ヒロアカ世界に転生した者が千手を背負い過ごしていく。 作:名も無き住人
放課後。
「悠太」
透が近くに来た。
「疲れた?」
「疲れてはない」
「今日、いっぱい話してたね。昨日より色々な人と」
「そうだったか」
「お茶子ちゃんとも飯田くんとも緑谷くんとも。全部ちゃんと返してたじゃん」
「まあな」
透が少し笑った。「良かった。悠太が楽しそうで」
「楽しいかどうかと言うと——」
「楽しいよ。顔に出てる」
「悠太の顔の変化、私はわかるから」
「……そうか」
楽しい、か。
そうかもしれない。強い人間たちがいて、面白い教師がいて、自分の個性をどう使うかを考える場所がある。歌い手になる夢とは別の軸で——確かに、この場所が好きだと感じていた。
「悠太」
「なに」
「ねじれ先輩に報告、今日もする?」
「あいつから絶対LINEが来る」
スマホを確認した。
既読が三件。ねじれから。
『どうだった!!!』
『ねえ!!!!何かあった?!!!』
『悠太!!!! 透ちゃん!!!! 報告!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』
「来てた」
「やっぱり」と透が笑った。
俺は『今から帰る。飯作るから来い』と返信した。
三秒で『やったーーーーーー!!!!!!!!!!!!!』が来た。 夜。三人でテーブルについた。今日は豚汁と焼き魚と、ご飯だ。豚汁は具だくさんにして、身体に沁みるようにした。
「それで!! 除籍って言われたってどういうこと!!!」
ねじれが最初から全開だった。
「本当の除籍じゃなかった。極限状態での反応を見るための嘘だ」
「そういう授業スタイルなんだ……やっぱり雄英らしい!」
「相澤先生って、ねじれ先輩知ってる?」と透が聞いた。
「消去ヒーロー・イレイザーヘッドでしょ! 知ってる! 正直あの人が担任ってちょっと大変かもって思う。厳しい人だから」
「厳しいというより、合理的な人間だと思う」と俺は言った。
「除籍宣告が嘘だって最初から気づいてたの?」とねじれが言った。
「確信はなかったが、可能性として考えてた」
「え、すご。私なら絶対パニックになる」
「透もパニックになってたか?」
「……なってた」と透が正直に言った。「でも頑張ろうとは思った」
「それで十分だ」
ねじれが「悠太ってほんとに何があっても動じないよね」と言った。
「動じないわけじゃない。考えてる」
「どう違うの?」
「動じないのは感情が動かないこと。考えてるのは感情が動いた上で判断してること。俺も驚いたが、驚いたまま止まらなかっただけだ」
ねじれが「……それ聞いてちょっと安心した」と言った。
「なんで?」
「悠太って感情ないのかなって思うことたまにあって。でも動くんだな、ちゃんと」
「ある。ただ出し方が人と違うのかもしれない」
透が「私は悠太に感情あるのわかるよ」と言った。
「どこで」
「料理するとき。今日みたいに人に食べてもらいたいときは、丁寧に作る。それって感情じゃないの?」
俺は少し黙った。
「……そうかもしれない」
「ほらね」
ねじれが「それ良いこと言う!」と笑った。「豚汁、おいしい! 具だくさんで嬉しい!」
「ありがとう。野菜が残ってたから全部入れた」
「最高!!」「ねえ悠太」とねじれが言った。
「なに」
「雄英入ったら——悠太の歌、また聞かせてくれる?」
「入学して落ち着いたらな」
「……約束?」
「約束とは言ってない」
「悠太!!!」
「でも、聞かせる気はある」
ねじれが少し黙った。それからゆっくりと「……わかった」と言った。
透が「私も楽しみにしてる」と言った。
「ああ」
三人でしばらく、黙って食べた。
静かで、穏やかな夜だった。