ダンジョンにはTSがつきもの 〜TS転生した怪物は自分への愛が強すぎる〜   作:炭水化物は飲み物

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道化は白い子の中で笑う

 “One face, one voice, one habit, and two persons.”

 

 一つの顔、一つの声、一つの装い。

 けれど、そこにいるのは二人。

 

 ──William Shakespeare, Twelfth Night

 

 

 ◇

 

 

 目が覚めた。

 

 天井は白い。寝具はやわらかい。部屋の空調は勝手に動いていて、俺が何もしなくても勝手に空気を整えている。

 

 この世界の住居は、やたらと世話焼きな印象がある。

 

 俺はしばらくベッドの上でぼんやりしてから、起き上がった。髪が肩に落ちる。黒に赤の混じった長い髪が、視界の端で少し跳ねていた。

 

 ……腹減った。

 

 そう思って寝室を出る。

 

 リビングのソファに、白いぬいぐるみがあった。

 

 丸い耳。短い手足。ふわふわした白い胴体。黒い硝子玉みたいな目が二つ、こちらを向いている。妙に可愛らしい。

 

 俺の趣味ではある。

 

 だが、買った覚えはない。

 

 アイツの私物か。

 

 俺は首を傾げて、そのぬいぐるみに近づいた。指先で耳をつまむ。やわらかい。持ち上げると、思ったより重かった。

 

 

「…………」

 

 

 俺はぬいぐるみを見下ろした。

 

 白いぬいぐるみは、何も言わない。ただ丸い目でこちらを見ている。

 

 なるほど。

 

 寝込みにやられたか。少しだけ業腹だ。

 

 俺は息を吐いた。

 

 

「クロエさん?」

 

 

 背後から声がした。

 

 振り返ると、ここが立っていた。

 

 白い髪。灰青の瞳。俺より高い背。まだ少し寝起きの名残を残した、やわらかい顔。

 

 いつものエプロンをつけて、手にはヘアブラシを持っている。

 

 

「おはようございます。髪、跳ねてますよ」

「ん」

「座ってください。朝食、もう少しでできますから」

 

 

 ここは自然に笑った。

 

 声も、顔も、動作も、昨日までとほとんど同じ。肩にかかる白い髪の流れも、俺を見る時の目の角度も、歩き方も、台所へ戻る時の足音も。

 

 全部、よくできていた。

 

 俺はぬいぐるみをソファに戻して、椅子に座った。

 

 ここは背後に回ると、俺の髪にブラシを入れた。毛先を引っかけないよう、ゆっくりと梳いていく。手つきは丁寧だった。

 

 昨日も、一昨日も、たしかこんな感じだった。

 

 ただ。

 

 指が震えていない。

 

 俺の髪を触っているのに、呼吸も乱れない。耳も赤くならない。背後で妙な独り言を漏らすこともない。

 

 手際がいい。

 

 

「今日は落ち着いてるな」

「え?」

「いや」

「そうですか? 慣れてきたのかもしれません」

「ふぅん?」

 

 

 ここは軽く笑って、髪を結い直した。

 

 それから俺の着替えを持ってきた。白いシャツと、黒い上着。昨日買ったばかりの服だった気がする。

 

 俺は着替えようとして、ボタンに少し手間取った。

 

 ここが、すっと手を伸ばしてくる。

 

 

「手伝いますね」

「ん」

 

 

 指先がボタンを留めていく。襟が直される。袖口が引かれる。髪が服の中に入らないよう、そっと外へ逃がされる。

 

 ここは顔を赤くしなかった。

 

 視線も泳がない。

 

 ただ当たり前みたいに、俺の服を整えた。

 

 まあ、そういう日もあるのかもしれない。

 

 

「できました」

「ごはん」

「はい。今、持ってきます」

 

 

 台所から出汁の匂いがした。

 

 味噌汁。焼き魚。卵焼き。小松菜のおひたし。納豆。ひじき。牛乳。

 

 いつものように、カルシウムが多い。

 

 俺の身長を何とかしようという意図が、今日も食卓の上で整列している。気にしてるのを気づかれているのは癪に障るけど。

 

 

「いただきます」

「ん」

 

 

 箸を取る。

 

 卵焼きを食べた。

 

 味は、昨日と同じだった。

 

 甘さも、出汁の強さも、しらすの量も。魚の焼き加減も、味噌汁の濃さも。ほとんど同じ。

 

 完璧に近い。

 

 

「どうですか?」

「昨日と同じくらいうまい」

「よかったです」

 

 

 ここは嬉しそうに笑った。

 

 綺麗に笑った。

 

 箸を持つ手が止まらない。膝が揺れない。口元を押さえて、妙な声を飲み込むこともない。

 

 俺は味噌汁を飲んだ。

 

 うまい。

 

 ……それはそれとして、少し違うが。

 

 朝食が終わると、ここは食器を片づけた。

 

 洗い物の音が台所から聞こえる。水の音。皿が重なる音。布巾で水気を拭き取る音。

 

 それも手際がいい。

 

 俺はソファに転がっていた白いぬいぐるみを拾い上げた。丸い腹を指で押す。柔らかい。

 

 ぬいぐるみは何も言わない。

 

