魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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目醒める蛇龍2

「『禁 手(バランス・ブレイカー)』と聞いて、一瞬焦りましたが、それはわたくしの杞憂に終わりそうですわね」

 

 ウェンディゴはレンによって創られた魔槍の大蛇を見て、見下すような口調でそう評していた。

 

「俺はあんたを絶対にこの場から退けさせてやる」

 

「あら、できないことを宣言するのはただただ滑稽なだけですわよ」

 

 ウェンディゴはキマイラに分け与えていた強化をさらに高めて、そして、自らも攻撃に出ようと動き出した。

 

「ああ、たしかにその通りだ。でもな、今の俺にそれが不可能だと感じたことは、無い!」

 

 レンもそれに応じるような形で、自分で創った大蛇を操りキマイラの群れへと突っ込ませた。彼女は先程と変わらない不気味を笑いをしていた。

 

「ウフフ、返り討ちにして差し上げなさい」

 

 物量の差だけで考えれば、それはあまりにも無謀で勝ち目の無い戦術とも呼べないもので、彼女からすれば、レンの行為は愚かしくも見えたのだろう。だが、彼女は知らなかった。この場にいる『形創られた』物体がーー大蛇ではない、ということを。

 

「バラけろ、蛇龍(ヒュドラ)!」

 

 レンの発声とほぼ同時に、魔槍の大蛇から新たな首が次々と生えていった。それは蛇龍(ヒュドラ)と呼ぶにふさわしいほど。

 

「これは少々見くびりすぎましたわね。それでは、わたくしも用心してかからせていただきます」

 

 キマイラ達は散開するように翼を羽ばたかせていき、それらはヒュドラに向けて一斉に火を吐き出していった。

 

 だが、端的に言えばこのヒュドラは金属製。そのようなものに火など通用しないことなど至極当然である。無論、この魔槍の融点を超える超高熱量の火球なら話は変わってくるであろうが、ちょっと強化された程度のキマイラではそんなものを作れるはずが無かった。

 

「今度はこっちの番だ。行け!」

 

 ヒュドラはキマイラ達が逃げるよりも速く動き出し、それぞれの首が各一体ずつキマイラに噛みつき、牙を突き刺した。噛みつかれたキマイラは激しくもがいて振りほどこうとするが、そうなることはかなわなかった。

 

「くっ、何をてこずっているのですか?そんな拘束、早く断ち切りなさい!」

 

 彼女はその様子を見て焦りながら、神器により一層力を込める。

 

「俺の『禁 手(バランス・ブレイカー)』はどうも欲張りらしいな。噛みついた敵のあらゆるエネルギーを吸収して、俺の力に還元してくれている。名前をつけるなら……そうだな、『血塗られた暴君の蛇龍(ブラッディ・タイラント・ヒュドラ)』とでも呼んでおこうか」

 

「そんな……ッ!」

 

 今のレンの発言で自らのミスに気がつくウェンディゴであったが、それは既に手遅れだった。レンのヒュドラはキマイラからありとあらゆる力を取り込んで、より濃密なオーラを全身から放出していく。

 

 逆に、力を吸われたキマイラ達は体が段々と萎んでいき、脆く崩れ散っていった。そして、当然ではあるが、神器を介してキマイラと繋がっていたウェンディゴにも少なからず影響を及ぼし、微量ではあるが戦力を削ぎとっていた。

 

 いままで数で圧倒されていたレンだったが、その要素が無くなったことにより、彼は攻勢を強めていった。

 

「フレイが受けた分も含めてまとめてそのまま返してやる。覚悟しな」

 

「チッ、生意気なことを言ってくれますわね!」

 

 ヒュドラによる波状攻撃に加えて、レン本人による魔槍の連戟。ウェンディゴはそれらを全て捌いていくが、さっきのように余裕がある、という訳ではなく刃が皮膚を掠めるほど、かなりギリギリの状態に陥っているのだった。

 

「そこだッ」

 

「まだ、ですわよ!」

 

 レンは自身の速度を更に上げて、ついに攻撃が彼女に通ったと思ったのだが、息をしていたキマイラが地面にいたらしく、それがレンの一撃を阻んだ。

 

「クソッ、まだ残っていたのか」

 

「フフ、危ないところでしたわ」

 

 あと少しというところまで追い詰めていたので、レンは唇を噛むようにして悔しがっている。それはウェンディゴも同様で、涼しそうに振る舞っているものの、唇を小刻みに震わせるほど焦っていた。

 

「勝負はこれから……と言いたいところですが、これ以上続けてもつまらないので、続きは次の機会にしましょう」

 

「何を勝手に!ただで帰れると……」

 

 レンはヒュドラを彼女の死角に入り込ませるようにして一本の首を操り、最後の奇襲を仕掛けようとしたが、直前でそれを止めた。レンは「彼女を追い払う」という本来の目標を達成していたので、これ以上深追いする必要性は無いと咄嗟に判断したからだった。

 

「それではごきげんよう」

 

 ウェンディゴはレンの動きが止まったことを確認すると、一言だけ言い残して、この場からきれいにいなくなった。

 

