「くそっ、派手にやってくれたぜ」
レンがいなくなった後も美猴や兵士達と戦っていたユーゴ達だったが、『
『時間が来ちまったみたいだねぃ。んじゃ、また機会があったら戦おうぜぃ!』
ーーと、美猴はユーゴにそのようなことを言い残して、ここから去っていったのだった。
この辺りの光景を軽く見渡すと、町の至るところにこの戦いで負ったのであろう爪痕が残っている。
「あらら、ヴァルハラ近辺も非道ぇ有り様だこと」
ユーゴが立ち尽くしていると、いつこの場に来たのかわからないが、ランサーが近づいてきたのであった。余談ではあるが、ランサーもユーゴと同様で、ヴァーリから再戦を一方的に押し付けられたのだ。
「あなたは……」
「ん?俺は通りすがりの槍使いだ。世間知らずな弟子と仲良くしてくれて、いつもありがとうな」
ユーゴはその言葉でこの男が誰なのか一発でわかった。この人がレンの師匠なのだと。
「アイツなら大丈夫さ、どっかで生きてる。なんつったって俺の弟子なんだからな」
ランサーはユーゴが微妙な顔をしているのを見て、諭すように言った。
「そのことなら、心配してません。レンは女との約束を放り出す男じゃないですからね」
ユーゴは笑いながらレンのことをそう評していた。ユーゴよりもむしろ問題なのはロスヴァイセである。もし、仮に彼女の耳にレンが行方不明になったと届けば、普通の人よりも精神が強い彼女であろうとどんな影響が出るかわからない。
「……どこで道草食ってんのか知らねぇが、早く帰ってきやがれ」
ランサーはユーゴに「レンは大丈夫」と言いながらも、目を細めながらそう呟くのだった。
◼◼◼
「この感覚は……空に投げ出された、か?」
謎の光に包まれ、それから、その光が消え去ると同時にレンの目の前には一面の青い空が広がっていた。レンがそう思った理由はもちろんそれだけではない。強烈な風が下から吹いていたこと、現在進行形で身体に浮遊感が漂っていることがあったからだ。
この状況はレンからすれば間違いなく最悪なのだが、レンは知らない。これでもまだマシと言える状況であったことを。理由はゲオルクが最後に使ったあの術式は次元の狭間に飛ばすためのものだったからである。それをゲイ・ボルグはレンの意思と関係なしに、自らが勝手に判断して不完全ながらも術式を崩したのだ。
「下には……まぁ大丈夫そうだな」
落ちながらもレンは下を確認すると、不幸中の幸いなことに、規模が大きめの川が下を流れていた。レンにとって唯一心配なことといえばその川の深さであった。
「それと勢いは極力殺さないと」
レンはさっきの戦いでも使った見えない足場を次々と作り出し、それらを利用して加速度を抑え込もうと考えた。その作戦はうまくいったようで、ついさっきよりも勢いは大分弱まっていく。
(動け、俺の体。動け!)
極端な体力の消耗さえ無ければ、レンは陸地に逃げて、着地をすることができたかもしれない。しかし、足を動かすことが一切できず、とうとう川の中へと放り投げられてしまった。
(くそっ、こりゃダメそうだな……)
レンの体は段々と沈んでいくのだった。
◼◼◼
場所はヨーロッパのとある国。デュリオ・ジェズアルドという名の青年はグリゼルダ・クァルタと子供達と散歩をしていた。
「あっ!デュリオお兄ちゃん、見て見て流れ星!」
時間は昼間だというのに、突然一人の男の子がそう言った。
「ん~?お昼から流れ星は出ないっすよ?」
口ではそう言っているが、空に一筋の光が走っていったのをデュリオは気付いていた。
「え~。でも、さっき見たもん。光ってた」
「うん、私も見た!赤く光ってたよ」
「ここから近いところだった。ねぇねぇデュリオお兄ちゃん、見に行こうよ!」
あえて、話を切ろうとしたデュリオだったが、子供達は自分達が見たのは「流れ星」だと口々に言う。すると、デュリオは唸って考えてから言った。
「う~んでも、ちょ~っと危ないっすから、俺が一人で探しに行ってみる。みんなはシスターグリゼルダと一緒に先に帰っててよ」
「えっ?待ちなさい、デュリオ!」
デュリオのその言葉にグリゼルダは止めようとするが、デュリオはまったく話を聞く気がない様子だった。
「だ~いじょうぶっすよ、グリゼルダ姐さん。それじゃ、行ってきます」
そう言って、デュリオは落下地点に走っていくのだった。
そして、デュリオは自分の予想した落下地点に行ってみると、そこは川だった。
「たしか、この辺だったかな?さて、何がいるんだか」
デュリオは川のほとりを歩き回り、目を凝らして川の中を見つめる。
「う~、ん~??」
すると、彼は何者かが沈んでいっていることに気が付き、自分の能力を発動させた。それは水の流れを自在に操作して、その溺れそうになっていた誰かを陸地に引っ張り出した。
「ちょ、ちょっと、キミ大丈夫っすか?」
「…………」
デュリオは溺れかけていた蒼い髪の青年ーーレンに声を掛けるが、返事が全く返ってこない。次にデュリオはレンの額に手を当てて、体温を確認してみると、自分よりも体温がかなり低いことに気付く。
「こりゃ、しょうがないっすね。とりあえず、教会にでも運んでから姐さんに相談すっか」
デュリオはレンを背中に背負って、元来た道を戻っていくのだった。
◼◼◼
「彼は何者でしょうか?」
「だから、さっきから言ってる通りっす。彼があの子達が見た流れ星の正体でしょ。……たぶん」
「私が言ってることはそういうことではなくて……」
「大丈夫。たしかに、彼は
(う……ここは?)