 普通は喋らないもんか、そういえば。

 

 

「クロエさん」

 

 

 洗い物を終えたここが、台所から顔を出した。

 

 

「今日、一緒に買い物行きませんか」

「買い物?」

「はい。クロエさんの服も、生活用品も、まだまだ足りないものがありますし。あと、気になってたスイーツのお店もあって……」

「スイーツ」

「はい」

 

 

 少し考える。

 

 面倒ではある。

 

 だが、甘いものは悪くない。

 

 どうせ向こうから来たんだ。何が目的か、遊んでやりながら見るのも悪くない。

 

 それに。

 

 

「ん」

 

 

 俺は頷いた。

 

 

「行く」

 

 

 ここは嬉しそうに微笑んだ。

 

 綺麗に。

 

 あまりにも、綺麗に。

 

 

 

 

 

 玄関で待っていると、ここが支度を終えて出てきた。

 

 白いワンピースに薄い上着。髪は横でゆるく結んでいる。いつもより少しだけ外行きの顔をしていた。

 

 俺は白いぬいぐるみだけを片手で抱えていた。

 

 ここが首を傾げる。

 

 

「なんでぬいぐるみを……?」

「その方が俺が可愛くなるから。常識だぞ」

 

 

 俺はぬいぐるみを胸に抱き寄せた。

 

 ぎゅう、と押しつける。

 

 ふわふわしている。悪くない。

 

 ……重いな。

 

 重量だけは一人前か。

 

 俺はぬいぐるみの頭を指で軽く撫でた。丸い耳が少し潰れる。白い胴体は何も言わない。

 

 

「あはは……」

 

 

 ここは笑った。

 

 少しだけ、笑い方が硬かった。

 

 俺は靴を履く。

 

 

「行くぞ」

「はい」

 

 

 ◇

 

 

 街は明るかった。

 

 渋谷ダンジョンの配信以降、俺とこいつは少しばかり有名になったらしい。道を歩いていると、視線がちらちら向けられる。

 

 あからさまに端末を構えるやつもいた。

 

 ここは少しだけ肩をすくめて、俺の隣に並んだ。

 

 

「すみません。たぶん、まだ切り抜きが回ってるんだと思います」

「切り抜き」

「配信の一部を短くまとめた動画です。クロエさんとわたしが、その……長期パーティとか、同居とか、色々……」

「ふぅん」

「ふぅん、じゃなくてですね……」

 

 

 ここは困ったように笑った。

 

 歩幅は俺に合わせている。

 

 だが、いつもの半歩後ろではない。今日は隣にいる。肩が触れそうな距離で、自然に歩いている。

 

 慣れたのか。

 

 それとも、慣れている風を装いたいのか。

 

 まずはスイーツの店へ行った。

 

 小さな焼き菓子の店だった。硝子ケースの中に、カヌレやタルトやマカロンが並んでいる。甘い匂いが鼻に入る。

 

 前世の、あのネオンと排気ガスに塗れた世界で、餓死を免れるためだけに喉へ流し込んでいた合成タンパク質ペーストの臭いとは比べるべくもない。あれはただの燃料だったが、目の前にあるのは本物の小麦とバターと砂糖が熱を帯びた、暴力的なまでに甘い芳香だ。

 

 段違いで美味そうな匂いだ。やはりこの世界は、食べ物の質は最高に良い。

 

 ここが楽しそうに説明する。

 

 

「ここの生カヌレ、すごく人気らしいです。外がしっかりしてて、中がとろっとしてるって」

「買う」

「即決ですね」

「甘いやつはだいたい正しい。正義だ」

「それは……分かるような、分からないような」

 

 

 生カヌレを買った。

 

 それからタルトも買った。マカロンも買った。よく分からないが、色が綺麗だったのでいくつか買った。

 

 店の外に出て、近くのベンチに座る。

 

 俺がカヌレを食べていると、ここがタルトを小さなフォークで切って、こちらへ差し出してきた。

 

 

「クロエさん、こっちも食べますか?」

「ん」

 

 

 口を開ける。

 

 ここが笑って、タルトを食べさせた。

 

 甘い。

 

 果物の酸味が少しあって、悪くない。

 

 

「うまい」

「よかったです」

 

 

 あいつは俺の口元を見た。

 

 躊躇なく指が伸びる。

 

 親指の腹が俺の下唇をぐっと押し潰すようになぞる。柔らかな皮膜が擦れた。

 

 べっとりと白く汚れた指先をあいつは楽しげに見つめる。視線がわずかに下がった。俺の胸元にいる白いぬいぐるみを覗き込むような角度だ。

 

 あいつはそのまま自身の唇を艶っぽく開く。白く汚れた親指をその赤い隙間に滑らせた。

 

 ちゅ、と湿った音が静かに響く。

 

 指先を丸ごと吸い上げるようにして舌先で綺麗にクリームを絡めとっていく。上目遣いの瞳が酷く粘り気のある光を帯びていた。

 

 

 ……ふぅん。

 

 

 ずいぶんと度胸があるな、コイツ。

 

 ここは平然としていた。

 

 顔も赤くない。目も泳がない。自分が何をしたのか、あとから理解して死にかける様子もない。

 

