ダンジョンにはTSがつきもの 〜TS転生した怪物は自分への愛が強すぎる〜 作:炭水化物は飲み物
色付けたり文字隠したりしてクッソ楽しい。
「愛してるという言葉がある。
実に興味深い。
ああ、実に、実に興味深いものだ。
たった五つの音節に過ぎないというのに、人間はそれを耳から流し込まれただけで心拍を乱し、体温を上げ、判断力を鈍らせ、時には自ら檻の中へ入っていく。
素晴らしい。いや、失礼。
正確には滑稽だ。
だが滑稽であるということは、観察価値が高いということなのだ。
愛してる。離れない。君だけだ。どこにもいかない。一生共に生きよう。
ふむ。どれも滑稽で良い響きだ。
清潔な白衣の上へ落とした血液のように映える。
だが腹の底へ沈めてみたまえ。面白いことに、その言葉はすぐに態度を変える。
蜜の顔をした毒が胃を撫で、腸へ爪を立て、煮えた臓腑の奥でゆっくりと腐っていく。
底の抜けた器のように際限のない、美しい誤作動だと思わないかね。
思わない? ふむ、感性というのは人それぞれある。それも私にとって価値ある観測値となる。
人間は鎖を嫌う。檻を嫌う。命令を嫌う。
だが『愛してる』というラベルを貼ってやれば同じ拘束を自ら抱きしめる。
実験としては、これ以上なく優秀だ。
問題があるとすれば、まれに。
本当に、まれにだが。
その言葉を嘘でも麻酔でも支配でもなく、本気で差し出す個体が存在することだ。
理解に苦しむ。分解して確かめたいほどに……いや、訂正しよう。分解してしまえば観測対象としての価値を損なう。だから私はしばらく観察することにした。
彼が、あの最古であり現代種最強の怪物が、あの白い少女を前にしてどこまで壊れずにいられるのかを。
世界を越え肉体を変え名を変え、なお同じ過ちの前に立っている『歪な存在』。それと、どうしようもない狂気じみてる世界に生まれながら、神身を中途半端に受け継いだ『新人類』。
ならば記録者として見届けねばなるまい。
あの怪物が、今度こそ愛という毒に屈するのか。私の『愛』を無下にして、他のものにどう狋るのか。 ある意味NTRだがな。心底腹立たしい。私の愛しきモノを取りやがって、わたしに、ボクに最初懐いていたのに……!
んんっ、失礼。
まぁ、あるいは……愛すら噛み砕いて、自分の怪物性へどう取り込むのか。最悪、変数で私の予測が変化すれば、その時こそ私が共に歩めばいい。
それまではこの目で結末まで見届け、盤上の終末にて降り立つとしよう」
――第██研究棟主任観測官及び、全塔最高責任者 Dr. ルキウス・クロイツェル『私的観察録・
◇
“は?”
“今なんて言った?”
“俺の家に住め?????”
〈百合提督〉:“全艦、祝砲&嫉妬砲、用意”
“あかん提督が乱心だ!!”
〈兄勢〉:“待て。まず保護者面談を要求する。その後に全面戦争を”
“結局戦争ふっかける気じゃねぇかwww”
TRANSLATED:“イマ ドウキョ ト イイマシタカ ソレハ タベモノ デスカ”
“海外ニキまで混乱してて草”
“クロエちゃん顔色ひとつ変えてないの怖い”
“ココちゃん固まってるwww”
“いや固まるだろこれは”
“女から見た私でも付き合いたいぐらいバチくそ可愛い相手から『家に住め』は羨ましい”
流れていく文字を前にわたしの脳は死んでいた。クロエさんの家。わたしが。今日から。
住む。
住む。
え。
え?
えええええええええええええ?
「……はっ!? あ、あの、み、みんな、落ち着いて……! 落ち着いてください……!」
自分でもぜんぜん落ち着いていない声が出た。説得力は微塵もなかったと思うというか絶対なかった。端末を持つ手がわなわなと震えている。
白咲を抱えた腕にもさっきから変な力が入っている。顔が熱い。耳も熱い。胸の奥なんかずっと警報みたいな音を立てている。
けれど配信者として一応わたしはこの配信の管理者だから。このままコメント欄を火山にするわけにはいかない。
落ち着いて対応を……!
「あの、えっと、その……たぶん、クロエさんは、えと……深い意味で言ったわけじゃなくて……!」
「あるけど」
「あるんですか!?」
「ん」
「な、何が……?」
「お前が俺の家に住む意味」
「そ、そういう意味じゃなくてぇ……!──」
だめだこの人話が通じない!?
わたしが火消ししようとするたびにクロエさんが横からガソリンを豪快に注いでくる。消化が追いつかない。しかも本人には油を注いでいる自覚が一切ない。
何ならすごく平然としている。魔物を見つけた時と同じくらいの顔でコメント欄を眺めている……魔物を見つけた時のほうがまだ楽しそうだ。
“あるんだ”
“意味あるんだ”
“深い意味、あります”
“本人から燃料追加きた”
“ここちゃんの火消しを横から焼き払う狂戦士”
“草”
“いや草じゃない、砂糖吐きそう”
“急に冷静に戻るな”
“でもそれはそう”
わたしは端末を握りしめたまま小さく息を吸った。こういう時こそ配信者としての技量が問われる。たぶんそう。恋する乙女としての技量はさっきから圧倒的絶望的に全敗してるから信用がないけど。
「えっと、本日の配信はここまでです……! 詳しいことは、また次回の配信で……えっと、ちゃんと説明できたら、します……!」
“説明できたらwww”
“できないやつだこれ”
“次回まで我々はどうすれば”
“切り抜き班、今日中にまとめ頼む”
〈切り抜き班〉:“もう三本作ってる”
“仕事早すぎ”
〈百合提督〉:“本日はよき航海であった”
〈兄勢〉:“まだ終わっていない。面談はまだ終わっていない”
TRANSLATED:“ツヅキ ヲ マッテイマス”
“海外ニキまで次回待機勢になってて草”
「お、おつここ、でした……!」
震える声でそう言った。それから配信終了のボタンを力任せに押し込む。画面が暗くなった。音が消えた。
さっきまで世界中から流れ込んでいた文字も悲鳴も祝福も勝手な解釈も向こう側へ沈んでいった。急に静かになる。どうやらクロエさんの配信は早々に閉じてたらしく、わたしの隣に来ていた。
ダンジョンの重苦しい空気が今さらみたいに肌へ戻ってくる。戦闘の残り香。血の匂い。砕けた床材の粉。魔物の死骸が消えずに残した生ぬるい匂い。
けれどわたしはそのどれよりも、隣に立っているクロエさんのことばかり気にしていた。
「終わったか」
「は、はい……終わりました」
「じゃ、行くぞ」
一応、聞いておこう。
「ど、どこに……?」
「俺の家」
「…………はい」
やっぱりだぁ…あわわわ。
素材の回収も支部への報告も売却の手続きも途中で寄った場所も、ぜんぶ夢の中みたいに過ぎていった。正直あまり覚えていない。
覚えているのはクロエさんが当然みたいにわたしの少し前を歩いていたこと。わたしが白咲をずっと胸に抱えていたこと。支部の職員さんたちが何か言いたげな顔をしていたこと。
クロエさんが素材をぽいぽい出して職員さんたちの顔色が何度も変わった。
ただ静かにそこに佇む彼女の雰囲気に、なぜか。
わたしの胸の奥がぎゅうっと窮屈に締め付けられていた。
◇
クロエさんの家は家というより部屋だった。いや部屋というには広すぎる。タワマン。たぶんもの凄く高い高級マンション。
すごい、初めて入った…
エントランスの時点でわたしが普段住んでいるアパートとは何もかも違っていた。床はぴかぴかで壁は静かで照明はやわらかくて。
クロエさんは慣れた様子で中へ入っていく。端末を少し見て首を傾げて何となくで通っているようにも見える。まだ会って間もないけど、そういう無自覚でマイペースなところがクロエさんの癖なんだと気づいた。
エレベーターに乗る。密室。近い近い近い。クロエさんは何も気にしていない。わたしは気にしている。もの凄く気にしている。
エレベーターの壁にわたしたちの姿が薄く映っていた。黒と赤の髪の小さな女の子。白い髪の刀を抱えた女の子。並んでいる。わたしとクロエさんが同じ箱の中に同じ行き先へ向かって。
変なこと考えるなココ、考えると顔が熱くなってクロエさんに気付かれちゃう……!
「どうした」
「な、なんでもないですっ……!」
「? そうか」
「はい……」
クロエさんはそれ以上聞かなかった。ありがたい。でも少しだけ寂しい。いや何を考えてるのわたし。聞かれたら絶対困るのに。
エレベーターが止まった。廊下を進む。足音がやけに大きく聞こえた。クロエさんの足音は軽い。わたしの足音は少しだけぎぎぎとぎこちない。
白咲を抱え直す。胸の前で鞘の感触がする。クロエさんがある扉の前で止まった。黒い扉だった。余計な装飾はないけれどどこか冷たくて静かで、まるで外の世界を拒んでいるみたいな扉。
「着いた」
「は、はい」
「入れ」
「……はい」
さっきからわたし「はい」しか言ってなくない???
