ヒロアカ世界に転生した者が千手を背負い過ごしていく。 作:名も無き住人
合格通知が届いたのは、透の合格発表から三日後だった。
朝の九時。郵便受けに一通の封筒が入っていた。
差出人欄に「国立雄英高校」とある。
俺はそれを手に取って、少し重さを確かめた。軽い。書類と何か小さな物が一つ入っている程度の薄さだ。
台所に持って帰って、テーブルの上に置いた。
お茶を一杯注いで、向かいの椅子に座った。
封筒を見た。
別に怖くはなかった。ただ、開ける前に少し間を置きたかった。
なぜかはわからない。ただそうしたかった。
お茶を一口飲んだ。
それから封筒を手に取って、開けた。中から一つの映写機が出てきた。
『私が投映された!!!』
「……オールマイト」驚いてはいた、凄く、だが自然と表には出なかった。それよりも気になる物があったからだと思っている。
『巻きでと言われているからまずはシンプルに、筆記試験並びに実技試験合格だ!!』
俺はその一言を言う映像を三秒ほど見つめた。
(……受かったか)
心の中で呟いた。
感情の波が来るかと思ったが、来なかった。ただ静かな確認だけがあった。受かった。雄英高校ヒーロー科に——合格した。
お茶をもう一口飲んだ。
その後合計ポイントを聞き改めて合格を理解した後にオールマイトが
『来いよ千手少年!ここが君のヒーローアカデミアだ!』と映像が消える。
それからスマホを手に取って、ねじれと透にLINEを送った。
一言だけ。
『受かった』
返信は十秒で来た。
ねじれから:『やったーーーー!!!!!!!!!!!!!!!! だから言ったじゃん!!!!!絶対受かるって!!!!!!!!!』
透から:『おめでとう……!!!!! 悠太も受かった!!!!!これで三人とも雄英だ!!!!』
ねじれからさらに続いてくる:『すぐ行っていい?! お祝いしたい!!!』
俺は少し笑って、『今日は飯作るから来い』と返した。
ねじれから『やった!!!!!!!!!!』が来た。
透から『私も行く!!!』が来た。
俺はスマホを置いて、冷蔵庫を開けた。
今日は何を作ろうか。 その日の夕方。
三人はうちの台所に集まった。
俺が作ったのは鶏の照り焼きと、大根と油揚げの味噌汁と、ほうれん草のおひたしと、白いご飯だ。質素といえば質素だが、材料を丁寧に扱えば普通の食材でも十分に美味しくなる。
「これ絶対美味しいやつ!」とねじれが言った。席に着くなり鶏肉の照りを見て目を輝かせている。
「食べてから言え」
「見ればわかる! 経験値がある!」
「……そうか」
「あ、大根うちのお母さんが好きなやつ! 今度作り方教えて!」
「いつでも」
透は静かに席に着いた。少し緊張した様子だった。
「透、どうした」
「……なんか、急に実感してきて」
「何が」
「雄英に入るんだって。二人と一緒に」
ねじれが「わかる! 私が入学するときもそんな感じだった!」と言った。「前日の夜に急に緊張してきてさ、眠れなかったんだよね」
透の緊張がさらに増した気配がした。俺はねじれを横目で見たが、当のねじれは全く気づいていない。
「悠太は緊張してないの?」と透が聞いた。
「してないな」
「なんで?」
「入ってみないとわからないことを、入る前に考えても仕方ないから」
「……それができたら苦労しないよ」
「まあ、透はそういう性格だからな」
「どういう性格?」
「ちゃんと心配するやつ」
透が少し黙った。それから「……それ、褒めてる?」と聞いた。
「褒めてる」
「……ありがとう」
ねじれが「良いこと言う! 悠太って時々すごく良いこと言うよね!」と言いながら箸を持った。
「手を合わせろ」
「あ、いただきます!」
「いただきます」
「……いただきます」
三人で食べ始めた。 食事が終わって、後片付けをしながら、ねじれが言った。
「ねえ悠太、雄英のこと何か知ってる? 事前に調べた?」
「合格通知書に入っていたパンフレットは読んだ。でも内部のことは入ってみないとわからない」
「私が教えてあげよっか!」
「聞かせてくれるなら助かる」
ねじれは椅子に座り直して、少し考えてから話し始めた。
「えーとね、ヒーロー科は授業の内容が結構ハードで。演習が始まると実戦形式が増えてくる。個性をどう使うか、チームでどう動くかとか、そういうのが重視される感じ! 担任は現役のプロヒーローで——去年の入試も成績が良い年だったって先生が言ってたから、B組もすごい子が揃ってるはずだよ!」
「ねじれのクラスに面白い人間はいるか」
「いっぱい! 個性がユニークな子が多くて楽しい!」