 俺は膝の上に置いていた白いぬいぐるみの頭を、ぽんぽんと叩き、カヌレをもう一口食べた。

 

 うまい。

 

 周囲の視線が少し増えた。

 

 何人かが端末を見て、何かを打ち込んでいる。

 

 

 “狂戦士とここちゃん、スイーツデートしてない? ”

 “恋人距離なんだが”

 “ここちゃん大胆になった? ”

 “百合提督、出航準備”

 “いや距離近すぎだろ”

 “カヌレ持ってるクロエちゃん可愛い”

 “ぬいぐるみ抱えてるの何? 可愛いの暴力? ”

 

 

 端末の通知が、ここ側に何度か入っていた。

 

 ここはそれを軽く見て、苦笑する。

 

 

「ちょっと話題になってるみたいです」

「そうか」

「気になりませんか?」

「カヌレの方が気になる」

「ふふ、クロエさんらしいです」

 

 

 ここは笑う。

 

 俺は白いぬいぐるみを膝に乗せたまま、二つ目のカヌレを食べた。

 

 うまい。

 

 

 ◇

 

 

 次に服の店へ行った。

 

 探索者向けの服飾店らしい。丈夫で、動きやすくて、見た目も良いものを扱っている。そういう説明を、ここが店員みたいにしてくれた。

 

 俺は並んでいる服を眺めた。

 

 黒いのが多い。白いのもある。赤が入っている服もあった。

 

 

「これ、クロエさんに似合うと思います」

 

 

 ここが持ってきたのは、黒地に赤い刺繍の入った上着だった。

 

 

「悪くない」

「試着してみます?」

「ん」

 

 

 試着室に入る。

 

 中は狭い。鏡がある。照明が白い。外の音が少し遠くなる。

 

 俺が服を脱ごうとすると、ここも当然のように中へ入ってきた。

 

 

「手伝いますね」

「ん」

 

 

 上着を脱がされる。

 

 シャツのボタンが、上から順に、指先で器用に外されていく。薄い布地が左右に割れるたび、狭い室内に生肌の熱がこもるのが分かった。

 

 肩から滑り落ちた布が、床へと静かに堆積する。

 

 鏡の中に、下着姿の俺と、俺の服を持ったここが映った。

 

 ここは赤くならなかった。

 

 俺の、この前世の水準すら遥かに超えた美少女の肉体を前にして、一枚きりの薄布に包まれた胸元の膨らみや、括れた腰の線を見つめながらも、その瞳はひどく静謐だった。

 

 目を逸らさなかった。

 

 鼻血も出さなかった。

 

 ただ丁寧に服を畳み、新しい上着を広げた。

 

 

「腕、通してください」

「ん」

 

 

 袖を通す。

 

 ここが背中側へ回り、布の位置を整えた。

 

 ちり、と肌が爆ぜるような錯覚。ここがわざと爪の先を立てるようにして、俺の背割れ、肩甲骨の溝をなぞりながら指を滑らせていく。腰の布を引く手つきは、まるで自分の所有物の輪郭を確かめるかのように、肉に深く食い込んでいた。

 

 前へ戻ってきて、胸元の留め具に手がかけられる。

 

 手が近い。

 

 息も近い。

 

 ここが鼻腔から抜く吐息が、俺の鎖骨の窪みに溜まっていく。

 

 白いぬいぐるみは、試着室の隅に置いてあった。

 

 こっちを見ている。

 

 ここは、一度そのぬいぐるみに明確な視線を向けた。

 

 それから、おもむろに俺の背中に自身の胸をぴったりと押し当て、耳元へ唇を寄せる。

 

 

「クロエさん、ここ、少し乱れてます」

 

 

 声が近い。

 

 熱い唇が、ほとんど俺の耳たぶに触れていた。

 

 這い上がってきた指が、首筋から鎖骨、そして下着のレースの境界へと滑り込む。布を整えるための動作にしては、あまりにも粘質で、ゆっくりだった。指腹がデリケートな肌の上を、わざと摩擦を強めるようにして愛撫気味になぞっていく。前の俺ならビクついていたが、今、強化された俺の肉体では感度は上がらない。

 

 俺は鏡を見ている。

 

 鏡の中で、ここが艶やかに微笑んでいる。

 

 その愉悦に歪んだ瞳が、俺ではなく、試着室の隅で震えているぬいぐるみへとはっきりと向けられた。見せつけるように、俺の胸元の留め具を直す指先に力がこもる。

 

 なるほど。

 

 性格が悪い。

 

 俺は何も言わなかった。

 

 

「どうですか?」

「動きやすい」

「似合ってます。すごく」

「そうか」

「はい」

 

 

 ここは綺麗に笑う。

 

 その後、自分の服も選んだ。

 

 なぜか同じ試着室で、そのまま着替え始めた。

 

 目の前で、白い服がするりと滑り落ちる。露出した少女の柔肌が、至近距離で眩しく揺れた。下着姿になっても、こちらを気にした様子は薄い。それどころか、狭い室内でわざと俺の正面に立ち、その瑞々しい身体を誇示するようにして別の服を身につけ始める。

 

 身体が近い。

 