扉が開いた。
最初にわたしを狂わせたのは、そのあまりにも濃密な匂いだった。
甘い。けれどそれは砂糖菓子のような無邪気な甘さでは決してなかった。もっと肉感的で、肌の奥を直接焦がすような濡れた匂い。
息を吸い込んだ瞬間、舌の裏の最も敏感な粘膜に、熟れきった青い果実の皮をなぞられたような瑞々しい戦慄が走る。グリーンアップルの、どこか挑発的な芳香。
そのすぐ後ろから触れれば果汁が溢れ出しそうな白桃の、妖艶でやわらかい肉の甘みが追いかけてくる。しゃくりと噛めば淫らに水が滲む…あまりにも無防備な爽やかさ。
甘いのに軽い。軽いのにどうしようもなく鼻腔にまとわりついて逃げない。
ただの香りが喉の奥をねっとりと愛撫して、そこから胸の内側の最も柔らかい場所へ、熱となってとろりと落ちていく。
抗えない。そう自覚した頃には、果物の瑞々しさのさらに深奥から、濃厚な花々の香りがじわりと開花していた。ふわりと背後から抱きしめられ、肌を直接合わせられるかのような錯覚。
白い花の吐息。名前なんて分からない。けれどそれはひどく清潔で、それでいてあまりにも官能的な、誰かの秘め事に直接触れてしまった時のような匂い。
誰かの着衣に顔を埋めた時にだけ伝わる生々しい体温の残り香。それが部屋の空気に不埒に混ざり合っている。
これは本能が危険を告げる匂いだ。そう案内を拒絶しようとしたのに、わたしの肺は貪るように呼吸を深めてしまう。吸い込むたびに頭の奥が痺れていく。
身体の中の、決して人に見せてはいけない淫らな場所へ、クロエさんの細い指を優しく差し込まれているような感覚。違う。違うはず。これはただの部屋の空気。
けれど、最後に残った香りがわたしの理性を完全に破壊しにくる。果物の甘さが溶け、花のやわらかさがほどけた最下層から、湿度を孕んだセダーウッドの静かな香りが肌に沈み込んでくる。
淡雪のような幻惑。触れた瞬間には消えかけているのに、熱を持った肌の上には消えない冷たい愛撫の余韻だけが残る。清潔で可愛くて、なんとも甘い。
なのに、どこかひどく退廃的でいけない。こんなの言葉にできない。できるわけがない。ただひとつだけ魂が理解した。この部屋は完全にクロエさんの匂いで満たされている。
クロエさんがここで無防備に眠って、ここで衣服を脱ぎ捨て、ここで濡れた髪を乾かして、ここで誰の目にも触れずに吐息を漏らしていた。その生々しい生活のすべてが、香りとなってこの閉ざされた空間に濃密に溶け込んでいる。
そう思った瞬間、下腹部の奥がキュウと変なふうに熱く縮んだ。足の力が完全に抜けそうになる。白咲を抱く腕に無意識に爪が食い込む。
わたしは今、絶対に人に見せられないくらいだらしなく蕩けた顔をしている。この匂いをもっと深く、もっと奥まで貪り吸い尽くしたいと思ってしまった。
クロエさんの生活を、クロエさんの肉体の気配を、わたしの身体の中へ残さず迎え入れたいと願ってしまった。おそらくこれは完全に一線を越えている。
性的という言葉を使うにはあまりにも美しすぎるけれど、清潔という言葉で片づけるにはあまりにも内側が熱くなりすぎている。吸い込むたびに胸の奥のやわらかい境界線をゆっくりと、ねっとりとほどかれてしまう。
そんな、おぞましいほどの独占欲と愛欲が芽生える匂いだった。
それからようやく部屋そのものが視界に入った。広い。普通にめちゃくちゃ広い。わたしのアパートとは広さも天井の高さも壁の白さも、何もかもが次元を異にしていた。
壁は綺麗だった。傷ひとつない。汚れもない。人が長く暮らしている部屋にあるはずの薄い擦れや日焼けの跡がほとんど見えない。
床も同じだった。つやつやに輝いている。生活のための部屋というより、生活ができるように完璧に整えられた無機質な箱。クロエさんが困らないように最低限の最高級家具だけを誰かが先に配置しておいた、そんな印象が残った。
なのに、その綺麗に整った冷たい部屋の中でところどころだけが妙に生活感MAXで散らかっていた。ソファの背に黒い服が一枚引っかかっている。テーブルの端にはまだ値札のついたアクセサリーや、袋から出されたばかりの可愛いリボンが転がっている。
開けかけの化粧品。小さな香水瓶。髪飾り。白と黒のニーソックス。それから黒いうさぎのぬいぐるみ。あの雰囲気でぬいぐるみ持ってるの可愛すぎる。
それらは家具とは明確に違っていた。気に入ったから買った、可愛いから置いた、そんなクロエさんの少し乱暴で子供っぽい痕跡。
クロエさんがここで生活している。
そう思った、そのコンマ一秒。
わたしの視界の端に、人類に……今のわたしにとってまだ早すぎる超弩級の最終兵器が飛び込んできた。
ソファの背。黒い服の下。適当に脱いでそのままポイしたのだろう布の隙間から、淡い桜色の――。
……ブラジャー。クロエさんの、ぶらじゃーが、鎮座していた。
したぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!?!?!?!?
いや違う! 違わない! 下着だ! 紛れもなく現世の最新流行デザイン下着だ! わたし見たことあるもん! しかもクロエさんの下着!!
でっか……いや、でっかぁ。え待ってわたしの何倍だあれ。
いや何倍とかそういう次元じゃない。アカン。考えるな。考えたら脳細胞がトップギアで爆散してオッパッピーしちゃう。
端から見たら完全に事案である。だが百四十万人の網膜を代表して、わたしの目はバッチリとそれを捉えていた。わたしの視界が悪い? ふざけるなわたしの視界は最高にクリアだありがとうございます。
探索者として死線の中で鍛え上げられた動体視力と空間把握能力が今この瞬間、人生で最も不名誉な方向に全開百二十%のポテンシャルを発揮している。これがいわゆる『視える世界』か。今ならSランクに勝てる自信ある。
違うんです裁判長! これは不可抗力による事故です! わたしは決して覗き魔ではありません! 断じて無実です!
心の声大音量で叫びをあげる。弁護側は被告人・如月ここが重度のクロエさん依存症を発症しており、精神状態がパッパラパーだったことを強く主張します。異議なし。
判決。有罪。ギルティ。満場一致で死刑判決。
だって目を逸らすのが一瞬遅れた。ほんの一瞬。けれどC級探索者の一瞬はあまりにも長すぎる。魔物の超音速突進を余裕でジャスト回避できるくらいには長い。
つまりわたしは、避けられたはずの即死級範囲攻撃を、正面から無防備に直撃したことになる。なんということだ。これは罠か。クロエさんの下着はパッシブで精神崩壊のデバフを撒き散らしているのか。
しかも防御力無視。精神特攻。初恋補正三倍. 弱点属性クリティカル。完全敗北。無理でしょ、こんなの耐えられる耐性装備は武具店のショップにも売っていない。
わたしにはまだ早すぎる。せめて段階を踏んで段階を。初日からこれは最初の村を出た直後の草むらにラスボスを配置するタイプのクソゲーだ。運営さん、完全に難易度調整をトチ狂っています。
……いや待って。問題はそこじゃない。あの小さな身体で。あの合法ロリ身長で。あの世界一可愛い顔面で、あれ?
……でっかぁ……。
その瞬間、脳内で開催されていた緊急わたし最高裁判所が、音を立てて大爆破されて解散した。議題。クロエさんの無防備な下着を目撃してしまった件について。
結論。おっぱいがでかい。以上。
いや以上じゃない。もっと議論して。倫理とか礼儀とか、孤児院でシスターたちから教わった『人として大切な美徳』とか、そういうものを今すぐ総動員して。
お願いだからわたしの中の理性、起きて。仕事して。理性。理性さん?
*おうとうが ない。
*ただの しかばねの ようだ……
死亡確認が早すぎる。たぶん今脳内の理性くんには白い布がそっとかけられている。だめ。だめだめだめだめ。考えたら終わる。わたしの中の高潔な何かが音を立てて崩壊する。元から高潔もクソもないけど。
顔が火山みたいに熱い。耳も沸騰している。たぶん首筋まで真っ赤に染まっている。白咲を抱く両腕に、おかしな力が入る。
刀に縋って精神統一を図るな。充血して真っ赤な顔のまま、でも今は白咲の硬い鞘だけが唯一の現実だった。ありがとう白咲。あなたはとても健全です。いや名刀に健全も何もないけれど。
というか、今日から。わたしは。この部屋で。この魅惑の匂いと。この生々しい生活感と。あの黒と赤の髪の世界一可愛い人と。そして時折発生するであろうこういう無防備極まるラッキースケベイベントに。一生耐えろと……!?
それなんて無理ゲー……?
