「……本物のレン君……ですか?」
ロスヴァイセはまだ自分の目の前にレンが存在していることが信じられないのか、目を丸くしている。
「ん、ああ。もしかして、俺の顔忘れた?」
「……ッ!忘れるはずがないじゃないですか。……レン君のバカッ!」
レンとの久しぶりの再会に加えて、間一髪の救出劇。ロスヴァイセは溢れ出てくる涙をいまだに止められずにいた。
「それは……さっき謝っただろ?」
「グスッ、さっきは本当に怖かったんですから。……いままで本当に、本当に寂しかったんですからぁ」
ロスヴァイセはギュッと強くレンのことを抱き締めた。さらに、そのまま貼り付くようにしてレンの胸から全く離れようとしない。レンはロスヴァイセが自分の背中に回している腕が震えていることに気付き、そっと背中を撫でてあげていた。
「あとのことは俺にまかせて」
レンは地面にロスヴァイセをそっと降ろしてから、ゲイ・ボルグをロキに向けて構えた。
「何者だ、貴様は?」
ロキが突然現れたレンに対して素性が何なのかを訊ねると、
「俺は通りすがりのランサー。……まぁ、この通り名は師匠からの受け売りだけどね」
レンはランサーの名を借りて、自身を紹介した。
「ほう、通りすがりの槍使いである貴様が我を止められるとでも?……ハハッ、実に愚かなり!」
「そんなこと、やってみないとわからないだろ。それと、あんたみたいに見下すことしかできない奴がなんだかんだで先に負けるんだよ」
「フン、口の方は随分と回るみたいだな!」
ロキはレンに向かって魔術を撃ち込もうと、手を前に突き出していた。
「ーー『我は鋼なり、鋼故に怯まず、鋼故に惑わず、一度敵に逢うては一切合切の躊躇無く。これを討ち滅ぼす凶器なり』」
レンは素早く『鉄血転化』のキーワードを唱え終えると、その場からひと跳びでロキとの距離を詰めて、ゲイ・ボルグを横一閃に振り払った。しかし、相手はあくまでも神の一人。単調なその攻撃が通ることはなかった。
「フム、なかなかの速さだ。……が、我にそのようなものなど効かん!」
魔術によって創られた剣らしきものによって、レンの斬戟を防ぐと、力任せに振り抜きレンの体を吹き飛ばした。
「フゥッ!」
レンは空中で姿勢を制御を終えてから地面に着地すると、そのまま地を蹴り、再度ロキに接近した。今度は左手に魔槍を創り出して二槍で休む暇を与えず、絶え間無く攻めていく。それでも、ロキはレンの攻撃を次々といなしていった。ーーあり得ない仰角からの不意の一撃を食らうまでは。
いずれかの段階で放たれたゲイ・ボルグによる突きは、ロキの振るった剣を押し退けて強引にロキの片腕に食らいついていたのである。
レンの一撃を受けても、ロキは驚きもしなければ、動揺も見せなかった。むしろ、口角を吊り上げて、この戦闘を楽しむかのように続けた。
「随分とポーカーフェイスが得意なようで」
「この程度、当たった内にも入らんぞ?」
レンは一旦ロキと距離をとり、自分の態勢を整えつつ、次はどのように攻め込むかのシミュレーションを頭で何度も行っていた。そんな中、ロスヴァイセの隣にいる巨大なドラゴンが口を開いた。
「槍使いの小僧、俺も助太刀ーー」
ーーするぞ。と言おうとしたタンニーンだが、その言葉は姫島朱乃を助けに行った一誠の発言によってかき消された。
「お、おっさん!大変だ!」
「なんだ!また何か起きたのか!まさか、また乳なのか!?」
「……ん?」
レンは一誠とタンニーンのやり取りの中でまさかの言葉が出てきたことに疑問を持ちながらも、
「ドラゴンのおじさんは赤龍帝の助けに行ってあげてください。その位の時間なら俺一人で稼げますので」
タンニーンにそう言い残してから、改めてロキと対峙する。
「まだ軽口を叩く余裕があるのか。実に面白い!その余裕がいつまで続くのか試してやろう!」