「『我は戦いの終わりを告げる。我は人なり』。……できることなら彼女とはもう二度と会いたくないが、そうはいきそうにない、か」

 

 レンは『鉄血転化』を解除させながら、ゲイ・ボルグも亜空間の彼方に納めていた。ヒュドラはいままで操られていた糸がプツリと切られたかように崩れていき、跡形もなく消え去っていった。

 

 彼女が『禍の団』に所属しているということは、これからもまたレン達の目の前に立ち塞がることを示唆していた。性格は別に置いとくにしても、彼女の実力は本物であり、そう易々と脱落しないということは火を見るより明らかである。

 

「っと、フレイは…………まだ目を覚ましそうにないな」

 

 レンは心の中でため息をついてからフレイをお姫様だっこの要領で持ち上げた。そして、遅れを取り戻すために歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

ーーーー

 

 

『レンお兄ちゃん、レンお兄ちゃん!』

 

『どうした、●●。俺ならここにいるけど……って、うわっ、いきなり抱きつくなよ。どうしたんだ?』

 

『うぅ、お昼寝してたらちょっと怖い夢を見たの』

 

『そうだったのか。よしよし、お兄ちゃんがついているから、もう怖くないだろう?』

 

『うん!レンお兄ちゃん、大好き!』

 

『レン、●●。二人とも二階から降りてきなさい。みんなでおやつの時間と致しましょう』

 

『『は~い』』

 

 

ーーーー

 

 

「今のは夢……だったのか?」

 

 時計が無いので正確な時間はわからないが、日は既にある程度の角度まで登っていて、おおよそ午前の十時を回ったところだろう。レンは昨夜もまた、一昨日と同じように野宿をして、眠りについていたが、突然目を覚ました。

 

「俺には妹なんていなかったはず。……なのに、なんだ?この懐かしい感じは。全くわからない」

 

 レンが見ていた夢は自身の記憶に刻まれていたかのように思えるほど、鮮明ではっきりとしているものだったのだ。

 

(フレイを助けたいと強く思った理由は、身に覚えの無いこの記憶が作用していたのか?)

 

 自分と同じ髪色をした幼い女の子。夢に出てきたその少女の面影はフレイになんとなく似ていたらしく、そのような考えがレンの頭を不意によぎった。

 

「ふぁ……」

 

 レンが起きて間もなく、フレイもまたタイミング良く目を覚ました。

 

「おはよう、具合はどうだ?」

 

「……レンさんは優しいんですね。私のことなんか放っておけばよかったのに」

 

 レンは起きたフレイに優しく声をかけるが、昨日の出来事で罪悪感を感じたからか、彼女は自分を自嘲していた。そんな彼女に、レンは怒ったような顔をして言った。

 

「そんなことは冗談でも言うな。……それに生きていれば、良いことは必ずあるさ。現在のキミの生きる理由が復讐であったとしてもだ」

 

「こんな私にも、ですか?」

 

「ああ、俺の知り合いはこう言ってた。『美味いものを食べられる、ただそれだけでも幸せなことなんだ』ってね。昨日、一緒に食べた肉は美味しかっただろう?その時、少しだけでも幸せだと思えなかったかい?」

 

「……ッ。たしかにレンさんの言う通りかもしれません。それでも……それでも私はーー!」

 

「別に生き方を変えろと言うつもりはない。それと、これは俺からの提案なんだけど、俺についてこないか?」

 

 かなり予想外のその提案に彼女は混乱しているが、レンはさらに続けた。

 

「キミの目的はウェンディゴと名乗ったあの少女を殺すこと。なら俺についていけば、また遭遇するかもしれない。探す手間も省けるし、悪くないと俺は思うけど」

 

「ええと、それは私がレンさんと契約を結べと、そういうことですか?」

 

「なにも、俺はそこまで求めてない。俺が求めているとしたら……そうだな、移動手段は前々から欲しいと思っていたから、それだけだな」

 

 フレイはレンの話を最後まで聞いてから、数秒間よく考えた後に言葉を絞り出すように言った。

 

「…………なるほど、わかりました。私、レンさんのその提案に乗ります。えっと……これからよろしくお願いします」

 

「ああ、よろしく!……それじゃあ早速で悪いんだけど、今から飛べる?傷が治りきって無いんだったら別に構わないけど」

 

「私達『ライズ・ファルコン』の治癒力をなめないでください。それ位余裕です」

 

「そっか。じゃあ頼むよ」

 

「はい!」

 

 レンは笑顔で依頼すると、フレイもその笑顔に応えるように笑い返した。それから、フレイは以前と同じように体から光を発して、自らを変身させた。

 

「……ハハッ」

 

『どうかしましたか?』

 

「ん?……いや、なんでもない」

 

 彼女の先程見せた表情が昨日会った時と比べて若干柔らかくなっていると、レンはフレイに飛び乗りながら感じていたのだった。




次回から原作に入れたらいいなぁ、と勝手に思っています。なんとか書けるように頑張ります。
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