────ミッション難易度が特級どころかアンノウン。世界の規則を書き換えてくる人類の天井、特級探索者でもこの誘惑には一方的に喰われて思考が乱れる。
危険度が高すぎる。主にわたしのピュアな心臓に対してはまさに特攻兵器。
わたしは反射的に目を逸らした。結構ガン見して興奮しちゃったけどもの凄い神速で逸らした。たぶん、戦闘中の神回避より速かった。視線移動だけなら今、音速の壁を突破して衝撃波を生み出していたかもしれない。
「どうした」
「な、なんでもないですっ!」
声が裏返った。完全に、見事に裏返った。クロエさんはじっとわたしを見上げている。
その顔はいつも通りだった。何も知らない無垢な顔。いや知っていても一ミリも気にしていない顔。どっちにしろタチが悪すぎる。
「? ︎︎変なやつだな」
「へ、変じゃないです……」
変です。ごめんなさい。でもクロエさんが悪いんです。でも今のわたしはかなり変態の領域に足を突っ込んでいます。
でも学べばこれは不可抗力だと思う。だって、いきなり好きな人の脱ぎたて下着が視界に百%の輝きで飛び込んできて。その上、思っていたよりもずっとその……圧倒的な存在感を主張していたら、誰だって脳がバグる。
たぶん、なるよね。なると言ってほしい。わたしだけが変態の星に生まれてきたみたいだったら泣く。
わたしは白咲を胸に全力で抱き直して、必死に部屋の白い壁へ視線を叩きつけた。壁は白かった。綺麗だった。とても健全だった。ありがとう、壁。今だけはあなたがわたしの唯一の心のオアシスです。
でも、白い壁を凝視しているはずなのに、脳裏にはさっきの淡い桜色の布の形が網膜にガッツリ焼きついて離れない。もうだめかもしれない。
なんとか呼吸を整えて、わたしはもう一度部屋を見渡した。さっきの国家機密級の事故は見なかったことにする。見なかった。わたしは何も見ていない。うん。そういうことにする。
でも、部屋に対する印象は変わらなかった。この部屋は綺麗なのにどこか空っぽで。空っぽ年にクロエさんの匂いだけが濃密に残っている。それが妙に胸の奥を激しくざわつかせた。
クロエさんはそんなわたしを一度だけ見つめて。本当に何でもないことみたいに、ぽつりと言った。
「今日からここが、お前の家だ」
呼吸が止まった。今日からここが、わたしの家。その言葉はやさしいように聞こえた。泣きたくなるくらいあたたかいものにも聞こえた。
けれど同時に。逃げ場のない檻の、ガチャリという重い鍵の音にも聞こえた。
◇
クロエさんが、わたしの正面に座った。
小さい。本当に小さい。黒に赤の差した髪。底のない黒い瞳。膝を抱えるみたいな座り方まで可愛い。可愛いんだけど。
今だけはその可愛さより先に瞳の奥の冷たさのほうがくっきり見えた。何ひとつ、誰ひとり信じていない目。
「お前、今日からここに住め。外に置いとくと面倒だし、盗られるかもしれないからな」
盗られる。
その単語の意味がすぐには入ってこなかった。人に向ける言葉じゃない。なのにクロエさんは当たり前みたいに言う。傘忘れたら濡れるだろ、くらいの軽さで。
「えっと……わたし、ちゃんと住んでる場所ある……」
「知ってる。場所も追えるし」
「……追える?」
「標つけてるからな」
さらっと言われた。
標。マーク。標……?
「俺の能力のひとつだ。つけとくと、お前が今どこにいるかも、何を考えてるかも、だいたい全部こっちに流れてくる。便利だろ」
便利だろじゃなくない????
位置。考えてること。全部。
今とんでもないことをめちゃくちゃ軽率に告白されなかった?
待って待って待って。
つまりわたしの居場所も機嫌も二十四時間ぜんぶ筒抜けで、それってつまり、要するに……マーキングされてた!?
反射で首筋を押さえた。喉の奥がひりつく。最近ずっとここだけ妙にむずむずしていた。絶対ここだ。キスマークみたいでうれしいけど!
「……クロエさん」
「ん」
「それ、わたしに確認しました?」
「してないぞ」
即答だった。それが要るのかみたいな顔で。
嫌だったわけじゃない。むしろクロエさんがわたしを見失わないようにしてくれてるってことで、それを考えたら胸の奥がじんわり熱くなる。
なる、けど。
それはそれとして恥ずかしさが完全にカンストしている。四六時中、機嫌まで筒抜け。乙女のプライバシー、跡形もなく崩壊。倫理がどっか旅に出てる。
「か、勝手にするのは、だめです……!」
「なんで」
「なんでって…ふ、普通、常識ですから……?」
堂々と本人の目の前でストーカー宣言をキメておいて、なんでそこで純粋無垢な疑問形なの!? おかしい! この人の脳内の規約、ぜったい一回、全部見直したほうがいい!!
クロエさんの瞳がほんの少しだけ細くなった。表情は動かない。なのに部屋の底がもう一段、静かに沈んだ。
「普通、ね…」
その声が、低かった。
◇
意味が、分からない。
俺はテーブルに肘をついたまま目の前のミジンコを見下ろした。
首筋の標は便利だ。今どこにいるかも、何を感じてるかも分かる。波形を読めば、こいつが何に怯えて次にどう動くかまで先回りできる。襲われてもこっちが半歩早い。傷は俺の戦気を流せば塞がりが速い。攫われても追える。死にかけてもすぐ気づける。
──欠点が、ひとつもない。
なのに断りもなくつけたのが気に入らないらしい。
……なぜだ。
気に入ったものに印をつける。当たり前のことだろう。武器。実験体。研究データ。使える駒。手放したくない玩具。盗られないように、誰のものか一目で分かる場所へ標を打つ。ただの工夫だ。何ひとつおかしくない。
その一点だけで言うなら、あの企業ですら唯一切り捨てた『永劫制度』だって案外まともだったことになる。
それが管理ってやつだ。
逆に何も管理しない奴は二種類しかいない。奪われたところで痛くもない強者か、奪われること自体を屁とも思わない反逆者か。俺は前者だ。だが盗られたら相手が誰だろうと殺してた。
「お前さ、変なとこで面倒だな」
「面倒って……そうじゃなくて。その、わたし、物じゃ、ないので」
「だから、知ってるって」
「知ってるなら、なんで標なんか」
「知ってるから厄介なんだろうが」
物なら、しまって鍵をかけて終わりだ。死体は腐る前に使える部品か新しい実験体に回す。データは複製を取る。どれも文句ひとつ言わず俺の手の中で大人しく収まってた。
だが生きてる奴は違う。
少し目を離せば勝手にどこかへ歩いていく。勝手に考える。勝手に壊れる。
だから――そばに、繋いでおくしかない。
「だから、俺のそばにいろ。それで全部片がつく」
「……そばにいるのは。いいんです」
「なら、何も困らないだろ」
「困ります。すごく」
間がなかった。一拍も置かず即答。
……分からない。
なんで、だ。
◇
クロエさんは、本気で分かっていない顔をしていた。
意地悪で言ってるんじゃない。困らせたいわけでもない。たぶんこの人は本気でこれが正しいって信じている。
「わたしは、クロエさんの近くにいたいです」
「なら――」
「でも、クロエさんの物にはなりません」
言った瞬間だった。
空気が、止まった。
時計の針も冷蔵庫の低い唸りも、何もかもが遠くへ引いていく。
クロエさんの黒い瞳がまっすぐわたしを射抜いていた。まばたきひとつない。見たこともない魔物の正体を奥の奥まで見定めようとするみたいに。
「……なんで」
小さな声だった。
お気に入りの玩具を今まさに取り上げられる寸前の子供みたいな声。喉の奥がぎゅっと締まる。足元が底のない暗がりにすとんと抜けていく感じがした。
それでもここで笑ってごまかしちゃいけないと思った。今あいまいに笑ったら、嫌な予感のほうが本当になる。
「物じゃ、ないからです」
「それはさっきも聞いた」
「クロエさんに命令されたからでも、閉じ込められたからでも、印をつけられたからでもなくて。わたしが自分で決めて、クロエさんのそばにいたいんです」
指先が震えていた。
でも目だけは逸らさなかった。
「わたしがそうしたいから。それだけです」
クロエさんは何も言わなかった。
その沈黙が、痛い。
怒らせたのかもしれない。嫌われたかもしれない。せっかく一緒にいられたかもしれないのに、取り返しのつかないことを言ったのかもしれない。
でも。
それでも、物になるのだけは。玩具になるのだけは、違う。
それはきっと、人として扱ってもらえなくなるってことだから。
◇
自分の意思で俺のそばにいたい。
それの何が違う。
俺のものになる。そばにいる。離れない。俺が見失わない。誰にも盗られない。行き着く先は同じだろ。経路が違うだけで。
なのにこいつはそこに線を引く。
……いや。意味は、あるのかもしれない。こいつの中には。俺に見えないだけで。
だが見えないものは、管理できない。
「じゃあ、契約だ。それでどうだ」
「……契約?」
「逃走契約。俺から一定以上離れない。許可なく危険なとこに行かない。呼んだら来る。他の奴と組むときは、そいつの情報を俺に見せる。連絡は常時つなぐ。位置は共有。あと、俺が必要だと思ったら、お前の端末は俺が見る」
「だめですけど……??」
……強欲だな、コイツ。
なら。
「お前の、意思とかいう不確定要素を、丸ごと排除するのはどうだ」
ミジンコが息を呑んだ。
構わず続ける。口が勝手に回りだす。