 密着した皮膚同士が擦れ合い、布が触れ、互いの髪が絡まる。あいつの細い指先が、何かの拍子を装って、俺の太ももや二の腕を、ねっとりと愛撫するように軽く撫で上げていった。

 

 立ち上る甘い体温が、試着室の空気を白く濁らせていく。

 

 俺は鏡を見ていた。

 

 鏡の中のここは、よくできている。

 

 よくできすぎている。

 

 

「クロエさん?」

「いや」

「変ですか?」

「服は悪くない」

「服は、なんですね」

 

 

 ここは少しだけ拗ねたように、上目遣いで俺の顔を覗き込んできた。その湿った瞳は、本物のそれよりも、ずっと男の情欲を誘うプロの形をしていた。

 

 その言い方も似ていた。

 

 俺は鏡から目を外した。

 

 

 ◇

 

 

 イヤリングも買った。

 

 ここが選んだのは、小さな紫の石がついたものだった。

 

 白でも、赤でもない。

 

 

 深い紫。

 

 

 俺の髪の赤とは少し違う。こいつの白髪とも合わない。けれど、光に透かすと妙に綺麗だった。

 

 

「これ、どうですか?」

「紫か」

「はい。少し大人っぽくて、クロエさんに似合うと思います」

 

 

 ここは俺の耳にイヤリングをつけた。

 

 指先が耳朶に触れる。少し冷たい。

 

 それから、自分にも同じものをつける。

 

 鏡の中で、俺とここが並んだ。

 

 紫の石が、二つ揺れている。

 

 

「お揃いですね」

 

 

 ここはそう言って、試着室の隅にいる白いぬいぐるみへ視線を向けた。

 

 見せつけるように、ほんの少しだけ首を傾ける。

 

 紫の石が揺れた。

 

 

「悪くない」

「よかったです」

 

 

 ここは満足そうに笑った。

 

 その笑みもまた、綺麗だった。

 

 その後、街を歩いた。

 

 手を繋がれた。

 

 普通の繋ぎ方ではない。指と指を絡めるやつだった。恋人繋ぎ、とかいう名前だった気がする。

 

 ここは俺の手を自然に握った。

 

 身体を寄せてくる。

 

 肩が触れる。腕が触れる。歩くたび、白い髪が俺の頬に少し掠めた。

 

 街のざわめきが遠くなる。

 

 視線が増える。

 

 端末を向けられる。

 

 

 “恋人繋ぎ確認”

 “嘘だろここちゃん”

 “狂戦士がぬいぐるみ抱えて恋人繋ぎしてるの情報量多すぎ”

 “尊い”

 “いやここちゃん大胆すぎない? ”

 “前までのここちゃんどこ行った”

 〈百合提督〉:“本艦、現在砲撃不能。尊死による一時航行不能”

 “提督ぅぅぅぅ!! ”

 “ぬいぐるみになりたい”

 “それはそう”

 

 

 ここは端末を見て、少し困ったように笑う。

 

 

「また、切り抜かれそうですね」

「好きにさせとけ」

「いいんですか?」

「見られて困ることしてるのか」

「えっ」

 

 

 ここが一瞬、固まった。

 

 

「そ、それは……その……」

 

 

 少しだけ頬を赤くする。

 

 ……遅いな。

 

 俺は何も言わず、手を繋がれたまま歩いた。

 

 

 ◇

 

 

 気づけば、広場に着いていた。

 

 恋人が多い場所らしい。

 

 噴水がある。ベンチがある。花壇がある。石畳が夕方の光を受けて、薄く金色に光っている。

 

 周囲には何組もの男女や女同士や男同士がいた。

 

 手を繋いでいる。肩を寄せている。写真を撮っている。噴水の前で笑っている。

 

 そういう場所に見えた。

 

 だが、音が軽い。

 

 人の足音が、石に沈まない。笑い声が壁に当たって返ってこない。噴水の水音だけが妙にはっきりしている。

 

 ずいぶん手が込んでいる。

 

 ここまで来る間にも、何度か道を選ばされていた。看板。人の流れ。店先の声。偶然見つけたはずの路地。

 

 全部、少しずつこちらを押していた。

 

 まあ、いい。

 

 買い物は、それなりに楽しかった。

 

 

「クロエさん」

 

 

 ここが言う。

 

 

「少し、座りませんか」

「ん」

 

 

 ベンチに座る。

 

 白いぬいぐるみを膝に置く。ここが隣に座る。肩が触れるくらい近い。

 

 偽物の恋人たちが、広場をゆっくり歩いている。

 

 噴水の音がする。

 

 

「二人っきり、ですね」

 

 

 ここが呟いた。

 

 

「そうか?」

「はい」

 

 

 ここは俺の肩に寄り添った。

 

 重さがかかる。

 

 白い髪が腕に触れる。

 

 

「クロエさん……」

 

 

 声が近い。

 

 ここが顔を上げる。

 

 目が合った。

 

 灰青の瞳。白い睫毛。柔らかく赤くなった唇。少しだけ湿った呼吸。

 

 ゆっくりと、顔が近づいてくる。

 

 唇が近い。

 

 あと少しで触れる。

 

 

「で」

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前、誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 広場の音が消えた。

 

 いや、最初からそんなものはなかったのかもしれない。

 

 俺は目の前の女を見た。

 

