ダンジョンにはTSがつきもの 〜TS転生した怪物は自分への愛が強すぎる〜   作:炭水化物は飲み物

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むっちゃ改良しました。


第一章
開幕


「この世で最も慈悲深いことは、人間の精神がその内に抱えるすべてを関連づけられないことだ」

 

 

 ──H・P・ラヴクラフト『クトゥルフの呼び声』

 

 

 ◇

 

 

 東京中央ダンジョン直下。

 

 国際探索者管理協会日本支部、地下二十七階。

 

 そこには、一般職員の立ち入りを許されない灰色の会議室がある。

 壁も床も天井も灰色だ。窓はない。観葉植物もない。

 

 人間味のあるものは、卓上の胃薬の瓶くらいだった。

 誰のものかは分からない。ただ、今日この場の全員が、絶賛持ち主候補だ。

 

 その部屋のいちばん端。長机の末席に、見慣れない若い男が座っていた。

 

 新任の補佐官、宮田悠真(みやた・ゆうま)。この部屋に降りてくるのは、今日が初めてだ。

 議事録端末を両手で抱え、背筋を不自然なほど伸ばしている。場違いな場所へ迷い込んだという自覚だけが、彼を硬くしていた。

 

 部屋の中央に、ひとりの少女の映像が浮かんでいる。

 

 黒に、赤の差した髪。底のない黒い瞳。百四十八センチの、小柄な体。

 

 見た目だけなら、迷子センターに連れていかれてもおかしくない。

 

 宮田は議事録に「会議場所」の欄を作り、入力欄のカーソルを点滅させたまま、控えめに口を開いた。

 

 

「あの……記録のために、確認させてください。この会議室は、なぜ地下二十七階に?」

 

 

 答えたのは、迷宮庁危機対応局審議官、真壁宗司(まかべ・そうじ)だった。

 

 四十代半ば。眉間に、深い皺が刻まれている。生まれつきなのか、この状況のせいなのかは分からない。

 

 

「上の階で済む話なら、上で済ませている」

 

 

 真壁は、卓上の胃薬を一瞥した。

 

 

「二十七は、協会、迷宮庁、ギルドの共同評議区画だ。特級、国家機密、裏社会、未確認災害。そのどれかが絡んだ時だけ開く」

 

「つまり……通常案件では、ない」

 

「通常案件なら、私は今頃地上でコーヒーを飲んでいる。冷めているがな」

 

 

 宮田の指が、議事録端末の上で止まる。

 

 

「地上で話せない話だけがここまで降りてくる。覚えておけ」

 

 

 その横で、ひとつ、低い声が混じった。

 

 

「地上で済む話を、わざわざ地下に埋めるのも、だいたい上の都合ですけどね」

「静粛に。この話も記憶されていることも忘れるな」

 

 

 ◇

 

 

 会議が、始まる。

 

 四人の責任者と、ひとりの記録係。信頼の置ける計五人の上層部だけが、この区画に配備される。

 中央の少女の映像を囲んで、それぞれが、それぞれの席に着いた。

 

 

「コーヒーが冷める前に終わらせたいが……まあ、無理だろうな」

 

 

 卓上の胃薬を、我が物顔で引き寄せた男。

 迷宮庁危機対応局 審議官──真壁宗司(まかべ・そうじ)

 

 

「名のないものを、名のないまま帰す気はありません」

 

 

 細い眼鏡の奥から、映像の一点を射抜く女。

 国際探索者管理協会日本支部 副支部長──白峰暁子(しらみね・あきこ)

 

 

「事実のみ話していきます。解釈はそちらでどうぞ」

 

 

 乾いた声の主。

 協会監査局 主任監査官──鷺沢透子(さぎさわ・とうこ)

 

 

「まぁ、今回は事態が事態やからなぁ」

 

 

 葉巻の匂いと、踏み込みの重心を残したままの長身。

 ギルド本部 危機管理室長──神楽坂真澄(かぐらざか・ますみ)

 

 そして、末席。

 

 

「……すぅ~」

 

 

(こ、こえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 

 

 議事録端末を、命綱みたいに抱えた若い男。

 協会監査局 新任補佐官──宮田悠真(みやた・ゆうま)

 

 五人。

 たったひとりの少女のために、これだけの大人が、地下二十七階まで降ろされている。

 

 少女の映像の横に、ずらりと数字が並んだ。

 

 探索者資格、有効。

 公開ランク、未査定。

 活動登録支部、千葉支部。

 確認到達階層、千葉ダンジョン九十階。人類記録更新。

 八十階層更新、ボス個体撃破。

 九十階層、未確認竜型個体撃破。

 渋谷ダンジョンにて、C級探索者・如月ここを伴い、Sランク級未確認個体キメラを討伐。

 使用能力、分類不能。推測、ユニークスキル。

 推定戦力、S級以上。

 内部暫定評価、特級相当。

 

 

 秘匿分類──特級超過疑い。

 

 

 宮田は、その一行ずつを、几帳面に議事録へ写していく。

 

 ──こんな訳の分からない怪物が本当にいるのか? 

 ──てか、女性なの?! 階層更新もしてるし男性かと思ってた……

 ──え! この人ランク登録してないんだ。しかもSランク以上の強さ持ってるのか。そりゃこんな場所でこんなすごい人たちが集まって会談してるんだ。

 

 宮田自身、ここに集められる前に言われたことは、『プライベートで休む連絡を部署にしなさい』と、鷺沢主任に言われただけ。

 

 鷺沢透子。

 協会監査局の主任監査官に就いている『事実確認の鬼』と呼ばれる存在。

 

『何故、このような出来の悪い資料ができるのですか? ちゃんとマニュアルが置いてあるはずでしょう』とかセンスの無さで詰められたり。

『この会議は五分前に集合させるよう、記載しておくようにと指示をしたはずです』とかちょっとしたミスで詰められたり。

『……は? 誓約書を水浸しにした? くしゃみでスキルが発動? は? ……詳しく、詳細に、説明を……いえ、簡単に説明してください。私の中の感情が爆発しないうちに』とかどえらいことをした部下が頑張って主任に説いていたりしているのを見たことがある宮田は『なんかすごい人だけど、クッソ怖い人』という印象だ。

 

 とにかく、まだ新人の宮田にとっては近しくも遠い存在だった。

 

 

「あれ……」

 

 

 写しながら、ふと、手が止まった。

 

 

「……すみません。公開ランクは未査定なのに、千葉支部には登録されてるというのは……これは、どう書けば」

「探索者資格と、ランク査定は別です」

 

 

 鷺沢透子が返す。

 

 

「千葉支部が処理したのは、活動登録とカード発行。ダンジョンに入れる人物として存在している、という事実だけです」

「ランクは」

「協会の査定。どこまで潜れるか、どの魔物を相手にできるか。裏での評価では、どれだけ社会的に危険か。その評価です」

 

 

 鷺沢の指がクロエの到達階層で止まった。

 

 

「彼女の場合、カードはある。支部登録もある。ですが──ランク査定の試験を、受けていない」

「他の人間は、例外なく受けるものだがな」

「ええ。ここにも、何か裏がありそうです」

「ありがとうございます」

 

