魔槍使いの半英霊   作:保志白金

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魔槍使いと赤龍帝

「貴様、一体何をした!?」

 

 ヒュドラからの追撃をようやく振り払ったロキは、子フェンリルが真紅の魔槍をただ一回投げられただけで瞬殺されたことに戸惑いを隠せないでいた。

 

 一匹目の子フェンリルに関して言えば、既に虫の息だったこともあってか、レンの初撃には大して興味を示していなかった。しかし、今回は全く違う。まだまだ動ける状態にあった子フェンリルだったにも拘らず、一撃でレンはそれを殺したのだ。

 

「さぁ、おとなしく縄についてください。悪神ロキ殿」

 

 レンはロキに訊かれていることを無視して、自分のペースで話し始める。そして、特殊なオーラを放っている方へレンは目を向けると、一誠がミョルニルのレプリカを持ちながら、こちらの様子を伺っていた。

 

「赤龍帝君、俺の見る限りではそちらの準備はよさそうだね」

 

「お、おう。誰だか知らないけど、援護ありがとな」

 

 自分の変化をいち早くレンに感付かれて、びっくりしている一誠だったが、現状を確認して感謝の言葉を送った。

 

「そういうのは後回しにして早いところケリをつけよう。俺が隙を作るから、赤龍帝君ーーキミがそれでトドメをさすんだ。いいな?」

 

「……わかった」

 

 レンは一誠へ手短に伝え、一誠がそれに応じたところを見届けると、控えめな笑顔を見せてからその場から跳び出そうと膝を深く曲げた。

 

「……このまま続けてもこちらの分がより悪くなるだけか。フム、我は一時退却するとしよう」

 

 ロキは逃げるつもりのようで、どんどん空に高く浮かび上がっていく。

 

「もうひと仕事だ、起きてくれ!」

 

 レンはロキに向かって接近しながら、そう叫ぶ。すると、ロキによって砕かれたヒュドラは息を吹き返したように起き上がり、傷ついた身体を再生させた。

 

「何事もあきらめが肝心って言うだろ?」

 

 レンとヒュドラはロキの後ろを追いかけ、転移をさせまいと魔槍の大群も同時に飛ばしていく。

 

「フン、しつこい!」

 

 ロキが腕を横に凪いだだけで創られた魔槍は全て簡単に弾かれてしまったが、転移を封じることには成功した。

 

「喰らえぇ!」

 

 レンはロキに息をつかせる暇すら与えず、攻撃の手を緩めようとはしない。次はヒュドラを不規則な動きでロキの元へ近づけさせつつ、レンは一誠にアイコンタクトを送った。一誠はレンからの合図を受け取ると、背中のジェットを吹かして、超速で飛び上がった。

 

「ハッ、その見え透いた手には食わん!」

 

 ロキはこの中で最も危険であると判断した一誠を狙って怒濤の攻撃を加えていく。常人なら守る体勢をとるなりかわそうとする素振りを見せるなりするはずなのだが、一誠はロキの攻撃に構うことなく猪のように突き進んでいった。

 

(嘘だろ!?)

 

 レンは一誠のその行動を見て、顔を一瞬だけしかめさせる。レンにとって、一誠の常識はずれの行動は読むことができなかったのである。レンの計算はその時点で狂ってしまったのだが、すぐに別の思考へ切り換えた。

 

「なぁ、少しは後先のことを考えて行動したらどうだい?」

 

 レンは一言文句を漏らしてから一誠の前に躍り出て、ロキの攻撃を捌きながら一誠の進路を確保した。

 

「んなこと言われたって、こっちにも色々と事情があるんだよ!」

 

 事情とはなんなのか突っ込んで訊きたいレンだったが、それは我慢して目の前のことに集中しなおした。

 

「さっきとはまるで別人だな。恐ろしさを全く感じぬぞ!」

 

 焦りが動きにも影響を及ぼしたのか、対応できていたはずのロキの攻撃をまともに食らい、レンは地面に落ちていった。

 

「ぐっ……!」

 

「おい、大丈夫か!?」

 

 一誠は叩き落とされたレンのことに一瞬だけ目を向けてしまったことで、絶好のワンチャンスを逃してしまった。

 

「他人の心配をしている場合か?赤龍帝よ!」

 

『上にかわせ、相棒!』

 

「えっ?うおぉぉっ!」

 

 ドライグの声に助けられた一誠は留まっていたその場からさらに飛び上がり、なんとか逃れた。

 

「赤龍帝に槍使い、また会おう。ふはははは!次に訪れるときこそ我の望みが成就するときだ!」

 

 二人の追撃から逃れて、隙を作ることに成功したロキは最後に残ったヒュドラへ牽制しつつ、ここから離脱する準備を始める。ーーが、

 

ドシャッ!