 さっきまで買い物をしていた相手ではない。

 

 スイーツを食べさせてきた相手でもない。俺の服を選んだ相手でもない。恋人繋ぎをして、街中を歩いた相手でもない。

 

 ただの、偽物だ。

 

 ここは目を見開いた。

 

 唇がわずかに震える。

 

 

「どうしたんですか、クロエさん」

 

 

 声は震えていた。

 

 本当に傷ついたような声だった。何を言われたのか分からず、不安で、怖くて、今にも泣きそうな声。

 

 上手い。

 

 だが、遅い。

 

 

「お前は知らないだろうが」

 

 

 俺は膝の上のぬいぐるみを片手で抱え直した。

 

 

「俺とアイツには、標がある」

「標……?」

「目印だ。居場所も、感情の揺れも、身体の状態も分かる。頑張れば、今どこで何をしてるのか、だいたい追える」

 

 

 俺は目の前のここを見る。

 

 

「お前には、それがない」

 

 

 ここの表情が、ほんのわずかに止まった。

 

 

「それだけじゃない」

 

 

 俺は指を折る。

 

 

「アイツは、俺の着替えや洗濯物を触る時、気味が悪いくらい挙動がおかしくなる。お前にはそれがなかった」

「……」

「食べあいっこも、試着室で一緒に着替えるのも、アイツには無理だろ」

 

 

 少し考える。

 

 

「ちょっと自分のよだれ舐め取られただけで興奮するような変態に、そんな度胸ねぇよ」

「ひどい言い方ですね」

「事実だろ」

 

 

 気づけば、ここは数歩ぶん後ろに立っていた。

 

 いつ離れたのか。普通の場所なら、誰かが目を剥いただろう。

 

 だが、この広場には誰もいない。

 

 いるように見せられているだけだ。

 

 

「最後に」

 

 

 俺は笑った。

 

 

「そういう系統は、前の連中で死ぬほど見て飽きてんだ」

 

 

 ここの顔をした女が、沈黙した。

 

 笑みだけが残る。

 

 

「別に、買い物が楽しくなかったら適当に路地裏で()()()()()()と思ったが」

 

 

 俺は白いぬいぐるみを抱えたまま、ベンチに背を預けた。

 

 

「案外楽しかったから今回は見逃してやる」

 

 

 面倒だ。

 

 話が長い。

 

 

「さっさと用件言って失せろ、()()

 

 

 沈黙。

 

 それから、ここが笑った。

 

 

 

 

「ン〜」

 

 

 

 

 声が変わる。

 

 白い髪が、紫へほどけていく。

 

 

「さすがに特級クラスになると、効かないもんなんだねぇ」

 

 

 小柄な身体が、すらりと伸びる。

 

 灰青の瞳が、濃い紫へ沈む。

 

 

「意外とショック〜」

 

 

 華奢な輪郭が溶ける。

 

 白い少女はそこにいなくなった。

 

 代わりに立っていたのは、背の高い女だった。

 

 暗い紫の髪。紫の瞳。百八十を超える長身。黒と紫を基調にした、道化師じみたゴシック調の衣装。豊かな胸元と細い腰、長い脚。

 

 胸元には、探索者協会の上位調査官バッジが光っている。

 

 女は優雅に片手を広げた。

 

 

「改めまして。ボクは橘シオン。Aランク探索者にして、協会上位調査官。通称──」

「それより」

 

 

 俺は遮った。

 

 

「コイツもさっさと戻せ」

 

 

 右手に抱えていた白いぬいぐるみを掲げる。

 

 シオンは、にへらと笑った。

 

 

「やっぱ、ばれるよねぇ」

「いいから戻せ」

「はいはい。怖い怖い。言っとくけど、その子の身体には指一本触れてないよ? ボクの“舞台裏”で、お留守番してもらってただけだから」

 

 

 シオンが指を鳴らした。

 

 白いぬいぐるみの縫い目が、すっとほどける。

 

 白い布が幕みたいに広がって、内側から白い髪がこぼれた。布地が落ちきる前に、腕の中の重さが変わる。

 

 次の瞬間。

 

 本物のここが、俺の腕の中にいた。

 

 お姫様抱っこの形だった。

 

 白い髪が俺の腕に落ちている。顔は下を向いていて、前髪で目元が隠れていた。

 

 ここは、何も言わなかった。

 

 数秒だけ沈黙してから、異様に落ち着いた声で言う。

 

 

「少し、おろしてください」

「ん」

 

 

 俺はここを地面へ下ろした。

 

 ここはゆっくりと立つ。

 

 乱れた服を整える。白い髪を手櫛で直す。肩についた埃を払うように、手で何度か叩く。

 

 それから、ふぅ、と息を吐いた。

 

 前髪で目元は見えない。

 

 シオンが片手をひらひら振る。

 

 

「ハロー? 脳みそ壊れちゃったぁ〜?」

 

 

 ここは返事をしない。

 前髪の奥で、灰青の瞳だけが細く沈んでいた。

 

 

「あれれ〜? もしかして怒っちゃったの?」

 

 

 シオンはくねくねと身体を揺らした。

 