 

 宮田は頷いて、また入力に戻ろうとした。

 

 戻れなかった。

 

 映像の中で、突進してきたキメラの巨体が、棒の一薙ぎで横へ弾かれていた。

 

 Sランク級の質量が、壁へ叩きつけられる。邪魔な段ボールを、足で押しのけたみたいに。

 段ボールにも尊厳があるなら、たぶん今のキメラよりは守られていた。

 

 

「それで……誰だ、この資料を作ったのは」

 

 

 真壁が言った。机に置いた指先が、端末の縁を一定の間隔で叩いている。

 

 

「私です」

 

 

 白峰が声を上げる。

 

 

「なら聞くが、これは報告書か。それとも新たな怪獣映画の企画書か」

「報告書です。残念ながら、上映予定はありません」

「最悪だな。企画書なら却下して終われた」

「現実は、却下しても差し戻されます」

「役所の申請書みたいなことを言うな」

「申請書なら、不備を指摘して返せます」

「こいつは」

「返送先が存在しません」

「まるで政治家やな」

 

 

 五人分の沈黙が、会議室に落ちた。

 

 

「誰か笑えや」

「室長、敬語、敬語抜けてますよ」

「失礼」

 

 

 笑っていい場面ではなかった。むしろ、笑った瞬間に、人として大事な何かを失う気がした。

 

 職業倫理とか。危機感とか。あるいは、胃壁。

 

 それは嫌だと、ここにいる全員が思っている。

 

 末席で、宮田がおそるおそる手を挙げた。

 

 

「S級と、特級相当と、特級超過疑い。正確には、何が違うんでしょうか」

「S級は、制度の最上位です」

 

 

 国際探索者管理協会日本支部副支部長、白峰暁子(しらみね・あきこ)が発言。

 

 白髪交じりの髪を後ろで束ね、細い眼鏡の奥から、映像を睨んでいる。

 

 

「人間の探索者として、どこまで強いか。その物差しの一番上です」

「では、特級は」

「制度の外側へ、片足を出した者。強さの話ではありません。その人物ひとりの判断が、都市や国家の被害に直結する段階です」

 

 

 白峰は、映像のクロエを見た。

 

 

「人の形をした核兵器。そう思えばいい」

「特級相当、というのは」

「正式認定ではありません。誰が言い始めたか分かりませんが、そう扱わなければ危険、という暫定評価です」

「では、特級超過疑い、は」

「その物差しを当てること自体が、危険だという意味です」

 

 

 白峰の声が、そこで一段、低くなった。

 

 

「曖昧な評価で人を送り出すと、帰ってこない者が出ます。私は、それを知っています。なので、このような曖昧な用語は好みませんが」

 

 

 その一言の重さに、宮田は、訂正の言葉を探せなかった。

 

 たった今打ち込んだ「特級超過疑い」の六文字をもう一度見る。

 

 誰も、白峰の言い方を訂正しなかった。

 

 

「現場からは、推定未確認Sランク級探索者、という報告です」

「甘い」

 

 

 白峰が言った。

 

 

「あれを見て、Sランク級。浅はかと言わざるを得ない。現場職員の心を守るための防寒具のような言葉。薄いですが」

「真冬に、紙袋を着るようなものか」

「まだ紙袋の方が風を防ぎます」

「では、特級か?」

「特級ならまだ管理が可能な範疇でしょうに」

「管理できるなら、今頃こんな地下で葬式の下見はしていないか」

「香典の予算申請は、ダンジョン管理部署に出しますか」

「やめろ。あの頭がパーになってる連中なら通りそうで嫌だ」

「うちの管轄にケチつけんといてください。あれでもまだマシな部類なんですわ」

「ギルド内部は地獄か」

 

 

 真壁が、端末を操作した。

 

 クロエという名前の横に、黒い欄がいくつも並ぶ。

 

 姓なし。

 戸籍、国籍、ともに確認中。

 前歴なし。犯罪歴なし。医療履歴なし。学歴なし。

 通信契約履歴なし。銀行口座なし。交通履歴なし。

 探索者登録以前の生活記録、ほぼなし。

 

 

「カオナシかいなこの子。生活の痕跡が一個も残ってへんやんか」

 

 

 神楽坂が、低く呟いた。

 

 年齢は二十六。会議室の面子の中では、頭ひとつ若い。

 だが、誰も彼女を若造扱いしなかった。

 できなかった、という方が近い。

 

 百八十センチを超える長身。動きやすさだけを優先したスーツ。鋭い目つき。指先に、葉巻の淡い匂い。指先には、会議室に入る前まで紫煙と戯れていた名残が、薄くまとわりついていた。

 

 立っているだけなのに、その重心は、いつでも反撃できる一歩を踏み込める位置にある。

 元Sランク探索者。しかも、魔法スキルを一つも持たないままの、S到達だった。

 属性も、遠距離も、派手な切り札もない。

 

 

 あるのは、その強靭で美しい脚技のみ。

 

 踏み込み、蹴り、足払い。その一点を異常な才能で磨き上げ、わずか二年で人類最高ランクへ駆け上がった、正真正銘の怪物。

 

 探索者だった頃の彼女は、いつも、誰より速く現場へ着いた。

 

 誰より多く、誰より速く、魔物を蹴り殺す。それも、被害を最小に抑えたまま。

 

 崩れかけた階層で、逃げ遅れた探索者を担ぎ。

 巻き込まれた一般人を、自分が蹴り開けた退路から逃がす。

 

 

 大阪南部ダンジョン配信事故。誰もが二桁の死者を覚悟した、あの崩落。

 

 あの日の神楽坂は、現場に間に合わなかった。だから、配信映像とコメントの時差だけを頼りに、声で指示を飛ばし続けた。そして、死者数をゼロで止めた。

 

 現場に立てば、誰よりも速く殺して、救う。

 立てなければ、声だけで救い切る。

 

 立てば戦場の芍薬、座れば評議の牡丹、歩く姿は百合の刃。

 

 長い脚が一歩進むたび、人々が讃えて勝手に道を空ける。

 

 

 神楽坂真澄とは、そういう女だった。

 

 

 管理職の椅子に座った今も、その重心だけは、抜けていない。

 

 若い女だからと舐められ、関西の支部上がりと笑われ、それでも結果だけで上の連中を黙らせ、危機管理室長まで上り詰めた。

 

 宮田も、名前だけは知っていた。

 

 切り抜きでは、「ギルドの姐御」「葉巻の女室長」「関西の鬼女」。女性職員と女性探索者のあいだに、非公式のファンクラブがあるという噂まである。

 

 本人は、それを知っている。止めてはいない。

 仕事の邪魔にならなければ、注目も人気も使う。それが、神楽坂真澄という女だった。

 

 

「顔はあります。かなり整っています」

「鷺沢さん、いま欲しいんは戸籍の話です。顔面偏差値の照合ちゃいます」

「失礼しました。記録上の特徴確認です」

「特徴確認にしては、声がちょっと前のめりでしたね」

「神楽坂室長ほどではありません」

「こっちに流れ弾飛ばすなや」

 

 

 真壁が、ゆっくりと神楽坂を見た。

 

 

