『まさか、そんなことがあったなんてな。ったく、こっちも『
「では、そちらからの増援は難しい、ということなんですね?」
『まぁ、そうなるな。先輩方も俺も自分の持ち場で精一杯だし』
「そうですよね……。わかりました。ユーゴ君も頑張ってくださいね」
『了解した。しかし、助けに行けなくて本当に悪いな』
ロスヴァイセは今、日本の駒王町というところに訪れている。理由は北欧の主神オーディンが日本の神々との対談を望んだからである。
しかし、そんな中ある問題が起こった。それはその対談をよしとしない者が北欧にいたからだ。対談を望まなかった者の名はロキ。悪神とも呼ばれている神は気に入らなかったがために、対談の邪魔をするために日本まで来たのであった。
もちろん、オーディンもそのようなことが起きてもいいように、厳重な護衛を依頼していた。その依頼していた者達こそ現赤龍帝ーー兵藤一誠を有しているグレモリー眷属だった。……が、ファーストコンタクトで襲ってきた敵はロキだけでなく、最悪の魔物の一匹である
「はぁ、無事に日本の神々との対談を成功させることはできるのでしょうか?」
そして、今のこの状況を見て、ロスヴァイセが本国と連絡をとったのだが、良い返事が返ってこなかったので、彼女はどうすべきなのかを自分なりに考え込んでいた。
◼◼◼
「……先輩、どうしても俺達が行くことはできないんすか?」
「ああ、それはできない。ただでさえ人数の少ない状況で『
「それは……そうっすけど」
ユーゴは改めてヴァルハラにいる先輩に話を切り出すが、返ってくる答えは前と変わるはずもなく、ただ項垂れるしかなかった。
「しかし、そうだな。『
ユーゴはその話を聞き終えると、ニヤッと笑いながらこう言った。
「先輩、それはかなり得策かもしれませんね。あの人なら何処にいようが駆けつけてくれる。そんな気がしますから」
「なんだ、ユーゴはランサーって人と知り合いなのか?」
「はい。まぁ、顔見知り程度っすよ。……もし、アイツがいたら絶対に助けに行くって言い切るんでしょうけど」
ユーゴは、もしレンが行方知れずになっていなかったらのことを考えながら、先輩に聞こえない程度の声量で最後にぼそりと呟いた。
◼◼◼
『そろそろですか?』
「ああ、もう少しだ」
レンはハヤブサの姿になっているフレイに乗って、自分の住み処である山小屋に向かっていた。フレイの飛行速度はトップスピードという訳ではないので、改めて出発したあの時から既に一日は経過していた。
「見えた。あそこだ」
『えっ?ちょっ……!』
目的地である山小屋を視認すると、レンはフレイから飛び降りて、そそくさと走っていく。そんなレンを見てフレイは若干呆れ気味になりながら着地して、人間の姿に変わっていった。
「師匠、ただいま帰りました」
「……ん?……お前、本当にレンか?」
「師匠は俺の顔を忘れたーー」
ランサーはレンの言葉を最後まで聞く前に、黄金色の魔槍をレンの顔すれすれを狙って突き出していた。
「ってわけではなさそうですが、いきなり何をするんですか!」
「ったく、人をどれだけ心配させれば気が済むんだか。お前の友人も相当気にしてたんだぞ?」
「う、それはすみません。敵の術者にかなり遠くまで飛ばされてしまって」
レンが頭を下げて謝罪をすると、ランサーは魔槍をしまい込んで、安心したような笑顔を見せて言った。
「しかし、よく無事で帰ってきたな。流石は俺の弟子だ」
「フフ、これ位当然ですよ。……ところで、今のヴァルハラの状況はどんな様子ですか?」
ランサーはレンのその問いを聞いた途端に微妙な顔をしてから、口を開いた。
「大袈裟に言えば、大混乱してるよ。日本にいる爺さんに関してはロキの襲撃を受けているらしいしな」
「……ッ!?それじゃあ、ロスヴァイセは?」
ランサーの報告を受けて、レンは急に目を見開かせてから顔をしかめさせる。
「もちろん、彼女も一緒にいるだろう。……お前は助けに行きたいか?」
「それは愚問ですね。たとえ、師匠がこの場で止めようが、俺は行きます」
「クククッ、そうかそうか。お前の覚悟、十分伝わったよ」
レンの迷いも淀みも全く無い真っ直ぐな瞳を見て、ランサーは一枚の紙をレンに差し出しながら、また話し始めた。
「師匠、これってまさか!」
「ああ、そのまさかさ。『
「……師匠、感謝します!」
レンは書かれている内容を全て目に通すと、すぐに扉を開け放とうとするが、ランサーの一声によってそれは止められる。
「ところでレン、日本に行くための手段はあるのか?もし無かったら、ヴァルハラに行って事情でも話せ。そうすりゃスレイプニルの一匹位貸してくれるかもしれねぇぞ?」
レンの頭にはもう一度フレイの力を借りる、という選択肢がよぎるが、そうすべきなのか迷っていた。ほぼ休みをとっていない彼女にとって、それは酷なのではないかと思ったからである。
「そんなことなら、私に任せてください!」
レンが黙り込んでいると突然、勢いよく扉が開かれる。開かれた扉の外にはフレイがドヤ顔をして立っていた。
「え~と、誰なんだい、アンタは?」
ランサーはフレイの登場に頭を抱えながら訊く。それはレンも同様で困惑気味に答えた。
「……か、彼女は初めてできた俺の旅仲間です」
「レンさん、あんな気色悪い馬なんかよりも私の方が何倍も速く飛べますから、ご心配なく」
「いや、そういう問題じゃなくて、フレイはあそこから一切休みなしで大丈夫なのか?」
レンは心配そうにしてフレイに訊ねると、彼女からは間髪入れずに答えが返ってきた。
「それはもちろん。それに、レンさんには大きな借りがありますので、こんなことでよければ力を貸します」
「そっか。……じゃあ、また頼もうかな。では師匠、日本に行ってきます」
「……お前には色々訊きたいことがあるが、次の機会にしといてやる。だから、さっさと行きな」
ランサーはフレイのことについて訊きたいのか、ジト目でレンに視線を送っていた。
「フレイ、全速力で頼む」
『もちろんです。振り落とされないようにしてくださいね!』
フレイは背中にレンが乗ったことを確認すると、さっきまでとは比較にならない程の速度で飛翔していった。
(ロスヴァイセ、無事でいてくれ!)
レンはこの時知らなかった。ロスヴァイセがユーゴとーーアースガルズ本国と連絡をとってから、既に一日半が経過していたことを。