魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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魔槍と魔剣と聖剣と

「じゃあ、レディファーストってことでお姉さんから行かせてもらおうかな!」

 

 一番先に動きを見せたのはジャンヌだった。彼女は抜き身のレイピアでレンの頭部を狙って突き出す。対してレンは、魔槍で下からすくいあげるようにして、せりあう形をとった。腕力は性別の関係上レンの方に分があったのでそのまませりあいを制し、がら空きになったわき腹に斬戟を加えようとする。ーーが、

 

「やるやる、さすが男の子♪じゃあ、これならどうかしら!」

 

「……ッ!」

 

 下からの殺気を察知して、レンは攻撃を中断、それから即座にその場から跳び退く。レンが下がったコンマ零五秒後には複数の剣が地面から生えてきたのである。レンはその光景を見て、彼女の能力を理解することができた。ーーもっとも、それは自分の持つ『魔槍創造(スピア・バース)』に似た能力なのだから。

 

「このオーラの質……聖剣を任意に創り出す能力」

 

「初見で手の内がばれるなんてね、その通りよ。私の神 器(セイクリッド・ギア)は『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』。あなたの神器と特性は近いわね」

 

「……ッ!なぜそれを!」

 

 ジャンヌのその言葉にレンは目を見開いた。なぜ、自分の能力を見極められたのか、と言わんばかりに。レンのその様子を見て、ジークフリートは苦笑しながら口を開いた。

 

「僕達はキミと黒い兵士の戦いを見ていたから、事前に知ってたのさ。悪いね」

 

「……」

 

 レンは無言のままジークフリートの方を見る。すると、ジークフリートは思い出したかのように言葉を続けた。

 

「ああ、これだとフェアじゃないかな?なら僕の能力も見せてあげよう」

 

 そう言うと、ジークフリートの背中からメキメキと音をたてて何かが生えてくる。その何かとは三本目の腕だった。三本目の腕は鱗のようなもので覆われていて、人間の腕とは明らかに違う。

 

「僕の神 器(セイクリッド・ギア)は『龍 の 手(トゥワイス・クリティカル)』。本来なら籠手の形状なんだけれど、僕のはちょっと特別だったらしくてね」

 

 ジークフリートはペラペラと自分の能力を露にしつつ、新たに増えた腕で腰にかけてある三本目の剣を抜いた。それから、ジャンヌとジークフリートはそれぞれの位置をスイッチさせるようにして、今度はジークフリートが前に出てレンに攻めかかる。

 

「次は僕の番だ!」

 

「だったらーー」

 

 レンは持っている槍を二本とも投擲する。二本の魔槍はかなりの速度と威力を保ちながら、ジークフリートに向かって飛んでいくが、ジークフリートはいとも容易くそれらを地面に叩き落とした。

 

「この二本は囮。本命はやはり自分自身か!」

 

 レンの攻撃はまだ終わっていない。新たな槍を瞬時に創り、距離もひと跳びで自分の間合いに入っていた。レンは二発の鋭い刺突を打ち込むが、三本目の剣によってその攻撃は阻まれた。

 

「ふぅ、危ない危ない」

 

 そして、逆に体勢が不安定になったレンへ剣戟が放たれようとする。

 

「まだまだ、スピア・バース!」

 

 レンは叫ぶようにして自分の神器を解放させる。さっきジャンヌがレンに対して行った行動とまったく同じことをジークフリートにそっくりそのまんま返したのだ。しかし、ジークフリートもレンに引けをとっていない。串刺しにされる前に横へ跳んで、かわしていた。

 

「勘も鋭い上に、僕が思ったよりも戦い慣れしている」

 

「そうね、普通の人間だったら是非ともスカウトしたかったところだけど」

 

 二人はレンのことをかなりの手練れであると断定していた。たしかに実力的には三名ともほぼ互角。ただ、レンにとっての懸念材料はただひとつのみ存在したのだった。

 

(数的に不利な二対一であることか)

 

 一番最初とその次の攻防は、あくまでもあちら側は一人ずつ出て戦っていた。仮にもし、二人が連携して戦うことができるなら、レンの勝率は極端に落ちるだろう。

 

「『我は鋼なり』」

 

 だが、それは普通に戦った場合の話である。

 

「『鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く』」

 

 能力を限界まで底上げできる奥義ーー『鉄血転化』をレンは持っている。これならば、

 

「『これを討ち滅ぼす凶器なり』」

 

 レンはこの二人を凌駕できると踏んだのである。

 

「それがキミの本気なのかな?」

 

 全身が紅く染まっているレンを見て、嬉しそうに笑うジークフリート。

 

「……覚悟しろ」

 

 レンはそんなことを一切無視して、ただ一言静かに警笛を鳴らした後に膝を軽く曲げた。そして、目に写らない爆発的な加速力でジークフリートに詰め寄った。ジークフリートはレンが止まった瞬間を見逃さずに右手で持つ剣で振り抜く。ところが、

 

「なんだと?」

 

 いままで余裕そうに涼しげな顔をしていたジークフリートだったが、それが一瞬にして驚愕の表情となる。彼はたしかにレンを確実に斬ったはずなのだが、血飛沫も飛び散らずに斬った手応えを感じられなかった。

 

「なんだ、この速さは!?」

 