「君も反応したのか」

「してません。危険対象として見ただけです」

「いま、危険対象、という言葉にだいぶ私情が混ざっていたぞ」

「混ざってません。たまたま顔がええだけです」

「自白では?」

「ホンマ黙っといてくれへんかなこの事実女」

「議事録に残すなよ、宮田くん」

 

 

 宮田の指が、端末の上で止まった。

 残していいのか。悪いのか。

 地下二十七階は、判断に困る情報が多すぎる。

 

 

「残しません」

「賢い。君は伸びるで」

「新人を妙な方向へ伸ばすな」

 

 

 鷺沢は、あくまで冷静な顔で端末を操作した。

 

 映像を拡大。

 

 顔。

 目元。

 全身。

 

 ……もう一度、目元。

 

 指先の動きに迷いはない。本人としては、完全に業務の一環なのだろう。実際、クロエという対象の顔貌情報を確認すること自体は、個人識別の観点から見れば不自然ではない。

 

 不自然なのは、会議室の空気だった。

 

 映像の中のクロエが、眠たげに片目を細める。

 

 他人を見下そうとしているわけではない。

 

 威圧しているわけでもない。

 

 ただ見ているだけ。

 

 なのに、その目はどこか、世界を一段下に置いていた。

 

 身長百四十八センチ。

 

 本来なら、見下ろされる側の数字ではない。

 

 けれど映像の中の少女は、立っているだけで周囲の人間に勝手な低さを思い出させる。本人に自覚はない。無意識。だからこそ質が悪い。

 

 神楽坂の視線が、一拍だけ早く動いた。

 

 鷺沢は、それに気づいていた。

 白峰も、たぶん気づいていた。

 真壁は、気づいたうえで、面倒なので気づかなかったことにした。

 宮田だけが、まだ何も気づいていない。

 

 

「……対象の視線には、明確な威圧意思が確認できません」

 

 

 鷺沢が言った。

 

 

「ただ、視線を受けた側が心理的圧迫を覚える可能性は高い。個人識別資料として、目元の拡大画像を保存します」

「保存名は業務用にしといてくださいね」

「当然です」

「ちなみに今、何て入れたんです?」

「対象クロエ、顔貌資料、目元一」

「まともやった。疑ってすみません」

「神楽坂室長と同じにしないでください」

「なんでうちが今、刺されたんですかね」

 

 

 神楽坂が軽く肩をすくめる。

 

 その仕草が妙に様になっているせいで、宮田は一瞬、切り抜き動画のサムネイルを思い出した。

 会議室で上役にツッコミを入れる長身の女室長。関西の女傑とも呼ばれ、一般人や他の探索者にも一目置かれる存在。

 

 人気が出る理由は、少し分かる。

 怖いけど。

 

 

「全身映像も確認します」

 

 

 鷺沢が画面を切り替えた。

 小柄な体。細い肩。華奢な腰。

 身長に見合わないほど、すらりと伸びた脚と胸部。

 映像が止まる。

 止まった瞬間、神楽坂の口元が、わずかに引き結ばれた。

 

 

「……神楽坂室長」

「何ですか」

「呼吸が止まっています」

「止まってへん」

「止まっていました」

「業務上必要な確認です」

「その言い訳は、先ほど売り切れました」

「鷺沢さん、淡々と人の逃げ道を潰すんやめてもらえます?」

 

 

 真壁が胃薬の瓶を見た。

 白峰は何も言わない。

 たぶん、何か言うと自分も巻き込まれると判断したのだ。

 

 

「対象の体格は、戦闘記録と一致しません」

 

 

 鷺沢は平然と続けた。

 

 

「この身体でSランク級個体を弾き飛ばしている以上、身体強化、武器強化、あるいは未知の能力が介在していると見るべきです」

「そうですね。危険対象として注視する必要があります」

 

 

 そしてまた鷺沢の操作によるクロエの身体的観察が始まる。

 ぶかぶかの上着。小柄な身体に見合わぬ三大サイズ。たまに見せるあくびをする表情。

 

 ぐへへ。

 

 

「……ぁ。んんっ……私はあくまで資料上の特徴を確認しているだけです」

「まだ何も言っていない」

「念のためです」

「自白早いな。あと本音漏れとるで変態」

 

 

 鷺沢は無言で画面を切り替える。

 今度は、全身映像。

 小柄な体。細い肩。華奢な腰。

 

 だらしなく肩からずり落ちかけた上着。その隙間から覗く鎖骨の線。身長に見合わないほどすらりと伸びた脚。

 

 鷺沢は、映像を止めた。

 

 止めた。

 少し戻した。

 また止めた。

 

 こんなのが、配信に流されているのか。破廉恥だ。まだナイトの時間ではないのだぞ。またルーティンの見直しをしなければならないじゃないか。

 

 鷺沢は少し咳払いをする。

 

 

「……解析のためです」

「だから、まだ何も言っていない」

「やっぱコイツあかんって」

 

 

 真壁が、さらに疲れた声で返す。

 

 

「対象は無意識に他者を下に見るような目をしています。心理分析上、重要です」

「今、少し声が弾んだな」

「気のせいです」

「では、全身映像を脚のラインが分かる角度で固定している理由は」

「身体バランスの確認です」

「身長百四十八センチの対象に対して、脚部比率の分析がそんなに必要か」

「必要です。あの身長でこの脚の長さは異常です。長いです。綺麗です。エロいです。小柄な体格でありながら、重心の置き方と脚線の伸び方が戦闘記録とまったく噛み合っていません。これは非常に重要な観察点です」

「途中監査官としてあるまじき言動あったけど??」

「最後の方だけ急に報告書な感じに戻ったな」

「最初から報告書です」

「なら、その保存フォルダ名の『見下し目・脚線美』は何だ」

「……仮称です」

「業務に性癖を持ち込むな」

「対象が業務妨害レベルで刺さる造形をしているのが悪いのでは?」

「責任転嫁の勢いが強いな。あと暴論が過ぎる。君、そんな人格だったか?」

 

 

 そこで、ずっと黙っていた神楽坂真澄が、深くため息を吐いた。

 彼女はこめかみを押さえたまま、低い声で言う。

 

 

「……あとでな」

 

 

 鷺沢の指が止まる。

 真壁も止まる。

 

 

「……あと、ついでに腹部と脇辺りも確認しといて。あのぶかぶかの服の隙間から見えるライン、戦闘中の体幹制御を見る上で、業務上めちゃくちゃ重要やから」

「了解ですっ」

 

 

 鷺沢が小さい声で答えた。

 さっきまでの冷静な敬語ではなかった。

 語尾に、明らかに業務ではないものが混ざっていた。

 真壁は、ゆっくりと神楽坂を見た。

 

 キリキリ。イガイタイヨォ!! 

