ロスヴァイセとの再会は予定より少し伸びそうです
「あらあら、先程までの威勢は一体どこに行ったのでしょうね?」
ウェンディゴの挑発を受けた後、フレイはただひたすら我武者羅に攻撃をし続けていた。後先考えずに全力攻撃を繰り返していたことによって、最初よりもフレイの動きにはキレが無くなっているようだった。
『まだまだ!』
フレイは飛行するのを空中でやめると、翼を大きく広げだした。その大きく広げた両翼からは、羽根が縦横無尽に飛ばされていき、それらはウェンディゴが使役しているキマイラ達を細切れに切り刻んだ。
「思ったよりもやるようですわね。しかし、無理はあまりよろしくありませんよ!」
ウェンディゴは手を横に凪ぐと、まだ残っていたキマイラ達は火球をフレイに向かって一斉に吐き出していく。
『くっ!』
キマイラの集中砲火を浴びたフレイはノロノロと地面に降下していく。それに見かねたレンは火球の雨霰の中にいるフレイの前に身を出し、大量に降りかかる火球を弾いていった。
『これ以上レンさんまで巻き込むわけにはいきません。私に構わず逃げてください!』
「それはさっきも言ったよな。こんなところでキミの命を見捨てられる訳無いだろうが!」
『私はまだ一人でも戦えま……っ。くぅ……』
全身に火傷を負いながらも、なお戦う姿勢を見せたフレイだったが、さっきと同じような光を体から再び放ち出した。すると、変身が解け人間の女の子に戻ってしまい、さらには気を失ってしまった。
「チッ、こうなったら、腹を決めるしかないか!来い!」
レンのその一声によって、魔槍ゲイ・ボルグは空を切り裂きレンの手元へ飛んできた。レンは飛んできたゲイ・ボルグをそのまま掴むと、即座に投げるような体勢に入っていた。
「……ッ!その一撃だけは絶対にもらうわけにいきませんわ!」
ウェンディゴはレンの持つゲイ・ボルグを見た途端に顔を青くさせて、この場から去ろうと転移魔方陣を形成していく。
「ただでは帰さない!穿て、ゲイ・ボルグ!」
彼女を逃がすまいとレンはその場で跳び上がり、全身をバネのようにしてゲイ・ボルグを投げ飛ばした。ゲイ・ボルグがレンの手元から放れて、ウェンディゴはさらに慌てふためくかと思いきや、彼女を逆に不敵な笑みを浮かべていた。
「何を勘違いなさっているのかしら?わたくし、逃げるつもりは毛頭ございませんわよ」
「……なに?」
「あなたのその槍の対策は事前にしてありますもの」
彼女が作った魔方陣からは、キマイラとはまた別の魔物が姿を現した。その魔物はウェンディゴの前に体を出し、レンが放ったゲイ・ボルグを真正面から受けた。
「どれだけ堅い表皮を持とうが……関係ない!」
「フフ、ただ堅いだけではありませんのよ。この子は……」
ゲイ・ボルグは突き進むように魔物の体へ深々と刺さっていき、ついには魔物を貫通させた。しかし、ゲイ・ボルグがそのままウェンディゴの元へ突き進むことはなく、彼女の横を通り過ぎていった。
「ちょ~っと特別『製』なんですの」
ゲイ・ボルグによって致命傷を負った魔物は、原形を保ったまま地面に落ちる訳でもなく、その場で霧散していく。レンはその光景に見覚えがあった。
「『
「ご名答……と言いたいところですが、残念ながらそれだけではありませんの。もちろん、そこから先は口が裂けても言えないトップシークレットですが」
ウェンディゴは楽しそうに余裕の笑みを浮かべている。
(あの魔物がどんな手品を使ってゲイ・ボルグの必中の能力を打ち消したのかはわからない。だが、まだ手段が全て無くなったわけじゃない)
レンは横に手を出し、ゲイ・ボルグを手元に戻した。そして、再びゲイ・ボルグをウェンディゴに投げようとするが、何かを感じ取り体を後ろに向けた。そこには、今にもフレイに襲いかかろうとしている五体のキマイラの姿があった。
「思い通りにさせるかよ!」
レンはすぐさま距離を詰めて、一瞬にして五発の突きを放つ。五体のキマイラは突きを食らった途端にもがき苦しみ出した後に、絶命していった。
「……せめて、この報告だけは嘘だと思いたかったのですが、仕方ないですね」
ゲイ・ボルグによって貫かれたキマイラの心臓をウェンディゴは治癒させることができないらしく、彼女は諦めたような顔で息絶えたキマイラを一瞥した。
「……まぁ、あなたの弱点もわかってきたことですし、まだ問題ありません」
「フン、言ってくれるな。なら、やってみろよ」
「ではお言葉に甘えて、やらせてもらいますわ」
互いに挑発し合って、先に動いたのはウェンディゴだった。彼女は手綱を引いて、キマイラ達を再び操り出す。すると、レンとフレイの二人を取り囲むような陣形をキマイラ達は位置取りしていき、そこから今度は火球ではなく熱線を一斉に吐き出してきた。
「魔槍よ、俺達を守れ」
それに対して、レンは周囲に魔槍を幾重にも重ねて精製し、それらは障壁を創り出した。もちろん、相手の攻撃を防ぐだけではなく、地面から槍を飛ばし反撃も加えていった。
「その攻撃は全て無駄ですわよ!」
レンが今飛ばした魔槍によって貫かれたキマイラ達は、その傷をすぐに再生させつつ起き上がってきた。
「だったらーー!」
その様子を見たレンは何を思ったのか、次は一匹のキマイラに集中させて魔槍の砲撃を放っていった。その攻撃はキマイラの肉体の九割以上を削り取り、再び動き出すことはなかった。
「……なるほど、やはりな」
レンは今の数回の攻防でわかったことが二つあった。ゲイ・ボルグによるものの攻撃以外は、完全に治癒させること。しかし、原形すらわからないほどに消し去ってしまえば、その場合も治癒できないこと。
かといって攻撃の手立てはわかってたところで、どちらにしても一匹ずつ集中して攻撃しなければならない上に、距離が互いに離れているので要領が悪く得策ではない、ということも事実だったのである。
(病み上がりの全然馴らしていない体でこいつは使いたくなかったが、やるしかない。大丈夫、俺なら……やれる!)