デュリオとグリゼルダの話が聞こえてきたことで、レンは意識を取り戻し、目を覚ました。すると、デュリオはそれに気付き、レンに声をかける。
「お?やっほ~、ようやく目を覚ましたようだね。元気かい?……って、んなわけないか~」
初対面の相手にあまりにも軽く、飄々とした口調で話しかけて来るので、レンはやや引いている。
「ひとつ聞きます、あなたは何者ですか?」
後ろからデュリオの耳を引っ張りながら、今度はグリゼルダが訊ねてくる。デュリオとは違い、グリゼルダはレンに少し警戒している様子である。
「え~と、俺は……」
レンが自分の名前を言おうとしたその時だった。聞いたことが無いほどの音量の腹の虫がレンの方から鳴り響いた。
レンもいままでのことをおもいだす。今の自分の体内にはエネルギー源がまったく無いことをおもいだしたのだ。それから、レンは半笑いを浮かべてこう言った。
「……その前に、何か食べ物を頂けますか?」
その言葉にデュリオは声を出して笑い、グリゼルダは頭を抱えるのだった。
「ごちそうさまでした。グリゼルダさんの料理、美味しかったですよ」
この教会にあったものを調理してもらったおかげでエネルギー補給をなんとか果たせたレンだったが、
「ここにあるほとんどの食糧を平らげておいて、よくそんなことが言えますね」
よほど深刻な状況だったこともあり、かなりの量を食べてしまったのだ。
「アッハッハ。遠慮ってもんを知らなすぎでしょ、レンちーは」
デュリオはレンのことを親しみを持って(?)そう呼んで、からかっている。
「はぁ……、このことは後回しにしておきましょう。レンさん、さっきの話に出てきた『
「ああ、はい」
ちなみに、ついさっきまで、レンは食事をとりながら、自分の素性や自分がなぜここに落ちてきたのかということを話していた。
そして、今はカオス・ブリゲードのことを二人に話している。彼らは天界側の関係者で、
不気味で無機質な黒い兵士達について。ジークフリートやジャンヌについて。それと、霧に包まれたかと思ったら、いままで戦っていた戦場をそっくりそのまんま再現したあの能力について。
「……とまぁ、こんな感じでしょうか?」
話が一通り終わると、二人とも表情が変わっていることにレンは気付く。特に、グリゼルダに関してはかなり険しい表情だった。
「まさか、
「それだけじゃないでしょう。
レンは二人の言葉を聞いて自分の耳を疑った。ランサーから教えられたことのある、上位
ディメンション・ロストについては、強力な結界系の神器であるとレンが知っていたこともあり、あの戦闘の際のことを思い出して、なんとなく納得していた。しかし、あの黒い兵士達がアナイアレイション・メーカーによって創られたものである、という考えには至らなかったのである。
「いや~、それにしてもレンちーは強いんだねぇ。そんな化け物級の敵複数を相手にして生き残ったなんて」
かなり深刻そうに考え込んでいるレンやグリゼルダとは対照的にマイペースに話をするデュリオ。それを聞いてレンは謙遜するように言葉を返した。
「俺なんかまだまだです。なんせ途中で体力が尽きかけたわけですし。そんな俺よりもデュリオさんの方が強いんじゃないですか?」
レンは目を覚ました時から、デュリオがただならぬ何かを身に宿していることに気付いていた。
「う~ん、それはどうだろうねぇ。……まぁ、元気になるまでゆっくりしてってよ」
「そうですね。是非そうしていってください。……それとレンさんーーあなたのことをさっきまで疑っていてすみませんでした」
グリゼルダがデュリオに続いてそう言うと、レンは目を白黒させていた。
「えっ、じゃあ俺のことを敵だと思ってたんですか?」
レンが「そんなバカな」というような顔をして、グリゼルダの方を向くと、今度は彼女が目を白黒させて固まってしまった。レンからすれば、殺しにくるような本気の敵意が二人から(デュリオに関しては元から敵意ゼロ)は感じられなかったから、そう思っていただけなのだが。
「レンちーはマイペースなんだねぇ」
「そうですか?そう言われたのは初めてですけど」
「あなたも大概ですよ、デュリオ」というようなツッコミがいつものグリゼルダであれば出てもよかったのだろうが、彼女はいまだに固まったままだった。