「すみません、あれとこれと……あとそれをください」
レンは今食料の買い出しに街中を歩いている。自分が食べてしまった分を補填するために。あと、ついでに言ってしまえば、レンがここに落下してきて、既に三日が経過していた。
「こんぐらいあれば十分っしょ。……ってか、わざわざレンちーが買い出しに行かなくともよかったのに」
そしてなぜだか、デュリオもレンについて歩いていた。本人いわく「暇だから」らしい。
「俺を助けてくれたデュリオさん達のためだから、せめてこれくらいはしないと。なんか申し訳ないし」
「そんなに気つかわなくとも……。それにさっきから言ってるように、俺のことを呼ぶときは呼び捨てでいいよ。話すときなんかは既にタメ口で馴れてるようだしさ。それに、俺達歳が近そうだし」
「は、はぁ」
レンは困惑気味に返事をする。デュリオのふわふわした雰囲気にレンは未だに馴れないでいた。そして、デュリオは戸惑っているレンに構うことなく話を進めていった。
「よし、買い物も終わりそうだし、ケーキ食べに行こうか。ケーキ!」
「ケーキ?」
「そう!……あ、もしかして、レンちーはケーキ嫌いだったりする?」
「いや、別にそんなわけじゃないだけど……」
レンの場合は好き嫌い以前の問題でケーキという存在そのものを知らないのである。しかし、話のニュアンス的にそれが食べ物であるという情報は読み取れたので、別にその話を否定する必要はあまり無い、とレンは判断した。
「え~と、ケーキってなに……かな?」
デュリオにとっては、その言葉があまりにも衝撃的なものだったのか一瞬黙ってしまうが、デュリオはニコッと笑いながらこう言うのだった。
「食べたことがなくても、きっと気に入ると思うよ。まぁ、俺についてきてよ」
結局のところ、レンはどんなものかを知らないまま、デュリオの後を追って、人生初めてのケーキを食べに行こうとしていた。
◼◼◼
二人は数分間歩いた後に、例の目的地の入り口にたどり着いたわけなのだが、
「……こんなところに入っていいのか?」
「およ?そりゃあ、いいに決まってるじゃないかぁ」
「そうは言われても……なぁ」
ここに来店している客層をウインドウから一通り見る限りでは、レン達は明らかに浮いているだろう。ほとんどの席が若い(十~二十歳代の)女性で埋め尽くされているのだから。
「俺達がここに入るのって場違いじゃないかな?」
「な~に言ってるんすか。美味しいものを食べるのに、男だろうと女だろうと天使だろうと関係ないでしょ。さぁ、入って入って」
デュリオはレンが思っているような心配を一切感じずに、レンを押してそのまま店へ入っていった。
「あのさ……俺達、注目されてないか?」
すると案の定、ここにいる人のほとんどの視線が二人に集中する。レンはその鋭い何かを感じて、思わず後ずさりしてしまうが、
「う~ん。美味しそうな良い匂い!」
この場の空気にあたっても、デュリオは気にしていない様子である。それを見たレンはただただ苦笑いするしかなかった。
(まぁ、デュリオがただでご馳走してくれると言ってることだし、これぐらいは我慢しないと、か)
それから覚悟を決めて割りきって考えて、自分自身を無理矢理納得させるレンだった。
「お、やったね!丁度よく二人席が空いてるってさ」
勝手に緊張しているレンとは裏腹に、いつの間にか店員と話しを進めていたデュリオはそう言って、レンを手招くのだった。
「ここの店は食べ放題ってところがすごくいいんだよねぇ」
「……甘くて、美味しいのは認めるけど、さすがにそれは食べ過ぎだろう?」
「な~に言ってんすか。たくさん食べないともったいないじゃないかぁ」
席へ案内されて、既に三十分は経過しようとしていた。レンはケーキを初めて食べて、たしかにうまいものだと理解はしたのだが、同時にこれらは大量に食べるものではないと判断したのだった。現に、レンは満腹状態である。そんなレンとは対照的にデュリオはまだ余裕そうにケーキを頬張っている。
「俺にはもう十分だよ」
「そっか……あ、ところで、レンちーにとっての戦う目的って何かあるかい?」
「藪から棒にどうしてそんなことを?」
その唐突過ぎるデュリオのその質問に、レンは目を細めながら訊き返すと、
「あ、ごめんごめん。言いづらい理由だったら答えなくてもいいけどさ。自分の身体があんなになるまで、戦うには訳があるんじゃないかって勝手に思っちゃってね」
レンの視点から見れば笑っていながらも、真剣そうにデュリオはレンに訊く。レンはそんなデュリオを見て、肩の力を抜きながらこう言うのだった。
「自分の大切な居場所を守りたい。ただそれだけのために俺は槍を振るう」
「……なるほどねぇ。居場所を守るために、か。初めて話した時から思ってたけどやっぱり、俺とレンちーは似た者同士かもしれないねぇ」
デュリオはレンの答えを聞いて、納得するように頷いていた。
「俺が戦う理由は教会にいる弟や妹達みたいな、せめて、自分の手が届く範囲の皆を守ることだから。さっきレンちーが言った理由とほぼ同じでしょ?」
「まぁ、たしかに。……ん?デュリオって何人兄弟なんだ?」
「あぁ、俺の言い方が悪かったかも」
不意に出たレンの疑問に、少し訂正を入れた後に再び話しはじめる。デュリオは遠い目をして、それはまるで昔のことを思い出しているかのように。
「……俺さ、幼い頃に既に親を亡くしてて、俺もずっと教会で暮らしてきたんだ。あの子達と同じように、ね。だから、俺にとってあの子達は兄弟も同然って話さ」
「…………」
「そんなかわいい弟、妹を守るために俺はこの力を天から授かったんじゃないかなぁ?ーーとも思ってる」
デュリオはそう言いながら、右手に小さな雲を作り出し、雷を走らせていた。それから、レンに握手を求めるように左手を前に差し出した。
「これからまた数日経ってその身体が完全に治ったら、レンちーはアースガルズに戻っていって、離ればなれになっちゃうだろうけど、お互い違う戦場で頑張ろうよ」
「あぁ。当然」
レンはデュリオの握手に快く応えて、彼の左手を掴みながら、笑顔を見せるのだった。