「魔力拘束具なんて生ぬるいのはやめだ。いっそ四肢の骨を全部砕いて、俺の戦気で組んだ固定ケージに換装する。痛覚神経を一本ずつ間引いて、二度と自力でベッドから動けないように肉体を縫い直す。それなら管理が楽だ。──いや、待て。それとも、脳脊髄液を全部抜いて、俺の魔気を混ぜた液で置換するか。お前の脳の流路に直接、処理コードを書き込む。俺以外の人間を見た瞬間、前頭葉の思考が強制で止まるように。精神の、倫理ごとの書き換えだ。それでもいい。あー、いや、あいつらが実験棟でよくやってたやつもあったな。感覚器の全剥離。目も耳も舌も削いで、代わりに俺の戦気と神経のシナプスを二十四時間つなぐ。そうすりゃお前は、俺が流す情報だけで呼吸する、肉の器になる……ああ、でも、それだとやりすぎか。だったら――」
一度、息を吸う。
「一度きれいに殺して、心臓と脳だけ生かし、培養槽の防腐液に沈める。魂のバックアップは俺の格納庫に幽閉。命令ひとつで、いつでも都合のいい肉体にダウングレードして、組み直せる。それなら、壊れも、盗られもしない。完璧だろ。──何が、不満なんだ」
「もっとだめです……っ! ……というか、なんでそんな吐き気がするような非人道的な手順が、スラスラ出てくるんですかっ!?」
「前の連中が試してたのを見てた。成功率が一番高かったって自慢げに言ってた」
「倫理の『り』の文字もなくない!? 関わった人全員いったん国際警察にマッハで逮捕した方がいいと思うよ!?」
……分からない。
なぜそこまで怒る。今のは、確実性の高いデータに基づいたかなり親切な提案のつもりなんだが。
分からないなら、優しくもっと妥協してやる。
「なら、お前が育った孤児院ごと、買い取る。施設長もシスターも、まとめて俺の戦気の檻に入れてやる。維持費も人員も警備も、ぜんぶ俺が持つ。そうすりゃ、お前が外で死にかける理由も、俺のとこから逃げる理由も、きれいに消える」
これ以上ないくらい合理的だ。悪くない。
「もっとだめです! ……というか、なんで孤児院のこと知ってるんですかっ!?」
「普通に調べたら出てきた。場所と、ちょっとした経歴くらいだけどな」
「あ、そうなんですね……し、調べてくれてたんだ……えへへ……はっ。──ち、違う違う! 孤児院に手を出すのは、だめですからね!? さすがに怒りますよ!?」
声が、跳ねた。
なぜだ。今のは、かなり譲歩したつもりなんだが。
「金ならある。あんなもん、すぐ稼げる。維持費くらい出せる。人員も雇える。警備も置ける。お前の家族ごと、安全なとこに入れてやる。お前が死にかける目も、減る。──悪くないだろ」
「クロエさん」
「何が気に食わない。条件か。なら変えてやる。名義は残す。外に俺の名前は出さない。配信も続けていい。ただし監視はつける。護衛もつける。行く場所は俺が決める。戦う相手も俺が選ぶ。弱すぎる奴に時間を使うのは無駄だし、強すぎる奴に雑に当てたら壊れる。だから、それも俺が――」
「クロエさん」
声が、重なった。
「わたしは、そういうふうに、守られたいんじゃ、ありません」
腹の奥がずるりと落ちた。
……なんだ。
なんなんだ、それは。
◇
クロエさんの顔から表情がぜんぶ抜け落ちていった。
わたしは、見てしまった。
怒っている。たぶん、とても、激しく。
でも、それだけじゃない。もっと奥に、言葉にならない何かがあった。どこかへ置いていかれた子供が、自分でも何に泣きたいのか分からないまま、ただ冷たい壁を蹴り続けているような。ぐちゃぐちゃで、ひどく傷ついた、何か。
「……結局は」
ぽつり、と落ちた声。
「お前も、そうなのか」
冷えきった声だった。わたしに向いているはずなのにわたしを見ていない。もっと遠い、血と硝煙の匂いがするどこかを見ている。
「弱者は俺の近くにいたいって言う。俺を見てるって顔をする。離れないみたいな声を出す。──なのに、いざ俺が手を伸ばすと、拒む。お前ら弱者はいっつもそうだ。綺麗事で俺の懐に入り込んできて、最後は勝手にいなくなる」
クロエさんが静かに立ち上がった。
小さな身体なのにその影が部屋ぜんぶを覆い尽くすみたいに大きく見えた。空気がぐっと重くなる。肌をひりつかせる、容赦のない戦気が満ちていく。
「じゃあ、何が欲しいんだよ。どうすれば、ここにいてくれるんだ」
わたしは、何も言えなかった。怒鳴られているわけじゃない。なのにその静かな問いのほうが、何倍も深く突き刺さる。
「いいか。この世界ってのは。最初から平等になんかできちゃいねぇんだよ」
クロエさんの声が低く速くなっていく。自分の中の、絶対に譲れない何かを、自分自身に言い聞かせるみたいに。
「優しさも、公平も、自由も、対等も。ぜんぶ、強い奴が余裕のあるときに配ってるだけの、ただの施しだ。弱い奴が自分の手で掴み取ったもんじゃない。上から気まぐれにこぼれてきたのを、ありがたがって受け取ってるだけだ」
「強い奴は、どこへでも行ける。何を選んでもいい。誰も止められない。──だが、弱い奴はどうだ。行く場所も、組む相手も、明日生きるか死ぬかすら、他人の胸三寸で決まる。そんなもん、自由とは言わねぇ。上に登れるのは這い上がる爪を持った強い奴だけだ。はしごなんてもんは、最初から弱者のためには一枚も掛かっちゃいねぇんだよ」
声に、暗い熱が混じっていた。
怒りというより、絶望の果てにたどり着いた確信みたいな。
「俺は知ってる。嫌ってほど、この目で見てきた。──両の手に鍵をかけて掴んでなかったものは、ぜんぶ奪われた。檻に入れて守れなかったものは、ぜんぶ目の前で壊された。"信じてる"も、"離れない"も、"対等でいよう"も。そういう綺麗な言葉を信じて、無防備に笑ってた奴から順番に跡もなく消えていった」
クロエさんの瞳が、見たくもない記憶を追うみたいに細められる。その奥の暗がりが底なしに深くなっていく。
「……最初から、俺がこれだけの力を持ってたと思うか」
乾いた、自嘲みたいな笑い。
「違う。俺だって、最初はただの無力な弱者だった。覚醒して数年は、ずっと弱者側だったな。だから当然みたいに、標的にされた。奪われて、壊されて、尊厳って尊厳をぜんぶ剥がされて……あいつらの
「だから俺は、掴む。手放さない。二度と奪われないように、鍵をかけて、檻に閉じ込める。それの、何が悪い。──俺には、それしか知らねぇんだ」
わたしは喉が詰まって息ができなかった。
怖い。目の前の、桁外れの怪物は確かに怖い。
でもそれ以上に──胸の奥が引きちぎられそうに苦しかった。
クロエさんの口から落ちた過去。それは、無力だった頃のこの人が味わわされた、尊厳ごと踏み潰されるような地獄の記録だった。
歪んでいる。間違っている。それは分かる。でもこの人にとっては、そんな狂ったやり方でしか誰も守れないくらい、誰ひとり信じられないくらい、残酷な場所を生きてきたっていう証拠なんだ。
さっきの、あの吐き気がするような管理の手順。四肢を砕いて、感覚を奪って、培養槽に沈めるなんて。
あれは、わたしを痛めつけたいからじゃない。
そこまで徹底的に閉じ込めて、自分の視界に縫い留めてしまわないと──「またいつか、目の前で大切なものを失う」「あの地獄に、また誰かが叩き落とされる」っていう猛烈な怖さに、この人の心が耐えられないからだ。
「お前には、才能がある。それは認める。だが――今のお前は、圧倒的に弱い。この前だって、俺がいなけりゃあのダンジョンで死んでた。ひとりであの階層に立てば、お前なんざ、強い奴に見つかって弄ばれて終わる、ただの獲物だ。盗られて、壊されて、喰われて。それで、終わり」
一歩、クロエさんが近づいた。小さな足音が、わたしの鼓動と重なる。
「自由が欲しけりゃ、まず強くなれ。誰も文句を言えないくらい、誰も触れられないくらいに。それができねぇうちは、大人しく誰かの庇護の下にいるしかねぇんだよ」
もう一歩。底のない黒い瞳が、至近距離で、わたしを射抜く。
「だったら、俺に渡せ。他人に奪われて壊されるくらいなら──俺のものになれよ。弱者は、そうやって誰かの所有物にならねぇと、生きていけねぇんだ」
差し出された、小さな手。
それは、わたしを支配しようとする強者の命令で。同時に、これ以上もう何も失いたくないと泣いている、孤独な子供の切実な懇願にも見えた。
呼吸が、止まった。
クロエさんの手が伸びてくる。細い指。白い手。わたしの首に届く、そのほんの寸前で。
──その手が、ぴたりと止まった。
「……っ」
クロエさんの眉が、苦しげに、ほんの少しだけ歪む。まるで、自分の身体が、自分の命令を拒んだみたいに。
伸ばされた掌は、わたしの首に触れない。肩にも触れない。行き場をなくして、空中で、かすかに震えている。
「……なんでだよ」
掠れた声だった。
◇
その、ひどく頼りない響きを聞いた瞬間だった。
わたしは、前に出ていた。
その一歩が自分の意思だったのか、自分でも分からなかった。ただ、クロエさんの声があんまりにも生気をなくしていて、誰の手も届かない暗がりの底で凍えているみたいに聞こえたから。頭で考えるより先に身体が動いていた。
「……来んな」
低く、鋭い警告。肌を切り裂くような赤黒い戦気が、近づくなと膨れ上がる。全身の神経が「逃げろ」って最大級の警報を鳴らしてる。それでもわたしは、空気の刃を押し返すみたいに、もう一歩踏み込んだ。
