魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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名は『ゲイ・ボルグ』

(そうだ。俺にはまだアイツがいる)

 

 レンはいままで開けていた目を閉じて、自分のことを改めて見つめ直す。

 

(もう迷わない)

 

 レンの覚悟は決まっていた。

 

(俺を救ってくれた恩人のためにも、友のためにも……そして、)

 

 「なんのために振るうのか」という問いの答えをレンはようやく見つけた。

 

(彼女のためにも……俺は死ねない)

 

 それは非常にシンプルな答えで、今この場でレンと相対している二人からすれば、「くだらない」と鼻で笑って吐き捨てることなのだろう。

 

 レンは魔槍の名前を呼ぼうと口を開ける。もちろん、一度も言ったこともなければ、聞いてもいない。それでも、自然と口が動く。なぜなら、初めて触ったあの時から既にレンは知っているのだから。

 

「来い、ゲイ・ボルグ!」

 

 レンのその声に応じるかの如く、細くて紅い何かが空中から音速をも越える速度で接近して、近くの地面に突き刺さった。

 

 真紅の魔槍ゲイ・ボルグ。それがレンにのみ与えられた切り札。突如として空から降りてきた紅い槍に二人は一瞬顔の色を変えるが引き下がる様子は見られない。

 

「それがどんな特性を持った魔槍かは知らないが、そろそろ幕引きの時間だ!」

 

 ジークフリートは六本の抜き身の剣を構えるとレンに向かって駆け出していく。対して、レンは地面にまっすぐ刺さっているゲイ・ボルグを引き抜き、前方へ突きを放った。

 

「……ッ!このプレッシャーは!?」

 

 別段レンが力を入れたわけでもなければ、魔槍の力を発動させたわけでもない。しかし、レンの放ったその一撃はいままで戦ってきて、打ってきたどの突きよりも速く、鋭く、そして、濃密な魔のオーラを帯びていたのだった。それが本能的に危険だと感知したジークフリートは安全策をとり、後手に回ろうと画策した。

 

 剣が六本と槍が一本。誰がどう見ようとジークフリートの圧倒的有利に変わりは無い。そんな状況下でジークフリートを弱気にさせるほど、真紅の魔槍からは危険なオーラが発せられていたのである。

 

 そして、いままでで最も危険な突きをジークフリートは寸分のところで避ける。ーーいや、避けた()()()()()()()。レンが腕を伸ばしきった時には、ジークフリートの龍の腕を一本、根元から先を完全に吹き飛ばされていた。

 

「くっ!い、いったい、どんな手品を使ったんだ!」

 

 ジークフリートは驚愕し、後ろに下がりながら言う。自分が食らおうとは一ミリたりとも思ってもみなかったジークフリート。レンのまさかの一発を受けたことで、さっきまでは見せていなかった焦りを見せていた。しかし、レンもそれは同様。なぜあの攻撃が当たったのか、自分でも要因が不明確だったのだ。

 

 ジークフリートに起きた変化はそれだけでなく、気分を悪そうに、顔を青くしている。それが作用しているせいか、龍の腕の再生も間違いなく遅い。明確な理由はどれも不明であるが、いずれにせよ、戦況はレンの優勢に徐々に傾きつつあるのは事実だった。

 

「行きなさい、私のドラグーンちゃん!」

 

 傍観していたジャンヌも黙ってられずに聖剣で創った龍に命令をする。龍は細長い体をクネクネとよじらせてレンに向かって近付いていった。レンは当たるギリギリでそれをかわして、体表を剥ぐように斬り裂いていく。しかし、レンが削ることができた量はその龍の巨体からすれば非常に微々たるものだった。

 

「その程度の損傷なら、この子にとってなんともないわよ」

 

 ジャンヌの言う通りで、レンによって体を削がれた龍は何事も無かったかのようにその体を新しく創られた聖剣により体を再生させていった。レンの横を通り過ぎていった龍は方向転換させて、再びレンの元へ突っ込んでいく。何度破壊して、消し飛ばそうが、龍の勢いは衰えない。恐らく、ジャンヌとレンの体力が続く限り、この拮抗した状態は続くだろう。

 

「くそっ、しつこいぞこの龍。どうすれば!」

 

「フフフッ、いい加減諦めなさい」

 

 逆説的に言うと体力が無くなった方が倒れる。そうなってしまえば、自分自身が動き回って戦っているレンの方が俄然不利となる。さらに時間が経てばジークフリートも復帰し、参戦してくるだろう。そうなってくれば、さっきまでひっくり返ろうとしていた戦況は逆に悪化する一途である。

 

 あの龍がほぼ無限に再生するのであればーーレンの答えはひとつしかなかった。

 

(奴を戦闘不能にさせる。今はそれしかない)

 

 なおかつ、この状態で本体へクリーンヒットさせるとなれば、より手段も狭まる。それがどんなに困難なことかレンはわかりきっていた。だが、レンは動き出したのである。

 

 全力ダッシュをして、ジャンヌとの距離を一気に縮めようとすると、ジャンヌは当然、己の身を守るためにレンの正面から龍をぶつけようとする。

 

