ヒロアカ世界に転生した者が千手を背負い過ごしていく。   作:名も無き住人

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今回で職場体験終わりになります。


二十七話

「少し話していいですか」

「もちろん」

 ねじれが先輩スタッフやサイドキックの人達と話している間、俺はリューキュウさんと廊下に出た。

 

「何かな」

「先ほどの話の続きです」

「ヒーローに向いている、という話かな」

「はい。……考えていました、午後ずっと」

「どんなことを?」

「俺は歌い手になりたい。それは変わらない。でも——今週動いた時の感覚が、頭から離れなかった。考える前に体が動いていた、とリューキュウが言った。その通りだと思います。誰かのために動くことが、楽しかった」

「……うん」

「それはヒーローの動き方だ、と言われた。その言葉を午後ずっと考えて——一つ、気づいたことがあります」

「聞かせて」

「ヒーローを目指すことと、歌い手を目指すことは、どちらかを選ばなければならないものじゃないかもしれない」

 リューキュウが少し間を置いた。

「続けて」

「リューキュウが言っていた。形がヒーローじゃなくても、本質がそこにある人間はいつでもヒーローに近い場所にいる、と。俺は逆のことも言えると思いました。ヒーローになったとしても、歌い手の本質を持ち続けることはできる。どちらも、誰かを見て届けようとすることだから」

「……なるほど」

「だから——両方、やろうと思います」

 リューキュウが静かに俺を見た。

「ヒーローを目指す、ということ?」

「はい。歌い手も諦めない。でも——ヒーローも目指す。どちらも本物だから、どちらも諦める理由がない」

 リューキュウがしばらく黙った。

 それから、静かに言った。

「……それは、大変な道だよ」

「わかっています」

「ヒーロー活動と、歌い手活動を両立させることは——時間も体力も、人の何倍も使う」

「それでも、やれると思っています」

「根拠は?」

「今週、一週間で複数のことを同時にやっていました。訓練も、現場も、先生の話も、ねじれとのこともの。全部、同時に動いていた。根拠というより——できると感じた、という方が正確かもしれません」

 リューキュウが少し笑った。

「……正直ね」

「嘘をつく意味がないので」

「……君らしいわね」

 リューキュウさんが少し間を置いた。

「一つだけ言っていいかな」

「はい」

「どちらも本物、という感覚は大事にしてほしいの。ヒーローの道に入ると、それ以外のことを後回しにしがちになる。でも——両方本物だと知っている君が、それを続けることに意味があると思う。歌い手であることが、君をより良いヒーローにするかもしれないし、ヒーローであることが、君をより良い歌い手にするかもしれないからね」

「……そう思います」

「うん。じゃあ、やってみなさい」

 リューキュウが静かにそう言った。

 押しつけでも、煽りでもなかった。ただ、認めてくれた声だった。

「……ありがとうございます」

「また来てね、いつでも」

「来ます」

 

 「一週間、ありがとうごさいました。大変お世話になりました」

 こうして俺の職場体験は幕を閉じた。

—————————

 帰り道。

 ねじれと二人で駅に向かった。

 夕日が街を染めていた。今日の夕日は、今週で一番きれいだった。

「今日、リューキュウと何話してたの?」とねじれが聞いた。

「決めたことがある」

「何を?」

 俺は少し間を置いた。

 

「ヒーローを目指す」

 

 ねじれが止まった。

「……え」

「歌い手も諦めない。でも——ヒーローも目指す」

「……両方?」

「両方だ」

 ねじれがしばらく黙った。

「……なんで、急に?」

「急じゃない。今週ずっと考えていた。足場の現場で動いた時、老婆を助けた時、リューキュウの話を聞いた時——誰かのために動くことが楽しかった。それがずっと引っかかっていた」

「……悠太が、楽しかったって」

「ああ。ヒーロー科に来た時から、戦いは好きだった。でもそれだけじゃなかった。誰かのために動く、ということが——俺には合っているのかもしれない」

「……」

「歌い手は諦めない。前世から音楽が好きだった。声で誰かに届けたい。それも本物だ。だから両方やる」

 