今のクロエさんは、世界を脅かす怪物なんかじゃない。
どこまでも深い夜の底で、自分がどこにいるのかも、何が欲しいのかも分からないまま、ただ世界を拒んで泣いている──そんな迷子の子供に、どうしても重なって見えてしまう。
「来んなって言ってんだろ……」
声が、荒れた。いつもの気だるげで、何もかも見下ろすみたいな超越者の面影はどこにもない。近づくものすべてに牙を剥いて必死に威嚇している。そうやって誰も寄せ付けないことで、これ以上自分が傷つくのを防ごうとしている。その必死さが、痛々しかった。
「……クロエさん」
「触るな!」
「はい」
短く答えて、わたしは。
遮る戦気ごと、クロエさんの華奢な身体を正面から、強く、強く、抱きしめた。
◇
やわらかい。
最初に過ったのは、そのあまりにも脆い手応えだった。
白い腕が俺の背中に回っている。ミジンコのくせに。弱いくせに。俺がその気になれば、戦気を通すまでもなく、肉も骨もただの資材として砕けるくせに。
経路が、違う。論理が破綻してる。俺のものにはならないとはっきり線を引いた個体が、なんで自分から間合いをゼロにする。
離れろ、と命じようとした口が、直後に流れ込んできた音で完全に凍りついた。
喉の奥が、詰まる。胸の内側が、得体の知れない何かで、急速に満たされていく。
熱じゃない。戦気の練りとも違う。戦闘前に血が沸く、あの真紅の昂りとも違う。もっとやわらかくて、ぬるくて、気色悪い。
正体の分からない『ぽかぽか』した何かが、際限なく溢れてくる。
知っては、ならない。分かりたくも、ない。分かってしまったら、俺が。俺という怪物が、消えて別の何かに作り変えられる。
「嫌です」
ミジンコの声がした。細いのに、揺らぎひとつ混じっていない。
「わたしは、ここにいます」
──激しいノイズ──
視界の裏が、一瞬で、白く灼け落ちた。
顔も見えない。姿も分からない。何もかもが光に溶けて消えている。なのに、その声の残響だけが、不自然なほど近くで鳴っていた。
『わたしは、どこにもいかないからね』
違う。知らない。誰だ、それは。俺の記憶にそんな個体は存在しない。存在していいはずがない。
『安心して』
胸の最深部で、錆びついた鎖が、けたたましく鳴る。
俺自身の意思でも、絶対に触れられない領域から、何かが蓋を押し上げてくる。
開けるな。それに応じたら、俺は──俺は、消える。
突き上げてくる怖さを振り払うために、俺は全身の戦気を、無作為に、爆発させた。
抱きついてくる原因を、その破滅的な熱ごと、力任せに、前へ弾き飛ばす。
◇
ベッドのマットに、背中から叩きつけられた。
衝撃は、やわらかい寝具がぜんぶ吸ってくれた。痛みはない。なのに、起き上がれなかった。
完全に地雷を踏み抜いた。そう思って身構える。
でも、クロエさんは追ってこなかった。
自分の頭を、両手で引き裂くみたいに抱え込んで。何かに追われてる人みたいに不安定に視線を彷徨わせている。
「クソが、クソが、クソが……っ!」
掠れた呪詛が部屋に乱暴にぶち撒けられる。
「……なんでだよ」
黒い瞳の底で赤黒い光が激しく揺れていた。
「なんで、そういうことするんだよ。俺のものにはならないって言っただろ。だったら拒めよ。震えてみせろよ。泣いて逃げろよ……!」
言葉が途切れたのと、クロエさんの小さな身体が視界を塞いだのは、同時だった。
弾き飛ばされたばかりのわたしの身体が、今度は、容赦のない力で引き戻される。
骨が軋むくらいの強さで、ぎゅうっと、抱きしめられた。
お気に入りの人形に必死でしがみつく子供みたいな、乱暴で、不器用な、抱擁。
「へっ!? く、クロエさ──」
「黙れ。静かにしろ」
言葉の頭を、食い気味に、潰される。
クロエさんの顔は、わたしの肩口に、深く埋められていた。さらさらの黒と赤の髪が、首筋を撫でる。
伝わってくる鼓動が、警報みたいに、激しく脈打っていた。小さな身体が、微かに、震えている。
「なんでだよ……」
耳元で、掠れた声が漏れた。
「俺のモノにならないんだったら、引き離す努力はしろよ。嫌がって、拒絶しろ。そうしたら、こっちもいつも通りにできるんだよ……」
背中に回された腕が、もう一段、きつくなる。
その言葉を聞いた瞬間、わたしの中の熱がすとんと腑に落ちた。
◇
壊したい。閉じ込めたい。逃げられないようにしたい。俺のものだと、世界の側に刻みつけたい。
なのに、できない。
首を掴めばいい。標を深く刻めばいい。戦気を流して、こいつの身体の主導権を一時的に奪えばいい。
できる。技術的には、できる。理屈の上じゃ、何も難しくない。
なのに、指が、動かない。
その代わりに俺はこいつを抱きしめている。
馬鹿じゃないのか。何をしている。これじゃまるで。まるで俺のほうが、こいつに縋ってるみたいじゃないか。
「なんでだよ」
声が漏れた。止められなかった。
「俺のモノにならないんだったら、引き離す努力はしろよ。拒めよ。嫌がれよ。泣いて逃げろよ。そうしたら、こっちも分かりやすいだろ」
そうしたら、俺はいつも通りにできる。邪魔なものを壊す。逃げるものを追う。拒むものをねじ伏せる。奪う世界で、奪われないための手順。それなら分かる。俺にも分かる。
なのに、こいつは違うことをする。拒むくせに、離れない。物にはならないと言うくせに、俺の腕の中にいる。触るなと言ったのに、抱きしめてきた。
意味が、分からない。意味が分からないのに。
この、ぽかぽかした何かが、消えない。
「……癪に触る。いちいち、行動が癪に触るな、お前」
吐き捨てた。なのに、腕は緩まなかった。
ミジンコが何か言おうとした。ホント、癪に障る。
「俺が、自分のモノだって言いたいのか」
言った瞬間、自分でも、何を言ってるのか分からなくなった。
クロエさんの言葉は、めちゃくちゃだった。
喉の奥が詰まる。なのに、わたしの胸の奥は泣きたくなるくらい熱くなっていた。
この人は、たぶん知らないのだ。
誰かと並んで歩く方法も。大切なものを、壊さずに手元に置いておくやり方も。
奪い合いが前提の過酷な場所でずっと生きてきたから。当たり前の教育を誰からも受けられなかったから。
閉じ込めて、鎖で繋いで、自分の所有物にする。それしか、自分の世界を守る手段を知らない。
そう思ったら、怖さより先に胸の奥が熱く疼いた。
「クロエさん」
「黙れって言った」
「嫌です」
「……お前」
「わたしは、クロエさんの
腕が、一瞬強くなる。呼吸が詰まりそうになった。けど続けた。
「でも、クロエさんのそばに、います」
「だからそれが、分かんねぇんだよ」
「分からなくて、いいです」
「は?」
クロエさんが、わずかに、顔を上げた。
至近距離で、底のない黒い瞳と視線がぶつかる。底が見えない。なのに今は、その底の奥で何かが迷子になってるみたいに見えた。
「今すぐ、全部分からなくても、いいです」
わたしは小さく息を吸って、クロエさんの背中へゆっくり両手を回した。
戦気の冷たい刃がまだ肌を威嚇してくる。でも、もう怯む理由はどこにもなかった。
今度は、逃げられないようにじゃなく。崩れてしまわないように。確かな鼓動を確かめるみたいに。深く、抱きしめ返す。
「わたしは、どこにもいきません」
クロエさんの身体が、ぴたりと、止まった。
部屋の空気が一瞬白く凍った気がした。
「クロエさんの物には、なりません。でも、わたしは、わたしの意思で、ここにいます。だから──安心してください」
ひとつずつ、噛み締めるみたいに伝える。
クロエさんの瞳が、わずかに、揺れた。
◇
白い光。
また、だ。視界の裏に、白が広がる。顔は見えない。輪郭も見えない。何もかも、光に灼けている。
なのに、声だけが、聞こえる。
『わたしは、どこにもいかないから』
やめろ。
『あなたが嫌だって言っても』
やめろ。
『わたしは、ここにいるよ』
『あなたのことを、わたしは忘れないから』
やめろ。知らない。俺は、知らない。知らない知らない知らない。そんな声は、知らない。そんな言葉は、知らない。そんな約束は、知らない。
記憶の底で鎖が鳴る。深い場所。俺自身ですら、触れられない場所。そこに沈めた何かが、白い手で蓋を押し上げてくる。
やめろ。出てくるな。それを見たら、俺は。俺が、俺でなくなる。
「……うるさい。うるさいんだよ」
声が漏れた。戦気が、跳ねる。照明が一瞬、揺れた。窓ガラスが低く震えて、テーブルの端末が滑り、床で乾いた音を立てる。
ミジンコの身体を離す。今度こそ突き放そうとした。
なのに、指先が、服を掴んだまま離れない。
ふざけるな。ふざけるなふざけるなふざけるな。俺の身体だろ。俺の意思だろ。なのに、どうして。どうして、こいつを傷つける方向にだけ、何もかもが噛み合わない。
「……なんなんだよ、お前。なんで、そんな顔、すんだよ」
言葉が、勝手に落ちた。
ミジンコは泣いていなかった。身を強張らせながら、それ以上に、俺をまっすぐ見ていた。まるで、俺の中の見られたくない場所を、全部見ているみたいに。
「わたしは、クロエさんのことを、知りたいです。今のクロエさんも。分からなくて怒ってるクロエさんも。わたしを物みたいに扱おうとするクロエさんも」
「……それを聞いて、普通は逃げるんだよ」
「逃げません」
「馬鹿か」
「たぶん、そうです」
即答だった。なんだ、それ。なんで、そこで肯定する。