「ーー『我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを討ち滅ぼす凶器なり』」
今の状況では打開することが困難だと悟ったレンは、いままで使うことを渋っていた『鉄血転化』を発動させ、フレイを抱えながら、キマイラの包囲網を強引に突破していく。
「本気でわたくし達から逃げ切れるとお思いで?それは不可能ですわよ!」
人を抱えながらとは思えないほどのスピードで動いているレンだが、さすがにキマイラの追撃を振り切れるまでには至らなかった。
(たしかに、フレイを抱えている今の俺にはこいつらの追撃を振り切ることは不可能、か。……なら、他の手を試すまでだ)
「翔べ、ゲイ・ボルグ!」
レンは後ろを振り向きながら、右手に持つゲイ・ボルグを放った。それに対して、ウェンディゴはさっき召喚した魔物を再度目の前に出現させた。
「あなたの攻撃はわたくしに通ることはありません。それは先程証明したはずですけど?」
「さっきと同じだと、思うなよ!」
レンが握っていた手のひらを開き、もう一度強く握ると一直線に飛んでいたゲイ・ボルグは、例の魔物に当たる直前で進行方向をねじ曲げて、ウェンディゴの方へと矛を向き直した。
「……なっ!」
その運動の法則を全否定したありえない動きに、さすがのウェンディゴも本当の意味で酷く狼狽し、自身が握っている手綱をさっきよりも強く引いた。すると、ウェンディゴの駆るキマイラは、音速のゲイ・ボルグすらも突き放す速度でその場から逃げていく。レンはゲイ・ボルグを再度操りウェンディゴに刃を向けるが、これもまた難なく振り切った。
このままいたちごっこを続けても、自分の体力の無駄だと判断したレンはゲイ・ボルグを手元に戻した。
「フフン、やはりかすりもしませんでしたわね」
「ああ確かにな。しかし、あんたらの創った魔物は随分と鈍足らしいな」
「……ッ!」
レンがそう言うと、ウェンディゴの目元はほんの一瞬だけ、反射的にピクリと動いた。ゲイ・ボルグが進行方向をねじ曲げた際、あの魔物は全く動けないでいたのにレンは気が付いていた。
ウェンディゴへの攻撃はまったく当たらなかったものの、あの魔物の弱点をレンは看破することができたのである。
しかし、そのようなことがわかったからと言って、攻撃がウェンディゴに当たらない、というレンにとってのこの悪い状況下は変わらない。レンはまた別の手を使い攻めていこうとするが、その隙を二度も作らせるほどウェンディゴもお人好しではない。
「では、そろそろお開きと致しましょうか」
キマイラによる猛攻を受け、レンが攻撃に転じることはかなわなかった。
(くそっ、俺はどうすればいい?いったい、どうすれば……っ)
はっきりと言ってしまえば、フレイを守りながら今ここにいる全ての敵を退けることは絶望的に近い。フレイは勝手に戦って勝手に自滅したわけなので、この場で見捨ててしまっても、レンに非は全くない。
しかし、レンは彼女を放っておくことはどうしてもできなかった。それはデュリオの話を意識してのこともあるかもしれないが、まるで、本能的な何かが作用しているようだったのである。
「腕に抱えたお荷物を捨てれば、逃げれるのではなくて?」
「逆に訊くが、あんたの目的は俺なんだろ?なぜ、彼女を執拗に狙う」
「そこのハヤブサはわたくしやキマイラさんにとって、狩りの獲物。まぁ、狩りなんて言うものは退屈しのぎのお遊びですけど」
ウェンディゴは冷ややかな、軽蔑するような目で気を失っているフレイを見て言った。
「わたくしの言うことを聞かない玩具なんて存在している意義が微塵もありませんから」
「玩具だと?どういう意味だ」
「そのままの意味ですわよ。わたくしのために働き、わたくしの身代わりとなってくれる。そのようなものを玩具以外にどう呼べと言うのですか?」
「……ッ!壊れてるのは、あんたの方だ」
「わたくしが壊れてる?面白くもない冗談を」
さっきと変わらない純粋無垢な笑いを彼女は浮かべているが、レンはその笑顔から邪悪な何かを感じた。
「さあ、彼女さえここに置いていけばあなたは助かりますよ。ウフフフフ」
「話を聞いて改めて思ったよ。あんたのような外道にはこの子を絶対渡さない」
レンはフレイを地面に優しく降ろしながら、そう言った。紅く光る二つの瞳には強烈な怒りが込められているようだった。
(強い思いや願い。そして、命懸けの特訓をすること。この二つが『
神器とは、所有者の強い思いに呼応するものである。そのことをレンは、教会で養生している間にデュリオから聞いたことがあった。そして、その際に『
後者については、ランサーと毎日のように戦闘の特訓していたこともあり、ほぼクリアしていた。そして、今の感情が高ぶっている精神状態ならーー発現できるとレンは確信していたのだ。
「
地面からは血のように紅い魔槍が大量に生えていき、それらは束に成ってひとつにまとまっていった。さらに、まとまった魔槍群はあるものを形作っていく。それはまるで蛇のようだった。
「さぁ、反撃開始と行こうか」