 

 下から飛来した何かによって、ロキの腹は貫かれた。

 

「……なっ!」

 

 あまりにも速すぎて、痛みすら感じていなかったロキだったが、それの正体をすぐに理解した。

 

「……まさか、赤龍帝が囮で貴様のが本命だったと言うのか?」

 

 憎々しげにレンのいる地面へと顔を向けながら、訊ねるロキ。ロキの視線の先には、レンがニヤリと笑いながらほぼ無傷の状態で地面に立っていた。レンは体についた土埃を払いながら、首を横に振って言った。

 

「いや、それは違うな。あなたに引導を渡すのは俺の魔槍ではなく、ーーやはり赤龍帝君が持つ魔槌だ」

 

 空中で体勢を立て直した一誠は、ハンマー状のものをロキの頭部目掛けて降り下ろされようとしていた。

 

「いくぜ、ドライグ!俺達流のミョルニルを見せてやろうぜぇッ!」

 

『応、任せろ!』

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!』

 

『Transfer!』

 

 巨大なハンマーがロキの頭を捉えると同時に尋常ではない量の雷が発生しロキを呑み込んでいった。

 

 ロキの体からは黒い煙をもくもくとあがっていて、ボロボロになった姿のまま墜落していく。

 

「我が負ける……だと?全て貴様の計算通りだったとでもいうのか?」

 

「計算、ね。そんなもの一番始めから無かったよ。……始めからあったとすればあんたが負けるという運命。ただそれだけだ」

 

 レンは肩をすくめながらボソリと呟くが、ロキは完全に気を失っていて、聞いていなかった。

 

 

 

 

 

◼◼◼

 

 

 

 

 

「ご苦労様だね、赤龍帝君」

 

「……あ、はい。お疲れ様です」

 

 戦いが終わり、レンは近くにいた一誠に話しかける。一誠は突然声をかけられて戸惑いながらも、言葉を返した。

 

「そういえば、まともな自己紹介はお互いしてなかったな。俺はオーディン様とロスヴァイセの応援要請に応じて北の方から来た者だ。名前はレン」

 

「俺は兵藤一誠っていいます。……あの~、できれば俺のことを赤龍帝って呼ぶのはやめてほしいんですけど」

 

「おっと、それは悪いことをしてしまった。すまない、兵藤一誠君」

 

「アハハ……」

 

 レンの赤龍帝という呼び方を訂正してもらえた一誠だったが、今度はフルネームで呼ばれていて、ただ苦笑いをするしかなかった。

 

「……レンさんって随分強いんすね。北欧の神様を相手にして互角に渡り合えるなんて」

 

「俺だってまだまだだよ。……俺だって、全然強くなんか、ない」

 

 一誠は思っていることをなんとなく口にするが、レンは謙遜するようにしながら、遠い目であさっての方向を見つめていた。レンがそんな風にたそがれていると、

 

「レン君、戦後処理を行うので手伝ってください。……遅れてきた分はきっちりと働いてくださいね」

 

 ロスヴァイセに声をかけられた。レンはそれに気がつき、そちらの方に視線を移す。すると、深刻な怪我を負っていない者たちが既にせっせと手を動かしていた。

 

「えっ、俺達の活躍で勝てたんだぞ?少し位は……」

 

「それとこれとは話が別です!もう、早くしてください!」

 

「ハハハ、わかってるよ。冗談だって。……さて、もうひと仕事頑張ろうか」

 

 レンは自分なりの冗談をひとつ言ってから、ロスヴァイセの方へ歩き出した。

 

「……ん?そういえば」

 

 レンは辺りを見渡して、気がついたことがあった。それは、

 

「オーディン様って何処に行ったんだ?さっきチラッと見たはずなんだけど……」

 

「レン君、サボらないでください!」

 

「……はいはい、りょーかいしましたよ!」

 

 ロスヴァイセに急かされてしまったので、レンはその場で深く考えようとはしなかったのであった。




 原作七巻の内容はとりあえず次回まで続きます。
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