「でも、逃げません」
ミジンコが、俺の服を握った。弱い力だった。振り払えば、終わる。
なのに、できなかった。
「クロエさんがわたしを物にしようとするなら、わたしは何度でも、違うって言います。クロエさんが分からないなら、何度でも、言います」
「……黙れ」
「黙りません」
腹が立つ。本当に、腹が立つ。
なのに。胸の奥が、ぽかぽかしている。
最悪だ。こんなもの、知らない。俺は、こんなものを、知らない。
「だから。今日だけは、分からないままでも、いいです。分からないまま、抱きしめてても、いいです」
白い腕が、もう一度、背中に回る。
逃げない。こいつは、逃げない。何度突き放しても。拒まれても。身体を震わせてるくせに。それでも。
「……ほんと、癪に触る」
俺は、かろうじて、そう吐き捨てた。
それ以外の言葉は、全部、喉の奥で、熱に溶けて消えた。
だから俺は。結局、こいつを抱きしめたまま動けなかった。
◇
結局、クロエさんを抱きしめたまま、動けなかった。どれほどの時間が経っただろう。数十分、それとも地球の自転が三周半くらいするほどの長い間だったかもしれない。
お互いの体温が嫌というほど衣服越しに伝わっていた。やがて、背中に回されていたクロエさんの腕から、ふっと力が抜ける。すうっと、小さな身体が離れていった。
──その瞬間。わたしの脳細胞という脳細胞に、バケツいっぱいの液体窒素が容赦なくぶち撒けられた。
やらかした。やった。完全にやった。大・犯・罪(社会的かつ精神的な意味で)。
現代種最強の歩く天災であり、世界一可愛いわたしの初恋の相手を、正面からガバァッと勢いよくホールドした。おまけに「どこにもいかない」だの「安心しろ」だの、どこのトレンディドラマの主人公だよと言いたくなる熱烈な羞恥セリフを、鼓膜が震えるほどの大音量で叫び散らかしたのだ。
……死にたい。今すぐ千葉ダンジョンの最下層に、全裸生身のノーガード状態でドロップキックをかましながら飛び込みたい。恥ずかしさのあまり頭がオーバーヒートを起こし、脳みそがポップコーンみたいに弾けて爆発しそうだった。
布団に顔をうずめて「アバババババ!」と叫びながら芋虫のようにのたうち回りたい衝動が、津波となって押し寄せる。それを、ミリ単位でギリギリ保たれている「クールなイケてる探索者(笑)」の仮面で必死に抑え込む。
表面上は無表情。しかし、その後ろに隠された脳内メモリは、完全にパッパラパーのバグまみれでフリーズを起こしていた。
「おい、ここ」
クロエさんの低くて気だるげな声。ベッドの端に腰掛けた彼女が、じとっとした黒い瞳でわたしを見上げていた。
「ちょっと、そこにしゃがめ」
「は、はい」
気圧されて、素直にベッドの下に膝をつく。クロエさんの目の前で、完全に見上げる形になった。
「口を開けろ」
「…?」
「いいから開けろ」
何。怒られる。お仕置き。戸惑いながらも、逆らえずに小さく口を開く。
その瞬間だった。
クロエさんの細くて白い三本の指──人差し指、中指、薬指が、わたしの唇の隙間にすっと差し込まれた。
驚きで声を上げようとした喉の奥を、その指先が容赦なく蹂躙する。口内の柔らかい粘膜を深く手探りするようにねっとりとなぞり、熱を帯びた舌の端を愛撫するようにして、溢れる唾液を容赦なく絡め取っていく。
ひどく淫らで濃密な動き。指の腹がもっとも敏感な粘膜を愛撫するように滑るたびに、背筋を直接焦がされるようなゾクゾクとした甘い痺れが全身に走る。
はわわ、何これ、何これぇ!? えっちすぎる、というかおかしい! 指三本とか人類どころか全宇宙の知的生命体に対して早すぎる!!
口の中がクロエさんの体温でパンパンに満たされて、呼吸の仕方が一瞬でわからなくなった。吸っても吐いてもクロエさんの匂いしかしない。
のけぞって逃げようにも、顎をガッチリ固定されているから首がミリ単位も動かせない。暴れようとした瞬間、容赦なくさらに深く指が突き入れられて、「ひぐぅっ!?」と喉の奥で情けない悲鳴が裏返った。
思考回路は完全にショート、頭の中の警告灯が「淫らすぎ警報」をガンガン打ち鳴らしている。押し込まれた指の隙間から、受け止めきれなくなったヨダレが、じわじわと顎を伝って零れ落ちていくのがわかって、羞恥心で全身の毛穴から変な汗が噴き出しそうだった。
そのとき、わたしの顎を伝う冷たい感触に、クロエさんのジト目がぴくりと動いた。
「……汚いな」
呆れたような、どこか愉しげな呟き。次の瞬間、わたしの口内に深く突き刺さっていた指が、ぬちゅりと濡れた音を立ててゆっくりと引き抜かれた。
ふはっ、とようやく解放された呼吸を吸い込もうとした──まさにその刹那。
「ひゃ……っ!?」
顎を固定されたまま、今度は信じられないものがわたしの肌に触れた。
熱くて、柔らかくて、ひどく滑らかな質感──クロエさんの、桃色の舌先だ。
顎のラインに垂れ落ちかけていた不埒な水滴を、彼女は下から上へと、容赦なく舐め上げていく。
猫のようにしなやかな舌が、わたしの皮膚を直接、じっくりと熱く這う。ぞくぞくと全身が粟立つような快感と羞恥が脳髄を直撃して、背筋が跳ね上がった。
「ん……ふ…」
小さな甘い吐息が、すぐ至近距離でわたしの肌に吹き付けられる。
クロエさんの舌先は、滴を一つ残さず絡め取りながら、じわじわとわたしの唇へと迫ってくる。
最後に、水分の集まった唇の端を、ねっとりと、まるで愛おしいチョコレートを味わうかのように深く、深く舐めとられた。
ちゅ、と小さく肉感的な音が鼓膜を震わせる。
完全に目の前、睫毛が触れ合いそうなほどの距離で、クロエさんはわたしの唾液で濡れそぼった自分の唇をペロリと割り、どこか蠱惑的な笑みを浮かべていた。
「……まだ足りねぇな」
わたしの唇を艶っぽく舐め上げたクロエさんが、低く、低く、低音でそう呟いた。その瞳の奥には、見たこともないような熱い情動が渦巻いている。
(や、やばい……っ!?)
直感が最大級の警報を鳴らした。これ以上はさすがに耐えられない、身も心もドロドロに溶かされてしまう──そう本能が察知して、慌てて後ろへ身を引こうとした。
けれど、現代種最強の怪物がそれを許してくれるはずもなかった。
「あつ……っ!?」
引き込もうとしたわたしの薄い腰に、クロエさんの細い手が容赦なく回される。鉄の万力のような力で強引に引き寄せられ、逃げ場を完全に失った。
そのまま、勢いよく二人の身体が密着する。
衣服越しだというのに、クロエさんの熱い体温がダイレクトに肌に伝わってきた。それと同時に、わたしの膨らみかけの胸と、クロエさんの柔らかい胸が、ぎゅぅぅぅっと隙間なく押し潰される。
圧迫される肉体の柔らかさと、胸の先端がコリッと擦れ合う生々しい刺激。女の子同士の特権なんて生ぬるいものじゃない、お互いの形が変わるほどに強く胸が当たり、潰れ合う感触に、頭の芯がジーンと痺れていく。
熱い。苦しい。でも、信じられないくらい気持ちいい──。
パニックで完全に思考が焼き切れているわたしの耳元に、クロエさんの潤んだ唇が近づけられた。小さく、けれど抗えない絶対の響きを持った吐息が、鼓膜を直接愛撫する。
「逃げんなよ」
ゾクッと全身の毛穴が収縮するほどの甘い戦慄が走った。
その言葉と同時に、先ほど引き抜かれたばかりの、まだわたしの唾液で濡れそぼった三本の指が、再びわたしの唇を強引に押し開いた。
「んんぅぅっ!?」
容赦なく口内の奥深くまで突き入れられる、硬くて熱い指先。さっきよりもさらに深く、粘膜の奥をねっとりと、執拗にかき回される。胸同士をぴったりと押し潰し合って密着したまま、わたしの口内は、クロエさんの指によって再び淫らに蹂躙され、濃密な濡れた音が部屋の中に響き渡った。
あわてふためいて身を引こうとするけれど、クロエさんは底のない瞳のまま、わたしの顎をもう片方の手で固定した。肉感的な濡れた音を室内に響かせながら、ジト目のまま、冷たく言い放つ。
「おとなしくしろ、この変態」
変態はどっちだぁ?! と猛烈に、脳内で絶叫を上げる。
けれど、口内を執拗にかき回され、もっとも過敏な粘膜をねっとりと愛撫される快感。それに加え、至近距離から浴びせられるクロエさんの圧倒的な圧に完全に気圧されて、声にならない。喉の奥を蹂躙され、生々しい肉の擦れ合う音を室内に響かせられながら、わたしは涙目で、その濃密な暴力が終わるのをじっと耐えるしかなかった。
一分ほど経った頃、ようやく指が引き抜かれる。しゃん、と糸を引く生々しい音が静寂に響いた。
クロエさんの細い指先には、ローションのようにべっとりと糸を引くわたしの唾液が、不埒な輝きを放ってたっぷりと付着していた。お互いの熱が混ざり合った透明な粘液が、彼女の白い肌を伝い、妖しくきらめいている。クロエさんはその濡れた三本の指を、じっと興味深そうに、酷く嗜虐的な眼差しで眺めている。
そして。
呆然と息を荒くしているわたしの目を真っ直ぐ見つめながら、その指を躊躇なく、自分の口の中へとすべて突っ込んだ。
あどけない唇が大きく割かれ、三本の指が根元まで、深く、彼女の喉を押し上げるようにして突き入れられる。
「はぇっ!? ちょ、クロエさん!? クロエさぁん!?」
顔面が火山みたいに大噴火した。何してるんですか。それ、わたしの、わたしの熱い唾液が全部ついて──!