 ねじれがまた黙った。

 それから、少し深呼吸した。

「……悠太」

「なんだ」

「今、なんか……すごく悠太らしいって思った」

「そうか」

「うん。普通、どっちかにしよう、ってなるじゃん。でも悠太は、どっちも本物だから両方やる、って言う。それが悠太だなって」

「変か」

「変じゃない。すごいと思う」

 ねじれが歩き始めた。

「私、応援する。ヒーローも、歌い手も」

「ありがとう」

「絶対なれると思う。両方。根拠ないけど」

「俺も根拠はない」

「じゃあ、根拠なし同士で信じ合おう」

 俺は少し笑った。

「……そうだな」

「やった、笑った」とねじれが言った。

「笑った」

「今日何度目?」

「数えていない」

「私は数えてる。今日四回目」

「そんなに数えているのか」

「数えてる!!大事なことだから!!」

 夕日の中を、二人で歩いた。

——————————

 家に帰ると、透がいた。

 透も今日で職場体験が終わった顔をしていた。少し疲れているが、目が穏やかだった。

「おかえり、二人とも」

「ただいま」と俺。

「ただいま!!透ちゃん!!」とねじれ。

「今日で終わったね、お互い」

「うん。透ちゃん、悠太がすごいこと決めたんだよ」

「何を?」と透が俺を見た。

「ヒーローを目指す」

 

 透が少し固まった。

「……本当に?」

「ああ。歌い手も諦めない。両方やる」

「……」

 透がしばらく黙った。

 それから、静かに聞いた。

「……それ、いつ決めたの?」

「今日。でも、今週ずっと考えていた。リューキュウとの会話の中で気づいて、午後一人で考えて、帰り道にねじれに話した」

「なんで……ヒーローを目指そうと思ったの?」

「今週、誰かのために動くことが楽しかった。それがずっと引っかかっていた。それはヒーローの動き方だ、とリューキュウに言われた。自分でも、そうかもしれないと思っていた」

「歌い手は?」

「諦めない。どちらも本物だ。両方やれる理由がある。どちらも諦める理由がない」

 透がまた黙った。

 今度は少し長かった。

 それから、透が言った。

 

「……悠太、一つ聞いていい?」

「なんだ」

「ヒーローを目指す、って決めたこと——後悔しないと思う?」

「後悔する可能性はある。でも、決めないことの方が後悔すると思った」

「……なんで?」

「誰かのために動くことが楽しかった、という感覚は本物だ。それを見なかったことにして進むと、ずっと引っかかり続けると思う。だから、向き合うことにした」

 透がゆっくりと頷いた。

「……わかった」

「透は、変だと思うか」

「変じゃない」と透はすぐに言った。「悠太が、そこまで考えて決めたなら——私は応援する。絶対に」

「ありがとう」

「歌い手も、ちゃんと続けてね」

「続ける」

「約束だよ」

「約束だ」

 透が少し息を吐いた。

「……なんか、悠太がヒーターになるって、まだ実感がないけど」

「ヒーターじゃない」

「あ、ヒーローだった」

「そうだ」

「……でも、なんか、合ってる気がする。悠太がヒーローを目指す、って」

「そうか」

「うん。なってほしい、って思う」

 

  久しぶりに三人で食べた。

 今日の料理は俺が作った。豚汁と、さわらの西京焼きと、白飯だった。

「美味しい」とねじれが言った。

「今日は出汁が良く出た」

「悠太の豚汁、毎回美味しいんだよね!久しぶり!」

「透の豚汁も上手くなってる」

「本当に?」

「本当だ。以前より安定してる」

「……嬉しい」

 三人でしばらく話した。

 

「来週から普通の学校生活に戻るね」とねじれが言った。

「ああ」

「悠太は、来週から何か変わることある?」

「二つある」

「二つ?」

「一つは、ヒーローを目指す方向で動き始める。相澤先生に話を聞く必要がある。個性の訓練も、また始める」

「もう一つは?」

「歌い手として動き始める。音源を作る。自分で歌って録音して、どこかに上げる。それが最初の一歩だ」

「……両方、来週から?」

「ああ。決めたなら動く。考えているだけでは始まらない」

 ねじれが「やばい……」と小さく言った。

 

「何がだ」

「悠太が来週から二つ同時に動くって言ってる。本気だ、って伝わってくる」

「本気だ」

「……応援する。全力で」

「ありがとう」

「私も」と透が言った。「歌い手の方、最初に聴かせてほしい」

「ねじれも同じことを言うと思う」

「言う!!一番最初に聴かせて!!」

「……二人とも聴かせる。どちらが先かは検討する」

「検討するって言った!!」

「検討するだけだ」

「でも検討してくれるじゃん!!」

 透が笑った。ねじれも笑った。

 俺も、少し笑った。

 