 長い紫の髪が肩を滑り、豊かな胸元がわざとらしく強調される。本人はおどけているつもりなのだろうが、その目だけは、相手の傷口を正確に探していた。

 

「ずっとぬいぐるみの中で、大好きなクロエちゃんが私に甘やかされてるの、指くわえて見てるしかあ・り・ま・せ・んでしたぁ♡」

「……」

「悔しいねぇ。お留守番もまともにできない、よわよわのCランクちゃん!」

 

 

 ぎち。

 

 

「だってさぁ、君がぬいぐるみになってぎゅーってされてる間、私ぃ、クロエちゃんと試着室の密室でいーっぱい、い・い・こ・と、しちゃったんだよねぇ♡」

 

 

 シオンは自分の唇に指を添えた。

 それから、ぬいぐるみだったここが見ていた場所を思い出すように、わざとらしく目を細める。

 

 

「君の顔した私とのデート、ずぅぅぅっと楽しそうだったよ?」

「……」

「あ、クロエちゃんの口元についたやつ、すっごく甘くて美味しかったなぁ♡」

 

 

 ぎちち。

 

 

「君が一生かかってもできなさそうな大胆なこと、ぜーんぶ一日で頂いちゃってごめんね☆」

「……」

「好きな人の『初めて』をぜんぶ私に奪われちゃって、今どんな気持ちぃ? ねぇねぇ、今どんな気持ちぃ? ♡」

 

 

 シオンは人差し指を顎に当てた。

 小首を傾げる。

 声が、ねっとりと甘くなる。

 

 

「ねぇねぇ、なんならさぁ……クロエちゃんの『初めて』……ぜーんぶ、もーらっちゃおっかなぁ??」

「……」

「あ、ごめーん! もしかして、もう色々ともらっちゃってた☆」

 

 

 シオンは、ニヤニヤと下品に笑った。

 わざとらしく肩をすくめる。

 

 

「あ、でもぉ~、同棲してるし、そりゃもう色々とヤっちゃってる感じだよね。さすがにね??」

 

 

 ここは動かない。

 

 ただ、鞘を握る指だけが、ぴくりと跳ねた。

 シオンはそれを見逃さなかった。

 宝石でも覗き込むみたいに、嬉しそうに眺める。

 

 

「あ……もしかして」

 

 

 シオンの目が、ゆっくりと細まった。

 

 

「ヤってない?」

 

 

 沈黙。

 シオンは一拍置いてから、唇の端を吊り上げた。

 

 

「あれだけ配信とかで好き好きオーラ出しといて、同棲もしといて、ヤることやってないんだぁ。この調子じゃ、一緒にお風呂とかも……あちゃ〜、あれだね」

 

 

 顔を近づける。

 これ以上ないくらい小馬鹿にした笑顔で、ここを覗き込む。

 

 

 

「ヘタレだねぇ♡」

 

 

 

 ここは、まだ動かない。

 けれど白咲の鞘が、ぎち、と鳴った。

 シオンの表情が、そこで一気に冷えた。

 さっきまでのふざけた甘さが消える。

 

 代わりに、相手の痛いところを見つけた者だけが浮かべる、冷たい愉悦が唇に残った。

 

 

「しかもさぁ、決定的なこと教えてあげる」

 

 

 シオンは、一歩だけここへ近づいた。

 

 耳元へ囁くように、声を落とす。

 

 

「クロエちゃんってば、最初から私が偽物だって気・づ・い・て・た・のに、ずぅぅぅっと黙って私とのデートを楽しんでたんだよ?」

「……」

「わかる? 君がどんなに『わたしのクロエ!』って思ってても、クロエちゃんにとっては、君も私もただの『おもちゃ』でしかないんだよね」

 

 

 ここは動かない。

 

 ただ、鞘を握る左手だけが、ぎりぎりと音を立てていた。

 

 シオンは人差し指を口元に当てる。

 

 てへっ、と首を傾げ、舌を出した。

 

 

本物()のくせに置いてけぼりにされちゃうなんて、ざぁ〜こ♡」

「……」

「悔しかったらさぁ、その安っぽいおもちゃ、私に届かせてみなよぉ?」

 

 

 空気が、裂けた。

 

 

 

 

 

「──ぶっ殺す」

 

 

 

 

 

 声は、低かった。

 

 氷みたいに平らで、硝子みたいに硬かった。

 

 次の瞬間、白咲が抜かれた。

 

 白い鞘から刃が走る。ここが左斜めに振り抜く。刀身に乗った魔力が、抜刀の一閃で跳ね上がった。

 

 白い線が、幾筋も尾を引いて飛ぶ。

 

 

「うぇ?!」

 

 

 レモン? 