わたしのパニックを完全に無視して、クロエさんは口をすぼめ、一滴も残さないようにねっとりと、自分の指に絡みつく粘液を舌先で舐め上げた。ちゅぱ、と扇情的な音が鳴る。それから、ごくりと妖艶に、官能的なほどはっきりと喉を鳴らした。
「ぷはっ」
吐息混じりに、熱い情動ごと艶っぽく飲み干した。唇の端に長く残った透明な糸を、桃色の舌先でペロリと淫らに絡め取る。
「ふぅん。相変わらず薄いピンクだな。だが、さっきより一段と濃度が増してる」
「な、何がですか……!?」
心臓が破裂しそうなほどバクバクと暴れる中、わたしはかろうじて声を絞り出した。
クロエさんは自分の唇に残ったわたしの味を反芻するように、ゆっくりと舌で唇をなぞり、底暗い双眸を細める。
「俺の能力だ。血析《けっせき》の応用。お前の体液から、身体情報や深層の感情の波形を解析した」
そう言って、彼女はまだ濡れた指先で、わたしの腫れぼったくなった唇をそっとなぞった。
「唾液は血よりも生々しいな。お前が俺に向けてるクソ気色悪い情緒──独占欲だの、愛着だの、情欲だのの、どろどろに煮詰まった熱波が、より詳細に俺の脳内に流れ込んできたぞ……全身がちょっと痺れるほどにな」
……え?????
感情の波形。考えてること。
つまり、さっきの『おっぱいでっか』とか『下着の存在感やばい』とか『匂いハァハァしたい』とか、あの全人類に対して土下座レベルの恥ずかしすぎる内心の暴走が、ぜんぶ。一文字残らず、この人に筒抜けだった。
終わった。完全に終わった。死刑。ギルティ。満場一致で即身成仏決定。布団どころかマントルを突き抜けて地球の裏側のブラジルまで超高速で穴を掘って埋まりたい。恥ずかしさのビッグバンで私の脳内宇宙が崩壊していく。
ベッドの上でゴロゴロとのたうち回り、さっきのクールは消し飛んで、頭を抱えて「アババババ!」と悶絶するわたしを見て、クロエさんは不思議そうに首を傾げた。
「んにゃ、なんでそんなに顔を真っ赤にして暴れてるんだか。ま、やっぱミジンコの思考は分からん」
本当に、何も分かっていない顔だった。意地悪でからかっているんじゃない。本気で、これがただの『効率的なデータ収集のライフハック』だと思っているのだ。この人の、まともな人間の常識が一切通用しない天然ポンコツAIぶりが憎い……! 最新のAIでもわかるぞ!?
……なんか、猛烈に癪だ!
わたしだけが一方的に精神的致命傷《ダイレクトダメージ》を受けて、ひとりで茹でダコみたいになっているの、あまりにも不公平すぎる!
恋愛免疫ゼロのバグり散らかしたわたしの脳細胞が、ここで完全にトチ狂った。
「く、クロエさんだけずるい! 自分にもそれやらせてよっ!」
「あ?」
無防備に座っているクロエさんの華奢な体に、ガバッと勢いよく飛びかかる。そのまま、彼女の薄くて形のいい唇に向かって、口づけ──キスを敢行しようと、ロケットのような猛烈な勢いで顔を近づけた。
バッ、と世界が反転した。
神速。戦闘中の神回避すら置き去りにするような、物理法則を無視した圧倒的な退避速度。
気づいた時には、クロエさんはベッドの反対側の壁際まで一瞬でワープしたかのように退避していた。その顔は、いつものダウナーでも天然でもない。
この世界に来て初めて見るような、心底からの【驚愕と動揺】に満ち満ちていた。猫が未知の物体に驚いて飛び上がった直後みたいに、目を限界まで丸くして、全身の毛を逆立てるように強張らせてわたしを睨みつけている。
「お前……」
かすれた声が、室内に落ちた。わたしはそこで、冷水をぶっかけられたようにようやく我に返った。
あ、ヤバい。調子に乗った。いくらなんでも無理やり唇を奪おうとするなんて、普通に首を刎ねられて灰にされても文句言えない。怒られる。確実に消される……!
ガタガタと身を硬くして、ガチで死刑判決を待つ。けれど、クロエさんの口から飛び出したのは、予想を斜め上どころか宇宙の果てまで置き去りにする、凄まじい勘違いの言葉だった。
「……俺と、赤ちゃんを作りたいのか……??」
大真面目な、あるいは本気で引き気味の、動揺しきった声だった。
よく見れば、いつも涼しげなクロエさんの白い頬が、耳の付け根までじわじわと、見たこともないような鮮やかな朱色に染まっていく。
最強の怪物が、その圧倒的な戦闘力とは裏腹に、中学生並み、いやそれ以下の壊滅的な性知識のなさを露呈して、真っ赤になって困惑していた。
◇
意味が分からない。いや、意味は分かる。
前世の、あのマッドな連中。俺に異常に執着して依存してきた、あの付き纏い型のゴミどもが、狂った顔で何度も俺に囁いていた言葉だ。
『キスを、キスをしましょう、我が愛しき半身よ。そしてそのままベッドで二人裸で交わり、慰め合いましょう!? 大丈夫です、今から行う行為は美しく人類をまた進化させる高尚な交尾なのだから。だからしましょう、首輪と縄で私を縛って、そのまま本気で孕ませる気でヤりましょう。そしてあなたの遺伝子を私の中に注ぎ込んで、完璧な次世代を創造しましょう?! あなたのその、『超電圧高出力覇王砲』で私の最高級『形状記憶合金』に打ち込んで臨海突破を果たしましょう!?』
あのイカれた連中の膨大な欲望の言葉。それを俺なりに高度な演算で解析し、導き出した絶対の真理。
それ以外にないだろう。前世の性教育など、己の身体を慰める自慰のやり方とその快感の流路しか教わっていない。性行為のまともな手順など誰も教えてくれなかった。
だから、あいつらの言葉のパズルを繋いだ結果、その結論に達したのだ。なのに、このアホは、俺と。俺と、いきなり子供を作ろうとした。
「んにゃ……さすがに、それは俺でも許容できんぞ……」
だいたい、ネットの海に転がっている『結合して生殖を行う』などというオカルト記述、誰が信じるんだ? 排泄や戦闘の流路を他者の機構と直接繋ぐなど、構造的な結合効率が悪すぎるだろう。そんな非理的でバグまみれの挙動、人類の設計思想としてあり得ん。生命の神秘を騙った高度な情報戦か、あるいはタチの悪い都市伝説に決まっている。それに、おそらくは脳の配線がショートしたイカれた趣味を持つ変態どもが、自己満足のためにやらかすニッチな奇習に決まってるってやつだ。
「ま、まずは俺と同じ土俵にだな……。お前がもっと強くなって、せめて俺に追いつくか、あるいはダンジョンを単独踏破できるくらいの実力を身につけてからではないと、遺伝子の格差がありすぎて……いや、その前にキスの契約だけで生命が誕生するとなると、俺の身体の制御権はどうなるんだ? 待て、お前は本当にそこまで考えて、その、俺に迫ってきたのか……!?」
ぶつぶつと早口で呟きながら、クロエは完全にパニックに陥っていた。いつもなら氷のように冷徹な頭脳が、過剰な負荷によって完全に空回りしている。
真っ赤になった顔のまま、服の裾をぎゅっと握りしめて、未知の恐怖(と凄まじい勘違い)にガタガタと動揺しきっていた。
◇
「俺と、赤ちゃんを作りたいのか……??」
そのセリフを聞いた瞬間、わたしの脳細胞は一斉にブレーカーを落として完全シャットダウンした。その結果、わたしの表情は、いわゆる「宇宙猫《スペースキャット》」のような極限の虚無に陥る。
「えぇ……?」
思考回路が完全に消滅した。脳内でスペースキャットが遥か彼方の銀河を見つめて静かに回っている。
クロエさんは本気だった。からかっている顔じゃない。冗談を言っている顔でもない。むしろ本気でこちらを未知の危険生物か何かのように警戒している。
華奢な背中を少し丸めていつでも飛び退けるように重心を落としていた。まるで知らない場所に連れてこられて突然シャワーを浴びせられそうになった野良猫みたいな警戒心だ。
「ち、違います……いや違わない部分もあるというか、違うんですけど……っ!」
「どっちだ」
「えっとその、赤ちゃんは……できません」
「できないのか」
「キスではできません!」
「じゃあどう作るんだ」
「うぇっ!?!?!?」
わたしの口から完全に裏返った変な悲鳴が出た。
顔面が火山大噴火を通り越して、銀河系崩壊レベルの超新星爆発を起こす。待って。歩く天災に向かって、わたしが今からまっとうな性教育の講義をしなきゃいけないの? そんなの恥ずかしすぎる!!