 ねじれが帰る前に、廊下で呼び止めた。

「ねじれ」

「なに?」

「今週、見ててくれてありがとう」

「……また言ってくれた」

「本当のことだから何度言っても変わらない」

 ねじれが少し笑った。

 

「悠太、今週本当に変わったね。言葉にするのが、こんなに自然になってる」

「透とねじれのおかげだ」

「……私のおかげ?」

「ねじれに届けたいから、言葉にする。それだけだ」

 ねじれが少し固まった。

「……それって、どういう意味?」

「ねじれに届けたいと思っている。だから言葉にする。それ以上でも、それ以下でもない」

「……」

「ねじれ」

「……なに」

「今は、まだ名前をつけられない。でも——お前に届けたいと思ってる。それは変わらない。ヒーローを目指すことも、歌い手を目指すことも——どこかでねじれに届けたいという気持ちが、動かしている気がする」

 ねじれがゆっくりと顔を上げた。

「……悠太」

「なんだ」

「それ、すごく——嬉しい」

「そうか」

「待てる。絶対待てる」

「……ありがとう」

「こちらこそ」

 ねじれが玄関に向かった。靴を履いて、振り返った。

 

「悠太、ヒーローも歌い手も、頑張ってね。両方、応援してる」

「ああ」

「一番最初に聴かせてほしいのは、変わってないから」

「覚えておく」

「じゃあね!!おやすみ!!」

 扉が閉まった。

 廊下が静かになった。

 

 透と二人になった。

「ねじれ先輩との話、少し聞こえてた。ごめんね」

「構わない」

「……悠太、ちゃんと言えてたね」

「そうか」

「うん。前なら、あそこまで言葉にできなかったと思う」

「今週で変わった部分だ」

「……ねじれ先輩のこと、どう思ってるの? 今」

 俺は少し考えた。

 

「まだ、名前をつけられない。でも——届けたいと思っている。ヒーローを目指すことも、歌い手を目指すことも、どこかでねじれに向かっている気がする」

「……それは、大事なことだと思う」

「そうか」

「うん。力の方向を決めるのは使う人間の目だ、ってリューキュウが言ってたよね」

「ああ」

「悠太の目が、ねじれ先輩を向いてる。それがいろんなものを動かしてる。それって——大事なことだよ」

 俺は少し黙った。

「……透に言われると、整理される」

「私は悠太のことを長く見てるから」

「そうだな。ありがとう」

「私は、二人のことを応援してる。ちゃんと言っておきたかった」

「ありがとう」

「うん」

 透が少し間を置いた。

「悠太、ヒーターと歌い手、本当に両方やるんだね」

「ヒーローだ」

「あ、また間違えた。ヒーローと歌い手、両方やるんだね」

「ああ」

「……大変だと思う。でも——悠太ならやれると思う。根拠はないけど」

「ねじれも同じことを言った」

「じゃあ、二人分の根拠なし、だね」

「……そうだな」

「楽しみにしてる。ヒーローになった悠太も、歌い手になった悠太も」

「なれるかどうかはわからない。でも——目指す」

「それで十分だよ、きっと!」と透は言った。

 

 部屋に戻って、ノートを開いた。

 今日の出来事を書いた。

 リューキュウとの廊下での会話。午後考え続けたこと。帰り道のねじれ。透との会話。

 書きながら、一つのことを確認した。

 

 ヒーローを目指す。

 

 歌い手も諦めない。

 

 どちらも本物だ。どちらも、誰かを見て届けようとすることだ。形が違うだけで、向かっている方向は同じかもしれない。

 リューキュウに言われた言葉を、もう一度書いた。

 歌い手であることが、君をより良いヒーローにするかもしれないし、ヒーローであることが、君をより良い歌い手にするかもしれない。

 俺はその言葉を、しばらく見た。

 

 そうなれたら、良い。

 そうなるために、動く。

 ノートを閉じた。

 スピーカーをつけた。

 小さな音量で、音楽を流した。

 今日は、いつもより少し長く聴いた。

 目を閉じて、音の中にいた。

 来週から、新しいことが始まる。

 職場体験が終わった。

 そして——何かが、始まった。

 

(楽しみだ)

 

 俺は素直にそう思いながら、眠りについた。




次回はまた原作通りの事が増えます。文才がないのでしょうがないですけどね。
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