 

 

 シオンの声が裏返った。

 

 紫の女の身体が、ふっとずれる。斬撃が頬の横を抜け、髪の端を数本散らし、背後の偽の噴水を裂いた。

 

 噴水が崩れる。

 

 水音が消える。

 

 広場の恋人たちが、薄い紙みたいに剥がれ落ちていく。

 

 そこは、ただの公園だった。

 

 誰もいない。

 

 壊れかけた遊具と、古いベンチと、夕暮れの空だけがある。

 

 

「わ、私のクロエに……」

 

 

 ここが呟いた。

 

 刀を持つ手が震えている。

 

 白指が激しく、細かく柄を締め上げ、痙攣するように軋んでいた。

 

 脳の奥が、どろどろと沸騰している。

 

 あの店の甘い匂いも。

 試着室の白い光も。

 自分の顔をした偽物が、クロエさんの下唇を押し潰し、肌をねっとりとなぞり、その耳元に吐息を吹きかけていた光景が、網膜の裏にべったりと張り付いて離れない。

 

 自分ですら、まだ。

 

 自分の知らないクロエさんの顔を。声を。肌の熱を。

 あいつが、全部、目の前で貪っていた。

 

 白い布切れの中で、ただ指をくわえて見ていることしかできなかった無力さと、抉り取られるような痛みが、ドス黒い凶暴な熱になって喉元までせり上がる。

 

 そして何より、クロエさんは最初から気づいていた。

 偽物だと分かっていながら、あの指先を、あの密室の蹂躙を、面白そうに受け入れていた。

 その事実が、胸の奥にある初恋の聖域を、どうしようもなく歪に激昂させる。

 

 ヘタレ。

 

 そう嗤ったクソピエロの頭を、今すぐ叩き斬って細切れにしてやりたかった。

 

 ぎち、ぎち、ぎち。

 

 白咲の鞘が、指の肉を割らんばかりの握力で悲鳴を上げる。

 

 前髪の隙間から覗く灰青の瞳が、完全に光を失い、どす黒い深淵のように沈んでいた。

 

 

「何してくれてんだクソピエロぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 ここが踏み込む。

 

 音が遅れた。

 

 白咲の切っ先がシオンの喉元へ走る。シオンは笑いながら身を反らし、紙一重で避けた。避けた先に、二つ目の斬撃が置かれている。

 

 

「ちょ、待っ、思ったより速いねぇ?!」

「クロエを触ったその部位を削る! 死ね!!」

「言葉が強い! あとボク、クロエちゃんと敵対するなとは言われたけど、君とは言われてないから、これセーフだからね?!」

「何がセーフだ死ねッ!!」

 

 

 シオンが笑う。

 

 その姿が二つにずれる。三つに増える。位置が曖昧になる。右にいるはずの身体が左へ滑り、左に見えた笑みが背後から聞こえる。

 

 道化。

 

 顔を変え、場所を変え、距離を誤魔化す。

 

 ここは構わず斬った。

 

 白い斬撃が走る。足元から魔力が跳ねる。次の一閃、次の踏み込み、次の刺突。近接と飛ぶ斬撃を交互に織り込みながら、ここはシオンを追う。

 

 シオンは紙一重で避ける。

 

 笑っている。

 

 けれど、余裕だけではない。何度か、笑みの端が引きつっている。

 

 それと、避けてばかりだ。

 

 あの道化、一度も得物を出していない。

 

 

「クロエちゃ〜ん! ちょっと助けてよ〜!」

 

 

 シオンが横っ飛びで斬撃を避けながら叫んだ。

 

 俺はベンチに座ったまま、生カヌレを食べていた。

 

 

「お前が煽るからだろ」

 

 

 ジト目で返す。

 

 シオンは一瞬だけこちらを見た。

 

 そして、ぱあっと顔を輝かせる。

 

 

「あぁん、ジト目のクロエちゃんも可愛いぃぃ!」

「~~~~っ!!」

 

 

 ここが言葉にならない声を漏らした。

 

 次の瞬間、踏み込みが変わった。

 

 速い。

 

 さっきより、明らかに速い。

 

 白咲の軌道が一段鋭くなる。飛ぶ斬撃の数も増えた。近接の一閃と遠距離の斬撃が、ほとんど同時にシオンへ重なる。

 

 

「え、ちょ、また速くなったんだけど?! ここちゃん、情緒を戦闘力に変換するタイプ?!」

「黙れクソピエロ!!」

「やだぁ、怖ぁい!」

 

 

 シオンは笑いながら避ける。

 

 けれど、もう笑う余裕を作るために身体を削っている。

 

 紫の髪が斬られた。

 

 袖が裂けた。

 

 頬に赤い線が走った。

 

 ここは止まらない。

 

 次の斬撃が、ベンチの背を裂いた。

 

 木材が縦に割れる。

 

 破片が飛ぶ。

 

 俺は左手を軽く上げた。

 

 戦気を薄く編んで、小さな盾を作る。

 

 守る範囲は狭い。

 

 俺の手元。

 

 生カヌレ。

 

 斬撃の余波が盾に当たり、ぱきん、と乾いた音を立てて逸れた。ベンチは真っ二つに割れ、背後の地面へ転がる。

 

 俺のカヌレは無事だった。

 

 

 よし。

 

 

「いやいやいや! 守る場所そこ?! ボクじゃなくて?!」

「今いいところなんだよ」

 

 

 底のカリカリした部分を噛む。

 

 香ばしい。

 

 うまい。

 

 シオンが横っ飛びで斬撃を避けながら、こっちへ叫ぶ。

 

 

「いいところって何?! ここちゃん今、明確にボクを殺しに来てるんだけど?!」

「お前のじゃねぇよ」

「カヌレの話してないよ?!」

「俺はしてる」

「私のクロエさんに話しかけんな、このデブビッチ!!」

「デブ?! 嘘でしょこの子配信で見た時とは別人過ぎない?!」

「だからお前らのじゃねぇって」

 