「それはぁ……そのぉ……っ!」
完全に限界を迎えた視線を部屋のあちこちに泳がせながら、必死に言葉を濁す。
「んにゃ。言えんはずがないだろ。否定したんだからな。正しいプロセスのソースコードを提示しろ。お前の情緒を解析した結果、そこには何らかの結合手順が存在するはずだ」
「……ま、まだクロエさんには早いです!」
顔を真っ赤にして全力で叫んだわたしに、クロエさんは不満そうにむっとした顔になり、あからさまなジト目を向けてきた。
「ふぅん。俺を子ども扱いか。ミジンコのくせに生意気だな。俺の演算能力を舐めるなよ」
「そういう問題じゃないです!! とりあえず、今はキスで赤ちゃんはできないってだけ覚えておいてくださいね?!」
部屋に最高にシュールで重苦しい沈黙が落ちた。クロエさんがじっとわたしを見つめてくる。
まるでわたしの言葉の真偽を、戦場で敵の即死罠を暴くみたいに大真面目に検証している顔だった。戦闘力は世界を滅ぼせるチート仕様なのに、性知識だけが限界集落の過疎地レベルで完全に止まっている。この人強さと知識の上下差が激しすぎて耳が痛くなる。
「……本当か?」
「本当です」
「絶対か?」
「絶対です!」
わたしの純潔な脳細胞が深夜アニメの規制解除版みたいな大惨事になっている。
「……というか、なんでクロエさんはキスで赤ちゃんができるなんて突飛な方法を知ってるんですか?」
「んにゃ。連中が俺をベッドに縛り付けながら、熱心にそれを試そうと囁いていたのを見てたからな。あいつらの怪文書とうっとおしい連中の言葉を繋ぎ合わせた結果、統計的にも一番成功率が高そうだったからだ」
「なんか関わる人達全員倫理の文字もなくない!? というか全員いったん国際警察にマッハで逮捕された方がいいです!」
「そうなのか」
「そうです!」
「ふぅん」
納得したのかしていないのか。クロエさんはまだ少し野生の猫みたいに身構えていた。
わたしはその姿を見て頬がぎぎぎと引きつるのを感じた。
さっきまでわたしの心をねっとり狂わせて、指を口に突っ込んで、ローションみたいにべっとりした唾液を舐め取って、深層心理まで解析したくせに。
それなのに、キスで赤ちゃんができると本気で思っている。世界を簡単に壊せる超越者なのに、こういうところだけ純粋無垢な子供より危うい。ピュアという言葉を泥水で洗ってから独自の暗黒進化を遂げたような、絶望的な勘違い。どうなってんのこの人は。
「ち、違います……いや違わない部分もあるというか、違うんですけど……」
「どっちだ」
「えっと、その、赤ちゃんは……できません」
「できないのか」
「キスでは、できません」
部屋に重苦しい沈黙が落ちた。クロエさんがじっとわたしを見つめてくる。
まるでわたしの言葉の真偽を、戦場で敵の罠を暴くみたいに大真面目に検証している顔だった。戦闘力は世界を滅ぼせるチート仕様なのに性知識だけが限界集落の過疎地レベルで止まっている。
「……本当か?」
「本当です」
「絶対か?」
「絶対です」
「前の連中は、キスのあとに裸でベッドがどうとか、繋がるとか、進化がどうとか、首輪とか縄とか、やたら面倒なことを言っていたが」
「その人たち、全員いったん国際警察に逮捕された方がいい」
わたしは真顔で言った。言わずにはいられなかった。
やべぇよその連中。クロエさんになんていうエロ英才教育を施そうとしてたんだ。
首輪。縄。裸でベッド。完全に特殊性癖のフルコース。成人向け同人誌のタグ全部盛り。深夜アニメなら画面の八割が規制の謎の光で埋まるやつだ。そんな超弩級のセクハラ環境で生き延びてきたクロエさんの過去が不憫すぎる。
クロエさんは不満げに眉をひそめる。
「そうなのか」
「そうです」
「ふぅん。ま、お前がそう言うならそういうことのはずだ」
納得したのか、していないのか。クロエさんはまだ少し野生の猫みたいに身構えていた。わたしはその姿を見て、頬がぎぎぎと引きつるのを感じた。
さっきまでわたしの心をねっとり狂わせて、指を口に突っ込んで、ローションみたいにべっとりした唾液を舐め取って、深層心理まで開発し尽くしたくせに。
やってることは完全にアウトな薄い本の展開なのに、キスで赤ちゃんができると本気で思っている。この人、強さと知識の上下差が激しすぎて耳キーンってなる。
世界を簡単に壊せる超越者なのに、こういうところだけ純粋無垢な子供より危うい。ピュアという言葉を泥水で洗ってから独自の暗黒進化を遂げたような絶望的な勘違い。
「……そ、そこからなんだ」
思わず本音が漏れた。
クロエさんが、むっとした顔をする。でも、どこか本気の凄みが抜けた、拗ねたみたいなジト目だった。いつもの、何もかも見下ろす超越者の目つきじゃない。
「んにゃ。なんだ、その顔」
「い、いえ……」
「へぇ。俺を馬鹿にしただろ、お前」
「してないです。ちょっとだけ、びっくりしただけです」
「今、完全に俺を馬鹿にしたなぁ。間違いない」
「してません」
「しただろ」
「してませんってば」
しばらく、無言で見つめ合う。
どうしようもなく変で、どうしようもなく気まずい。
でも、さっきまでの窒息しそうな重さは、もうどこにもなかった。代わりに二人のあいだにあるのは、さっきよりずっと、ゆるんだ空気。
わたしはまだ顔が沸騰したまま。それでも、ずいぶん息がしやすかった。
膝の上で、ぎゅっと拳を握る。
この人は、知らないことだらけだ。
誰かと並んで歩く方法も。大切なものを壊さずに手元へ置くやり方も。触れ方も。好きっていう言葉の扱い方も。
……そして、キスをしても赤ちゃんは生まれない、ということも。
なら、たぶん。これからひとつずつ、一緒に知っていけばいい。
「クロエさん」
「なんだ」
「キスでは、赤ちゃんはできません」
「それはもう聞いた。しつこいぞ」
「でも、いきなりするのは駄目です」
「いや、お前がしようとしたんだろうが」
「……はい」
ぐうの音も出ない正論だった。すべてはわたしのトチ狂った自爆攻撃が原因である。
クロエさんはまだ、警戒した猫みたいな顔でこっちを見上げていた。
「やっぱり馬鹿にしてるだろ」
「してません」
「してる。お前、ぜったい俺のこと玩具かなんかだと思ってるだろ」
「思ってませんってば」
言い返しながら、ふと、思った。
ついさっきまで。この人は、心臓が凍るくらい冷たい目をしていた。世界はぜんぶ奪い合いだと言って、わたしを物にしようと手を伸ばして。触れたら壊されると、本気で思った。
なのに、今は。
キスで赤ちゃんができると本気で思い込んでたのを指摘されて。馬鹿にされたかどうかで、唇を尖らせて、拗ねている。
まるで、別人みたいだ。
……もしかして。
ほんの少しだけ。ほんのちょっとだけ、でも。わたしのこと、信用してくれたのかな。
そう思った瞬間、勝手に口元がゆるんだ。胸の奥が、ぽわっと浮き上がる。だらしない顔になってる自覚はあった。でも、止められなかった。
「……別に、信用はまだしてねぇよ。ばーか」
そっぽを向きながら、クロエさんが、ぽつりと言った。
……え。
え、ええっ!?
「な、なんでっ……! わ、わたし今、声に出してないですよねっ!? こ、心の中まで、読めるんですかっ!?」
「読めるわけないだろ。俺をなんだと思ってんだ」
「で、ですよねっ……」
「具体的なことまでは無理だ。何をどう考えてるか、なんて細かいとこは分からん。──ただ」
クロエさんが、わたしの首筋をつん、と指さした。
「標がある。お前が今どんな気分かくらいなら、勝手に伝わってくる。さっき、急にバカみたいに浮かれただろ。あれが丸ごとな。あとは顔見りゃ考えそうなことくらい大方わかる」
顔から、火が出そうになった。
「ぷ、プライバシーの侵害ですっ!!」
「人聞きの悪いこと言うな。勝手に流れてくるんだから、こっちは被害者だろ」
「被害者はわたしですよっ!? 四六時中、気分まで覗かれてるんですからっ!」
「覗いてない。受信してるだけだ」
「同じだよっ!?」
わたしが本気でむくれると、クロエさんはほんの少しだけ、目を細めた。
笑ったのかもしれない。見逃しそうなくらいわずかに。
今日、クロエさんの家に来た。今日、痛いくらい強く抱きしめられた。そして今日、この人の知らない部分も、ほんの少し見えた部分も、いっぺんに知った。
とんでもなく危うくて、めちゃくちゃで、常識なんてどこにもない。
でも、これがわたしたちの始まりの形をしている。
所有でもない。支配でもない。逃げるでもない。
まだ名前のつかない、わたしたちだけの距離。
その距離の真ん中で、わたしたちはくだらない言い合いを続けていた。
顔はまだ、めちゃくちゃ熱い。
序章終了。ぜんっぜん話的には進んでないけど。
このあと序章の後日談挟んで、次回から第二ヒロイン投入&ギルドの騒動編になります。
R18見たい? スカは圏外
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見たい
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あんま興味無いかも
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どエロいの頼む
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マニアックなのもいけるなら……