「楽しみだ」
俺が言うと、ねじれが「それ聞けて良かった!」と嬉しそうに言った。
「悠太ってあまり表に出さないから、たまにそういうのを言ってくれると嬉しいんだよね」
「そうか」
「そうなの!」
透が「私も楽しみになってきた。さっきまで緊張してたけど」と言った。
「一晩寝たらもっと楽になる。今日は早く寝ろ、二人とも」
「わかった! あ、でも悠太、もう一曲聞かせてよ! 入学前に!」
ねじれがまた言い出した。もう何日もこれが続いている。
「……気が向いたらな」
「向けてよ!! もう十分気を向けるタイミングあったじゃん!!」
「今日は飯を食べた。満腹のときは歌う気にならない」
「嘘だ!!」
「本当だ」
「じゃあいつ気が向くの!!」
「入学してから、落ち着いたら」
「……約束?」
「約束とは言ってない」
「悠太!!」
透が小さく笑っていた。 その夜。
ベッドに横になって、天井を見た。
(明日から、始まるか)
高校生活。雄英ヒーロー科一年A組。
どんな人間が集まっているのか、全くわからない。でも、同じ場所を目指してきた人間たちだ。それだけで、少し信頼できる気がする。
俺は目を閉じた。
焦りはなかった。ただ、静かな期待だけがあった。
明日が来るのを楽しみにしながら、俺は眠りについた。 入学式の朝。
透が七時半に玄関に来た。
「おはよう、悠太」
「おはよ。緊張してるか?」
「……少し。でも昨日より全然マシ」
「そうか。良かった」
二人で並んで、雄英高校へ向かって歩いた。
ねじれは今日は寮から直接登校するので、一緒じゃない。昨夜「悠太! 透ちゃん! 入学式楽しんできてね!!」というLINEが来ていた。
「悠太」
「なに」
「どんなクラスメイトがいると思う?」
「さあ。入ってみないとわからない」
「……どんな人がいてほしい?」
「正直な人間」
「正直な?」
「裏表が少なくて、思ったことを言える。そういう人間が多かったら良いと思う」
「……悠太らしい」
「そうか?」
「うん。私はー……強くて、でも優しい人がいてほしいな」
「それは俺に言ってるのか?」
「違うよ! クラスメイトの話!」
「そうか」
「……まあ、悠太みたいな人が多かったら楽しいな、とは思ってるけど」
「俺みたいな人間が多かったら静かすぎてつまらないだろ」
「……そう、かな」
「透みたいな人間と俺みたいな人間がいるクラスの方が面白い」
透が少し黙った。
「……それ、私みたいな人間も必要って言ってる?」
「当たり前だろ」
「……ありがとう」
透の声が柔らかくなった。 校門を入った瞬間、俺は直感的にわかった。
ここは——今まで俺がいた場所と違う。
プロヒーローを目指す人間たちの、初日の朝の空気。
(良い場所だ)
素直にそう思った。 教室に入ると、すでに何人かが席についていた。
まず耳に飛び込んできたのは、怒号に近い声だった。
「あ? なんで貴様がそこに座ってんだ、デク。どけよ」
金髪の男子が、緑がかった髪の男子に向かってまくし立てていた。金髪の方は腕を組んで、目つきが鋭い。
緑色のくせ毛の男子——「デク」と呼ばれた方——は少し身を縮めながらも、「……座っちゃいけないって決まりないじゃないか、かっちゃん」と言った。引き下がりたくないのに、声が縮こまっている。
「うるせー、今すぐどけ。俺の視界に入ってんじゃねーよ」
「……席、出席番号順だよ、かっちゃん」
「黙れデク、てめーに選択肢なんかねえだろうが」
「かっちゃんこそ黙れよ」
「あぁ? 喧嘩売ってんのか? 初日から殺されてぇか?」
「……売ってない、ただ……」
「ただ?」
「……なんでもない」
デクと呼ばれた男子が、小さな声で言った。金髪の方は舌打ちをして、別の席に移動した。
俺はそのやり取りを入り口から数秒見ていた。
知り合いなのは明らかだ。「かっちゃん」「デク」という呼び名。初対面じゃない。腐れ縁に近い何かだと、俺の勘は言っていた。
それ以上は見なかった。
近くにいた眼鏡の男子が、すっと立ち上がって俺の方を向いた。背筋がピンと伸びている。
「席は出席番号順だ! 黒板に名前と番号の対応が書かれているので確認してくれ!」
俺が特に何も聞いていないのに、先んじて教えてくれた。
「ありがとう」
「いや、当然のことだ!」
眼鏡の男子は力強く頷いて前に向き直った。
俺は黒板を確認して、自分の席に着いた。
因みに緑谷と爆豪の入学前の衝突(中学校時代)は完全に原作通りなのでカットしてさらに教室内での最初のやり取りを変えてみました。