 

 それから、卓上の胃薬の瓶を見た。

 少し迷って、瓶に手を伸ばす。

 

 

「……やはり君もそっち側か」

「業務上必要な確認です」

「その言い訳は、たった今売り切れた」

「現場上がりの目線です。机上の分析とは違います」

「もっともらしい顔で言うな。君の目線は今、完全に現場ではなく趣味へ出動していた」

「失礼ですね。休日出勤です。うちは危険対象を総合的に見てるだけです」

「その総合に腹部と脇が含まれる理由を、国会答弁で説明できるか?」

「できます」

「できるのか……」

「できますけど、たぶんギルドの品位とか株は暴落すんちゃいます?」

「終わっているではないか」

 

 

 瓶の蓋が、乾いた音を立てて開いた。

 宮田は議事録端末を抱えたまま、しばらく固まっていた。

 

 この人たちは、全員、本当に上層部の人間なのだろうか。

 いや、上層部なのは間違いない。肩書きも、判断力も、発言の重みも、この地下二十七階に座るだけのものがある。

 

 あるのだが。

 あるはずなのだが。

 さすがに、この部分を議事録にどう残せばいいのかだけは、まだ分からなかった。  

 

 

「宮田くん」

「は、はい」

「今のくだりは」

「残しません」

「賢い。君は伸びるで」

「だから新人を妙な方向へ伸ばすな……!」

 

 

 真壁は胃薬を一粒、口に放り込んだ。

 噛まずに飲み込む。

 それから、何事もなかったような顔で端末へ視線を戻した。

 

 

 ◇

 

 

「話を戻すが……調査は、どうなっている」

「人間は、どこかに痕跡を残します」

 

 

 宮田が先ほどの言動で、印象が180度変化した上司、鷺沢が言った。

 

 

「学校。病院。銀行。通信契約。交通系履歴。監視カメラ。戸籍。住民登録。あるいは、裏社会の帳簿」

 

 

 端末の黒い欄に、追加される。

 

 白札市場、該当なし。

 黒市人材記録、該当なし。

 灰市装備契約、該当なし。

 違法研究施設照合、該当なし。

 海外協会秘匿リスト、該当なし。

 

 

 ここで、宮田の指が、止まった。

 議事録の入力欄に、打ちかけた一文が、途中で止まっている。

 

 

「……差し出がましいのですが。戸籍も、口座も、通信契約もない人間というのは。本当に、ありえるんでしょうか」

「ありえない」

 

 

 真壁が、即答した。

 

 

「だから、こうして責任者で信頼ある全員が地下二十七階に集められている。人間、生きていればどこかに痕跡を残す」

 

 

 真壁の声が、低くなる。

 

 

「残していないなら──生きてこなかったか、消されたか、最初からいなかったか。まぁ、どれもまともな話ではない」

 

 

 宮田は、画面に、視線を戻せなくなった。

 

 

「表にも裏にも、足跡がない。おかげで情報部の何人かが自分の端末を疑い始めました。幻影を相手していると言っていました」

「端末が、正常なら」

「対象が、異常です」

「端末が、異常なら」

「その方がまだ救いがあります。というか情報部がそれを願っています」

「機械の故障であってほしいと願う日が来るとはな。人類も末期だな」

 

 

 白峰が、机の上で指を組んだ。

 

 

「裏社会の可能性は、捨てられません」

「これだけ照合しても、か」

「裏社会が律儀に全件をデータ化しているなら、私たちは、もう少し楽な仕事をしています」

「連中が確定申告してくれたら、国も潤うんだがな」

「しているところは、ありますよ。表の会社を経由して」

「聞かなかったことにする。クソッタレが」

「賢明です」

 

 

 会議室の中央で、クロエが、あくびをしている。

 

 映像越しでも、分かる。

 

 自分がどれだけの会議を発生させ、どれだけの大人の胃を削っているか。この少女は、たぶん理解していない。

 

 あるいは、理解しても、興味がない。

 

 

「問題は、もう一つあります」

「まだあるのか……もう腹いっぱいだ」

 

 

 映像が、切り替わった。

 

 今度は、白い少女だった。

 

 灰青の瞳。整った顔立ち。白い髪。

 画面の横に、簡潔なプロフィールが並ぶ。

 

 如月ここ。

 C級探索者。千葉拠点。孤児院出身。

 登録者、百四十万人。

 

 宮田は、その数字を見て、少しだけ指を止めた。

 

 C級としては、多い。

 多い、というより、おかしい。

 

 強すぎるわけではない。弱い、と切り捨てるほどでもない。けれど探索者としての格より先に、名前と顔だけが、勝手に世間を歩き回っている。そんな印象を抱く。

 

 

「登録者百四十万……C級で、ですか」

「せや。数字だけ見たら、もう普通のC級では済まん」

 

 

 神楽坂真澄が、低く言った。

 

 その声には、現場を知る人間の重さがあった。

 

 

「強さやない。見てる人間の数や。そこ間違えたら終わり。特に今の配信時代やったらなおさらやな」

 

 

 続いて表示されたのは、ユニークスキルの項目だった。

 

『拒絶』。

 他者からの回復、補助、干渉を弾く体質。

 

 名前だけなら、便利な防御能力に見える。

 

 だが、現実はそこまで都合よくできていない。

 

 回復を弾く。

 補助を弾く。

 敵の干渉を弾く代わりに、味方の支援も弾いてしまう。

 

 盾であると同時に、穴でもある。

 

 パーティを組むには、あまりにも扱いづらいスキルだった。

 

 

「だから、彼女はソロだったのですか」

 

 

 宮田が尋ねると、鷺沢透子が端末から目を離さずに答えた。

 

 

「大きな理由の一つです。本人の性格や活動方針もありますが、支援を受けられない探索者は、連携の前提が崩れます」

「なるほど……」

「なるほど、で済むなら現場は楽でしょうね」

「すみません」

「謝る必要はありません」

 

 

 近接戦闘を得意とする剣士。

 

 配信者としては、人気者。

 探索者としては、連携の取りづらいユニークスキル持ち。

 

 それが、クロエと接触する前の、如月ここに対する大まかな評価だった。

 

 画面が、さらに切り替わる。

 

 千葉ダンジョン六十一階層。

 

 転移トラップ。

 単独落下。

 装備破損。

 重度出血。

 

 羅列された文字は短い。

 

 短いからこそ、余計に乾いて見えた。

 

 

「救助が遅れれば、死亡処理されていた案件です」

 

 

 鷺沢が言った。

 その言い方は淡々としていたが、内容は少しも軽くない。

 宮田は、画面の中の白い少女を見た。

 

 人気配信者。

 C級探索者。

 孤児院出身。

 百四十万人に見られている少女。

 

 その肩書きの全部が、六十一階層の暗がりでは、ほとんど役に立たなかったのだろう。

 

 そこへ現れたのが、クロエだった。

 

 如月ここは救出された。

 

 その後、病院で数日も経たずに致命傷から回復している。

 

 自然治癒ではない。

 通常の治癒魔法でもない。

 本来、『拒絶』を持つ彼女には、他者からの治癒など通らないはずだった。

 

 けれど、傷は塞がっていた。

 

 塞がってしまっていた。

 

 理由はいまだ不明。

 

 

「……クロエの能力が、『拒絶』を抜けた?」

 

 

 真壁宗司が、低く呟く。

 

 白峰暁子は、すぐには答えなかった。

 

 

「抜けたのか。通ったのか。あるいは、如月ここ本人のスキルが、それを拒絶と認識しなかったのか。そこは、まだ断定できません」

「断定できないことばかりだな」

「断定できるなら、この階まで降りていません」

「実に正しい。胃に悪いほど正しい」

 

