レンが駒王町に来た翌日の昼頃。戦闘の後片付けも朝方にその場にいた全員によって全て済んでいた。任務が一通り終わったので、帰ろうとしていたレンだったのだが、
「うぅぅぅ……。やっぱり私、オーディン様に見捨てられたんですね……」
「そうか?別にそういうわけじゃないと思うけど。まぁとりあえず俺と一緒に帰ろう、な?」
「で、でも、帰ったら帰ったで『どのツラ下げてオーディン様の後から帰還したんだ?』とか言われて怒られることは目に見えてますし、最悪そのまま左遷されそうですし。……せっかく安定した生活を送っていけると思ったのに!」
「……う~ん、本当にそんなことがあるのか?さすがにそれは大袈裟だって」
一人泣いているロスヴァイセを見かけて、困り果てていた。レンは頭を掻きながらもう一度声をかけようとした時、突然、近くの地面に魔方陣が出現した。レンもロスヴァイセもその魔方陣の形に見覚えがあった。
「これは……」
「定期連絡用に使っていたユーゴ君の魔法?」
その魔方陣がようやく形をなして光を放ち出すと、そこにはホログラムのユーゴが映し出されていた。
『日本の神々との会談はうまくいったんだってな。一先ずご苦労さん』
「このタイミングでの連絡なんて、いったいどうしたんですか?……はっ、まさか!帰ってくる必要は無いって辞令ですか?」
『まぁ、そのことなんだけどよ。とりあえずーー』
ロスヴァイセはさっきよりもさらに取り乱し始めており、その様子を見たユーゴは話をすぐに切り出そうとするが、
「それともあれですか!?私なんかーー」
彼女の暴走は一向に止まらない。
『……レン、彼女のことを一旦落ち着かせてくれ』
「あ、あぁ」
ユーゴは頭を抱えながら、ロスヴァイセを沈静化させるようレンに頼むのだった。
『はぁ~、どうだ?ようやく落ち着いたか?』
「は、はい。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」
レンがロスヴァイセをなだめるためにしばらく時間を置いた後、ユーゴはため息を大きくひとつついてから話し始めた。
『まず、ロスヴァイセが放置されたことに関してなんだが、爺さんも悪気はなかったみたいだし、今、ゲンドゥルさんにこっぴどく怒られて反省してるところだ』
「つまり、クビではないんですね!」
ユーゴからの報告を聞き、急に元気になるロスヴァイセ。
『その……一応はそうなってるんだが』
しかし、実はユーゴにはまだしゃべることが残っているらしく、それはあまり良いものではないのか、微妙な顔をしながら、歯切れが悪そうに話しを続けていく。
『今日から駒王町にしばらくの間滞在し、その地にいる悪魔、堕天使、天使達の助けになってやれ、と要約すればそういうことだそうだ。……そんで、爺さんが言うにはーー』
ユーゴの話を要約すると、駒王町とは三大勢力にとってはもちろんのことながら、色んな意味でも重要な拠点で、だからこそ、アースガルズ側の者を数名置きたいとオーディンは考えていたようで、
「そんなッ!?それってどういう?」
『要は長期間の出張ってことだな』
これは単なる事故なのだが、置いてきてしまったロスヴァイセを駒王町にそのまま配属してしまおう。と、そういう考えにオーディンは落ち着いた訳である。
「……フフ。どうせ、私なんか役立たずのヴァルキリーですよ!もうこの際ですし、一人ぼっちで頑張りますよ!」
ロスヴァイセは突然の異動宣告に酷くショックを受けて、かなり自棄になり、さらに目も虚ろになっている。しかし、次のユーゴの言葉を聞いて、表情を一変させることになる。
『あ、そうだ、それとレン。お前の師匠からの伝言なんだが、『しばらく帰ってくる必要はねぇ。むしろ帰ってくんな』だそうだ』
「……それは、ロスヴァイセと一緒に駒王町に居ろってそういう捉え方でいいのか?」