ロキはそう言ってマントを広げると、さっき出現させたものと瓜二つの量産型ミドガルズオルムを再び登場させた。それと同時にグレモリー眷属と戦っていたはずの傷を負った子フェンリルを側に呼び寄せていた。
「…………これは面倒なことになったな」
レンは敵の数が増えたことで思わず本音を漏らしている。
『また、私の出番ですね!』
レンがロキ達の方を向いて睨み付けていると、甲高い風を切る音と共に巨大なハヤブサがレンの方へ近寄って来た。
「キミはかなり疲れてるはずだ。休んでいろ」
たしかに、レンの方にもフレイという大きな伏兵はいる。しかし、自分のために日本まで休むことなく飛んでくれたフレイを戦力として使うことにレンはどうしても気が引けた。
『で、でも……』
「人の厚意は素直に受け取っておけって、な?」
『……わかりました。ただし、レンさんが危険な状況に陥ったら必ず助けに入ります』
「ああ、そうしてくれるだけで十分だ」
レンの言った言葉に承諾したハヤブサ姿のフレイはゆっくりとレンから遠ざかっていった。
「これでも、一人で戦うというのか。余程の自信家と見える。……が、それも今日で終いだな」
「……ったく、少しは黙れよ。それに物騒な動物ばかりを飼育しているらしいが、彼らには俺の糧となってもらう。ーー『
レンは苛ついたような態度を全面に出し、右手に創った魔槍を無くしてから、そう叫んだ。すると、地面から大量の魔槍が現れ、それらはヒュドラの体を形創った。
「全て残さず喰らい尽くせ!」
レンはそう命じると、ヒュドラは頭数さらに増やして量産型ミドガルズオルム達に喰らい付いた。そして、レン本人は子フェンリルに見向きもせず、ロキへ直進していく。
しかし、子フェンリルがレンの素通りを見過ごすはずもなく、レンの後ろを脅威的な速さで追ってくる。ロキも子フェンリルとタイミングを合わせるようにレンに攻撃を仕掛けようとしていた。一般的な視点で見れば、最悪のコンビによる同時攻撃なのだが、レンは違った。焦るような素振りを一切見せなかったのである。
レンはヒラリと舞い踊るように二方向から来る攻撃を全てかわした。ーー神すら噛み砕く子フェンリルの牙を避けて、赤龍帝の鎧をも切り裂いた爪を捌いて、タンニーンの業火とロスヴァイセのフルバーストを押し戻したロキの魔術を受け流した。レンのその立ち回りはロスヴァイセが見とれてしまうほど美しく、洗練されていた。
確実に当たると思っていた攻撃全てが、一つも当たらなかったことで、ロキは言葉を失っていた。そして、レンは何かに気が付いたのか、ハッとしたような顔をしてから、不敵な笑みへと表情を変えた。
「さて、今度はこちらの番だ」
レンは頭上でゲイ・ボルグをくるくる回しながら、またロキの方へ顔を向ける。……が、それは単なるフェイク。ロキに襲いかかってきたものはレンのゲイ・ボルグではなく、さっきまで量産型ミドガルズオルムと戦っていたはずの魔槍で創られたヒュドラだった。量産型ミドガルズオルムはヒュドラによって肉片一つ残らず捕食され、一匹たりとも残っていなかった。
ヒュドラはロキの死角から
レンはその瞬間をーーロキが自分から注意をほんの少しだけ逸らすその一瞬を待っていた。
「あの狼を穿てッ!ゲイ・ボルグ!」
レンは後ろから迫っていた子フェンリル目掛けてゲイ・ボルグを全身のバネを最大限利用して投擲した。
オオオオォン!
対して、子フェンリルは一つ咆哮をあげてから、ゲイ・ボルグを口で噛んで止めようとする。……が、その選択は大きなミスであると子フェンリル自身が理解した時には、ゲイ・ボルグによって体の先から末端まで刺し貫かれていた。そして、後悔する間もなくして、体は内部から炸裂していくのだった。
「これで残るはーー」
つい数分前までは、小型ドラゴンと子フェンリルがレンの目の前に立ちはだかっていたが、ついにロキだけとなっていた。
ロスヴァイセは原作とは違い、甘えるような仕草を見せるようになるかもです。……レンの前限定で。