 

 ここがさらに踏み込む。

 

 白咲が空気を斬る。

 

 シオンが跳ぶ。

 

 幻影が裂ける。公園の古いベンチが、もう一つ吹き飛ぶ。遊具の支柱に斬撃が走り、鉄が悲鳴みたいな音を立てた。

 

 俺はカヌレをもう一口食べる。

 

 蟻とトンボが遊んでいるようなものだ。

 

 少なくとも、今のところは。

 

 なら、割って入る理由はない。

 

 ここがあんなに騒がしいのは、初めて見た。

 

 甘いものを食べながら見るには、悪くない見世物だな。

 

 

「……今度はショートケーキを買うか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ※ちなみにぬいぐるみ状態のときのここちゃんです。

 

 

 

「何これ動けない!? わたしの身体が勝手にクロエさんの髪に触れてる!? 違う違うあれはわたしじゃない偽物!! わたしはここ!! ソファの上の泥泥に溶けた綿の塊なんですけどぉぉぉ!? クロエさん気づいて!? そいつに触らないで!! わたしのクロエさんに気安く触るなアアアアア!!」

 

「家事の手際が良すぎる!? 完璧すぎるでしょ何それ!? わたしならもっと手を震わせて挙動不審の極みになってるのに!! 味まで完璧に同じ!? クロエさんがおいしいって笑った!? 嬉しい!! でもその笑顔を引き出したのは偽物!! 許さない! わたしの特権を奪うな!! 殺す、あの女絶対に細切れにして殺す!」

 

「買い物!? 置いていかないで!! 浮気は絶対にだめええええ!! あ。クロエさんがわたしを拾い上げた!? その方が俺が可愛くなるからって何その顔何そのセリフ!? 殺傷力高すぎて綿が燃える!! しかも胸元にぎゅうううって!? 思いきり抱きしめられたァァァァァ!? 押し潰される!! クロエさんの柔らかい胸!! おっぱい! あつい!! 匂いが脳髄に直接刺さってニューロンが爆発する!! 心臓の音が聞こえる!! このまま一生この腕の中で綿になって溶けて死にたい!! わたしのクロエさん!! 大好き!! 愛してる!! 一生離さない!! でもあのクソピエロはやっぱり八つ裂きにして殺す!!」

 

「な。何してるのあの泥棒猫!! 口元のクリームを指で!? クロエさんの唇を思いきり押し潰した!? あそこはまだわたしも触ったことがない聖域なのに!! それを自分の口に入れて吸った!? ちゅって音を響かせたァァァァ!? 信じられない不潔汚らわしい!! その指を今すぐ根元からへし折ってダンジョンのゴミ箱に永久廃棄してやりたい!!」

 

「こっち見た!? 偽物のくせにぬいぐるみの中のわたしを明確に見て今あざ笑ったよね!? わたしの顔を使ってそんな卑しい真似をしないで!! クロエさん受け入れないで!? されるがままになってちょっと嬉しそうに口角を上げるなアアアア!! クロエさんの唇も指先も全部わたしのもの!! わたしだけのものなのにぃぃぃぃ!!」

 

「試着室!? 狭い密室!! ぎゃあああああああボタンを外すなブラウスを剥ぎ取るなぁァァァァ!! 鏡に映るクロエさんの下着姿!? ちっちゃくて白くて世界で一番神聖で可愛い!! でもそれを見るのはわたしの役目でしょおぉが!! 指先を爪立てて背中に這わせないで!? 肩甲骨の溝をなぞるな!! 腰の肉に指を食い込ませるな!! そこは!! そこはわたしがいつか!! いつか死ぬほど徳を積んでちゃんと許可をもらってから触る場所なのにぃぃぃぃ!!」

 

「背中に胸を押し当てた!? 耳たぶに唇を寄せた!? 肌の上を直接なぞってるんだけど!? 待ってそこから先はだめええ!! 脳が爆発して死ぬ!! わたしの純情が消滅してドス黒い怨念に変わる!! またこっち見た!! 鏡の中でめちゃくちゃ嫌らしく笑ってる!! わたしの顔を使ってクロエさんを誘惑してわたしにリアルタイムマウントを取ってる!! 許さない!! 五体投地で謝っても絶対に許さない!! 四肢を切り刻んでやる!! 生皮を剥いで特級魔物の餌にしてやる!!」

 

「目の前で服を脱ぎ始めた!? 下着姿の女二人!? 狭い箱の中で身体を擦りつけて太ももを撫で回した!? ダメだクロエさんが汚される!! わたしの聖域が!! わたしの神様が!! あの女のド変態性欲で塗り潰されていく!! いあ! いあ! いあ! クロエさんはわたしの!! わたしだけのクロエさん!! キスなんてさせない!! させたらその瞬間にその口を引き裂いて魂ごと消滅させる!!」

 

 

 自分の初恋を同じ容姿の自分にNTRれるのって、中々イイよね。

R18見たい? スカは圏外

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  • あんま興味無いかも
  • どエロいの頼む
  • マニアックなのもいけるなら……
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