 

 真壁は、卓上の胃薬を見た。

 

 まだ手は伸ばさなかった。

 

 宮田は議事録端末に、慎重に文字を打ち込む。

 

 如月ここの『拒絶』を、クロエ由来の何らかの力が突破、あるいは例外的に通過した可能性あり。

 

 そこまで入力して、彼は一度、指を止めた。

 

 突破。

 通過。

 例外。

 

 どの言葉を使っても、まだ少し違う気がした。

 

 結局、宮田は一文字ずつ消し、こう書き直した。

 

 詳細不明。

 

 それが一番、正確だった。

 

 

「なぜ対象クロエは、その如月ここに関わっている」

 

 

 真壁が目を細める。誰もすぐには答えなかった。

 端末の中で、ここが白咲を抱えている。クロエが、隣にいる。距離は、近い。

 だが、それだけだった。それ以上を言い切るには、材料が足りない。

 

 

「救助が、きっかけではあります」

 

 

 鷺沢が言った。

 

 

「千葉ダンジョン六十一階層で重傷を負い、クロエが救助。退院後、如月ここがクロエに接触。渋谷ダンジョンで、長期パーティを申請」

「恋愛か」

「分かりません」

「恩義か」

「分かりません」

「利用か」

「分かりません」

「分かることは」

「如月ここが、人気の配信者であること。ユニークスキル持ちであること。クロエと、行動を共にしていること」

「それだけか」

「それだけです」

「調査部は何をしとる」

「罵詈雑言、苦言、クレーム、絶叫、発狂、暴走、以上です」

「なるほど、地獄か……私から痛み止めを送っておこう」

「どこの地獄パラードやねん」

 

 

 真壁が、背もたれに体を預けた。

 

 

「クロエが、如月ここに執着している可能性は」

「確認できません」

「配信映像では」

「距離は近いですね。名前を呼んだり、武器を譲渡したり。長期パーティも、すぐに組んでいます。ただ──対象の通常行動基準が、不明です」

「つまり」

「異常かどうかを判定するための、正常値がありません」

「なにが地雷なのか、分からない、と」

 

 

 映像が、再生される。

 

 渋谷ダンジョン。クロエが白咲を渡し、如月ここが刀を抜く。キメラの装甲が断たれ、コメント欄が荒れる。

 

 その後、対象が、発言した。

 

 

『お前、今日から俺の家に住め』

 

 

「これは、どう解釈する」

「同居の、提案です」

「見れば分かる」

「『お前が欲しいから一緒に住もう』と、告白をしています」

「ちゃうちゃうちゃう。急に言い方が恋愛脳なんやめて??」

「それ以上は、分かりません」

「……保護か」

「不明」

「監視か」

「不明」

「拉致か」

「本人が拒否している様子は、確認できません」

「なら、合意か」

「如月ここ側の判断能力が正常だったかは、配信映像からは、判断困難です」

「恋愛感情で、判断力が死んでいる可能性は」

「議事録に、残しますね」

「なんで確定してるの。残すな。だが、否定も駄目だ。また叩かれる」

「この前の生配信で、Sランクがブチ切れて乗り込んできて、大荒れしましたからね。正直、ざまぁwww、と思って見ていました」

「お前どっち側なん? 監査官が一番楽しそうなんどないなっとんねん」

 

 

 神楽坂が、深く息を吐いた。

 

 

「今のここちゃんは、クロエに一番近い観測点です。強さやなく、距離と注目度の問題です」

「なら、ついでに調べるしかないな」

「ついで、で済むなら助かります」

「済ませろ。正式任務にすると、書類が増える」

「人類の未来より、書類ですか」

「役所では、書類がなければ人類も救えん」

 

 

 神楽坂が、低く笑った。

 

 

「その書類が、現場の人間が死んでから届くのが問題なん、忘れてもろたらあかんで、真壁さん」

 

 

 真壁は、何も言い返さなかった。

 それを、神楽坂は否定とは取らなかった。

 

 その時、黒い資料が一つ開かれた。

 

 画面に、羊の角を模した紋章が表示される。

 

 黒羊会。

 

 その名前が出た瞬間、誰かの椅子が、小さく軋んだ。

 

 さっきまでの皮肉が、薄皮みたいに、剥がれていく。

 

 

「黒羊会」

 

 

 白峰が言った。

 

 

「裏社会において、現在もっとも危険な組織のひとつです」

「ひとつ、で済ませるのか」

 

 

 真壁が、鼻で笑う。

 

 

「随分と上品な紹介だな。香典返しでも送るつもりか」

「公式文書ですので」

「非公式なら」

「最恐の組織」

 

 

 短い言葉だった。誰も、否定しない。

 

 末席で、宮田がおずおずと口を開いた。

 

 

「あの……記録のために。協会と、迷宮庁と、ギルド。普段は別々ですよね。なぜ、この三つが、同じ部屋に」

「協会はダンジョンと探索者を、迷宮庁は国と都市を、ギルドは現場を見る」

 

 

 鷺沢が、淡々と答えた。

 

 

「普段は、交わらない。三つが、こんな地下まで一緒に降りるのは──一つの組織では抱えきれない案件の時だけだ」

 

 

 宮田は、顔を上げて、机を囲む大人たちを見回した。

 

 誰ひとり、その言葉を、否定しなかった。

 

 今、自分が立ち会っているものの大きさを、宮田は、ようやく肌で理解しはじめた。

 

 

「表向きは、探索者支援財団。孤児院支援、装備支援、治療費補助、遺族支援。看板だけ見れば、ただの善良な組織です」

「看板が綺麗な店ほど、裏口の排水溝が詰まっている」

「詩的な感じでええね」

「昔、監査に入った企業で学んだ」

「嫌な人生経験やった」

 

 

 資料が、切り替わる。黒羊会の幹部リスト。会長。副会長。三将会。

 

 

「会長、鴉羽玄理。戦闘記録は不足していますが、推定戦力はSランク以上」

 

 

 映像に、黒いスーツの男。細い目。穏やかな笑み。

 

 

「副会長、柊木冴。元Aランク探索者。表舞台からは退いていますが、戦闘能力は健在と推定」

 

 

 次に、白手袋の女。無表情。見ているだけで、背筋を紙で薄く切られるようだった。

 

 

「三将会と呼ばれる三名は、全員がAランク相当。純粋な戦闘能力だけで、地方支部一つなら、正面から潰せます」

「地方支部の職員が聞いたら、泣くぞ」

「四国ギルドは、泣く暇も、なかったようです」

 

 

 その言葉に、真壁の指が、一度だけ止まった。

 

 数年前。四国ギルドと黒羊会は、全面衝突した。公式には、大規模な摘発作戦。

 

 非公式には──戦争だった。そして黒羊会が、勝った。

 

 

「ギルド側は多数の負傷者を出し、幹部数名が、円満離職」

「円満離職、という表現は便利だな」

「死亡、再起不能、失踪、精神崩壊、他には……」

「やめろやめろ、具体性ださんでええて」

 

 