『まぁ多分、そういうことだろうよ。おまえは彼女に散々迷惑かけてきたんだから助けてやれよ』
「言われなくても、わかってるさ」
レンは当然と言わんばかりに、ユーゴが言ったことに間を置くことなく頷いた。
『詳細は堕天使の総督に訊けばなんとかなるとか爺さんが言ってたから、後は二人で適当に頑張ってくれ』
ユーゴの用件は全て済んだようで、通信を一方的に切ってしまった。
「……そういうことらしいし、これから一緒に頑張っていこうか」
「そうですね。このままくよくよしてても仕方ありませんし!」
さっきまで沈んでいたロスヴァイセの気持ちは既に持ち直していて、むしろ、レンとしばらく共に居られる時間を多く取れると知ったことで上機嫌になっていた。
「そうだ!私、レン君に訊きたいことがあったんでした」
元気になったと同時にレンに訪ねたいことも思い出したようで、突然レンの後ろの方を指差して言った。
「ん?なんだよ」
「レン君の後ろになに食わぬ顔をして立っている彼女は何者ですか?」
「そういえば紹介してなかったな。彼女はーー」
「私は、フレイっていいます。レンさんの妹分みたいなかんじで見てもらっていいですよ」
「ちょっ、おい!」
レンの言葉を遮るようにして、フレイがやや話を盛りながら自己紹介をしていく。そして、自分の顔をロスヴァイセの耳元へ近づけて、レンには聞こえない程度の声量で囁くようにこう続けた。
「なので、安心してくれて構いませんよ。……それに、レンさんとスッゴく良い雰囲気じゃないですか♪」
「……ッ!」
すると、ロスヴァイセは顔を紅潮させ、レンから視線を逸らすように変な方向へ顔を向けた。
「あのな、冗談で言うのはやめてくれよ。ロスヴァイセは人一倍真面目なんだから、信じちゃうだろ?」
「え~、でも半分近くは合ってると思いますよ?」
フレイは頬を膨らませてから、いたずらっ子のような人懐っこい笑顔を見せた。
「ったく、……まぁ良しとするか。とりあえず堕天使の総督殿にお会いしてみるとしよう」
◼◼◼
「これからしばらくの間この学校で教員として働くことになりました、
「彼女と同じように、表向きはこの学校の教員としてこの町に滞在することになった、槍使いのレンだ。よろしく頼む」
同日の夕方頃ーー学校の授業が一通り終わった頃に、二人はオカルト研究部の部室に足を運んでいた。
「ええぇぇぇぇぇッ!」
レンとロスヴァイセからの突然の報告を受けて、一誠だけがとても大きなリアクションをとっていた。もちろん、リアスとアザゼル以外のこの場にいる者達のほとんどがポカンとしているほど驚いている。
「ま、こいつらはオーディンの爺さんからの提案でここに居ることが決まったわけだ。……一応は教員なんだが、お前らと同い年位だから仲良くしてやってくれ」
「そ、そうなんすか?」
さらに別の事実をアザゼルから聞かされて、一誠はより一層混乱している。
「はい。私は飛び級で祖国の学舎を卒業しているので、歳は若いけれど教えられます」
「…………俺は基本的に肉体労働専門だったから、頭の方はちょっとね。だから、適当に助けてくれると嬉しいな」
一誠が確認をとるように訊ねると、ロスヴァイセははっきりと答えたが、こちらで言うところの高校レベルの学校に通っていなかったレンは気恥ずかしそうにして打ち明けるのだった。
「クスッ、そこは安心して頂戴。ある程度融通は利くようになっているから」
「そうなんですか?それはありがたいです」
その後、どんなことをフォローしたらいいのか、この町でどう生活すべきなのか、などの事柄をレン達は聞かされてから、レンとロスヴァイセのための歓迎パーティが急遽行われることになり、オカルト研究部の部室は騒がしくなっていた。
こうして、レンの新天地での新たな生活が始まろうとしていた。ーー新たな仲間達と、そして、一番大切だと思っている女性と一緒に。
とりあえずこれで一区切りです。