「勝てないとわかったから相討ち覚悟での特攻、ね。その潔さお姉さんは嫌いじゃないけど、こんなつまらないところであなたと心中するつもりも無いわ」

 

「そんなに死にたくなければ、残っている体力すべてを防御に費やすんだな」

 

 ジャンヌは薄い笑いを浮かべて、レンのことを見下すような物言いをするが、それと対照的にレンは真顔のままジャンヌに言い返す。

 

「そんなハッタリに私が躊躇うとでも思った?」

 

 あと二、三秒もすれば龍はレンに突き刺さる。すでにそんな距離にまで接近していた。レンはそのタイミングで大きく跳び上がる。レンは鼻からジャンヌに最接近するつもりはなく、魔槍を投げるつもりだったのである。

 

「……警告はした」

 

 それから、小声でそう呟いた後にレンはゲイ・ボルグを放った。

 

『ジャンヌ!全力でそれをかわすんだ!』

 

 ジークフリートとは別の男の声がこの空間から聞こえてきて、それはジャンヌに注意を促す。しかし、それは既に手遅れだ。レンによって放たれたゲイ・ボルグは、前方から向かってくる龍の体ーー頭から尻尾までのすべてをぶち抜き、炸裂させながら突き進んでいく。そして、ジャンヌの眼前にまで迫っていった。

 

ズガガァァァッ!

 

 しかし、ジャンヌの体に突き刺さることはなく、彼女の全身を覆う防御障壁のような結界がゲイ・ボルグの行く手を阻むのだった。

 

「そんな……何が起こったっていうの?」

 

 あまりにも一瞬の出来事にジャンヌはまだ自分の立場をわかっていない。ただ、「その一瞬の出来事の内に自分の聖剣がすべて破壊された」。その事実は彼女を混乱させるのに十分な情報だった

 

『なんという威力と勢いなんだ!なぜ、この槍の回転は止まらない!?』

 

 聞こえてくる男の声はさっき彼女に注意を促した声と同じだった。彼の言うように、紅い槍はその強固な結界によって進行を留められながらも、その場で回転運動を続け、まったく止まる気配を見せなかったのである。

 

 どんなに守りを固めようと、決して止められない。そして、必死になって逃げようとも、当たるまで絶対に逃げられない。ーーそれが魔槍ゲイ・ボルグの基本特性である。

 

ピキッ

 

 ゲイ・ボルグの行く手を阻んでいた結界にも一筋のヒビが入る。そうなってしまえば、いままで原型を留めていた堅牢な結界だろうと脆く崩れ去るのは、結果を見なくとも明らかなことだった。

 

「きゃあぁぁッ!」

 

 レンの放ったゲイ・ボルグは守っていた結界もろとも、ついにジャンヌの体を打ち抜いた。しかし、彼女もジークフリートと同様にさっきまでレンのことを苦しめていた実力者、これで終わりとはいかなかった。どうやら、ジャンヌはあれをかわそうとしたらしく、命中していた箇所が脚部だったのである。

 

『僕の考えが浅はかだったみたいだ。この場は退却しよう、ジークフリート、ジャンヌ』

 

「そう……だな」

 

「そうね」

 

 男のその言葉を聞き、二人は渋ることなく肯定すると、二人は一ヵ所に集まった。そこの地面には魔方陣がすぐさま展開されて光を放ち出す。

 

「逃がすか、ゲイ・ボルグ!」

 

 そうはさせまいと、レンはジャンヌに投げたゲイ・ボルグを手元に戻しながら走り出すが、髪や瞳の色が紅から元の蒼に戻り、急に足が止まる。体力の底を尽きかけていたのだ。そもそも、レンはこの前の段階から限界が来ていて、あそこまで戦えたこと自体が奇跡に近いと言えるだろう。

 

「チク……ショウ」

 

 魔槍を杖代わりに使いその場に立っているのもやっとなレンの足元に、魔方陣のようなものが展開される。レンはそれが自分に悪影響を及ぼすものだと気付く。しかし、体力低下に伴い集中力が途切れたことにより、半瞬だけ反応が遅れ、その場から離れることができなかった。レンは光に包まれてこの場から姿を消していった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

 ジークフリートとジャンヌはあの戦場から別の場所に転移していた。

 

「ゲオルク、さっき彼に使ったのは……」

 

 ジークフリートはゲオルクという名の男に話しかける。すると、すぐに答えは返ってきた。

 

「シャルバからのつまらない依頼があってね。それのための運用試験さ」

 

「へぇ、で?その試験はうまくいったの?」

 

「…………」

 

 今度はジャンヌに訪ねられ、その問いを聞くと急に考え込むような顔をした。まるで、何か腑に落ちないことがあったかのように。

 

「ゲオルク、聞こえてないの?」

 

「ん?ああ。……うまくいったさ」

 

「そう、だったらいいけど」

 

(あの紅い槍が本当にあのゲイ・ボルグだったら……。もし、もう一度相対する機会があるとしたら……)




ゲイ・ボルグについてひとつ注意点。伝承通りではなく、微妙に能力が異なっているところがあるかもです。

その場にいない人を喋らせる描写って難しいですね。表現がおかしいと思ったら、遠慮なくどうぞ。
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