 神楽坂は、笑わなかった。

 ギルドの人間にとって、四国で起きた事件は笑える単語ではない。

 

 

「黒羊会は、ただの人材ブローカーやありません。武力もある。資金もある。政治との接点もある」

 

 

 神楽坂の指が、端末の上で止まった。

 

 

「そんで──表のアレと勝った経験がある。裏社会の中でも、別格です」

「そんな連中が、如月ここやクロエに興味を持つ可能性は」

「あります」

「理由は」

「クロエ本人は、まず無理やと判断しとるでしょうね。戦力差がありすぎる。会長がSランク以上でも、対象クロエとの戦闘は避けたいやろうし」

「黒羊会でも、手が出せないと」

「正面からは。あの組織は危険ですけど、自殺志願者の集まりやありません」

「では、何を狙う」

「周辺です」

 

 

 鷺沢が、白髪の少女の映像へ、切り替えた。如月ここ。

 

 

「クロエに触れられないなら、近くの人間を探す。言い分などはいくらでもあります。治療研究、支援制度、配信案件」

「如月ここを媒介にする、ということか」

「可能性のひとつです」

「クロエを釣る、餌にする気か」

「言葉は選ぶべきです」

「選んだ結果だ」

「では否定はしません」

「確証は」

「ありません」

「またそれか」

「本日、三度目です」

「記念品でも出すか」

「胃薬でいいでしょう」

「冗談だ」

「こちらは、本気です」

「この人ら毎回漫才しとるやん……E1グランプリで優勝する気かいな」

 

 

 白峰が、さらに別の資料を開いた。政府系財団の、名前。

 灰冠財団。

 

 表向きは、探索者遺族支援、孤児支援、治療研究支援を掲げる、半公的財団。

 

 

「黒羊会と灰冠財団の間で、近年共同事業が増えています」

「やめろ。その名前をこの部屋で出すと、壁に耳が生える」

「この部屋の壁には、最初から耳があります。それも優秀な」

「……『道化師』か。嫌な安心感だ」

「噂も、あります」

「聞きたくない」

「では、聞いてください」

「お前は、部下に嫌われるタイプだ」

「よく、言われます」

 

 

(主任、自覚あるんだ……)

 

 

 白峰は、表情を変えなかった。

 

 

「黒羊会と灰冠財団が、共同で進めているとされる計画。名称は──進化計画」

 

 

 その単語が、会議室の真ん中に落ちた。誰かの喉が、鳴る。

 

 真壁の指先が、止まった。

 

 

「真偽は」

「不明です」

「内容は」

「適性者の能力開発。ユニークスキルの成長誘導。高魔力量者の人工強化。何かしらの汚染耐性の獲得。資料によって、記述はばらばらです」

「陰謀論で済むなら、なぜここに上がっている」

「消された書き込みが、多すぎます」

「……なるほど。陰謀論なら、笑える。現実なら、大笑いだ」

「ええ。最悪です」

 

 

 神楽坂が、低い声で言った。

 

 

「黒羊会の戦力。灰冠財団の資金と制度。そこに、進化計画なんて噂が絡む。もし真実なら──一組織の不正では済みません」

「国会案件か」

「表に、出れば」

「出なければ」

「地下二十七階の案件やね」

「今日の会議室は満員だな。次は相席か? 角打ちでもよさそうだな」

「棺桶なら詰められますが?」

「ブラックジョークが上達してきたな」

「この仕事してると、笑えない冗談だけ増えるんですわ」

 

 

 その時、会議室の扉が、軽く叩かれた。

 

 

 こん。こんこん。こん。

 

 

 妙に、間延びした音だった。

 

 進化計画という単語が落ちて、部屋がいちばん重く沈んだ、その瞬間に。

 まるで、場違いな密度のものが、外で順番を待っていたみたいに。

 

 出席者の何人かが、眉をひそめ、「はぁ」と息を吐く。神楽坂に関してはこめかみを抑えて頭痛を抑える。

 

 白峰が、端末に視線を落とした。

 

 

「……入室を、許可します」

 

「はぁい。お呼ばれされて参上☆ 笑顔と混乱の宅配便のぉ~? 

 

 

 魔法少女・橘シオンでぇす☆」

 

 

 扉が、開いた。

 

 入ってきた瞬間、部屋の重さが、少しだけ、噛み合わなくなった。

 

 道化師がかぶるような、先の垂れた三角帽。縁では、髑髏の飾りとトランプの札が、ちゃらちゃらと鳴る。

 年は、二十歳ほど。腰まで届く長い髪は、暗い紫。前髪の隙間から覗く瞳も、同じ紫だ。

 眠そうでも鋭くもなく、ただこちらの出方を、面白がるような目。

 黒を基調にしたゴシック調の上衣。紫と黒の菱形が並ぶ、長い靴下。片手には、髑髏を象った杖。

 

 全身が、紫と黒と、毒のような色で塗り固められている。

 

 その只中で、胸元のバッジだけが、場違いに光っていた。探索者支援組合──ギルド直属、上位調査官の、証。

 

 過去の経験から人としての感情を、これでもかと削られても、笑わずに座っている大人たちの中で。

 

 ただひとり、この道化だけが、別の生き物みたいに笑っていた。

 

 

「いやぁ。重い顔がいっぱい。地下二十七階で、お葬式の予行練習かな? ボクも黒い服に着替えてくるべきだった?」

「シオン」

「はいはい。冗談は三割まで。残り七割は、真心でできています」

「借りモンの真心は捨てて座り。あとその綺麗な足で安易に死亡フラグ踏みに行くな。この後大乱闘起きても知らんぞ」

「ひどい。脚は褒めてくれないの?」

「褒めたら、その脚で帰ってこんようになるやろ。座れ」

「室長ってば、やっぱ好きだなぁ、ボクのこと」

「す、わ、れ!」

「はぁい。室長、今日もツッコミが早い」

「ツッコミ役を一人に背負わせんな労災やボケ」

「室長シワ増えた? ダメだよケア怠っちゃ!」

「おっけ了解やまずは私とタイマンはろっちゅうわけか? お??」

「あはは、2割冗談や~ん☆ あんまカッカしたらあかんで~☆」

「ほんまコイツどつきまわしたろかこのボケナス?! 下手な関西弁で煽ってんちゃうぞ!?」

「落ち着いてください室長。しわはヒアルロンとボトックスで治せます」

「変態はどこ気にしてんねん!?」

「……心外です」

 

 

 シオンは帽子を胸に当て、くるりと一回転してから、椅子に座った。

 

 背もたれに体を預ける。けれど、目だけは、中央の映像から離れない。

 

 クロエ。黒に赤。眠たげな目。人類記録をたった一人で踏み越えた規格外の少女。

 

 

「早速だが」

 

 

 真壁が、端末から視線を上げた。

 

 

「どうせ、扉の向こうで聞いていたんだろう」

「やだなぁ。人聞きが悪い。ボクはただ、扉の外で寂しく待っていただけだよ? 中から重たい会話と、胃薬の匂いが、漏れてきただけで」

「盗み聞きを、情緒たっぷりに言うな。ただの不審者や」

「じゃあ重たい会話と胃薬の匂いが、漏れてくるのを、扉の外で楽しんでました☆」

「もっと悪化してもうてる」

「実物を見たのか。対象クロエを」

 