 この現象の正体にジークフリートは剣を振り抜いた後のコンマ零一秒の間に気付いた。それはレンが高速で動いたことにより生じた残像だったのである。ジークフリートがハッとして後ろを振り抜くと、そこには体を回転させながら、今にも魔槍を振り抜こうとしているレンの姿があった。なんとか反応できたジークフリートはその攻撃を防ごうと三本の魔剣を交差させて防御の構えをとった。

 

「セイッハァァッ!」

 

 レンの気合いと共に放たれた力任せの一撃は、ジークフリートを大きく後方に突き飛ばした。

 

「グゥゥゥッ!」

 

「えっ、ちょっ、大丈夫?」

 

 半歩遅れて援護に来たジャンヌはジークフリートのことを心配する素振りを見せるが、今の彼にはそんなことに反応する余裕は微塵も無い。そして、今のところ見た限りでは油断しきっている彼女を、レンは見逃さなかった。空中に魔法で見えない足場を作り、それを蹴ってジャンヌの元へ近付いていく。

 

「聖剣よ!」

 

 ジャンヌもすぐに気を引き締め直し叫んだ。すると彼女の目の前には大量の聖剣が盾のように精製されていく。

 

「穿て、貫け!」

 

 それを見たレンは一度上に跳んで、二本の魔槍をその盾に向かって投げ飛ばした。ドリルのようなジャイロ回転をしている二本の魔槍の勢いは聖剣で道が阻まれようと止まらなかった。バリバリと音をたてて、聖剣を粉砕させていくが、ジャンヌに当たるあと一歩のところで回転が止まってしまった。それを見たレンは今度こそダメージを負わせるために新しく魔槍を両手に創り出し、駆け出そうとするが、さっきまで怯んでいたジークフリートが背後から奇襲を仕掛けてきたのだった。

 

「僕を忘れてるんじゃないかな!」

 

 完全に気配を殺しての後ろからの不意討ち。ジークフリートは絶妙なタイミングで出現したが、全神経を極限まで研ぎ澄ませてある状態のレンにとって、その攻撃すら脅威だとも思っていなかった。

 

ヒュン!

 

 風を切る音とともに、ジークフリートの魔剣がレンの身体を捉えるとこができず、空を斬る。逆にレンがジークフリートの後ろに回り込み、地面に叩き落とそうとする。ジークフリートもそれに対応して、二人が剣と槍をそれぞれ打ち合う形となった。しかし、それは互いに九戟目を打ち結んだ時点で終わりを迎える。

 

「チッ!また聖剣か!」

 

 ジャンヌの聖剣による援護射撃が放たれたからである。レンはその攻撃を後ろに下がってかわすが、威力はあまり無く威嚇のように思えたのだった。

 

「どうやら、力を出し惜しみしている場合じゃ無さそうだ」

 

 ジークフリートはレンから一旦距離を置き、間合いの外に着地すると、そんなことを口にする。すると、その言葉にジャンヌは頷き、ほぼ同時にとある単語を叫んだ。

 

禁手化(バランス・ブレイク)

 

禁手化(バランス・ブレイク)♪」

 

 その瞬間、彼らの放つプレッシャーがさっきまでとは比較できないほどの重さを解放していく。そして、ジークフリートの背中からは、さらに三本の腕が新たに生えてきて、ジャンヌの足元からは、膨大な量の聖剣が幾重にも重なり合い巨大な龍を形創っていくのだった。

 

「龍と腕が増えたぐらいで!」

 

 レンは躊躇うこと無く、彼らに向かって突っ込んでいく。ジークフリートも残りの三本の剣を抜刀して、剣戟を打ち込んでいった。

 

 腕が二本のレンに対して、腕が六本のジークフリート。互いに斬戟を打ち合い、徐々に推され始めたのはレンの方だった。レンは攻めることができず、だんだん受け流すことで手一杯となるのだった。そして、創った魔槍も魔剣で何度も打たれたことによりボロボロとなっていた。

 

「クッ!」

 

「フフッ、これでもついてくるのか!」

 

 いや、むしろレンがさっきまで有利に戦えたこと自体、奇跡的なことなのである。ジークフリートの持つどの魔剣も名を持たない有象無象の魔剣ではない。その内の一本は魔帝剣とも呼ばれる『グラム』だった。

 

 何もかも切り刻める凶悪な切れ味を有する最強の魔剣とも言い伝えられている業物を、『創った魔槍』如きでそれを何度も受け止めれば消耗するのも当然の話である。

 

「ほらほら♪下がお留守よ!」

 

 ジークフリートと戦っている最中に下からはジャンヌによって創られた聖剣の龍がレンに襲いかかってくる。レンは後ろに跳び退こうとすると、そのタイミングでジークフリートの剣戟も同時に降りかかる。レンは斬れなくなった魔槍を前に突きだし、それを暴発させた。

 

「なるほど、目眩ましとして利用するだけでなく、推進剤の役割も担っていたのか」

 

 レンの柔軟な対応によって致命的なダメージは避けたが、左手に軽度の火傷を負うこととなった。

 

(……大分不味いな)

 

 レンは二人の強敵を見据えつつ、今の状況をどう打開するか考えていた。『禁 手(バランス・ブレイカー)』に至っていないレンにとってはかなり絶望的な展開ではあるものの、残された手段がただひとつあった。

 

『いままで俺が預かってきたが、お前に返す。今のお前なら使いこなせるはずだ』

 

 レンは二年前のあの日のことを思い出していた。

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