重いです。でも問題ありません」

「四十パーセント増しでこれくらいか……威力を考えてる凄まじいわね……六十パーセント進む前に、一度休みましょう」

「……まだ動けます」

「段階的に進むと言ったはずよ。急がない」

「……わかりました」

 俺は一度、真数千手を引いた。

 五分間、静かに立っていた。

 リューキュウさんが隣に来た。

「今、体の内側はどんな感じ?」

「少し——熱い感じがします。胸の辺りに」

「真数千手が動いている場所、という感覚?」

「そうだと思います。普段はほとんど感じませんが、出力を上げると感じやすくなる」

「それが上限に近づいているサインかもしれないわ。覚えておいて」

「はい」

 

七十五パーセント増し

 

 「——九十九の手」

 

 ドオオオオン!! ドオオオオン!!ドオオオオン!!

 

 地面が大きく揺れた。防護壁が震えヒビが更に大きくなる。

「止めて」

 俺は止めた。

 胸の熱さが増していた。体は動ける。でも——何かが普段と違う感覚があった。

 

「体の状態を正直に言って」

「胸の熱さが強くなっています。それと——腕の数が少し戻りにくくなっています」

「腕の再生速度が落ちてる?」

「そう思います。普段なら即座に戻るのに、少し間がかかる感じがします」

「なるほど」とリューキュウさんは言った。「それが疲弊のサインだね。体が個性を維持するためのコストが上がっている」

「そういうことですか」

「そう。筋肉が疲れるように、個性を使い続ける器官も疲れる。それが今、体に出てきてる」

 

 俺はその説明を聞いて、理解した。

 これまで、長時間戦った経験がなかった。体育祭も、USJも、一つ一つの戦闘は短かった。だから気づかなかった。

 

「続けますか」

「ダメよ、休憩してから。十分間」

「はい」

 

 十分間、ベンチに座った。

 リューキュウさんが水を持ってきた。

「ありがとうございます」

「飲んで」

 俺は水を飲んだ。

 

 ねじれが壁の外から「大丈夫?!」と声をかけてきた。

「大丈夫だ」

「なんか、地面割れてたけど!!」

「七十五パーセント増しの出力だと、そうなる」

「普段のがそれより少ないってことじゃん……普段でも十分すごいのに……」

「まだ上がある」

「怖すぎる!!」

 俺は少し笑った。

「心配するな。リューキュウさんがいる」

「うん、それが一番安心だけど!!」

 

 「——九十九の手——八十五」

 

 ドゴオオオオン!! ドゴオオオオン!!

 

 地面が深く割れた。衝撃波が扇状に広がった。

「止めて!!」

 俺は即座に止めた。

 胸の熱さが一気に増した。腕が震えた。

「体は!!」

「……熱い。腕が震えている」

「今すぐ真数千手を引いて」

 俺は真数千手を引いた。

 胸の熱さは残ったが、腕の震えが収まった。

「座って」

 

 俺は地面に片膝をついた。立っていられないほどではない。でも、座った方が安定すると判断した。

 

 リューキュウさんが隣にしゃがんだ。

「呼吸は?」

「問題ありません」

「熱さはどこにある?」

「胸の中心から、肩にかけて」

「徐々に引いてくる? それとも維持している?」

「……引いてきています。少しずつ」

「良かった」と静かに言った。「今日の上限確認、ここで一度止めておきましょう」

「……まだ動けます」

「動けることと、動いていいことは違うわ」

 俺はその言葉を聞いた。

「今日わかったことがある。君の個性の上限は恐らく六十パーセント増しあたりに一つの壁があった、でもそれは自ら突破していたようね。でも問題はその先,大体八十五パーセント、それを超えると、個性の回復機能に負荷がかかる。今日それが確認できた。十分な収穫だよ」

「……わかりました」

「お疲れ様。今日は良くやったわ」

 

 訓練終了後、ねじれが駆け込んできた。

「悠太!!大丈夫?! 途中で座ってたから心配した!!」

「大丈夫だ。少し疲れただけだ」

「本当に? 嘘ついてない?」

「嘘はつかない」

「……良かった」

 ねじれが少し息を吐いた。

 

「見てたけど——すごかった。地面が割れてくのを見て、なんか……悠太の力って、本当にこういうものなんだなって」

「驚いたか」

「驚いた。でも……怖いとは思わなかった。なんでだろ」

「なんでだと思う」

「……悠太が使ってるから、かな。知ってる人が使ってると、怖くない」

 俺はその言葉を聞いて、少し思った。

 これがリューキュウさんの言っていた「誰かを見る」ということの逆だ。見られている方も——誰かに見てもらっているから、力を正しく使える。

「ねじれ」

「なに?」

「見ててくれてありがとう」

「……え」

「誰かに見てもらっていると、丁寧に動ける、と透に言った。今日、それを感じた」

 ねじれが少し目を赤くした。

「……悠太が、そういうこと言うとは思わなかった」

「言えるようになってきた」

「……うん。ありがとう」

 

 するとねじれがスマートフォンを出した。

「透ちゃんに報告していい?」

「好きにしろ」

 ねじれが打ち込み始めた。しばらくして、返信が来たらしく「うわー」と言った。

 

「なんて書いてあった」

「「悠太が「見ててくれてありがとう」って言ったの?! 進化してる!!」って」

「進化ではない」

「透ちゃん的には進化らしいよ!!」

「……そうか」

「いいことだよ。ちゃんと言葉にできるようになってるってことじゃん」

「そうかもしれない」

「もともとは言えなかった?」

 

 俺は少し考えた。

「言葉にする、ということを、あまり重視していなかった。伝わればいいと思っていた」

「でも、言葉にする方が伝わることもある」

「透に教わった。それと、ねじれにも」

 ねじれが「……また嬉しいこと言う」と小さく言った。

「事実だ」

「事実でも嬉しい」

「そうか」

こうして職場体験二日目を終えた。




職場体験なのに今回全然体験してないですね。
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