 

 シオンは、帽子のつばを、指で撫でた。

 

 

「一度だけ。千葉支部から出てくるところを見たよ」

「印象は」

 

 

「ありゃ、特級案件だね」

 

 

 即答だった。会議室の何人かが、座り直す音を立てる。

 

 シオンは、笑っている。けれど、その目は映像から離れていない。

 

 

「小さくて、可愛くて、眠そうで、つまんなそう。実物だけ見れば、本当にただの華奢な女の子。筋肉らしい筋肉もない。あの身体だけなら、たぶん、小枝みたいにあっさり折れる」

 

 

 声の芯だけが、ふざけていなかった。

 

 

「なのに、抱えてる魔力が大海原そのもの。あんなもの特級以外で感じたことないレベル。肌で感じるだけでも頂点クラス。しかも、その魔力をほとんど使ってない。映像を見た限りではね。派手な魔法もなし。術式を組んでる様子もなし。魔力操作だけ取り出せば──正直、ちょっとお粗末かな。少なくとも、綺麗に術式を編んで撃つタイプじゃない」

「続けろ」

「あれだけの魔力を抱えて、魔法に使わないなら、行き先はどこか別にある。ボクの予想はひとつ。全部、あの小さな可愛らしい身体にぶち込んでる。あの折れそうな身体を、無理やり戦える形に作り替えてるんだよ。……で、ここが本題ね」

 

 

 シオンは、指を一本、立てた。

 

 

「身体を強化するだけなら、Sでも特級でも、できる奴はできる。珍しくもない。けど、それを常時やってる奴は見たことがない。普通は燃費が保たないんだ。必要なときに点けて、終わったら消す。それが当たり前」

「あれは、消してないと?」

「消してる素振りすらない。寝起きみたいな顔で、ずっと点けっぱなし。なのに、魔力の底が見えない。笑っちゃうよね」

 

 

 シオンは、端末のクロエを見た。棒きれ一本で、Sランク級を弾き飛ばす少女。

 

 

「戦闘は映像でしか見てないけど、近接はトップレベル。中距離もトップレベル。武器の扱いは、その辺の達人が裸足で逃げ出す。棒、短剣、刀、たぶん他も全部いける。握った瞬間に、その武器の正解を、最初から知ってる動きだった」

「武器自体は」

「それも変なんだよね。何かしらのスキルが乗ってる。出したり消したりしてるのもそう。でも、問題はそこじゃない。刃も棒も、ただの物体のはずなのに──振った一瞬だけ、別物に化けて見えるんだ」

 

 

 シオンは、肩をすくめた。

 

 

「強化。付与。生成。収納。あるいは、その全部いっぺん。映像越しなら、候補はいくらでも挙げられる。……でも、正直に言うと、ボクにも何をやってるのか分からない。本人を目の前で見たらわかると思って、見に行ったんだけどね。結構、屈辱だったよ」

「君でも、か」

「ボクでもだね。ああいう“分類できないもの”はあまり関わり合いにはならないほうがいいんだけどね」

 

 

 軽く言って、シオンは目を細めた。

 

 

「近接、中距離、武器適性、身体強化、魔力量。このすべてがSランク以上の領域になってる。摩訶不思議ちゃんだよ」

 

 シオンは、映像の中のクロエを見たまま、軽く肩をすくめた。

 

 声はいつもの調子だ。

 軽い。ふざけている。人を食ったような道化の声音。

 

 けれど、目だけは笑っていなかった。

 

 神楽坂真澄が、ふと、口を挟んだ。

 

 

「うちと比べたらどうなる? シオン」

 

 

 軽い口調だった。

 

 だが、問いの底には、元Sランク探索者としての実感があった。

 

 魔法スキルなし。

 足技だけで前衛を張り、二年でSランクまで駆け上がった女。

 

 現代関西区域で最強の怪物と呼ばれた神楽坂真澄が、自分を物差しにして、映像の少女を測ろうとしていた。

 

 シオンは、間も置かずに答えた。

 

 

「断然、クロエちゃんだねぇ」

 

 

 即答だった。

 

 会議室の空気が、一拍だけ止まる。

 

 シオンは、笑う。

 

 笑ったまま、続けた。

 

 

「しかも、室長が逆立ちしても、ダメージひとつ負わせられないレベルの差。悪いけど、勝負にすらならないよ」

 

 

 神楽坂は、ゆっくりと両手を上げた。

 降参。

 そう見える仕草だった。

 

 

「はっ。そらええわ」

 

 

 吐き捨てるみたいに、笑う。

 

 その笑いには、恐怖より先に、妙な納得が混ざっていた。

 

 

 ──あかん。

 ──脳の芯が、勝手に沸く。

 

 

 魔法も切り札もなしで、二年でSまで駆け上がった。

 

 前衛で魔物を蹴り潰し、救助対象を担いで戻り、現場で誰にも負けた覚えはなかった。

 

 神楽坂真澄は、クロエのような戦闘狂ではない。

 

 命のやり取りそのものに酔うほど、壊れてはいない。戦場を恋人みたいに抱きしめる趣味もない。少なくとも本人は、そう思っている。

 

 けれど、一般人よりは、少しだけ戦いが好きだった。

 

 正確に言えば、戦いの中で、自分の身体が昨日より速く動く瞬間が好きだった。届かなかった間合いに足が入る瞬間。折れたと思った限界の向こうで、もう一歩だけ踏み込める瞬間。できなかったことが、できるようになる瞬間。

 

 それを知ってしまった人間だった。

 

 だから、強者を見る目だけはごまかせない。

 

 そのうちが、逆立ちしても、ダメージひとつ負わせられない。

 

 そんな化け物、生まれて初めて見た。

 

 一生かけても、追いつけるか分からない背中。

 

 規格外の強さ。

 

 危険対象としての異常性。

 

 そして、黒に赤の差した髪。眠たげな目元。百四十八センチの小柄な身体に詰め込まれた、あまりにも刺さる造形。

 

 

 ──強くて。

 ──可愛くて。

 ──見た目の性癖ドストライクで。

 ──最高やんけ。

 

 

 神楽坂真澄は、内心で完全に盛り上がっていた。

 

 もちろん、顔には出さない。

 

 出してはいけない。

 

 ここは地下二十七階。特級、秘匿分類、都市災害、裏社会が絡む時だけ開く、最悪の会議室である。

 

 危険対象の強さと顔に脳を焼かれている場合ではない。

 

 ないのだが。

 

 映像の中のクロエが、眠たげに片目を細める。

 

 神楽坂は、葉巻の匂いが残る指で口元を隠した。

 

 隠しきれてはいなかった。

 

 

「室長。今、ちょっと嬉しそうだった?」

「気のせいや」

 

 

 シオンが、にやにやと目を細める。

 

 

「へぇ。気のせいねぇ」

「次いくで」

「はぁい。怖い怖い」

「お前の報告書、六倍にするで」

「パワハラだぁ」

「業務上必要な確認や」

「まぁ、簡単に言うと人間の皮をかぶったバケモンだよ、あれは。ただ……」

 

 

 言葉が、止まった。帽子の縁を撫でる指が、一度だけ、止まる。

 けれど、シオンはすぐに、笑みを深くした。

 

 

「いや、なんでもない」

「続けろ」

「やーだ。任務前に余計なことを言うと、だいたい死亡フラグになるって、相場が決まってる」

「君は、ギルド直属の上位調査官だろう」

「死亡フラグに、階級章は効かないよ」

 

 

 神楽坂が、端末を操作した。シオンの前に、任務書が表示される。

 

 

「『道化師』シオン。ギルドより、任務を命じます」

「はぁい。道化師、拝命します」

「対象クロエの出自確認。裏社会、海外勢力、違法研究施設、企業保有戦力との関連を調査」

「了解。クロエちゃんの婚活だね!!」

「ざけんな」

「今のは、会議室の空気を柔らかくするための、奉仕活動です」

「効果は」

「しっぱ~い」

「死ね。次いくで。加えて、如月ここの調査。クロエがなんで彼女と行動しとるんか、現時点では不明や」

「ついでに、白い子も見るってことね」

「ついでで構へん。ただし、軽視はせんこと。さらに──黒羊会の動向調査」

 

 

 シオンの笑みが、少しだけ、細くなった。

 

 

「うわ。最恐の羊さんまで出るのぉ?」

「黒羊会と灰冠財団の接点。可能なら、進化計画の噂も調べてください」

「可能なら、ね」

「無理に踏み込む必要は、ありません」

「そういう言い方すると、踏み込めって意味に、聞こえるんだけど」

「無理に踏み込む必要は、ありません」

「二回言った。ますます怪しい」

 

 

 真壁が、口を開く。

 

 

「補足する。黒羊会会長、鴉羽玄理との直接接触は、避けろ。会長は、Sランク以上と見るべきだ」

「四国に勝った怪物集団だもんねぇ。聞いてるだけで、胃が踊り出しそう」

「君に胃があるなら、大事にしろ」

 

 

 白峰が言った。

 

 

「もう一つ。クロエとの敵対は、禁止。挑発も、拘束案の提示も、禁止。戦闘になった場合は──即時撤退」

「無理難題が、多いなぁ。ボクのこと、何だと思ってるの」

「道化師」

「正解。じゃあ、仕方ないか」

 

 

 シオンは、任務書に指を置いた。承認。薄い音が鳴る。

 

 その瞬間、会議室の扉のロックが解除された。任務を受けた者だけが外へ出られる仕組みだ。

 

 シオンは立ち上がり、帽子をかぶる。斜めに傾け、舞台袖へ向かう役者みたいに笑った。

 

 

「確認しておくけど。もし、進化計画が、本当にあったら」

 

 

 真壁が、黙った。白峰も、答えない。

 

 神楽坂だけが、端末から視線を上げた。

 

 

「生きて帰ってきぃ」

「おや。優しい」

「死なれると、報告書が増える。あと、氷室が奇声をあげながら私のとこ来る。ㇺっちゃ嫌や」

「台無しだよ」

「台無しでええ。生きて戻れ」

 

 

 軽い笑いを残して、シオンは、部屋を出ていった。

 その笑いは、軽すぎて、床に落ちる前に、消えた。

 

 

 扉が閉まり、ロックの掛かる音が、低く響く。

 末席で、宮田が、おそるおそる手を挙げた。

 

 

「……なぜ、あの方が、調査役に選ばれたんでしょうか。あれだけの危険を、一人で」

「あれの『道化』は、嘘を嘘で塗り固める仕事に向いてるからな」

 

 

 神楽坂が、端末を閉じながら言った。さっきまでの軽さは、もうなかった。

 

 

「それに──言い方は最悪ですけど。万一、戻ってこなくても、組織の損失が、いちばん小さい」

 

 

 宮田の指が、議事録の上で、止まった。

 

 たった今、けらけら笑って出ていった、あの背中を思い出す。

 

 もう、画面に、視線を戻せなかった。

 

 

 その様子を、神楽坂が、横目で見ていた。

 

 

「……宮田くん。その顔、覚えとき」

 

 

 彼女の声は、低かった。

 

 

「机の上で人を駒に変える瞬間を、平気な顔で見れるようになったら、終わりや。うちらはそこだけは、まだ人間でいたいんや。……上の連中と違ってな」

 

 

 最後のひと言だけ、誰に向けたものか、はっきりしなかった。

 たぶん、この場にいない、もっと上の誰かに向けたものだった。

 

 

 ◇

 

 

 地下二十七階から地上へ向かうエレベーターの中で、シオンはひとりだった。

 

 壁の鏡に、自分の顔が映っている。

 

 にこにこ。よくできた、笑顔。

 

 頬の角度も、目尻の曲げ方も、唇の開き方も、完璧だ。番組用の顔。汚れ仕事用の顔。新人を励ます顔。上を煙に巻く顔。

 

 どれも、便利。だが、どれも、本物ではない。

 

 鏡の中のシオンが、こちらを見て、笑っている。シオンは、その顔へ指で小さく銃を作った。

 

 

「ばぁん」

 

 

 鏡の中の道化師は、撃たれても、笑っていた。

 

 箱が、上昇する。階数表示が、一つずつ変わる。地下二十六階。地下二十五階。地下二十四階。

 

 

「クロエ、ね」

 

 

 名前を、口の中で転がす。

 

 あの日、千葉支部から出てくるクロエを、一度だけ見た。小さくて、細くて、同性の目で見ても、純粋に可愛いと思ってしまう容姿だった。

 買ったばかりらしい服の裾を気にして、ほんの少しだけ、足を止めていた。その仕草だけなら、ただの女の子だ。

 

 シオンの疑問は、尽きない。

 

 戦い方。魔力の反応。武器の扱い。魔物を前にした時の、あの退屈そうな目。

 

 あれほどのものを持っているのに、本人は、退屈そうにしている。

 

 気になることは、いくつもある。いくつも。

 

 けれど今、全部を言葉にする気には、ならなかった。

 

 特級案件。人間の皮をかぶった、バケモン。それで十分だ。少なくとも、あの場の大人たちの胃を痛めるには。

 

 

 ただ。

 

 

 それとは別に、もう一つだけ、説明のつかないものが、残っていた。

 

 千葉支部から出てくるクロエを見た、あの一瞬。シオンの足は、ほんの半歩、勝手に止まりかけた。

 

 危険だと分かっている相手に。特級案件だと、ほとんど確信した相手に。

 

 胸の奥で、何かが、引っかかった。

 

 親近感。

 

 

「……ただ」

 

 

 声が、小さく落ちた。鏡の中のシオンが、まだ笑っている。

 

 いつもの顔。いつもの道化。いつもの、誰か。

 

 

「私と似ている、なんて思っちゃったのは──失礼、だったかな」

 

 

 返事は、ない。鏡の中の道化師は、その答えを、持っていない。

 

 エレベーターが、地上へ近づく。光が、隙間から差し込む。シオンは帽子を深くかぶり直した。

 

 次に鏡を見た時、そこにいたのはいつもの顔だった。

 

 

「ま、なにはともあれ──幕開けだ」

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